東方Project二次創作短編集 作:dwwyakata@2024
幻想郷における食材妖怪と言えば夜雀ミスティア=ローレライさんですね。
何しろ小骨が多い事まで知られているようですので(笑)
これはそんなミスティアさんが、食欲大魔神な亡霊の姫君に捕まって、食べられそうになる(意味深)な話です。
寝苦しい状態から目が覚めると。
情け容赦なく縛られていた。
それも後ろ手にきつく縛られ。
猿ぐつわを噛まされ。足もしっかり縛られて。文字通りの完全拘束状態。その上で地面に転がされていた。
眠気は当然一瞬で消し飛んだ。
もがくが、どうしても外れようにもない。多分呪術か何かによって強烈な封印が施されている縄だ。
縛られている者。ミスティア=ローレライは、少しずつ状況を思い出す。
というか。見えている光景から、何が起きたのかは、ほぼ大体確実に分かっていた。
此処は白玉楼。
冥界の姫君の住居である。
妖怪夜雀であるミスティアを「美味しそうな小鳥」と称して追いかけ回す、恐怖の権化。死を司る霊達の姫。
西行寺幽々子の住まう場所だ。
以前、ある事件の時、竹林で交戦したときは、本当に命からがら逃げ出すことが出来た。本当に生きた心地がしなかった。
だけれど、それ以降何度も何度も追いかけ回されて。
一度などは、巨大なフォークをもって追いかけてきた。
殺意があまりにも高すぎて、おしっこをちびりそうになった。相手が本当に此方を食べようとしているのが、確実だったからだ。
そして昨晩、屋台を片付けて、これから寝ようと思った時に。
現れたのだ。
桃色の魔姫が。
無言で全力で逃げた。屋台をかまう余裕さえ無かった。
だが。相手はふよふよと笑みを浮かべて追ってきているにもかかわらず、どうしても振り切ることが出来なかった。
どこだ。
どこにいる。
でてきなさい。美味しそうな小鳥。
痛くないように食べてあげるわ。いや、思い切り美味しく食べてあげる。
そんな声が、後ろからずっとしていて。ミスティアは生きた心地がせず、それこそ縄張りでは無い場所にも必死に逃げ込んで、がたがた震えていたのだが。
いつのまにか気が遠くなった。
疲れ果てて眠ったのでは無く、多分冥界の姫に捕まって、恐怖で失神してしまったのだろう。
もがいて何とか拘束を外そうとするが。
そんな程度で外れてくれる拘束を、幻想郷の関係者の中でも屈指の強者であるあの冥界の姫がするはずもない。
奴の恐ろしさは有名で。
一瞬で命を奪う能力を持ち、その気になれば相手を一瞬で抹殺する事が出来る。
妖怪もしかり。
おいしそうと口にしたら最後。
どんな妖怪も食べられてしまう。
そして目をつけられていた以上。もうおしまいなのかも知れなかった。
さめざめと涙が溢れる。
もう逃げられっこない。
もう一度山彦の幽谷響子と一緒に、バンドをしたかった。
命蓮寺の住職がお膳立てをしてくれて、バンドをしても博麗の巫女に殴られないようにしてくれたのだ。
怖い客ばかりくる屋台でのストレスを、やっと発散できる楽しい夢が出来たのに。
でも、それももうかないそうに無い。
これから本当に食べられてしまうんだ。
恐怖と哀しみで動けないミスティアの前に。
絶望の権化が姿を見せたのは、その直後だった。
おお神よ。
何の神でもいいから助けて欲しい。
冥界の姫君と。その従者だ。やはり間違いない。捕まってしまったのだ。
冥界の姫君はうっきうきの様子で、鉄網を運んでいる。一方従者は、無表情で炭入れを運んでいた。
何という恐ろしい。
あの鉄網でこれからミスティアを焼くつもりなのだろうか。生きたまま。そう、きっと生きたままだ。
怖くて恐ろしくて震えているミスティアの前で、きゃっきゃっと組み立てを始める西行寺幽々子。
悪食で知られ、エンゲル係数が70%とか80%とか言われる幽々子である。
きっと服と拘束ごとミスティアを焼いて。
頭から囓って丸ごと食べてしまうに違いない。
今までの出来事が走馬燈のように頭の中を巡る中。
幽々子の従者である、魂魄妖夢。白玉楼の庭師であり、剣術師範(まだ半人前らしいが)でもある娘が、大きな包丁を持ってきた。
ああ。
生きたまま焼くのでは無く、あれで解体するのだろうか。
むしろその方が楽だ。
妖怪は死んでも生き返るとは言え。
地獄の業火で焼かれて蘇ったら、きっと心に大きな傷がついて。それが妖怪としての死につながり兼ねない。
ましてや食べられる記憶がそのまま残ったりしたら。
ずっと恐怖で体が竦んで、きっともう何もできなくなってしまうだろう。
むしろあの包丁は。
慈悲。
しかし、なんということか。
神は何処で昼寝をしているのだろう。
哀れな夜雀の前で、山のように積み上げられ始めたのは。
首を失い、羽根をむしられた。
鶏たちの亡骸ではないか。
何という非道。
鳥の妖怪の前で、なんという悪逆を行うのか。
人間の前で人間を食べるようなものだ。抗議の声を上げようとしてもがくが、幽々子はミスティアの方を見ると、によによととらえどころの無い笑みを浮かべるばかりだった。
「まあ、元気で美味しそう」
「幽々子様、その……まだ生きていますし……」
「分かっているわ。 メインディッシュは最後に取っておくものですしね」
「は、はあ……」
冥界の庭師はとても恐がりだと聞いているが。
流石に料理を切り盛りしているとなると、鳥を解体するのを怖がるようなことは今更無いだろう。
ああ、なんということだ。
目の前で、哀れな鳥の亡骸達が、解体されていく。腹を割かれ、関節を切られる。
内臓すらもが並べられ。
骨だけが綺麗に取り除かれていく。
否。
骨も焼いて食べる様子だ。
何一つ残さず食べるというのか。
残忍な。あまりにも残酷すぎる。
串に内臓や皮が突き刺され。肉もネギなどと一緒に突き刺されていく。あまりにも鳥的にむごい光景から視線をそらすことも出来ず、ミスティアは怒りと哀しみにもがくが、何もできなかった。
「そ、それで幽々子様。 どうしてこんな見せつけるような真似を……」
「それはねえ。 恐怖をたっぷりため込むと、お肉はとても美味しくなるのよ」
「はあ……」
「うふふ、妖夢ちゃんもいずれ分かるようになるわ」
そんな。
つまり怖がらせて、やはり美味しく食べるつもりなのか。なんという残酷!何という非道!
神は昼寝しているに違いない。絶対にそうだ。
炭に火が入る。
串刺しにされた哀れな鳥のパーツ達が鉄網で焼かれ始める。
その悲劇の臭いが、ミスティアの所まで漂って来る。もがいて必死に目をつぶるが、どうしても臭いは止められない。
「んー! んーんー!」
「あら、ひょっとして食べたいのかしら」
「いや、幽々子様、その……」
「だーめ。 あげない」
何だか得体が知れない黒い液体を、鳥の哀れな亡骸に塗りたくる幽々子。
あれは。おおあれは。遠くからも正体が分かってしまう。
焼き鳥のたれだ!
何というおぞましい液体を使うのか。鳥を美味しく食べる事に、これほど残虐な振る舞いをするなんて。
ぱたぱたと焼いている肉片を扇で仰ぎ始める冥界の姫。忠告する庭師。
「鳥は寄生虫が危ないので、しっかり火を通さないといけません。 幽々子様、つまみ食いはなりませんよ」
「あらー、心配してくれるの? 可愛いわ妖夢ちゃん」
「いえ、その……幽々子様、ナマでも平気で食べそうなので」
「大丈夫、一番美味しく食べられるタイミングくらいまでは待てるわ」
すっと、視線がミスティアの方を向く。
いつでも殺せるぞ。
そう視線には意思が籠もっているように見えた。
もう恐怖が全身に染み渡って、どうにもならない。
そして目の前で。
おおなんという事か。
冥界の姫君は、串に刺された哀れな肉塊に火が通ったと確認し、食べ始める。それも凄まじい勢いだ。
皮が。
内臓が。
肉が。
悉く、幽々子の腹に収まっていく。
ああ、あんな調子で、頭から囓られてしまうんだ。それを思うと、ミスティアは涙が止まらなかった。
怖い。怖すぎて、もし拘束が解けても、逃げられそうに無い。
何羽分もあった焼き鳥が、桃色の悪魔の腹の中に、冗談のように消えていく。
目の前にいるのは、暴食の権化だ。
あれはきっと、七つの大罪の一つに違いない。七つの大罪の内容はうろ覚えだけれど、たしか人間が邪悪と判断している七つの悪しきもの。
幽々子こそ暴食の権化。
暴食の悪魔だ。
呼吸が荒くなってくる。がたがたと体がずっと震えている。
そしておお。
なんということか。
石を積み上げて作られるそれは、竈では無いか。
即席の竈を手慣れた様子で作っていく妖夢を尻目に、幽々子が来る。そして、ミスティアの頬をなで上げた。
夜雀の全身に恐怖が、稲妻のように走った。
「とても美味しそう。 服ごとしっかり火を通して、頭から丸ごと囓ってあげましょうねえ。 夜雀は小骨が多いのがちょっと問題だけれど、しっかり火を通せば骨ごと食べられるしね」
「んー! んー!」
「え、最高においしく食べて欲しいって? 分かっているわ、うふふ」
違う。
そんな事は言っていない。頼むから助けて。逃がして。死にたくない。
首を振ろうにも、冥界の姫君の力は見た目よりずっと強く、首を動かすことも出来なかった。
「幽々子様、そろそろ丸焼きを始めますよ」
「はいはい、分かっているわ」
ああ、丸焼きにされてしまうのか。
そう思ったミスティアの前で、なんということだろうか。首を落とし羽根だけむしった鶏の亡骸が。
火が入った竈に入れられるでは無いか。
何たる残虐!殺伐たる光景!
「わあ、とても美味しそう」
「時々レモンをこうして塗って……中までしっかり火を通すためには、じっくり焼きます」
竈から出して、時々処置をしているが。
死体蹴りも良い所だ。
ああ、ああ。
身動きが出来ない。
恐怖で体中が竦んでもう何もできそうに無い。あの可哀想な鶏と同じように、丸焼きにされてしまうんだ。
恐怖と絶望で、ミスティアはもう動く事も出来なかった。
程なく、香ばしい死の臭いと共に、竈から「一つ目」の丸焼きが出される。
手際よく二つ目の鶏の亡骸を丸焼きにし始める冥界の庭師。
満面の笑みで、手慣れた様子で丸焼きを食べ始める幽々子。
ああ。
ばりばりという音が此処まで聞こえる。
というか、本当に骨まで食べている。
地獄の餓鬼でも彼処までするだろうか。骨をばりばりかみ砕いている様子は、恐ろしすぎて言葉も出ない。
更に、丸焼きの合間に。
今まで焼き鳥にした哀れな鳥たちの骨に、火をじっくり通していく妖夢。
それにより、その骨達も、幽々子にとってはごちそうになるようだった。
「鶏肋鶏肋」
「魏武の言葉でしたっけ」
「そうよー。 美味しいけれど食べる所が無いって事ね。 でも、工夫次第で食べる事が出来るのよ。 妖夢ちゃんのおかげね」
魏武。
何だろう。
そう思っていると、妖夢がいつの間にか側にいて、こっそり耳打ちしてくれた。
「三国志に出てくる曹操のことですよ。 魏王朝にとって武帝に当たるので、魏武と呼ばれています。 生前に武帝と名乗ったことは無いんですが、魏武という呼び名が後世に浸透したんですよ」
「……?」
「もう少し待ってください。 大丈夫、逃がしてあげますから」
そうやって、希望を持たせて、更に落とすつもりか。
騙されないぞ。
でも、魏武はちょっと勉強になった。
ミスティアは自覚しているが、あまり頭が良くない。
ちょっと勉強になる事を知ることが出来たのは、少しだけ嬉しくて、恐怖はちょっとだけ紛れた。
だが、それも一瞬で台無しになる。
本当に骨をバリバリ食べている幽々子を見ると。
全身がすくみ上がるようだった。
これはもはや、悪鬼の宴だ。
昔妖怪の山を支配していた鬼達も、こんな感じで人間を襲い、喰らっていたのだろうか。
人間を襲って鳥目にして、喰ってやるぞと耳元で囁いたことはある。
それで恐怖を植え付けて、ミスティアは幻想郷の妖怪としての、「存在税」とでもいうべきものを払った。
妖怪は人を襲い。
畏怖を集めなければならない。
勿論仕返しに退治される事もあるけれど。
それは仕方が無い事。
そうして、人間とのちょっと変わった互助関係があってこそ。幻想郷は成り立つのだから。
だけれども。少しずつ、思えてくることもある。
もしも、手加減を間違えると。
ミスティアが人間に対して、こういうことをしているのと同じになっていたのだろうか。
もがくのは少し前から諦めている。この凶悪な拘束、とてもミスティアにふりほどけるものではない。
また哀れな鶏の亡骸が丸焼きになり。
それを平然と平らげ始める幽々子。
そして、更に恐ろしい道具が場に登場した。
あれは。おおなんということか。
油を中に入れて。揚げ物をする鍋だ。
ミスティアも屋台をやっているから使用するけれど、あれを使うと言うことは。
おお。おお。何という残忍な光景。まるで地獄絵図。いや地獄絵図そのものだ。
鳥たちの亡骸が切り分けられ。
小麦粉と卵とパン粉をまぶされ。
熱してぐつぐつの油の中に、放り込まれて行くではないか。
神よ。どこで昼寝をしているのか。というかさっさと起きてくれ。
目を閉じて、油がぐつぐつばちばちいう音を、必死に堪えるミスティアだが。臭いも音も、この状態ではどうにもならない。
ほどなく、「ちきんかつ」になった哀れな鳥たちの肉が、幽々子の前に並べられる。
ぱたぱたと扇で仰いでいるのは、少し冷まして食べやすくするためだろうか。
「まあ美味しそう」
「ソースと醤油どちらにしますか、幽々子様」
「そうねえ。 今日はソースにしようかしら」
「分かりました」
妖夢が、犬が書かれた容器に入れられた黒い液体をもってくる。
これは確か。見覚えがある。
外の世界で流通しているという、謎の犬のソース。
材料が犬だとか言う噂も聞くが。
料理店では美味しいため非常によく使われていて。どういうルートでかは分からないが、幻想郷に持ち込まれると、あっという間に売り切れてしまうと言う。
なおミスティアも使った事はあるが。
確かにあれはおいしい。
しかも色々な用途ごとにあるのだ。
犬をどうやってあのソースにしているのかは分からないが。
実は犬は入っていないという噂もある。
ごくりと生唾を飲み込む。
たまに他の妖怪の屋台で夜食にするのだけれど。
とんかつをあのソースで食べると絶品だったりするのだ。
でも、豚の妖怪が同じように目の前で豚を料理されたのなら。
今のミスティアのように悲しいのだろうか。
ふと、それで思い当たる。
人間を襲う時。
視界を奪った上で生かして帰さないと耳元で囁いて、人間に畏怖を植え付けるけれど。
今、ひょっとして。
ミスティアは幽々子に「襲われている」のではないのだろうか。
揚げられた鳥たちの肉をむっしゃむっしゃとご飯と一緒に食べる冥界の姫。凄い量のご飯が、みるみる無くなっていく。確か五合くらい炊いていたように見えたのだが、一体どういう食欲なのか。まるで、生きたブラックホールだ。どれだけの食糧でも平然と食べ尽くしてしまう悪魔そのものだ。
そしてしばしして。
満足そうに恐ろしい桃色の悪鬼は言うのだった。
「前菜はこんなところねー。 じゃあメインディッシュまで、少し休むとするわ」
「はい。 後片付けはしておきます」
「よろしくねー」
ふよふよと微妙に浮きながら館に戻っていく幽々子。
震えあがっているミスティアに歩み寄ってくると。
妖夢は無言で拘束を解いてくれた。
「あまり時間はありません。 早く逃げてください」
「で、でも、酷い目にあわされるんじゃあ」
「私は大丈夫ですよ。 ほら、幽々子様も気付いたら追いかけると思いますから、急いで」
「……っ」
ぺこりと妖夢に一礼すると。
全速力で冥界を抜け出す。
実は以前も危うく食われそうになった事があって、その時逃げ道については覚えたのだ。
白玉楼の門を飛び出し、長い階段を急いで下って。
その先にある空間の歪みに飛び込む。
幻想郷に出たが、それでも油断は出来ない。
全力で。
翼が千切れるほどに飛んで、必死に迷いの竹林に逃げ込んだ。
此処なら。
住んでいる者達以外は、簡単には見つけられないはずだ。
呼吸を整えて。
ようやく、手足に残った拘束の跡に気付く。どれだけ手足に強烈に食い込んでいたのか、今更に思い知らされていた。
竹を背にへたり込むと。
屋台をいつ回収しよう。それと何処へ逃げ込もう。
必死に考える。
あまり頭が良くないミスティアだ。だからすぐに見つかって、捕まってしまったのだろうけれど。
それでも、もうあんな怖い目にはあいたくない。
必死に頭を巡らせて。
そして考えたあげくに、藤原妹紅の所に逃げ込むことにした。
人間の里で自警団をやっている妹紅は、幻想郷の人間の中でも最強に近い実力を持ち、更には基本的に非常に厳しい態度を妖怪に取るが。その一方で、頼られると出来るだけの事をしてくれるとも聞いている。妖怪を見敵必殺するような事もない。……人間を襲った妖怪には容赦もしないが。
多分殴られるくらいの覚悟はした方が良いけれど。
命には替えられない。
丁度、今日は竹林に来ているタイミングの筈だ。
少し探すと、妹紅はいた。
竹林の隅で、生活用の竹を切っていた。
そういえば、妹紅はたまに気が向くと焼き鳥屋をやっていたはず。これは仲間への裏切りになるのでは無いのか。
ぐっと恐怖をかみ殺して。
もうこっちに気付いて、鋭い視線を向けてきている妹紅に歩み寄る。もう飛ぶ力も残っていない。
へなへなと腰砕けになると、流れるようにミスティアは土下座した。
「た、助けて……」
「何やったんだお前は」
「冥界の姫に追われていて、危うく食べられそうになった処を逃げてきたの」
「はあ。 ……助けてやっても良いが、条件がある」
顔を上げる。
いつの間にか、音も無く至近にいた妹紅は、ミスティアに対して、非常に冷たい目を向けていた。
背筋が凍り付く。
今までミスティアを捕食しようとしていた冥界の姫と、その目の冷たさは殆ど変わることがなかった。
むしろ冥界の姫の方が。
目に遊びが浮かんでいたような気さえする。
妹紅は本気だ。まったく目が笑っていない。もしも返答を間違ったら、多分この場で肉体を消されるどころか。妖怪として殺されると見て良い。
体の芯から震えが来る。
強い奴が幾らでもいる幻想郷だ。ミスティアも自分では絶対に勝てない相手とは幾らでも遭遇している。その中でも妹紅は上位に入ってくる実力者。
そして、此処まで高濃度の殺気を浴びたのは、いつぶりだっただろう。
「幻想郷を維持するために、妖怪が人間に畏怖されるのは当然のことだ。 だが、お前は少しばかりやり過ぎる傾向がある。 目潰しされた人間が致命的な怪我をする可能性くらいは考えろ。 今回は助けてやるが、もしまた問題を起こしたら次は無い」
「……分かりました」
「なら、其処に隠れてろ。 冥界の姫君は死なない私が苦手らしいからな。 私には近付かないだろう」
無言でもう一度頭を下げると、言われた岩陰に隠れる。
どうやら、返答は間違っていなかったらしい。心臓がばくばく言っているのが分かる。下手をしたら、もう今生きていなかった。そう思うだけで、失神しそうだった。少しちびったのは秘密だ。
良くしたもので、幽々子が見えた。どうやらミスティアを探しているらしい。
だが妹紅が視界に入ると、手をヒラヒラと振って、そして飛び去っていった。
嘆息。そして考える。
自分もひょっとして、幽々子と同じ事をしていたのではないのか。
あまり記憶力が良くないし、頭も良くないミスティアだけれど。
今回は、しっかり考えておこうと、思うのだった。
約束通り妹紅は匿ってくれた。
非常に厳しいこの人だ。約束をミスティアが破ったら、本当に容赦しないだろう。
次から人間を襲うときは、気を付けよう。
そう思いながらミスティアは、妹紅と一緒に、昨日うち捨てて逃げた屋台を回収しに戻ったのだった。