東方Project二次創作短編集   作:dwwyakata@2024

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人食い扱いされやすいルーミアですが、実は原作書籍では人を襲えと提案する射命丸に面倒とまで言い切っているんですよねえ。

実際に人を食ったら退治される事が書籍などでは明記されていることもあり。

少なくともルーミアはここ最近は人なんぞ食っていないと思いますね。

ただ、人を死なない程度に脅かして威を示す事はしているでしょう。そうしないと幻想郷では存在が消えてしまう場合もあるので……






2、古い時代の事

ルーミアは古い時代、今とは違う名前を持っていた。勿論姿も違っていたが、そもそも日本の妖怪だった気がする。今のような洋風の姿ではありえなく、当然金髪でも無かった。

 

何という名前だったかは、忘れた。

 

正確には、どんな妖怪かさえ、自分でも分からない。

 

ただ分かっているのは。もはや忘れられた妖怪である事。

 

外の世界では覚えている人間はおらず。その妖怪について記した記録さえもない、と言う事だ。

 

記憶や知識は引き継がれていく、という話もあるが。

 

その一方でロストテクノロジーなんてものが生じるように。

 

引き継がれず、消滅していく記憶や技術も存在している。

 

ルーミアの存在もまんまそれだ。

 

しばらく外で過ごしていたからか。自分の住処に戻ってきたルーミアは、強烈なフラッシュバックに襲われ。頭を抱えて呻く。

 

外では凶悪な妖怪だった、のだろうか。

 

それとも夜の闇を代表する妖怪だったのだろうか。

 

よく分からないけれど。はっきりしているのは、人間には文句なしに怖れられていた、という事実だけだ。

 

それが嬉しい事なのかと言われると、もう分からない。

 

当時は人間の恐怖を思いのままに操って、好き勝手していたようにも思えるし。

 

逆に大物を気取って、でんと鎮座していたような気もする。

 

頭につけているリボンを思う。

 

これも、噂とは裏腹にただのリボン。お札になっていてルーミア自身には触れないが、これはそういう処置をして貰ったためだ。

 

忘れないようにするために。

 

人里の外で、たまたま仲良くなった人間の女の子に貰ったのだ。

 

だけれども、ルーミアは凶悪な妖怪とされているし。

 

何よりも唯一「壊れた」妖怪を助けられる、幻想郷の賢者にとっても大事な手札の一つでもある。

 

だからその女の子は時間を掛けて記憶を消された。いつの間にか、ルーミアを忘れた。

 

子供の頃、遊んでくれた誰かがいた。そんな優しい忘れ方をした。

 

ルーミアにこのリボンをくれた事も覚えていないだろう。

 

幻想郷の賢者にとって、一人の人間の記憶をいじる事など造作もないのだ。少なくとも、賢者は非人道的な方法ではそれをやらなかった。

 

幻想郷の外で同じ事をやったら、神々に殺されるだろうが。

 

少なくとも幻想郷の内部で、相対的な平和のために手を汚すことは、神々も許している。

 

そもそもルーミアの行為だって。一種の安楽死に等しい。

 

それが正しい事なのかは。今、本来の状態に戻っているルーミアにさえ分からなかった。

 

だからこそ、戒めのためにも。

 

いや、そんな難しい理由では無くて。

 

単純に、色々と悲しかったのかも知れない。ともかく、リボンは外せないように、事情を知っている先代の博麗の巫女に処置して貰ったのだ。

 

呼吸を整える。

 

ぐっと水を呷ると。横になって頭を抱える。

 

バカでいられる時はとことんバカでいるけれど。

 

やっぱり本来の状態には時々戻らなければいけないし。

 

そうなるとフラッシュバックが一気に来る。

 

何も考えずにいる状態が長いほど、このダメージが強烈で。力を使って疲弊した後だと、更に酷い。

 

幸い、二度目の「壊れた」状態に陥った事は無いけれど。

 

精神へのダメージは、妖怪にとっては致命的だ。

 

いずれこのままだと、ルーミアは死んでしまうかも知れない。

 

妖怪にとっては精神の死は、滅びを意味している。

 

肉体を損壊することを怖れない妖怪も、精神攻撃は怖れるのだが。それが理由だ。

 

ぼんやりとしながら、少しずつダメージを相殺していく。冷や汗が全身を流れているのが分かった。

 

気がつくと、側に博麗の巫女が座っていた。

 

此処を知っている、多分唯一の人間だ。

 

博麗大結界の管理者にて、幻想郷最強の武闘派の一人。人間としては間違いなく最強で、賢者達さえ一目置く者。

 

勿論博麗の巫女も、ルーミアの裏の仕事は知っている。本来の姿も。

 

「苦しそうね」

 

「ずっとバカやってられればいいのだが、そうもいかないからな」

 

「……紫が心配していたわよ。 だから差し入れ」

 

「すまない。 迷惑を掛ける」

 

何とか上半身を起こすと。

 

とびきり栄養価を高く仕上げてある、甘いだんごを口に入れる。

 

正直好みの味では無いけれど。こういうものを食べて少しでも頭の回転を円滑にしないと、それだけ疲弊も溜まる。

 

ルーミアが美味くも無いだんごを無理矢理飲み下すと、博麗の巫女は嘆息した。

 

「普段はバカみたいな顔して何の悩みも無さそうに笑ってるのに、此処にいるあんたは正直痛々しいわ」

 

「……そうだな。 私もそう思う」

 

「ルーミアの顔でそんな事を言われても困るわよ。 とはいっても、今のが本当のあんたなんでしょう」

 

「そうだ。 本当に全て何もかも捨てられたら、どんなに楽だかな」

 

ルーミアが処置してきた妖怪達は。

 

そうなった。

 

幻想郷には、得体が知れない人型の妖怪が結構いる。

 

一人一種族なんて言われている彼女らの中には。

 

かなりルーミアに処置された者が混じっている。

 

みんな頭が悪く。

 

だが一方で愛嬌はある。

 

可愛い子供が好きだったり。

 

子供のように遊ぶのが好きだったり。

 

そんな無邪気で害が無い彼女らの、元々の姿は、まったく別物だったりする。性別さえ違う事も珍しくない。元は屈強で寡黙な大男の妖怪だったりするケースさえある。

 

博麗の巫女は。

 

少なくとも今ルーミアの目の前にいる、今代の博麗霊夢は。

 

自我を無くして暴走状態になった妖怪を処理することはしていない。

 

それはルーミアが全部やってきた。

 

ルーミアは今までの所、仕事を頼まれたときには、一度も失敗していない。

 

今後逸話が失伝してしまった妖怪は恐らくもっと増えていく。

 

外の世界では、妖怪がまだ研究はされているようだけれども。

 

所詮はそれは「物語」「都市伝説」「民俗学」としてであって。

 

現役で妖怪が実在しているなんて、本気で信じている人間なんていない。少なくとも大人にはいない。

 

博麗の巫女が差し出したのは、普通の弁当だ。

 

がさつな彼女が作ったものではないだろう。

 

話を聞くと、人里で買ってきたという。

 

何処の店のかと聞いたが。博麗の巫女が黙っている事で、察した。

 

リボンをくれた子の店だ。

 

今は所帯を持って、子供もいると聞いている。ルーミアだけが知っていれば良い話を。紫が多分話したのだろう。

 

余計な事をと思ったが。

 

あの子は幼い頃から料理が得意だったっけ。

 

無言で食事を続ける。

 

美味しいけれど、とても悲しくもあった。

 

「無理矢理仕事のための食事ばっかりしていると体に悪いわよ。 きちんとしたものも食べなさいよ」

 

「悪食でしられるお前に言われると不思議な気分だ。 だが忠告には従っておく事にする」

 

「しゃべり方からして完全に別物ね。 はあ、色々調子が狂うわ。 あんた元は何の妖怪だったのよ」

 

「さあな。 中部地方にいたらしい、という話は聞いたことがあるが。 今は私自身にも分からないし、過去を知ろうとも思わん。 それに過去の私は確実に人食いだった。 お前とは相容れない」

 

霊夢は黙ったまま話を聞き。

 

そしてルーミアが食べ終えた弁当を返すと。

 

無言で受け取った。

 

流石にルーミアは人里には入れない。

 

過剰に恐ろしい噂を人里に流し。妖怪退治人以外に「弱い」事を明かさないように情報隠蔽までしているのだ。

 

そんな事情があるから、今更あの子に会うことは出来ないし。

 

この弁当の礼を言うことさえ出来なかった。

 

悔しいな。

 

洞窟の壁に背中を預けると、疲労の中茫洋とそう思う。

 

自分で選んだ道で、後悔はしていなくても。それで悲しくなることは時々ある。それはどうしようもない事実だ。

 

博麗の巫女は、仕事モードに入ると、本当に情けも容赦も無くなる反面。

 

たまに、相手の心情を察してくれることもある。

 

弱い妖怪にはとことん怖れられている仕置き人であり、処刑人でもあるけれど。

 

「普通の女の子」では無いにしても。

 

此奴に情が全く無いかというと、そうでもないのだ。

 

「美味かったよ。 本人には伝えられないから、お前に伝えておく」

 

「そう。 買ってきた甲斐があったわ」

 

「ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

ルーミアの住処を出ると。博麗の巫女は何処かに消える。

 

嘆息すると、ぼんやりと天井を見つめた。

 

蝙蝠や虫さえも此処を知らない。

 

ある意味幻想郷の闇の中の闇。

 

ルーミアが仕事をしなければならない日は、あまり多く無いが。それでも確実にあるから、紫はずっと同じようにルーミアに接し続けるだろう。

 

幻想郷も、いつまでこのまま続くか分からないが。

 

少なくとも、続いている間は、ルーミアは必要なのだ。

 

一眠りしてから、外に出る。

 

疲れも取れたし、バカになる方が体にも良い。

 

外に出ると、すっと何もかも悩みが晴れて。

 

無邪気な笑顔を浮かべて、両手を拡げたまま、空を飛ぶ。

 

外は夜だ。

 

人間を襲うわけでも無いので、周囲に闇の力は展開しない。まだ太陽もでていないことだし。

 

新月の夜には、例外的に闇の力を展開しないが。

 

その理由も、他の妖怪には告げていなかった。

 

というか、自分でも良く理由は分かっていなかった。

 

何となくだが。

 

新月の光は浴びても平気。

 

そうとしか思っていない。

 

他の光だって浴びているのに、不思議な話である。

 

或いは過去の正体についての手がかりなのかも知れないが。それについて、探るつもりはなかった。

 

誰か遊ぶ相手はいないだろうか。

 

そう思って飛んでいると、ふと目に入るのは、修練をしている長身の女性。赤い髪の、中華風の服を着た、すらりと均整が取れた体が目立つ。

 

幻想郷でも強い力を持つ吸血鬼姉妹が住まう紅魔館の門番。

 

紅美鈴である。

 

そういえば此処は紅魔館の門前だ。

 

美鈴はとにかく面倒見が良い優しい妖怪だが。格闘技に関しては非常に優れたものをもっている。

 

あまり門番としては優秀では無いが。

 

自分と同じように正体がよく分からない妖怪で。

 

出会うと遊んでくれるので。

 

ルーミアはバカになっている状態の時にも、美鈴は好きだった。

 

「カラテなのかー?」

 

「中華拳法ですよ。 正確には今やっているのは八極拳です」

 

「はっきょくけん?」

 

「そうです。 ルーミアさんもやってみますか?」

 

美鈴は紅魔館に来た人間に対しても、それほど高圧的に追い返したりしない。

 

門番としては無能とか言われている事を知っているが。

 

それは代わりがいなくて、ずっと門番の仕事をしているからで。うつらうつらと船を漕いでいる姿が目立つからだ。流石に四六時中門番をしていれば、体力だってもたない。

 

その性格を知っているからか。

 

人里から、腕試しに武芸者が来たり。

 

子供がたまに引率つきで美鈴に武芸を習いに来たりするが。

 

その全てに丁寧に接している様子だ。

 

流石にそうしているときに、ルーミアが混ざるわけにはいかないので、遠くから見ているだけだが。

 

美鈴もそれについては、多分事情を紫に聞かされているのだろう。

 

一度混じっては、と言われた事はあるけれど。

 

それだけだ。以降、同じ事を言われることは無かった。

 

月の下で、軽く拳法について習う。

 

美鈴は色々な拳法を習得している。人間よりもずっと長い年月を生きているのだから、覚えている拳法が多彩なのもまあ当然だろう。

 

近接戦闘用のもの。

 

相手が遠距離にいる時に、一気に間を詰めて倒すためのもの。

 

様々な拳法が存在していて。

 

武器と併用するものも多いと言う。

 

美鈴自身の能力は「気を操る」程度のものだという事だが。

 

むしろ拳法における発勁と呼ばれる技術が主体なのではなかろうか。

 

美鈴の指導は丁寧で。

 

ルーミアに、逐一細かく教えてくれる。

 

実戦仕込みの本格的な中華拳法で、実際に戦闘で使うときは激しい殺気を帯びるようだが。

 

教えるときの美鈴はとても穏やかで。むしろ優しすぎるくらいだった。

 

拳で相手を殺す事の意味を知っているから、かも知れない。

 

前に聞いたのだが。

 

基本的に他人にものを教えるには、自分が三倍は知らなければならないという話で。

 

拳法家として人に拳法を教える事は自分自身のためにもなるのだという。

 

だから単純にお人好しとして拳法を教えてくれるためだけでは無く。

 

紅魔館を守るためにも、拳法を他の人に気前よく教えるし、他流試合だって受ける。

 

そういう姿勢を保っているのだとか。

 

とはいっても、美鈴がいい奴なのは、何となくルーミアには分かっていたが。

 

「美鈴はとても真面目なのだ」

 

「いいえ、門番としてはポンコツとか言われて、返す言葉もありませんから。 ルーミアさん、其処はもうちょっと腰を落として、こうです」

 

「こうなのかー」

 

「そうですよ」

 

地面に足をつけて拳法をする機会は多分無いと思う。

 

実際問題、リーチが短すぎるし。

 

ルーミアは特に素早いわけでも無い。

 

背が低いから、素早くてパワーがあれば、拳法は有用かも知れないけれど。別に素早くも無いしパワーも無いから、拳法はルーミアには向いていない。

 

早い話、拳法で他の存在とやり合うには、悪条件が整いすぎているのだ。

 

普通の人間よりもフィジカルは強いかも知れないけれど。妖怪退治を本職にしている連中にはとてもかなわないし。

 

ましてや武闘派の妖怪に、にわか仕込みの拳法なんて通じるはずも無い。

 

だけれど、教えてくれる美鈴が兎に角楽しそうなので。

 

教えてくれるときはいつも素直に教わる。

 

ルーミア自身も楽しい。

 

今は頭が空っぽになっているから。

 

楽しい事はとても大事だった。

 

遊びの一環として、拳法を学ぶことが出来る。文字通り、頭を空っぽにして、である。

 

「そんなところです。 今日は其処までにしておきましょう」

 

「美鈴はそういえば、元々は何の妖怪なのだ?」

 

「さあ、何なんでしょうね。 私は紅魔館に中華で合流しましたが、その時にはもう妖怪でした。 彼方では文革という文化に対する悲しい出来事がありましてね。 きっとその時、私の話も失われてしまったのだと思います。 「私だけが覚えている拳法」も、結構あるんですよ」

 

「そうなのかー」

 

そうなんです。

 

そう、美鈴は少しだけ悲しそうに応えた。

 

或いは本当は知っているかも知れないが、話す事は出来ないのかも知れない。

 

それにしても、美鈴がいなくなれば、それらの失われた幻の拳法もなくなってしまうのか。

 

それは悲しい。

 

文化の死と言える。

 

もしも美鈴が、ルーミアが処置しなければならないような状態になってしまったら。その時に、確実にその拳法は失われてしまうだろう。

 

「弟子を取ったらどうなのだ?」

 

「私はこれでも人間にとっては表向き最も脅威度が高いとされている極悪妖怪である吸血鬼、レミリアお嬢様のしもべです。 お嬢様や妹様が実際にはもう人を殺していない事は関係無く、その事実に変わりはありません。 だから、余程の事が無い限り、弟子を取ったり、本格的な奥義の伝授をしたりする事はないでしょう」

 

「妖怪の弟子を取ることは出来ないのか-?」

 

「ふふ、評価してくれるのは嬉しいですが、私はどちらかと言えば幻想郷では弱い方の妖怪です。 徒手空拳を得意とする武闘派でも、私より強い方は幾らでも……人間や、元人間にさえいます。 敢えて私の弟子になりたいなんて妖怪はいませんよ」

 

確かに、美鈴以上の武闘派なんて、それこそ幻想郷には幾らでもいるし。

 

体を敢えて拳法で鍛えて強くなろうなんて妖怪もいない。

 

成長して大人になる妖怪だってしかり。

 

妖怪は年も取らず。

 

親もおらず子もいない。

 

希に人間との間に子供を作る事が出来る妖怪もいるらしいけれど。

 

それも、人間とは生きる時間が違うから、最終的には悲しい結末になるだけだと、何処かで聞いた事がある。

 

とりあえず、美鈴が死ぬ事はおそらく無いだろう。

 

少なくとも当面は。

 

だから、幻想郷にしかなくなってしまった拳法も。

 

今は忘れられる恐れはない、と言う事か。

 

拳法を一通り教わった後。

 

言われた通りに実演してみせる。

 

飲み込みが早いと、美鈴は褒めてくれた。少し嬉しい。

 

美鈴は褒めて伸ばすのがとても上手いのだなと、ルーミアは思った。

 

妖怪としてそれほど強くは無いかも知れないが。

 

強い妖怪が、ものを上手に教えられるわけでもないだろう。

 

何かしらの理由で美鈴がもっと力を伸ばせば。

 

或いは幻想郷の妖怪達の中から、美鈴の弟子になりたいと思う者が出てきたりして。

 

そして失われ掛けている拳法が。

 

失伝せず、伝えられていくのかも知れない。

 

拳法を一通りやった後。

 

後は軽く話す。

 

今日はチルノもいないし、他に親しくしている妖怪も見当たらない。

 

美鈴も退屈なのだろう。

 

嫌な顔一つせず、ルーミアとのおしゃべりに応じてくれた。

 

しばしして。

 

かなり空が明るくなってくる。

 

もう帰る、と腰を上げると。

 

一度だけ引き留められた。

 

「ルーミアさん」

 

「どうしたのだー?」

 

「何だか少し懐かしい感じがします。 ひょっとして、貴方中華由来の妖怪なのではありませんか?」

 

「分からないのだー」

 

美鈴はほろ苦い笑みを浮かべる。

 

自分でも良く正体が分からないのであれば。

 

美鈴も、或いは仲間が欲しいのかも知れない。

 

懐かしい感じか。

 

或いはひょっとしてだが。

 

昔の姿も名前も違った頃には。

 

美鈴と会ったことがあったのかもしれない。

 

だが、その時の記憶は無いし。

 

そうだったとしても、向こうももう分からないだろう。何しろ、面影さえないのだから。

 

洞窟に戻って、休もうとすると。

 

不意に紫が姿を見せる。

 

何かあったな。

 

バカから戻って、フラッシュバックが来たばかりだ。

 

少し疲労が溜まっているのだが。

 

仕方が無い。

 

「どうした幻想郷の賢者」

 

「少し急ぎの用事よ。 疲れている時に悪いけれど、すぐに出てくれるかしら」

 

「いつもの奴か」

 

「いいえ、違うわ」

 

目を細める。

 

だったら、ルーミアなんかに用は無いはずだ。今の馬鹿では無い状態であっても、別にルーミアはそれほど強いわけでも無いし。

 

武闘派なら博麗の巫女が。

 

頭脳労働なら他に仕事が出来る奴が幾らでもいるはず。

 

ルーミアにしか出来ない事は、殆ど無いと言って良い。

 

バカになるとき捨てたものは、色々と多いのだ。

 

その中には、古き妖怪だったときに持ち合わせていた、強い妖力だって含まれている。

 

移動しながら、説明するという。

 

そうなると、余程の事か。

 

賢者が開けた空間の裂け目、隙間に一緒に入る。

 

中には無数のがらくたが浮かんでいる空間があった。これが、隙間の中なのだろう。既に、バカに戻りつつあるルーミアに、紫は言う。

 

「貴方が以前友達になったあの子。 あの子の娘さんが行方不明になってね。 人里の外、よりにもよって魔法の森の近くで遊んでいたらしいのよ」

 

「!」

 

「多分貴方なら気配で追えると思うわ。 正確には貴方のリボンが気配を覚えている、でしょうけれど」

 

「分かったのだ」

 

隙間を空けて、外に出る。

 

もうかなり明るいし、人里の近くだ。

 

闇を纏う。

 

こうなると、周囲が見えなくなるので困るのだが。

 

ナビゲートをつけてくれるという。

 

声が聞こえた。

 

聞き覚えのある声だ。確か命蓮寺の信者になっている山彦、幽谷響子だったか。

 

命蓮寺は人間と非常に友好的に接している珍しい妖怪勢力で、人妖平等という思想を掲げ、人間の檀家もたくさんいる。人なつっこい響子も普通に人間の子供とも接している筈。

 

犬を思わせる耳や尻尾はあるけれど。それくらいは別に恐怖感を呼ばないはずだ。

 

戦闘では役に立たないかも知れないけれど、確かに人間を怖がらせない相方としては、丁度良いだろう。何より響子は山彦。最悪の場合は、大声で助けも呼べる。

 

「住職に言われて来たんだけれど、ルーミアちゃんと、迷子を探せば良いの?」

 

「そうよ。 ちょっと人間には入れない場所に迷い込んでしまったようだから、急いで頂戴。 成り立ての妖獣に襲われると面倒だわ」

 

「どうしてそんな事に」

 

「……あの家系はどうも血統的に厄につかれやすいらしくてね。 ルーミア、覚えがあるんじゃ無いの?」

 

ぼんやりとだが。

 

何となくバカになっている状態でも分かる。

 

脅かそうとしたあの子は。

 

最初きょとんとしていて。

 

そして逃げようとしてすっころび。

 

気絶した。

 

本当にルーミアが人を食うのなら、その時点で命は無かっただろう。だがルーミアは、まさか何も無いところですっころんで気絶するとも思わず。困り果てて、自分で介抱した。

 

相手はルーミアが無害なことを知って。

 

以降は友達だと認識された。

 

それは、悲しい友情の話だった。

 

何処か抜けたところがある子だなと思ってはいたのだけれど。紫に言われて、何となく思い当たる節がある。

 

きっとあれは偶然では無く。

 

古くは強大な厄を放っていたルーミアに、体質的に引き寄せられたのだろう。

 

向こうがもう覚えていなくても。

 

あの子の子供が死ぬのはあまり良い気分では無い。

 

指定された場所は、よりにもよって魔法の森。

 

それも、人間が普段は入る事が出来ない場所だ。

 

魔法の森に住んでいる物好きな人間や、元人間は何人かいるが。そんな者達でさえ近寄らない場所。

 

敢えて言うならば、闇が濃い所である。

 

「すぐに探すのだ」

 

「あ、待って」

 

響子をバディに指定したのは、多分子供が好きで、人なつっこくて。相手が警戒しないから、だろう。

 

ルーミアについては、人里で警戒し、怖れるように教育しているはずだ。

 

急がないと危ない。

 

魔法の森は、幻想郷における、屈指の危険地帯の一つなのだから。







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