東方Project二次創作短編集   作:dwwyakata@2024

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セイヨウタンポポを自分で駆除していた逸話が漫画版で描写されていたとき、紫さんが地道な努力を影で半泣きでやっているんだろうなというのは容易に想像が出来ました。

ましてや普段からそういうレベルの問題が発生しまくっているとなれば。

まあ、楽な仕事ではないでしょうね賢者は。

しかも他の賢者が協力的だとはとても思えませんし。






3、カミソリの上を渡る

幻想郷には存在を否定された者が来る。妖怪や、いにしえの信仰が断絶してしまった神々など。時には動物が来る事もある。

 

古き時代。

 

決定的に神々と妖怪の力の差が開いた。

 

神話の時代には、もうこの関係は決まっていた。

 

ただ、神々に妖怪を残さず処理するつもりはないらしい。

 

それは神々が、妖怪を殲滅せず。

 

ある程度は残しておいた方が良い、という思想を持ったから、でもある。

 

西洋の一神教でも。

 

神は人間を試すために悪魔を残して誘惑させるとか言う思想があるらしいが。

 

此方の場合は少し違い。

 

負の意味での神々。

 

つまり妖怪を少しは残しておかないと。

 

正の方の神々にも。

 

良くない影響が出る。

 

それが原因であるらしかった。

 

ともかく紫は。

 

時間通りに指定の位置に出向く。

 

京都の山奥の一角。

 

ある寂れた神仏習合した神社。

 

そのお堂で。

 

複数の神格が待っていた。

 

仏教系の神格の内。

 

天部と呼ばれる者の中から数名。

 

有名な毘沙門天もいる。

 

毘沙門天は、その関係者が幻想郷にいる事もあって。

 

こういう場では比較的温厚に振る舞ってくれることが多いのが救いだ。

 

一方、仏教における軍神の立ち位置になる明王も。

 

一人来ている。

 

不動明王。

 

悪鬼を調伏し。

 

正義を推奨する明王である。

 

仏敵を討滅するために、敢えて恐ろしい形相をしている不動明王は、西欧の宣教師が悪魔に違いないと勘違いした存在だが。

 

悪を倒すためには敢えて悪に近づかなければならないという発想は。

 

世界中の何処にでも見られる。

 

くだんの一神教でも。

 

例えば天使メタトロンなどがこれに該当し。

 

残虐で圧倒的な力を持つ、暴力の権化のような存在として描写されている。

 

これなどは、神は一つしか無く。

 

本来では多神教で他の神々が請け負う仕事を天使に分散している一神教ならでは、の概念だろう。

 

本来は軍神がやる仕事が。

 

天使に受け持たされている、というわけだ。

 

更に、である。

 

分霊だが、日本神話の神々も何柱か来ている。

 

月に住んでいるのとはまた別の、各地の大きな神社にいる強力な分霊だが。

 

本体と知識を共有している、強力な存在だ。

 

いずれにしても。

 

此処で会合する神々の一柱でも怒らせたら。

 

幻想郷は終わりだ。

 

少なくとも妖怪は皆殺しである。

 

そもそも天部の一柱にしても、いわゆる悪鬼羅刹を配下にしている程で。

 

鬼より数段格上の存在なのである。

 

圧迫面接のように。

 

会話が始まるかと思えるが。

 

お堂の中で、紫は孤立無援の一方。

 

行われるのはむしろ事務的なやりとりである。

 

幻想郷が出来た頃や、月でのいざこざがあった時期などは、色々と胃に穴が開くようなやりとりが行われたこともあった。

 

だが近年では、紫の努力の成果もあって。

 

むしろ事務的に、淡々と事態を進める事が出来るようになっている。

 

薄暗いお堂の中。

 

印刷してきたレポートを、全員に配る。

 

その全員が、レポートをチェックする。

 

質問が幾つか来るので、それに答える。

 

やる事は、以上だ。

 

「病院からの搬入物資の中で、牛肉がかなり増えているが、これはどういう理由からか」

 

「これは地底の妖怪が、肉をたくさん食べたい、という要望を出しているからです。 人間に対価を払い入手した牛肉で、消費されている分もレポートに記載しております」

 

「ふむ。 なるほどな」

 

質問は幾つか飛んでくるが。

 

やがて不動明王が、質問を発する。

 

「先月の妖怪による人間への襲撃回数は百と二十七回。 死者は無しか」

 

「里の人間に威を示すのは妖怪の義務として、襲撃はしてもいいが命に関わる手出しはしないように、というのは幻想郷の不文律です。 それぞれが妖怪の威を示すための襲撃を注意深く行います。 中には人間を殺さずにはいられない妖怪もいますが、それらは地底に縛って監視をしています。 代替案も用意し、実践させています」

 

「妖精が悪戯をして致命傷を受ける者が出る、という話は」

 

「最近では注意をし、人間には気を付けるように、妖精の側には人里近くに監視要員を置いています。 最悪の事態になるまで手出しはさせませんが」

 

不動明王は。

 

彼方此方で見られる、恐ろしい形相のままである。

 

だがどちらかというと、不動明王にしても毘沙門天にしても。

 

その怒気は悪を倒すためのものであって。

 

弱き者には手をさしのべる存在でもある。

 

此処では。

 

それを利用する。

 

勿論相手がそれを理解している上で、だ。

 

妖怪は今や。

 

幻想郷でしか、一部を除いて生存できない、儚いものなのだ。

 

その中で、できる限り上手にやっていく。

 

それが紫に出来る精一杯である。

 

その辺りを毘沙門天は理解してくれているのか。

 

同情的に見てくれることもある。

 

こんどは日本神話の神々の一柱が質問をしてくる。

 

「幻想郷を出たいと欲する人間が、問題を起こしたことがあったな。 対策についてはしているか」

 

「あの事件については、里の長老達と話をし、対策を徹底しております。 何しろ知能犯による長期計画でしたので、簡単には防げないものではありました」

 

「対策をしているのなら良い。 いずれにしても、例え異境であっても人間が住みやすい場所にするように。 妖怪がもはや幻想郷にしか居場所が無い事も理解した上で言うが、あまり不平等がないようにな」

 

「分かっております」

 

幻想郷の中では。

 

紫の力は、神に等しいという噂も流れているが。

 

実情はこれだ。

 

此処にいる神の誰にも紫は勝てない。

 

いずれもが現役で信仰を得ている神々であり。

 

その戦力差は歴然。

 

紫の能力も、幻想郷の内部でさえ限定的なのだ。

 

意図していない所で、スキマから引っ張り出された事もあるし。

 

スキマを開けられない場所さえ、幻想郷内部にもある。

 

だから。

 

ただでさえ限定的な力をこれ以上落とさないためにも。

 

こんな姿は、他の妖怪には見せられないのである。

 

ただ、神々は昔に比べて傲慢では無い。

 

彼らは人間を守る存在ではあるものの。

 

人間も問題を多く起こすことを理解しているから、なのだろう。

 

咳払いした後。

 

毘沙門天がまとめた。

 

「いずれにしても、問題は無いようです。 異変と呼ばれる問題は発生してはいるようですが、少なくとも人間に対して多大な被害が出ている様子は無いですし、人間を喰らった妖怪は例外なく退治されています。 人間の肉をどうしても欲する妖怪のためにも、巧妙な仕組みで救済策を用意している彼女の努力は並大抵ではありますまい。 我々としても、度量を示して行くべきでありましょう」

 

「ふむ……」

 

「それでは、会合は終了といたしましょう。 八雲殿、今回も大変であったな」

 

毘沙門天が立ち上がると、神々はレポートをもったまま、消えていく。

 

昔の傲慢な神々と違い。

 

きちんと自分の立場をわきまえた上で。

 

無理難題を言わないように、向こうも工夫しているのが分かる。

 

だが、それ故に。

 

不正があったら、糾弾されるのは紫だ。

 

毎度レポートを造る時が一番緊張する。

 

誤字脱字くらいなら構わないのだが。

 

問題はレポートのタイミングで、解決できていない問題がある場合だ。

 

巧妙に人を食った妖怪が逃走中、というようなケースは近年殆ど発生していないのだが。

 

一度それがレポートの時期に発生した事があり。

 

不動明王に三日以内に解決しろと怒られて。

 

胃に本当に穴が開いた。

 

紫自身が出向いて、その妖怪は退治し、封印したのだが。

 

あの時は本当に生きた心地がしなかった。

 

既に長い長い時を生きている紫だが。

 

それでも自分より圧倒的に強い存在達が多数いるこの世界で生きると言う事は。

 

冷や汗とは無縁でいられないのである。

 

後片付けをして。

 

火の不始末などが無い事を念入りに確認。

 

外の様子もチェックし。

 

人間に見られていないかも確認。

 

勿論結界を張っているが。

 

実は外の世界にも、強力な超能力者は普通に存在しているし。

 

結界を破れるような奴もいる。

 

それらの痕跡が無い事をしっかり確認してから。

 

スキマを介して幻想郷に戻る。

 

屋敷につくと。

 

藍が橙を膝の上に載せて、撫で撫でしていた。

 

ごろごろと喉を鳴らして甘える橙は。

 

文字通り猫かわいがりされていて。

 

人間の子供の姿に近いとは言え。

 

やはり猫又としての要素が強い。

 

「お帰りなさいませ、紫様」

 

「おかえりなさいませー!」

 

無言で頷く。こっちが命を削る思いでレポートを出しているときに、橙で遊ぶとは。

 

色々とけしからんが。

 

まあ橙の屈託が無い笑顔を見ると、多少は腹の虫も収まるか。

 

咳払いすると、藍は橙と一緒に台所に行き。

 

用意していたらしい食事を出してくる。

 

橙が満面の笑顔で言う。

 

「藍様、紫様が帰ってきてからみんなで食べましょうって、ごちそうを用意していたの!」

 

「そう、感心ね」

 

「有難うございます。 外の世界のレシピを手に入れたので、少し気合いを入れて作って見ました」

 

確かに色々な種類の珍しい料理が並んでいる。

 

菓子ばっかり食べていると体に悪い事は分かっているから。

 

野菜も肉もバランス良く食べなければならない。

 

これは人間だけではなく。

 

妖怪でも同じだ。

 

おいしいおいしいと無邪気に喜ぶ橙は、尻尾をぱたぱた揺らしていて、大変に愛くるしい。

 

この子は式神としては実力不足だが。

 

藍は敢えてそうしているのではないか。

 

そう疑いたくもなる。

 

へたに知恵を付けるよりも、この方が橙は幸せかも知れない。

 

実際、後から妖怪になる者はいる。

 

幻想郷では、自然の力の象徴として、妖精という存在がいる。

 

妖精も力がついてくると妖怪になる事があるのだが。

 

享楽的に暮らしていればよかった上、「ほぼ」死ぬ事もないし、死んでもすぐに蘇生する(その代わり弱い)妖精は、気楽なのに対し。

 

妖怪になると人間の畏怖を集めなければ生きていけないし。

 

今まではある程度悪戯を笑って許してくれた人間も。

 

場合によっては本気で殺しに来る。

 

妖精から妖怪になって、上手く行かずにすぐに悲惨な事になった者を、紫は何人も知っている。

 

動物が妖怪になる妖獣についても同じだ。

 

妖怪になると、適者生存の動物世界からは外れるものの。

 

より複雑な別のルールに縛られることになる。

 

妖獣は身体能力が極めて高い反面。

 

このルールの急激な変化について行けず。

 

退治されたり、悲惨な目にあう者も多い。

 

特に山の妖獣は、なりたての頃に人間を襲い、そのまま返り討ちにされたり。

 

逆に人を食う事に成功はしても結果として退治され封印されたりと。

 

動物のまま天寿を全うした方が良かった、と本人達が嘆きたくなるような結末を迎えることも多いのだ。

 

愛くるしい橙は。

 

あまりものを考えず。

 

ただ八雲の式神、というだけで恐れを受けていられる立場にいる。

 

だがこの子が知恵を付けたら。

 

あまり良い結末になる未来は見えない。

 

文字通り橙を猫かわいがりしている様に見える藍だが。

 

そういう深慮遠謀があるのかも知れない。

 

まあ見ている分には。

 

文字通り猫かわいがりすることが本当の目的にも思えるが。

 

いつのまにか、皿は全て空になっていて。

 

藍が橙を促して片付けを始める。

 

今日が大変な日で。

 

紫が非常に疲弊していることは、二人も気付いているのだろう。

 

静かに寝やすい状況を作るべく。

 

その場を離れてくれた。

 

親切な対応に甘えて。

 

眠る事にする。

 

いつからだろう。

 

こんなに毎日長く眠るようになったのは。

 

大妖怪と持ち上げられ。

 

妖怪達の顔役として、いつも胡散臭い顔をして畏怖を集めるようになっていた頃には。

 

既に心労で色々酷い目にあっていた。

 

人間だったらとっくに発狂していたかも知れない。

 

いや、或いは。

 

精神攻撃に脆い妖怪だからこそ。

 

これほど今、酷い目にあっているのかも知れない。

 

紫は自分のオリジンを他の誰にも話さないが。

 

それは底が知れるのを防ぐためもあるし。

 

窮状を知られる訳にはいかない理由もある。

 

いずれにしても、布団に入ると。

 

すぐに眠くなった。

 

でも、寝ていても。

 

悪夢しか見ない。

 

今日は複数の勢力が、一斉に異変を起こすという悪夢のような、というか悪夢を見た。

 

どいつもこいつも幻想郷を滅茶苦茶にする行為を同時に行い。

 

しかも博麗の巫女が最初にぶん殴りに来たのは紫だった。

 

こんな大規模異変。

 

起こすのはお前くらいだ、というのである。

 

誤解だといっても信じて貰えず。

 

思いっきりぶん殴られた。

 

触ったときの手応えが妖怪なだけに普通の人間と違うと言われる紫でも。

 

博麗の巫女に全力で殴られて無事で済む筈も無い。

 

見ると、藍と橙も頭にこぶをつくり、煙を上げながら意識を手放して転がっている。

 

胸ぐらを掴まれてぐらんぐらん揺らされながら、さっさと異変を停止しろと恐ろしい形相で言う博麗の巫女に。

 

紫は泣きながら私じゃないと弁解するしかないのだった。

 

目が覚める。

 

頭が痛い。

 

勿論殴られたからじゃない。

 

心労で悪夢を見たからだ。

 

というか、心労で頭が痛かったから、こんな夢につながったのか。

 

そういえば。

 

最初に異変を調査し。

 

博麗の巫女をたきつけるようになったのは。

 

こうやって、真っ先に疑われて、殴られるのが嫌になったから、だったような気がする。

 

勿論幻想郷のルールとして。

 

妖怪は人間を怖れさせ。

 

人間は妖怪を怖れ。

 

そして恐れを克服して退治する、というものがあるのだが。

 

それにしても。

 

今の博麗の巫女は兎に角強い。

 

修行していなくてもあの実力だ。

 

そして紫は。

 

あまりにも胡散臭い得体が知れない言動をする事で、本当の自分を秘することで。

 

結果として、あらゆる意味で何もかも黒幕であるかのように思われるようになってしまった。

 

時々、こっそり異変としては処理出来ないような案件を片付ける事もあるが。

 

その場合、異常な勘の良さで嗅ぎつけてくる博麗の巫女に。

 

殴られて私が犯人でしたと泣いて謝る事で、むしろ上手く済ませることもたまにある。

 

勿論痛い。

 

すごく痛い。

 

だけれども、幻想郷の維持のためには仕方が無いし。

 

それに、この間死んだ目で色々呟いていた元玉兎ほど悲惨な状況でもないので。

 

我慢するしかない。

 

酒でも飲もうかな。

 

そう思ったが。

 

今日もスケジュールが山のようにたまっている。

 

いずれも紫にしか出来ない。

 

以前、勝手に動いている強力な妖怪を勧誘したことがあったが。

 

断られた。

 

上手く行けば、右腕として動いてくれるかと思ったのだけれども。

 

どうも紫の行動が邪道に思えるらしく。

 

生真面目なそいつは。

 

絶対に貴方とは一緒にならない、とまで言った。

 

孤独だ。

 

どこまでも。

 

藍が来たので、スケジュールを確認。

 

今日もまた。

 

カミソリの上で綱渡りをするような。

 

スケジュールをこなさなければならない。

 

いずれも失敗は許されない。

 

大規模異変が解決したとき、博麗神社では大体宴会が行われたりするものだが。

 

その時くらいしか。

 

酒を飲む余裕は無いし。

 

そもそもその時ですら。

 

裏では色々な問題を処理するために。

 

紫は走り回っているというか。

 

スキマを飛び回っていることが多いのである。

 

「目の下に隈ができていますよ紫様。 そろそろ永遠亭に一度診察を受けに行ってはどうでしょう」

 

「今は違うとは言え、月の神相手に? いやよ」

 

「薬はもういただいているではないですか。 それにあの人は、きっと貴方の苦悩を理解してくれますよ」

 

「絶対に、いや!」

 

我が儘だが。

 

それでも、弱みを人に見せることだけはしない。

 

藍に見せているだけでも冷や汗ものなのだ。

 

この子は裏切らないとは分かっているが。

 

それでも、何かの拍子で口を滑らせるかも知れない。

 

いつの間にか疑心暗鬼の塊になっている紫は。

 

ある意味。

 

博麗の巫女以上に。

 

実際は誰も信じていない。

 

いや、信じられない体質になってしまっているのかも知れない。

 

化粧をして目の下の隈を誤魔化す。こういう技術ばかり上がる。

 

「今日は地底の視察ね。 彼処の妖怪は、隙あれば本当に人間を喰おうとしたり、殺そうとしたりする者がいるから厄介だわ」

 

「怖いもの知らずだから、紫様に喧嘩を売る者もいますしね」

 

「相手にしていられないわよ」

 

地底は荒くれや、嫌われ者の住む場所だ。

 

幻想郷におけるスラムと言っても良く。

 

強力な妖怪も多い。

 

此処を監督している妖怪の姉妹もまたくせもので。

 

厄介な能力を持っている上に。

 

更に放任主義が過ぎるときている。

 

さて、それでも。

 

いかなければならない。

 

面倒な場所だからこそ。

 

紫が実際に目を通して。

 

実態を確認しなければならないのだから。

 

気を付けて、と藍に言われるが。

 

頷くだけ。

 

よそ行きの顔を作ると。

 

紫はスキマを開けて。

 

今日の、また面倒極まりない仕事に、出向くこととした。

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