東方Project二次創作短編集   作:dwwyakata@2024

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4、苦労は絶えず悪夢も絶えず

幻想郷には、根っからの悪人はあまり多く無いのだが。

 

例外が何人かいる。

 

一人は聖徳王の所にいる邪仙。

 

聖徳王が仙人になる切っ掛けを作った原因であり。

 

タチが悪いことに、息をするように他人を不幸にし、何らそれを反省もしない。

 

典型的な、自分を悪と認識していない悪であり。

 

聖徳王の所で多少は大人しくはしているが。

 

もし放置されたら大変な事になるだろう。

 

もう一人は天の邪鬼。

 

とんでもない異変を、しかも純真な存在を騙して引き起こさせた上。

 

全ての責任を押しつけて逃走するという、超ド級の悪党である。

 

此奴は仕置きとして。

 

わざと色々なインチキ道具を渡した上で。

 

幻想郷中のストレスが溜まっていたり、新しいスペルカードを試したい者をかき集めてハンティングの対象にし。

 

此奴がインチキ道具を駆使して必死に逃げ切ったところで。

 

実はみんなで遊んでいただけで。

 

お前にはみんな楽しませて貰ったと告げた。

 

天の邪鬼という妖怪は、基本的に価値観念が真逆で。

 

他人に喜ばれることを何より嫌う。

 

実際問題、スペルカードルールでなければ、天の邪鬼なんて一瞬で殺せる猛者だらけなのが幻想郷で。

 

わざわざスペルカードルールで遊んでやっている時点でお察しなのである。

 

それを告げられた瞬間、膝から崩れ落ちた天の邪鬼は。

 

今では半ば廃人とかして。

 

地底で死んだ目のまま膝を抱えている。

 

一人が遊んでいたならともかく。

 

幻想郷中の妖怪が自分で楽しんでいた、となれば。その精神的ダメージは文字通り激甚。

 

妖怪は精神攻撃に弱く、場合によっては本当の死を迎える。

 

その場で消滅しなかっただけマシだ。まあ当面まともに歩くことも出来ないだろう。

 

この二人が悪意で問題を起こす筆頭だが。

 

今日見てきた感じでは。

 

二人とも大人しくしている。

 

他の奴も概ね大人しい。

 

まあいいだろう。

 

どちらにしても、本気で問題を起こすようなら。

 

その時はもっときつい灸を据えるだけ。

 

それに問題を起こす奴がいる方が。

 

幻想郷は長期的には安定するのだ。

 

地底では案の定。

 

現在は山から地底に移り住んでいる鬼に絡まれた。

 

鬼は最上位の妖怪という事もありプライドが高いが。

 

酒呑童子の退治の逸話をみるように。

 

結局は他の妖怪同様、人間に退治される存在でしか無い。

 

更に言うと、元々の鬼と現在の鬼は、仏教での獄卒の概念が混じってからぐちゃぐちゃになっており。

 

文字通りよく分からない存在になり果てている。

 

今日絡んできた鬼は、かなりプライドが高い奴で。紫を対等な友人だと思っているようなのだが。

 

此奴はフットワークが軽く。

 

今でも地上に出てきて、面白そうな相手に絡んでいく珍しい鬼である。博麗の巫女の所にも、面白がって遊びに行くようだ。

 

問題もたまにしか起こさないが。

 

此奴は言うだけあって実力も強烈。

 

起こすときは幻想郷でもトップクラスの力が問題を制御不能にするケースがある。

 

酒を飲もうと誘われるが。

 

断る。

 

鬼は酒が大好きで。

 

紫だって酒は大好きだが。

 

今は仕事中だ。

 

察しろと視線で言うと。

 

口を尖らせたその鬼。

 

伊吹萃香は。

 

ぶちぶちと文句を言うのだった。

 

「まったくお前は本当に本音を口にしないな」

 

「賢者として、小さいとは言え幻想郷という世界を回すというのはそういう事よ」

 

「……今のは本音だな」

 

「そうなのよ」

 

嘆息した紫を見て。

 

多少は他人の心も分かる萃香は、もう絡むのもやめた。

 

それに鬼は嘘をつくことが出来ない。

 

その分、他人が本当のことを口にしているかは分かるものなのだ。紫の窮状を察してくれたのだろう。

 

自称友人である以上。

 

情を優先した、と言う訳だ。

 

此奴も昔は人間をさらって喰らう鬼だったのだが。

 

何度も退治され。

 

此処に追いやられてからは。

 

随分と丸くなった気がする。

 

あとは話を軽くして、地底の様子を聞くが。

 

みんな仲良く喧嘩したり。

 

仲良く酒盛りしたり。

 

仲良く暴れたりしているとだけ聞かされ。

 

文字通り頭を抱えたくなる。

 

此奴らの仲良くするの概念は明らかにおかしい。

 

地上であり得ない問題を起こすわけだ。

 

だが、地底で大人しくしてくれている分には別に構わないので。

 

後は適当に視察して、戻る事にする。

 

時間が少しだけ余ったので。

 

氷室に出向き。

 

在庫の調査。

 

次の外での物資調達の際。

 

何が必要かのリストを調整しておく。

 

現状余っていても。

 

いつの間にかなくなってしまうような物資もある。

 

寒い中、リストのチェックをすませ。調整も終わらせる。

 

パソコンなんて必要では無い。

 

自分がスパコン並みの能力を持っているから。

 

機械に頼る必要がないのだ。

 

だがそれでも。

 

外付けの支援装置が欲しいとも思う。

 

今度河童に頼んで、外から流れ着いたパソコンでも改良して貰おうかなと思ったが。

 

あいつらに頼んだら。

 

どんなパソコンを作るか。

 

文字通り知れたものでは無い。

 

いわゆるバックドアでも仕込んで来かねないし。

 

やはり自分でやるしかないか。

 

仕事が終わったので。

 

屋敷に戻る。

 

藍がうつらうつらしていたので。

 

そのままにさせておく。

 

結界の事なら自分も分かるのだし。

 

此奴も働きづめなのだ。

 

数時間ほど、リストの調整と、今後のスケジュールを自分で練っている内に。

 

藍も起きた。

 

「こ、これは紫様、申し訳ありません」

 

「いいのよ、休みがないのだし、妖怪にも限界はあるのだから」

 

「はい……」

 

「それでは、このスケジュールに問題が無いかチェックしておいて」

 

書類を渡す。

 

だが、書類を受け取った藍は。

 

渋い顔をしていた。

 

「見なくても分かります。 いつもスケジュールはギチギチ。 紫様のお体が心配でなりません」

 

「貴方も今居眠りするくらい疲れていたでしょう」

 

「私はまだ此処に常駐して、結界を常時監視し、監視している幾つかの要注意勢力の動きを遠隔で見るくらいですが……紫様は」

 

「いいのよ。 これに関しては、私にしかできないのだから」

 

少し予定より遅れたが。

 

眠る事にする。

 

さて明日は。

 

監査をしなければならない。

 

これもまた大変なのだ。

 

いつもの、海千山千の妖怪共と、渡り合うときと同じ程度には。

 

 

 

スキマを開けて。

 

紫は人里の、大きな屋敷の中に出た。

 

此処は稗田家。

 

絶対記憶能力を持ち。

 

転生しながら幻想郷の事を書き記している、稗田一族の屋敷である。

 

此処で記録した妖怪の情報は公開され。

 

幻想郷で、妖怪がどういう存在なのか。

 

人里に知らしめる役割を果たしている。

 

実際に妖怪に遭遇する人里の人間は、山に出かけたり、人里を離れて遠出したりする者だったり。

 

或いは、人里に来ても問題が無いような無害な妖怪を見るだけ、という場合に限られてくる。

 

そこで、こういった。

 

妖怪の恐怖を知らしめる媒体が必要になる。

 

天狗達は新聞を作って人間にばらまいてもいるが。

 

これは当の天狗達でさえいい加減な新聞と認めるほどの代物で。

 

人間達も信用していない。

 

これに対して。

 

稗田の資料は、何しろ絶対記憶能力の持ち主という事もあり。

 

ある程度は信用されている。

 

実際には稗田家当主の阿求の性格の悪さや。

 

今紫が資料を確認して検閲している事からも分かるように。

 

悪意に塗れた資料なのだが。

 

「阿求」

 

「はい」

 

「ここ、もっと恐ろしげに追記しておいて」

 

「分かりました」

 

阿求は三十前後までしか生きられない。

 

能力と。

 

転生の代償だ。

 

それもあって、性格が歪んでいるのだろう。

 

転生する稗田の当主はみんなそうで。

 

利害が一致しているから紫と上手くやっていけているが。

 

逆に冷遇したりしたら。

 

何をしでかすかわからない。

 

その辺りは聖徳王と同じ意味で危険だ。

 

「この妖怪は、もう少し恐ろしく書いて頂戴」

 

「分かりました」

 

ちょっとした説明だけで。

 

阿求は充分にそれを理解して、記してくれる。

 

人里に近寄らない強大な妖怪の中には。

 

こうやって阿求が記述を山盛りに恐ろしくすることで。

 

人間の畏怖が勝手に集まるようにするようにしている者もいる。

 

その結果、本来の性格とは全然違う、邪悪の権化か大魔王かのごとく書かれ。自分以外の存在を殺戮する事を何とも思わない、みたいな無茶苦茶な書かれ方をしている妖怪もいるのだが。

 

それについては、人間の畏怖がなければ生きていけないことを妖怪も理解しているので。

 

良い気分はしないが受け入れる、という姿勢を保ってくれている。

 

「だいたいこんな所ね。 貴方から見て、変わった事はあったかしら?」

 

「特にはありませんね。 博麗の巫女が時々食べ物を無心に来る位ですか」

 

「普段は怠けていても、有事は幻想郷を守る最大戦力よ。 少しは良くしてあげなさい」

 

「それは分かっています。 ただ良いものをあげすぎると、たかりに来る頻度が増えるものでして、それは困っています」

 

確かに困りものだな。

 

少し説教がいるか。

 

博麗の巫女には、むしろ苦手としているし、ある程度言う事も聞く奴に覚えがある。

 

そいつに頼むか。

 

どうせハイハイと二つ返事では引き受けてはくれないだろうが。

 

利害を説けば理解はしてくれるはずだ。

 

それにしても最大戦力からしてこの有様。

 

紫の苦労は絶えない。

 

そもそも今日にしても、資料のチェックは凄まじい速度で、一通り、というだけで相当な労力を要するのだ。

 

しかも不正がないように、膨大な資料に全て目を通さなければならない。

 

楽な仕事の訳がない。

 

屋敷に戻ると。

 

紫はまたテーブルに溶けかかる。

 

「藍-。 甘いのー」

 

「はいはい、今用意します」

 

「すぐにねー。 うちも信頼出来るメイドでも雇おうかしら」

 

「メイドはくせ者揃いですよ」

 

藍が苦笑するが、そんな事は知っている。

 

紅魔館のにしても正体がよく分からないのだ。

 

嘆息すると、甘味と茶が来るまで紫はぼんやりと思いを馳せる。

 

私が壊れるのと。

 

幻想郷が制御不能になるの。

 

どっちが先なのだろう、かと。

 

 

 

(終)









賢者の普段のお仕事、如何だったでしょうか。

他の人がもっと働いていてくれれば……










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