東方Project二次創作短編集 作:dwwyakata@2024
吸血鬼レミリア=スカーレットは。
肩をすくめながら、饒舌に語り終えた。
その一部始終を聞いて。
射命丸は笑顔を崩さずに、頷いていた。
「意外ね。 貴方のクーデターが完全に失敗すると聞いても、動じる様子が無いのは驚きだわ」
「貴方の未来予測は不確定要素が多いですからね。 それに、話を聞くだけで、幾つか分かったことがあります」
「へえ?」
「今の時点では、クーデターは止めておきましょう。 そうそう、念押ししますが、他言無用に願いますよ」
レミリアは薄く笑う。
此奴は契約の重要性を理解している。
更に言えば。射命丸がクーデターを目論んでいる、などと情報を流して。射命丸が天狗に捕らえられる事は、彼女にとって何の利も無い。現状の天狗達の無能さは、何しろ彼女が一番良く知っているからだ。射命丸を切り捨てて今の天狗達と手を組んだところで、何一つ利など得られない。
それに対して射命丸との関係を維持しておけば。有益な情報がまだまだ入ってくる。
この方が利としては遙かに大きいのである。
レミリアが指を鳴らすと。
メイド長が、ティーセットを持って部屋に入ってくる。
射命丸用にテーブルも出し、其方に紅茶を配膳すると。メイド長は部屋の隅に控える。
もう話は終わったと判断したのだろう。
もし射命丸が余計な事をしたら。
即座に時を止め。
射命丸を殺すつもりだ。
だが、既に話は終わっている。
射命丸にレミリアを害するつもりはないし。
レミリアもそれを理解している。
だったら、怖れる事など何一つない。やましいことがないのであれば、堂々としているだけである。
確かにメイド長の入れる紅茶は美味い。
茶を淹れ分けている様子は無かったから。
別に人血を入れたりはしていないのだろう。
レミリアは、実のところ殆どもう吸血自体していないのかも知れない。
或いは、人が見ているところでは、血を必要としないほどに、血の要求量が少ないのかも知れない。
いずれにしても、その内取材してみるのも面白いだろう。
軽く幾つかの世間話をする。
この間レミリアが節分の時に、太巻きを食べる催しを、人里に対して行った時の話を振る。
何故太巻きなのか疑問に思っていたのだが。
話によると、外部に行き来している妖怪から聞いたところ。
外の世界では、似たような催しが最近はやっているそうだ。
かといって、ずば抜けておいしいものでもないし、たくさん食べるものでもないので。
廃棄される量が凄まじく。
社会問題にまでなっているのだとか。
その点、紅魔館での催し時は。
ただでさえ少ない幻想郷の食糧を無駄にしないように。
気を遣って、適切な量の太巻きを出したのだとか。
自慢げに語る吸血鬼のお嬢さんは。
先ほどまで、血なまぐさいクーデターの未来予知をしていた赤い悪魔と。
同一人物とは、とても思えなかった。
感心してみせると、喜ぶ様子も子供っぽい。
だが、いつまでも無駄話をしていると。
側にいるメイド長に追い出されそうだ。
そろそろ席を立つことにする。
「それでは、今日は有益な話を有難うございました。 また何か面白い情報を仕入れたら伺いますよ」
「そうしなさい。 咲夜、外まで見送りを」
「かしこまりました、お嬢様」
メイド長は、しっかり外までついてくる。
途中幾つか話を振ったが。
返答はいずれも冷淡だった。
「お嬢様は、恐らく刺激的な遊びを望んでいると思いますよ」
「今のお嬢様は、日常を充分に楽しんでおられます。 妹様との関係もぐっと改善していますし、今更無用な火遊びは必要ないと考えてもおられます」
「まるで本人のような言いぐさですね」
「私はそれなりに長い間お嬢様を見てきました。 それくらいのことは分かるのですよ」
長い間、ねえ。
500年を生きている吸血鬼を、長い間見てきた、か。
過去がまったく分からず。
一部では人間では無いとか。
或いは神々の眷属ではないのかとか。
そんな噂もあるメイド長だが。
ひょっとすると、本当に何百年も生きているのかも知れない。
紅魔館を出ると。
門番が里から来たらしい子供達に、拳法を教えていた。
基本的に性格が温厚な美鈴は、子供達の間でもある程度人望があるらしく。拳法を教えてとせがみに来る子供もそれなりにいるらしい。
ただ、木の陰で、子供達を引率してきたらしい自警団の凄腕、藤原妹紅がいる。
里からそれなりの距離がある紅魔館だ。
途中で問題が起きないように、里の側でも気を遣っている、と言う事だ。
妹紅と射命丸は非常に仲が悪く。
以前はあまりにも非道ばかりしていると潰すぞと直接脅しを掛けられたこともある。
実際妹紅は凄腕で、射命丸から見ても侮る事は出来ない相手だ。
今、この場で空気を悪くするのも、紅魔館との関係を崩すだろう。
「それでは、失礼します」
「またのお越しを」
友好的とは言い難い礼をするメイド長に見送られ。
射命丸は空に戻る。
さて、一度天狗の本拠に戻るか。
いずれにしても、目的は果たした。
計画の練り直しだ。
天狗の本拠に戻り、適当に新聞を作っていると、大天狗が来た。そういえば未来予知の中でも、思った以上のタフネスを発揮していた此奴だ。ハイハイと言う事には従っていたが、今後はもう少し評価を上方修正した方が良いかも知れない。
「射命丸。 天魔様がお呼びだ」
「はい、ただいま」
印刷を止める。
どうせもう部数は揃っていたのだ。
新しい記事をまとめて新聞配布用の袋に入れると。
天魔の所に向かう。
また雑用か。
それとも。
天魔が射命丸の裏切りに備えていることは、この間のレミリアの予知ではっきりした。
というか、射命丸の裏切りについて考えている可能性は、ずっと前から想定していた。
如何に無能とは言え、それでも天狗をまとめてきた存在だ。
敵を侮れば負ける。
戦いの鉄則であり。
常に最悪の事態を想定するのは当たり前の話だ。
千年を生きてきた射命丸である。
それくらいは心得ていたし。
何があっても対応出来るように、常に対策もしている。
御簾の向こうにいる天魔と。
強くもないのにえらそうに護衛を気取っている白狼天狗。
射命丸が正座すると。
御簾の向こうにいる天魔は、咳払いしてから語りかけてきた。
「時に射命丸。 一つ任務を言い渡す」
「なんなりと」
「現状で守矢と開戦した場合、正直な話我等天狗に勝ち目は無い。 其処でそなたには、ある勢力との同盟交渉に当たって貰いたい」
「ほう? 同盟交渉ですか」
それは良いが。
どうせ成功してもまた「お褒めの言葉」で終了だろう。
まあいい。
硬直化した組織は、天魔にも今更どうにも出来ないのだろう。
此奴には期待していないし。
何よりも、この状況下で、他の勢力と同盟を組む、というのは賢明な判断だ。ただ、生半可な相手では、あの武神二柱を相手にするのは厳しいとも思うが。
「相手は聖徳王だ。 書状については既に用意してある」
「聖徳王……ですか?」
「そうだ。 現在聖徳王の一派は、命蓮寺と関係強化しており、その連合は幻想郷最大の勢力となりつつある。 更に聖徳王の半公然の同盟相手である命蓮寺の食客である大ダヌキは、山の妖怪達の大顔役だ。 つまり、山の妖怪達を掌握している守矢の足下を揺さぶることが出来る」
「確かに。 しかし聖徳王に我等と結ぶメリットがありますか?」
不愉快そうに護衛を気取る白狼天狗が此方を睨むが。
天魔が気にした様子は無い。
「譲歩の条件については書状に記してあるが、お前には話しておこう。 天狗の持つ技術の内、人里で即座に利用できる電気関連の技術を譲ることを条件としている。 人里での信仰を得るには充分な技術だ。 人里の掌握を狙う聖徳王には喉から手が出るほど欲しい技術の筈だ」
「ふむ……そうですね」
恐らく射命丸の読みでは。
聖徳王は一笑に付すはずだ。
そのような技術は不要、と。
あの者は、非常に頭の回転が速く、射命丸と同じかそれ以上くらいには先も読んでいる。
その気になれば、技術の提供などなくとも、人里を掌握するのは可能だろう。
問題は、幻想郷の賢者連中が、これ以上の人里への介入を快く思っていないことであって。
横やりが入ることを、もっとも危険視しなければならない。
それを素直に伝えると。
天魔は任せる、と言った。
要するに利害を説いて、同盟を成立させて来いと言うのだ。
嘆息したくなるが、アルカイックスマイルを作ったまま、善処しますと答える。
射命丸が善処する、という時は。
上手く行くかは分からんと、あらかじめ釘を刺している場合だ。
天魔もそれは心得ているらしく。
頷くと、行くよう射命丸に促した。
天狗の本拠を出ると。
雨が降り出した。
だが、関係無く空に出る。
幻想郷の賢者は、妖怪の勢力同士があまりにも融和的になりすぎないように、バランサーとなって動いている。
守矢と天狗の対立を放置しているのもその一環だ。
いずれにしても、今後チャンスはいくらでもある。
何しろ射命丸は妖怪。
人間と違って、時間はそれこそ幾らでもあるのだから。
今回は、あれから考えたのだが。
何をやっても射命丸が負ける結末しかない。
しばらく状況を動かしてから、次の手を考えれば良い。
幻想郷最速。
そのスピードを生かして、目的地に急ぐ。
最速を誇る射命丸だが。
拙速は時に身を滅ぼすことも知っている。
じっくり構えて。
好機を窺えば良いのである。
誰も見ていない雲の上で、にやりと笑みを浮かべると。
射命丸は目的の聖徳王が作っている仙界に向け。
急降下して、雲を貫いた。
(終)
保険を掛けておいた結果、面白楽しい火遊びが失敗する事を先に射命丸は知る事ができました。
これで袋だたきにされた挙げ句に地底送りにされずに済んだというわけです。
それに思った以上に天狗の上層部が有能である事を気付くことが出来ました。
多少の痛手は負いましたが、まだまだこの程度で諦める気はありません。
幻想郷のトリックスターは、赤い空の下を野心とともに舞うのです。
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