東方Project二次創作短編集   作:dwwyakata@2024

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古くは強大な闇の妖怪だった者

今、闇そのものの妖怪である者。

二者は相容れぬ存在。

ましてやその存在が、過去の己に近いのだとすれば。







3、闇宵

闇を纏ったまま、森の中を行く。

 

手をつないでいる響子は、少し怖がっているようだった。

 

此処は魔法の森の中でもかなり暗い。

 

しかも闇の気配が濃厚で、それに紛れて感覚も麻痺してしまう。

 

ルーミアは思い切って、纏っている闇を解除。

 

人に見られることはないだろうし。

 

何より、手探りで探している場合ではないからだ。

 

ルーミアを見たら逃げるかも知れないが。その時は何とかして追いかけて捕まえればいい。

 

「ルーミアちゃん、凄く暗いね此処……」

 

「闇が気持ちいいのだ」

 

「そうなんだ」

 

「……急ぐぞ」

 

口調が変わったことに気付いたのか。

 

響子はびくりと震えた後、頷く。

 

リボンが覚えている、か。

 

闇の中に入ったからか、意識がクリアになってくる。

 

気配が、よく分かる。

 

確かに、リボンに染み付いたあの子に似た気配がある。

 

人里には近づけないから、あの子が今どうしているかは知らない。所帯を持ったと言う事しか分からない。

 

もう既に相手は子供ではないし。向こうは此方を見ても分からない。

 

しかし、此方はあの子を見て一目で分かる確信はある。

 

遠くで獣が遠吠えをしている。

 

外で絶滅したニホンオオカミも、幻想郷には存在している。

 

妖怪の山の方に行くと、熊もいると聞いている。

 

いずれにしても、脅威は妖怪だけではない。

 

山の中、暗い森の中では、足を挫くだけで死に直結するし。

 

ましてやこんな闇の濃い場所、人間の子供なんて、一日ともたないだろう。

 

それにしても、紫が言うには、厄に引き寄せられると言う話だったが。

 

この森そのものに呼ばれたと言うことか。

 

だとしたら難儀な性質だ。

 

あの子が大人になって所帯を持っている事からも、血筋の人間が子供の頃だけに発現する性質なのかも知れないが。

 

それにしても、どうにかならないのだろうか。

 

気配が近づいて来ているのが分かる。

 

だが、別の気配も。

 

ずるずると音がした。

 

これは、多分いわゆる現象としての妖怪。

 

自我をもたず、一定のルールに従って人間に害を為すもの。

 

相手が妖怪であっても関係無い。

 

そんな迷惑な奴だ。

 

響子に振り返らないように言う。

 

正体は分からないが、多分振り返るとその瞬間襲ってくると見て良い。

 

こういうタイプの妖怪の場合、スペルカードルールでの戦闘に応じてくれることは無いだろう。そんな知性が存在しないのだ。

 

森を突き抜けて空に出れば戦えるかも知れないが。

 

そうなると、多分近くにいる子供が襲われる可能性が上がる。それも跳ね上がる。

 

それはどうにかして避けなければならない。

 

響子もルーミアがいつもと違う事は何となく察しているのだろう。頷くと、森の中を粛々と歩く。

 

ついてきている何かは、うめき声を上げながら、ルーミアの方を狙っているようだった。

 

別にかまわない。

 

妖怪は肉体が破損したって死なない。

 

ややこしいことになっているルーミアだってそれは変わりない。実際、今まで退治屋に何度か事故同然でやられたこともある。

 

此奴が危険な妖怪である事は間違いないと思うけれど。

 

だからといって、怖れる事はない。

 

負ける事には慣れているし。負けたってだから何だというのだ。

 

むしろ今は。昔、悲しい別れをしなければならなかった相手の子供を守る。

 

その方がよっぽど大事だ。

 

見つけた。

 

どうしてこんな所に迷い込んだのか。

 

いずれにしても、木の下に蹲っている。

 

出口の方向は分かる。

 

そして、追ってきている妖怪の注意は、ルーミアが惹かなければならないだろう。

 

「響子。 あの子の手を引いて、あっちに逃げろ」

 

「う、うん。 ルーミアちゃんは」

 

「彼奴の相手をする」

 

「わ、分かった。 気を付けて。 危なくなったら逃げて」

 

無言で手を離す。

 

響子が蹲っている子供を助け起こす。

 

子供は響子が分かるようで、わっと泣いて抱きついた。

 

母親に似ている。

 

そうか、そういえば確かに何というか。やはり気配が近い。リボンが教えてくれるというのも納得である。この気配を辿らなければ、見つけられなかった。濃い闇が満ちているし、博麗の巫女にも探すのは無理だっただろう。

 

そして背後の妖怪が、子供に興味を向けかけた瞬間。

 

ルーミアが振り返る。

 

瞬時に、本能に従った妖怪。

 

相手を追跡し。振り返ったら襲いかかる妖怪。名前は知らないが、博麗の巫女なら知っているかも知れない。

 

ともかく、闇の化身のようなそれが、ルーミアに襲いかかってきた。

 

「走れ! 振り返るな!」

 

ルーミアの叱咤と同時に響子が子供の手を引き、走る。

 

大丈夫、逃げ道の方に走っている。

 

魔法の森のこんな奥深くに入り込んでしまうような厄の持ち主だ。或いは、あの子が生き延びたことからして、幼い頃に一度だけ大厄を経験するような体質なのかも知れない。いずれにしても厄介極まりない。

 

凄まじいうめき声を上げながら、闇の塊のようなそれが飛びかかってくる。

 

「月符、ムーンライトレイ!」

 

ルーミアは闇の魔術を発動し、スペルカードルールに従ってぶつけるが、勿論乗ってくるわけがない。

 

巨大な軟体動物のようなそれは、触手を展開し、闇の魔術を弾き返すと。一気にルーミアを丸呑みにせんと躍りかかってくる。

 

勿論即座にやられてしまったら、次に狙われるのは響子と救助対象だ。

 

あの子の娘を、殺させるわけには行かない。

 

身を闇で包むと、かろうじて触手による猛攻をかわしつつ、相手の間合いギリギリに逃れる。

 

だが、本能で生きている奴ほど、むしろ厄介なのだ。何しろ相手を殺す事だけに全ての能力を全振りしているのだから。

 

闇の塊のような妖怪は、身を撓ませると。

 

凄まじいバネを生かして、躍りかかってきた。

 

まずい。避けようが無い。

 

かろうじて直撃は避けるが、擦っただけで吹っ飛ばされ。

 

木に叩き付けられて、そのままずり落ちる。

 

形が無いそれが、何か音を発する。

 

「い、ぐぶは、あ、おお、えええええええ」

 

「何を言っているか分からないな。 そういうバカになるのは同じバカでも感心しない」

 

「おげぶばあああああ!」

 

触手が伸び、かろうじて避けたルーミアをはじき飛ばす。擦っただけで吹っ飛ばされた。

 

受け身は取るが、そういえば美鈴に教わった奴だ。

 

いや、付け焼き刃にしては妙に動きが良い。

 

きっと、記憶の残滓。

 

それが、たまたま身を守った。

 

再び跳び上がると、追いすがるように飛びかかってくる正体不明の妖怪。

 

もうスペルカードルールでの戦いをするつもりはない。そのまま。高濃度に圧縮した闇を叩き込む。

 

一瞬の均衡。

 

それだけでかまわない。

 

飛び退き、相手が牙だらけの口で地面を抉るのを避けると。更に軟体動物のような闇色の背中に、攻撃を連続して叩き込む。

 

大した力は出せないけれど、相手を怒らせるには充分。

 

凄まじい雄叫びを上げながら、襲いかかってくる。

 

飛んで逃げる。

 

右、左、左、右。

 

木々を避けながら飛ぶ。

 

触手が何度か飛んできて、ルーミアの服を、靴を、傷つける。体も何度か抉る。鮮血も噴き出す。

 

肉体の破損は、後で服も含めて直せる。

 

だが、リボンだけは守りたい。

 

激しく木を傷つけながら、闇の塊が至近を直撃。衝撃波で吹っ飛ばされたルーミアは、腐葉土に叩き付けられ、バウンドして転がった。

 

口に入った土を吐き捨てながら立ち上がる。

 

「どうした、来い。 本能で動く事しか出来ない下等」

 

「げ、ぼえあ、お、あああおう」

 

もう少しだ。

 

だが、闇の濃い此処を抜けたら、もう勝ち目は無くなる。

 

一瞬で勝負を付けなければならない。

 

此奴は放置しておけない。

 

いずれ、また誰かが此処に迷い込んだとき。

 

必ず襲うだろう。

 

少なくとも、人間が退治できる状態にまでしないと。

 

ひゅうと風を切る音。

 

モロに触手が腹を直撃し、吹っ飛ばされたルーミアは木をへし折りながら吹っ飛び、岩に叩き付けられる。

 

顔を上げると。

 

嫌にスローに、牙だらけの口が迫ってくるのが見える。

 

肉体が壊れるのはどうでもいい。

 

このリボンだけは。

 

絶対に守らないと。

 

フルパワーで闇を集めて、相手を押し返す。

 

だが、明らかに相手の方が強い。

 

はじき飛ばされて、また地面に叩き付けられた。

 

もう感覚がかなり無くなってきている。触手を蠢かせながら、とどめを刺しに来る軟体妖怪。

 

だが、にやりと、ルーミアは口の端をつり上げていた。

 

貰った。

 

そのまま身に闇を纏うと、一気に後退。

 

最後の力だ。

 

当然相手は追ってくる。

 

そして、森を飛び出し、日光の真下に出ていた。

 

既に朝になっていたのだ。

 

モロに日光を浴びて、絶叫する追跡者。

 

同時に、追跡者の頭上から、強烈な一撃が叩き込まれる。

 

一撃は拳。

 

猛禽のように頭上から襲いかかった博麗の巫女が、拳を叩き込んだのだ。

 

呼吸を整えながら、ふらふらとルーミアは逃げる。

 

後ろでは、博麗の巫女主催の素手による妖怪解体ショーが行われているが、そんなものにかまっている余裕は無い。

 

博麗の巫女はあの手の妖怪には容赦しない。普段も獰猛だが、いつも以上に徹底的に潰すだろう。

 

多分封印処置までしてしまう筈だ。

 

悲鳴が聞こえる。

 

素手で博麗の巫女が妖怪を解体しているのが、見なくても分かった。だが、同情はしない。同じ闇の妖怪でもだ。

 

自分で触れないリボンだが。何とか守り切れた事は分かった。

 

後は、自分の住処に戻って、回復を。

 

そう思った瞬間だった。

 

体を背中から何かが貫いた。

 

纏っていた闇がかき消える。

 

どうやら最後のあがきで、あの妖怪が、自分の体の一部を錐のようにして。射出したらしかった。

 

「しまった! このっ!」

 

博麗の巫女が、薄れ行く視界の中で、妖怪をズタズタに引きちぎっているのが見える。あれは流石にやり過ぎに思えるが、仕方が無い。凶悪な危険妖怪なのだから。

 

あの妖怪は封印処置をされ、地底に閉じ込められ、二度と幻想郷に現れる事は出来ない。

 

リボンは守った。友達だった相手の子供も守った。それでいい。

 

それよりも、一番どうでも良いことだが、自分はどうなったのだろう。

 

おなかがあつい。

 

最初に思ったのは、それだった。

 

ルーミアは、自分の体を錐か槍のようなものが貫き。串刺しにされて、地面に転がっているのを悟った。

 

重要臓器の幾つかがやられている。

 

ああ、これは致命傷だ。そう冷静に分析できた。

 

肉体が死ぬ。精神は、多分大丈夫だろう。

 

だけれども、何だかむしろ暖かい気分だ。

 

血を吐き戻すが、気分は悪くない。

 

死んだ後、リボンはついてきてくれるだろうか。外れてしまうといやだな。そんな事を考える。

 

血だまりが拡がっていく中。博麗の巫女が覗き込んでいるのが分かった。

 

「しっかりしなさい、バカ! 気を強くもって!」

 

「何を慌てているのだ……妖怪は肉体が滅びても死なないのだ……」

 

「これは物理的な攻撃だけじゃ無い! 強烈な精神攻撃……高濃度の呪いも含んでいるわ! あんたこのままじゃ精神も死ぬわよ! すぐに永遠亭に……!」

 

「……」

 

もう何も聞こえない。

 

リボンは守れたかな。あの子の思い出は。

 

もう何もかも忘れるのは嫌だな。それだけ、ルーミアは考え続けていた。

 

 

 

これは誰だろう。

 

形が無い妖怪がいた。

 

夜闇の世界を這い回り。そして見つけた人間を襲う。

 

幻想郷ではない。外の世界だ。相手は抵抗してくる。普通の人間ではない。妖怪退治屋だ。

 

妖怪退治屋みなが強いわけでは無いが。それでも、根本的に妖怪は人間には勝てない。

 

幻想郷の人里には例外を除いてあまり強い退治屋はいないが。昔の外の世界には、それこそ幻想郷の賢者でも勝てそうに無い退治屋がゴロゴロいたのだ。

 

そして、激しい光の術を浴びて、自分が焼き切られた。

 

妖怪は負けるものなのだ。分かっている。そうでなければ、外の世界は妖怪が支配していただろう。

 

人間が世界を支配している。

 

それが、全てを物語っているとも言えた。

 

目が覚める。

 

あれは、自分だった。

 

形が無いのは、多分自分でももう形を覚えていないから。記憶が混乱しているのだ。

 

いや、多分撃ち込まれた高濃度の呪いが。

 

自分の記憶に入り込んで、あんな不純物を見せていたのだろう。

 

別にどうでもいい。

 

目が覚めると同時に、意識が切り替わる。

 

バカになったのが分かった。

 

そして、バカでも分かる。

 

此処は永遠亭。

 

幻想郷に住む月の賢者の住処。

 

本来なら神々として月にいる筈の者達が住まう、幻想郷における中立勢力。

 

そして賢者に相応しい医療技術を駆使し。

 

人間も妖怪も治してくれる場所だ。

 

月の技術は外の世界の人間とは比べものにならないほど進んでいる、とか聞いた事がある。

 

具体的にどう進んでいるのかは分からないが。

 

周囲には見た事がないものばかりで。

 

興味をそそられる。

 

起きようとしたが。側でルーミアを看病していた人間の女の子に兎の耳を生やしたような姿をした玉兎、鈴仙に止められる。

 

というか、そうされずとも気付いた。

 

まだ動ける状態じゃ無い。

 

慌てた様子の玉兎は、わたわたした後ナースコールとかいうボタンを押して。

 

しずしずと永遠亭の主である。

 

八意永琳が姿を見せる。

 

長身の落ち着いた雰囲気の女性だが。

 

幻想郷の誰よりも。そう賢者達よりも年長で。

 

その実力に関しても、幻想郷随一と噂されている。ただ、普段は名目上の永遠亭の主である蓬莱山輝夜にあわせて、力を抑えているそうだが。

 

「何か食べたい……」

 

「優曇華。 栄養食を」

 

「はい」

 

ぱたぱたと、鈴仙が部屋から出て行く。鈴仙は長い名前の持ち主で、優曇華というのは名前の一部だ。

 

永琳は咳払いすると。

 

ルーミアが一週間寝ていたことを教えてくれた。

 

「貴方は同族からの呪いを受けたのです。 裏切りものだと思われたのでしょう」

 

「裏切り者……?」

 

「本来の貴方についても少し調べました。 此処で敢えて言う事はありませんが、本来の貴方は、森で貴方が時間稼ぎのために戦った闇の妖怪の同類が、たまたま知恵を得た存在だったようですね」

 

「よくわからないのだー」

 

力が出ない。

 

リボンはあるようで。

 

それだけは安心した。

 

順番に永琳が説明してくれる。

 

突き刺さった呪いの槍を抜き。

 

そして呪いを除去して。

 

肉体も回復させた。

 

その過程で、かなり無理をして。ルーミアは何度か、形状を保てなくなりそうになった。

 

だがどうにか永琳のもつ技術を総動員して、現在の状況に戻したのだという。

 

バカになっている状態だと、それくらいしか理解出来なかった。詳しい専門用語などは分からなかった。

 

いずれにしても、助けて貰った事は確かだ。

 

鈴仙が、美味しくなさそうなスープをもってきた。

 

そのまま食べさせて貰うが。

 

はっきりいって美味しくない。

 

顔をしかめるが。

 

栄養がたっぷりだから我慢しろと言われて、そうすることにする。永琳には何度か世話になったが。今回も世話になってしまった。

 

永遠亭が外と交流するようになってから。

 

世話になっている妖怪は多いのだ。

 

「お金はどうする。 あんまり今は手持ちがないのだ」

 

「お金なら、幻想郷の賢者が払ってくれましたよ」

 

「……」

 

「今は体を治すことに専念なさい。 それと、博麗の巫女にも、貴方が一命を取り留めたことは伝えておきます」

 

永琳が部屋を出る。

 

治療しなければならない他の患者や。

 

調剤をしなければならないのだろう。

 

代わりに鈴仙が来て。幾つか話をしてくれる。

 

人里で、魔法の森の危険性が改めて喧伝されて、絶対に近付かないようにと厳命が出たこと。

 

魔法の森に潜んでいた、恐らく幻想郷が出来る前からいた妖怪が、博麗の巫女に退治され、地底に封印されたこと。

 

魔法の森に住んでいる物好きな有志達によって掃討作戦が行われ、度を超して有害な妖怪が数名地底送りにされた事。

 

何故か鈴仙もそれに参加させられ。

 

散々怖い目にあった事。

 

「もう、酷い目にあいましたよ。 お師匠様も、か弱い乙女に酷い事をさせるものです」

 

「鈴仙はか弱いのかー」

 

「それはもう」

 

「そうは思えないのだ」

 

むっとする鈴仙だが。

 

この子は強い。

 

単に勇気を出せないだけだ。

 

多分万全の状態でも、ルーミアでは勝てないだろう。少なくとも、そのくらいの力は感じる。

 

上手く行かないものだ。

 

力を捨て。

 

知恵も捨てたルーミアのような者もいると思えば。

 

力があるのに、それをきちんと活用できず、憶病で弱いと自分で思い込んでいる者。

 

知恵をしっかり活用して、多くの人々を助けることが出来る者がいると思えば。

 

知恵を捨てる事で。

 

自分の存在をやっと保つ事に成功した者。

 

世の中は不条理に満ちている。

 

ルーミアと鈴仙は真逆のような関係だ。

 

でも、鈴仙はそれに気付いてもいないのだろう。ただ、ルーミアに、如何にいつも酷い目にあっているか、ぶちぶち愚痴をこぼすのだった。

 

美味しくない栄養食と。

 

もっと美味しくないお薬を貰って、更に一週間後には退院することが出来た。

 

永遠亭がある迷いの竹林から外に案内して貰って、後は自分で行く。

 

案内をしてくれた人里の自警団員、藤原妹紅が、闇を纏ったままのルーミアに教えてくれる。彼女はルーミアが弱い事を知っている。それに無意味に恐ろしい設定が付与されて人里で近寄らないように周知されている事も。

 

ただし、その理由までは知らない。

 

多分最近まで、人里に近寄ることがなかったから、なのだろう。

 

なお不死の存在であるらしく。

 

その上妖怪退治をずっと続けて来たことから戦闘力も非常に高く、博麗の巫女ほどではないが相当な使い手であるとルーミアも聞いていた。

 

妹紅が、顛末について話してくれる。

 

救助対象はそもそも、外で遊んでいる所を、何かの声に呼ばれるように魔法の森に入ってしまったこと。

 

我に返ったときには自力脱出が不可能な状態だったこと。

 

魔法の森でも特に危険で闇の力が濃く、探索が難しい場所で遭難したこと。

 

脱出後、金髪のお姉さんが助けてくれたと証言していた事。

 

「お前だな」

 

「確かそうだったのだ。 それくらいしか分からないのだ」

 

「お前が実際には人間なんか食ってないし、無害なことは分かっているから別にかまわない。 むしろ言葉が通じないような凶悪妖怪から命がけで里の人間を助けてくれて感謝する」

 

「どじを踏んだだけなのだ。 むしろ、死ぬようなドジを踏んだのが悪いのだ」

 

そうか、と妹紅が呟く。

 

何かしらの理由を悟ったのかも知れない。

 

竹林を出ると、後はそのまままっすぐ住処に帰る。

 

人里をちらりと見る。

 

救助対象。

 

あの子の娘は助かった。

 

命蓮寺関係者の響子がきっちり人里に送り届けただろうし。

 

それに本人も懲りただろう。

 

今後は人里から離れた場所で遊ぼうなんて思う事はない筈だ。

 

子供の頃は好奇心が何にも勝って。

 

どんな無茶苦茶でもしてしまうことがある。

 

時にはそれが貴重な経験をもたらしてくれる事もあるのだけれども。だいたいの場合、その先に待っているのは死だ。

 

自分の住処に戻ると。

 

ようやく本来の自分に戻れる。

 

意識を失っていたからだろうか。

 

フラッシュバックのダメージは思ったより小さかった。

 

ふうと嘆息すると。

 

膝を抱えて座り込む。

 

ぼんやりしていると、紫が来た。

 

「退院おめでとう。 こんな時くらいは、好物をもってきたわよ」

 

「助かる」

 

ルーミアは洋菓子の類は実はあまり好きでは無く。

 

和菓子。それも羊羹が好物だ。

 

バカになっている時はあまりにもまずいもの以外は喜んで何でも食べるのだが。

 

今は違う。

 

無言で羊羹を口にするルーミアに。

 

紫は言う。

 

「今回は助かったわ。 幻想郷で制御外の問題が起こると外の神々が五月蠅いから、本当に色々と大変なのよ」

 

「分かっている。 私も覚えてはいないが、神々には何度も退治された気がする」

 

「ふふ、月面戦争にも参加したのにね」

 

「そうなのか……そうかも知れないな」

 

紫が全盛期の妖怪を引き連れて、月に攻めこんだ事があるとは聞いている。

 

覚えていないから、多分昔の、本来の名前と姿のルーミアが。無謀な作戦に参加して、コテンパンにされて敗走したのだろう。

 

「ありがとう。 病院食のまずさには辟易していた所だった」

 

「しばらくは、恐らく仕事は無いわ。 ゆっくり休んで頂戴」

 

「そうか。 じゃあバカのまま、外で遊んでいるとするさ」

 

「……そうね」

 

隙間に消える紫。

 

ルーミアは幻想郷でさえ、その姿を保てなかった妖怪に、第二の生を促す者。

 

だから人間が近付かないように徹底的に恐ろしい噂を流し。

 

弱いと言う事も隠蔽する。

 

幻想郷の仕組みは複雑で。

 

その仕組みの一端である事も受け入れている。

 

バカになったこと、力を失ったことに関しては、後悔もしていない。

 

他の形を失った妖怪をバカにした、その後の追跡調査もしていない。

 

或いはそういった妖怪達も、時々素に戻って苦しんでいるのだろうか。

 

だとしたら、それはルーミアのせいでもある。

 

悲しい話だが、それも出来る限界の外だ。

 

しばらく無心に眠る。

 

やはり生まれ変わったからか。

 

もう、昔の事はどうやっても思い出せない。

 

夢に見ることも無い。

 

だが、リボンを守れて良かったと想っていると言う事は。

 

少なくとも今のルーミアは。

 

人間を思うままに喰らい。

 

そして人間から敵として認識され、容赦なく殺し返される存在ではなくなった。

 

そう考えても、良いのかも知れなかった。

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