東方Project二次創作短編集   作:dwwyakata@2024

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悪巧み本番。

射命丸の悪辣な陰謀がついに牙を剥きます。

とはいっても牙を剥かれる側も、清廉潔白とは程遠いのですが。







2、落日の始まり

城攻めには幾つか方法がある。

 

だが、一つそれ以前の問題として、大前提がある。

 

城というものが機能するのは。

 

要塞としての防御がきちんと機能した場合。

 

城を守る人間が油断しきっていたり。

 

或いは巡回に出ている者が何も気づけていなかったりすると。

 

せっかくの城が有している防御力も台無しになってしまう。

 

この場合、人が妖怪に変わっても同じである。

 

難攻不落の城というハードウェアに頼り切り。

 

いわゆる個々の力を軽視しすぎ。

 

そして油断が重なると。

 

あっという間に、どんな難攻不落の城でも陥落してしまう。それが実態である。

 

そしてあまり知られていないことだが。

 

基本的に夜襲というものは。

 

夜中に相手に襲いかかるのではなく。

 

夜中に移動を行って。

 

朝方、敵の疲労がピークに達している時に行う方が効果的である。コレは勿論多数の例外があるのだが。基本はそうだということだ。

 

それら基本が。

 

全て。この戦いでは守られることになった。

 

天狗達は、警備の白狼天狗を本拠地の周辺の拠点に配置。

 

白狼天狗はこの拠点三箇所に分散して常に行動をしており。

 

夜間はそれぞれが拠点で寝泊まりをして。

 

飼っている下等な妖獣などを番犬にし、周囲からの攻撃を警戒している。

 

普段だったら、隙が無い布陣であり。

 

実際、守矢が来てからは、天狗は必要以上にぴりぴりしている。警戒はいつも以上な程だ。だが、今日は違っていた。

 

理由は幾つかあるが。一つは大将棋である。

 

生真面目な白狼天狗達は、天狗の中では珍しく新聞にあまり興味を示さず、その代わり非常に時間が掛かるように工夫した大将棋なるものを好む。

 

昨日山童に誘われた大将棋が、白狼天狗達から見てもとても面白い棋譜だったこと。

 

更に大雨が降り出した事もあって。

 

白狼天狗達は、哨戒を怠り。

 

それぞれの拠点に引きこもると。

 

雨を凌ぎながら。

 

棋譜についてああでもないと話したり。

 

疲れた者から寝ていたりしていた。

 

その拠点全てに。

 

同時攻撃が行われたのである。

 

射命丸は、現在の天狗の体制に不満を持っている天狗達を引き連れ。持ち場を離れさせ。既にその時点で、天狗の警戒態勢を半分瓦解させていたが。

 

雨の中。

 

白狼天狗達の砦が。

 

有象無象の妖怪多数に、文字通り蹂躙されていくのを。

 

高みの見物していた。

 

天狗達が青ざめている。

 

いずれも境遇に不満を持っていたり。

 

理不尽に出世が見送られたりしてきた天狗達。

 

少数の白狼天狗もいるが。

 

多くは鴉天狗だ。

 

天狗の四分の一ほどが、射命丸と一緒に反乱に荷担。ただし、反乱そのものに武力介入はしていない。

 

それが彼らにとっては多少の気休めになったのか。

 

離脱には、不満を零さなかった者も多かった。

 

だが。今は彼らが青ざめているのが分かる。

 

実際、全ての拠点が圧倒的な数の妖怪に蹂躙され。スペルカードルールも何も関係無く、原始的な肉弾戦で押し潰されているのを見ると。

 

天狗達も青ざめざるを得ないようだった。

 

本来は巡回している面子が巡回をせず。

 

持ち場にいた者がおらず。

 

その結果、この奇襲を許した。

 

悲鳴が聞こえる。

 

数の暴力が圧倒的過ぎる。

 

山の妖怪全部が、この天狗への攻撃に荷担していると言っても良いだろう。

 

天狗に恨みを持っている妖怪は山ほどいる。

 

縄張りを追われたもの。

 

理不尽な理由で嬲られたもの。

 

数と組織で周囲を威圧してきた天狗は、相応に山の妖怪達から怒りを買っていた。

 

本来だったら、周辺拠点がいきなり襲われたとしても。

 

本部から精鋭が出て、各個撃破と行くのだろうが。

 

それも上手くは行かない。

 

何しろ、この天狗の縄張りは。

 

元々別の妖怪の縄張りだった場所を、かなりむしり取っているのである。

 

その縄張りを奪われた妖怪達は、全て守矢についている。

 

それが何を意味するか。絶望的な結論だけが生じる。

 

すなわち天狗の本拠には。

 

既に守矢の誇る二柱が、とっくに潜入済み、というわけである。

 

見事な、教本に出てくるような全面同時攻撃だ。

 

こういった総攻撃は、余程の連携が出来ていないと、混乱の中失敗してしまう事も多いのだけれども。

 

何しろ指揮をしているのは、いにしえの時代から名を馳せる武神二柱。

 

この程度は文字通り朝飯前なのだろう。

 

ほんのわずかな時間が長く感じる。夜明け前に戦闘が開始されたから、実質三十分も経過していない筈だ。それが数日にさえ感じられた。

 

日がようやく昇り始めた頃には。

 

既に白狼天狗達の拠点は、血に塗れ。

 

動かなくなった白狼天狗達が、雨に打たれたまま、地面に横たわり。今までの恨みとばかりに、多数の妖怪がその体を痛めつけていた。

 

妖怪は、肉体を壊されても死なない。

 

ただし精神を壊されると死ぬ。

 

この辺りは人間とは真逆だ。

 

文字通りズタズタに食い千切られた白狼天狗も見受けられるが。

 

あの時点では死んでいない。

 

そして、本拠の方を見ると。

 

どうやら、「本番」が始まったようだった。

 

 

 

天狗達がざわつく。

 

ずしん、ずしんと足音。

 

こんな大きな足音を立てる妖怪は。現在幻想郷には殆どいないはずだ。幻想郷の妖怪は、殆どが人間大。これは暗黙の了解でもあるのだから。まれに例外もいるが、少なくとも今山では確認されていない。

 

何が起きている。

 

更に、周囲の白狼天狗達の拠点も騒がしい。

 

何か起きたのか、確認に行こうと話をしていた鴉天狗達の前に姿を現したのは。

 

大蝦蟇の池とと呼ばれている所に住んでいる、巨大な蛙と。

 

その背中に跨がった、洩矢諏訪子だった。

 

大雨の中、ぬらりと現れた合羽を纏った諏訪子を見て。

 

天狗達は硬直する。

 

普段、天狗との交渉に来るのは神奈子の方であり。

 

それも白狼天狗がガチガチに警戒して、周囲を固めているものだ。

 

それなのに、どうして諏訪子が。明らかに天狗と対立している守矢の武神が。

 

しかも単独で。

 

思考停止の時は。

 

それほど長く続かなかった。

 

すっと諏訪子が両手を挙げると。

 

小気味よいほどに音を立て。

 

手をあわせたのだ。

 

神社を参る時の作法、拍手。それの完璧な実践である。

 

その音が、周囲に拡がると同時に。

 

異変が始まった。

 

今までの妖怪の山の歴史でも。鬼が支配していたときにさえ。

 

鬼が来る時、或いは特別な理由で交渉に来た賢者などの妖怪を迎える時以外は、他の妖怪の侵入を許さなかった天狗の本拠が、揺れ始める。

 

そして、様子がおかしいと出てきていた天狗達は、知る事になった。

 

今まで自分達が何をしていたのかを。

 

武神の目の前で、挑発行為を繰り返していた結果を。

 

それが何を意味していたのか、という事を。

 

地面が吹き飛ぶ。一箇所では無い。何十箇所もだ。

 

其処から姿を見せたのは、キングコブラにも等しいサイズの巨大な黒い影。しかも無数。それがいわゆるミジャグジと呼ばれる、最悪の祟り神だという事に気付く天狗が、反応するより早く。

 

黒い影は体をしならせ。

 

雷光のように、天狗達の体に食らいついた。

 

蛇の体は瞬発力を司る白筋で殆ど構成されており、持久力はないが一瞬の動きに関しては文字通り稲妻のごとくである。パワーそのものも凄まじい。

 

ましてや祟り神そのものであるミジャグジだ。

 

何が起きているか分からない上、硬直していた天狗達に、その鋭く尖った牙を立てるのは難しくなかった。

 

怪異に慣れていた古代の人々さえ怖れさせた最強の祟り神、ミジャグジ。その猛威が、今現世に再臨していた。

 

或いは首筋に。顔面に。足に。

 

天狗達に噛みつき、キングコブラの猛毒が可愛く思えてくるほどの呪いの塊を直接注ぎ込むミジャグジ達。一瞬置いて、その場は阿鼻叫喚の地獄と化す。牙が擦っただけで、身動き取れなくなる呪いだ。何とか直撃をかわしたが、牙が擦っただけで倒れ伏した天狗も多かった。そんな天狗にも、容赦なくミジャグジ達は追撃を仕掛け、牙を体に食い込ませる。

 

今の一瞬で攻撃を回避し、空に逃れられた天狗もわずかにいた。

 

だが、それもまた。運命を変えることは出来なかった。

 

飛来した巨大な無数の石の柱が。

 

文字通り、空に踊り出た天狗達を、横殴りに抉ったのである。

 

空なら勝てる。そう安易に判断する事を、完全に読んでいたのだ。

 

直撃を受け、腰から横にくの字にへし折れたり。

 

顔面が潰れたりして。

 

無惨な有様のまま、落ちてくる天狗達。

 

この柱の攻撃は。

 

神奈子の得意とするものだ。

 

地上での諏訪子による一斉奇襲攻撃。更に上空に逃れた場合は神奈子によりとどめの一撃。

 

二段構えの奇襲である。

 

一瞬で天狗の殆どが、地面に這いつくばることになった。

 

ミジャグジは天狗に絡みついて、動けない相手に牙を立て続けている。痙攣している天狗は、いずれも泡をふいていた。

 

毒を注入されているからではない。

 

呪いを注入されているからだ。

 

肉体を壊されているからではない。

 

精神を現在進行形で壊されているからだ。

 

そんな中。

 

ただ一人だけ、ミジャグジの猛攻からも。柱の横殴りの一撃からも逃れられた天狗がいた。

 

姫海棠はたてである。それだけ、この若い鴉天狗が優れていた、と言う事だ。

 

だが、その即応は無駄に終わる。

 

はたては、三段構えの攻撃が用意されていて。

 

最後の攻撃が、もっとも残酷だという事実を知る事となった。

 

音も無く飛来したそれが。

 

必死に柱の攻撃から逃れ、跳び離れようとしていたはたての足に絡みつく。

 

そして、バランスを崩したはたては。てこの原理と、絡みついたそれのパワーもあり。

 

振り回すようにして、地面に凄まじい勢いで叩き付けられた。

 

昨晩からの大雨である。

 

泥を盛大に刎ね飛ばしながら。

 

悲鳴を上げるはたて。

 

泥まみれの彼女が顔を上げると。

 

巨大な大蝦蟇が。

 

背中に諏訪子を乗せたまま、至近にいた。

 

そして、今飛来し、自分を叩き落としたのが大蝦蟇の舌であり。

 

いつの間にか、足だけではなく、体にも絡みついていることにはたては気付いて。

 

みるみる顔を恐怖に歪めていった。

 

「な、何、何をしているのよ!」

 

「この蛙は私の眷属でね。 普段は蛙を無意味に殺しに来る悪戯妖精を仕置きするために、ちょっと体内を改造しているんだよ。 というわけで、溶けたりはしないから安心するといい。 ただ、際限の無い絶望と恐怖を味わう事になるだろうけれど」

 

「ひっ! や、やめっ……!」

 

蝦蟇の舌が器用に蠢くと、はたての腕も絡め取り、更に口も塞いだ。

 

もがくはたてだが、この蝦蟇は武神の眷属。相手が悪すぎる。

 

そのまま、ずるずると口に引きずられていく。

 

文字通り手も足も出ず。

 

飛んで逃げる事も出来なくなったはたては。

 

目に恐怖と絶望の涙を浮かべながら、いつの間にか既に蝦蟇の口に咥えられている事に気付いて、何か叫ぼうとした。口を塞がれているからそれもできない。助けてとか、いやあとか、そんな感じだろうか。

 

だが、容赦なく。

 

蝦蟇ははたてを呑み込み。

 

目を閉じた。

 

蛙は獲物を飲み込む際に。

 

目を閉じて、眼球の圧で腹に押し込むのである。ごくりと音がして、哀れなはたては蛙の胃袋に消えた。

 

さて、これで本拠の制圧は終わりだ。

 

神奈子が降りてくると。

 

半死半生の天狗達がうめき声を上げた。

 

「おのれ、このような事をしでかして、只で済むと思うなよ……!」

 

そう声を上げたのは、大天狗だ。

 

天狗の中間管理職で。

 

天魔に次ぐ実力者である。

 

だがその大天狗も、最初の襲撃の時にミジャグジの一撃を避けられず。更に今は五柱のミジャグジに絡みつかれ、彼方此方に噛みつかれて、動きが取れない状態になっていた。

 

それでも恨み事を言えるだけ。

 

他の天狗よりまし、と言う所だろうか。

 

天狗達の本拠地から、最初に姿を見せたのは。

 

天魔、ではない。

 

大天狗が絶望の声を上げる。

 

最初の奇襲では。

 

重点的に攻撃したのが、天狗の実働戦力、ではなかったのだ。

 

天狗達の拠点となっている風穴から現れたのは。

 

守矢の現人神である巫女、東風谷早苗。

 

そして、彼女が引きずっているのは。

 

他ならぬ天魔だった。

 

天魔には、他とは比較にもならない程巨大なミジャグジが複数がかりで牙を立てており。

 

牙の刺さった辺りは、既に高濃度の呪いで、完全に変色していた。

 

スペルカードルールでは無い。

 

これが戦い。

 

……正確には殺しあいだ。

 

そう、本命の天魔には、最初に守矢の巫女である早苗が奇襲を仕掛け。止めにミジャグジの中でも最強の個体が呪いを叩き込んだのである。

 

文字通り。

 

最初から最後まで、隙の無い完璧なまでにタイミングを合わせた全面攻撃だったのだ。

 

「早苗。 事前の打ち合わせ通りに」

 

「はい。 みな、手はず通りに」

 

神奈子が促すと。

 

早苗は頷き。

 

指を鳴らした。

 

そうすると、ざっと音を立てて、周囲から多数の妖怪達が姿を見せる。

 

彼らは、ぼこぼこにした白狼天狗達を、既に縄で縛り上げ。

 

この場に引っ立てていた。

 

白狼天狗達が決して弱かったわけではない。

 

奇襲がタイミングにしても手際にしても完璧で。

 

なおかつ数が違いすぎただけだ。

 

実際、反撃を受けたのか。

 

多少の手傷を負っている妖怪もいた。

 

逆にそれが故か。白狼天狗達を引きずる妖怪達の手は、とても手荒かった。もっとも、天狗に対する恨みの方が、彼らを荒々しくさせていたのだろう。

 

妖怪達は、手際よく作業を始める。

 

ミジャグジも、諏訪子がまた手を鳴らすと。牙を抜いて、地面に潜って行った。

 

だが、牙を抜かれた所で、もはや天狗達はどうすることも出来ない。膨大で凶悪な呪いが、容赦なく身を蝕んでいたから、である。精神攻撃の最上位に近い呪いは、文字通り妖怪にとっても猛毒だ。少なくとも、当面は身動きが出来ない程度には。

 

瀕死の天狗達を容赦なく縄で縛り上げる妖怪達。

 

その縄には力が入っており。

 

今まで彼らがどれだけの恨みをため込んでいたのか。

 

所作だけでも分かるほどである。

 

そして、蝦蟇がはたてを吐き出す。

 

はたてを見ると、流石に早苗も少し気が咎めたのか。

 

眉を一瞬だけひそめた。

 

比較的はたてと早苗は天狗の中では交流があった。外の世界を思わせるファッションを好むはたてだ。早苗としても、色々と思うところもあったのだろう。

 

そのはたてが。妖怪が最も苦手とする精神攻撃を最悪の形でモロにくらい、抵抗も動く事も出来ず。目が焦点を失って、情け容赦なく縛り上げられているのを見て。良い気分はしなかったのだろう。

 

雨が晴れ始める。

 

早苗が取り出したのは。

 

カメラである。

 

天狗達が使っている取材用のカメラと似たようなものだが。

 

動力は電気。

 

いわゆるデジカメだ。

 

外の世界では、既に携帯電話やスマートフォンによって追いやられつつある機械だが。

 

カメラとしては相応にまだ需要がある。

 

勿論本格的なカメラには性能面では及ばないが。

 

それでも充分すぎる程だ。

 

早苗が撮影をしていく。

 

今まで、圧倒的な力に任せて。

 

妖怪をパパラッチし。

 

好き勝手な新聞に載せるために。

 

撮影をしていた天狗達が。

 

今度は一方的に叩きのめされ。

 

撮影されていく。

 

古くから、こういう状況を現す的確な言葉がある。

 

因果応報、である。

 

天狗達は、自分達の性質と力に驕って、やりたい放題をやり過ぎた。その結末が、これであった。

 

だが、それでも、言い分はあるのだろう。

 

強く縄を掛けられ。呪いと痛みの苦しみに呻きながら、大天狗が抗議する。

 

「守矢の巫女……このような非道に荷担し、恥ずかしくはないのか!?」

 

「非道? それは山の妖怪の皆のためになる事にも散々伝統がどうので非理論的な反対を続けていた貴方たちが、数に任せて立場が弱い妖怪達にしていた行為の事ですか?」

 

「っ!?」

 

早苗はどちらかというと温厚な性格だが。

 

その目が恐ろしく冷え切っている事に、大天狗は気付いたのだろう。

 

こんな目も。そう、完全に相手を殺す事が出来る戦士としての目も。

 

いつの間にか出来るようになっていたのか。

 

守矢の巫女は、色々な異変で実戦経験を積み。努力も重ねて。そして加速度的に力を伸ばしている。

 

戦士は戦場では容赦しない。

 

容赦すれば死ぬからだ。

 

今この巫女は、まだ不完全とはいえ、此処を戦場だと認識し。戦闘モードに身を置いている。

 

大天狗は知っていたはずだ。

 

経験を積めば人それぞれの速度で成長すると。

 

それなのに。

 

いつまでも、小娘が小娘のままでいるとでも思っていたのか。

 

不覚と、悔しそうに呻く大天狗。

 

その前で、早苗は撮影を終えていた。

 

「諏訪子様、神奈子様、終わりました」

 

「それでは早苗、かねての計画通りに」

 

「はい」

 

「まて、何をするつもりだ……!」

 

早苗が飛び去る。

 

諏訪子が、蝦蟇に跨がったまま、肩をすくめてみせる。

 

神奈子は、呆れたように大天狗に答えた。

 

「分かっているんだろう? あんた達が敗れた事を、里の人間に分かり易く知らせるだけの事だよ。 あんた達が大好きな新聞にしてね」

 

「!」

 

「山の天狗、守矢神社に為す術無く完敗。 多くの写真がその事実を裏付ける。 そして、里に天狗が完敗したというニュースが流れれば。 貴方たちならどうなるか、分かっているだろう?」

 

「お、お、おのれ……っ!」

 

大天狗が呻く。

 

そう。

 

幻想郷では、人里の人間達がどう認識するかで、妖怪の力が変わる。

 

守矢に完敗し。

 

文字通り壊滅した。

 

その様子が、写真という分かり易い媒体と。

 

更に守矢の巫女自身によってもたされる新聞によって里にばらまかれればどうなるか。

 

天狗の威は致命傷を受ける。

 

威が致命傷を受けると言う事は、決定的に弱体化することも意味している。

 

そして幻想郷の賢者は。

 

元から好き勝手をしている天狗達に対して、良い感情を持っていなかったらしい。

 

実際今も。これほどの大乱戦になったと言うのに、である。

 

介入してくる様子はまったく無い。

 

諏訪子は顎をしゃくる。

 

身動きできない天狗達に、殴る蹴るの行動で鬱憤を晴らしている妖怪達に、そろそろ自制させるためだ。

 

そして、泥だらけの姿になった天魔を引きずり起こさせると。

 

瀕死の天魔に対し。

 

諏訪子は。

 

いにしえの祟り神の総元締めらしい、恐ろしく据わった声で言った。

 

「さて、交渉を開始しようか。 この件で天狗の失墜は決定的になった。 以降は山の主導権は我等守矢神社が掌握する」

 

「……好きにするが良い。 だが……あの契約は」

 

「ああ、それならば問題ないよ」

 

諏訪子は、満面の笑みで答える。笑っているのは口元だけだが。

 

その答えは。

 

とても残忍なものだった。

 

「此方としても、あれよりもお前の方が与しやすいと判断しているからね。 それに契約は順番に守るものだから」

 

「……」

 

天魔は薄く笑いを浮かべたが。

 

その心には。

 

怒りと無念が渦巻いているのが、誰から見てもよく分かった。

 

それが今までの行為の結果だとしても、怒る権利はある。

 

既に雨は止んでいる。

 

そして、戦いの気配は。

 

完全に消えていた。

 

どうやら、もう一つの方でも。

 

決着はついたようだった。








カエルは獲物を飲み込むときに眼球を使います。

ちなみにこれは文化帖でチルノが言及しているので、幻想郷の大蝦蟇も同じであると思われます。


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