東方Project二次創作短編集   作:dwwyakata@2024

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この話はちょっとホラーチックな内容となっています。

原作では勿論こんなおっそろしい存在ではないのですが……

本作ではあくまでifとしてお楽しみください。






妖精の素顔
序、気付かなかった一面


幻想郷。

 

もはや存在し得なくなった妖怪や神々が行き着いた最後の理想郷。

 

いまだに妖怪が実在する秘境。

 

此処には最底辺の存在として、妖精という独自の概念がいる。

 

妖精とは自然現象の擬人化したもので、サイズは掌ほどから子供くらいまで様々。

 

力は基本的に弱いが、強いものになると希に妖怪に勝るものもいる。

 

妖怪の中には、妖精から転化したものも存在すると言われており。

 

普通の妖精よりも強力なものもたまにいて。

 

人間と会話くらいなら普通にする事が出来る。

 

そんな妖精の一人。

 

氷の妖精チルノ。

 

妖精の中でも最も力が強い一人と言われ。縄張りにしている霧の湖周辺は、人間が出来るだけ近付かない方が良いと言われている。

 

妖精はとにかく脳天気で頭が悪い。更に、死んだところで簡単に蘇生する。

 

このため、もし力を持ってしまうと極めて危険な存在になる。

 

チルノは悪しき心を持っている訳では無いが。

 

力ばかり強くなってしまった幼児のような存在であり。

 

下手に近付くと危ないので。

 

人里では注意を促される妖精の一人である。

 

普段はその強力な冷気の力で、かまくらをつくって其所でくらし。同じくらいの力の弱い妖怪達や、他の妖精と楽しく遊び暮らしているチルノだが。

 

今、夜道を。

 

真っ青になって、全速力で飛んでいた。

 

怖いもの知らずのチルノなのに。

 

場合によっては、神々にまで喧嘩を売って、返り討ちにされて一瞬で良く塵にされているのに。

 

幻想郷には幾つも勢力があって。

 

その勢力の長にも、怖れず挑んでいく命知らずの妖精なのに。

 

それなのに、全力で飛んでいた。

 

口を必死に抑え、真っ青になっているチルノは。

 

青い服を着込んで、背丈は人間の幼児くらい。背中には氷のような翼が生えている。

 

今、林に飛びこむと。

 

チルノは口を押さえ、そのまま木の陰に隠れて、息を殺した。

 

ゆっくり、誰かが歩いて来る。

 

ひいっと声を漏らしそうになり、チルノは身を更に伏せる。このままだと見つかってしまう。

 

そして見つかってしまったら。

 

「チールノちゃーん」

 

声が聞こえる。

 

普段と同じ筈なのに。

 

どうしてか、とてつもない恐怖を伴う声。

 

いつも楽しく遊んでいる仲間の一人。

 

上級妖精の一人である大妖精。

 

同じように、もうすぐ妖精から転化できるとも言われている一人。

 

緑色の髪。青色の服を着込んでいて、虫のような少し透けた翼を持つ。背丈はチルノと同じくらい。

 

だけれども、いつもにこにこ優しい笑顔を浮かべている大妖精の目は。

 

チルノが見た事も無い、とてもとても怖いものになっていた。

 

「隠れても無駄だよー。 どうして逃げるのかなー」

 

首をすくめるチルノ。

 

氷の妖精なのに、恐怖に震え上がっている。

 

普段素足のチルノは、基本的に地面に降りず、いつも浮遊している。だが今は、地べたで必死に身を縮めて。恐怖の追跡者から逃れようと無意識の行動を取るが。

 

相手が、まっすぐ此方に近づいて来ているのは確実である。

 

目を閉じて、震える。

 

そして、不意に相手の声が止む。

 

恐怖が全身を駆け巡る。

 

ゆっくり、目を開けて。

 

顔を上げると。

 

そこには、満面の笑みの。目だけ一切笑っていない大妖精が、少し浮かんでチルノを見つめていた。

 

思わず絶叫して、逃げようとするが。

 

其所で、意識が途切れた。

 

 

 

「ぎゃああああああっ!」

 

絶叫しながら、かまくらの中で飛び起きるチルノ。

 

夢だった。

 

だけれども、おかしいのだ。

 

ここ数日、同じ夢ばかり見るのである。

 

どうしてか、いつも優しい大ちゃんが。博麗の巫女や、ひまわり畑に住む大妖怪よりおっかない存在と化して。

 

何処に逃げてもチルノを追いかけてくるのだ。

 

呼吸を整えながら、必死に胸を押さえる。ばっくんばっくん心臓が跳ね回っているのが分かる。

 

死んでも平気でも。

 

怖いものは怖いのだ。

 

ぶるぶる震えていると。悲鳴を聞きつけたか、知り合いの妖怪の一人。闇を司る(と言う割りには最下級の力しか持たない)ルーミアが、かまくらを覗き込んでいた。

 

金髪のあどけない幼女の姿をしたルーミアは、妖怪としては最弱に近い力であり、頭も悪いことから。チルノとは気があう。住んでいる場所も近い。

 

妖怪退治屋以外は、絶対に近付かないようにと人里に周知されているのも同じだ。

 

「どうしたのだー。 何かに襲われたのか-?」

 

「な、なんでもない、なんでもない。 大ちゃんに襲われる夢を見て、それで怖くて目が覚めた」

 

「あははー、大ちゃんって、大妖精? なんで大妖精がチルノを襲うのだ-?」

 

「わかんない! でも夢の中の大ちゃん、すっごい怖くて! 博麗の巫女が異変解決しているときとか、ひまわり畑の大妖怪とか、それくらい怖かった!」

 

なんでこんな夢ばっかり見るのか。

 

ルーミアは変なのと笑っていて。

 

チルノは普段だったら笑うなと癇癪を起こしたかも知れない。

 

だけれども、「最強」を自称する(実際には下級の妖怪くらいの力しかないが)チルノが、こんなに恐怖を感じるのは滅多にないことだ。

 

実際には、チルノも自分が最強などでは無い事は分かっている。

 

だけれども、いつもそうして己を鼓舞することで。

 

強い相手にも立ち向かっていける。

 

ましてや妖精にとって命は安いのだ。

 

だけれども。

 

今回の、夢の恐怖はいつもと違う。何だか、よく分からない恐怖なのだ。どうしてこんなに怖いのか分からない。

 

未だに体ががたがた震えて、怖くて仕方が無い。

 

そしてここ数日。

 

同じ夢ばかり見るせいか、怖さがどんどん増してきているのだ。

 

「疲れてるんじゃないのかー? もう一眠りしたらどうなのだ」

 

「い、いや、またあの怖い夢見たくない」

 

「そういえば肝心の大ちゃんは?」

 

「……そういえば、数日、本人見てない」

 

いつも、とても優しい大妖精。

 

チルノが危ない悪戯をしようとするといつも止めに入ろうとするし。

 

チルノのために色々と気も揉んでくれる。

 

だけれども、どうしてかここしばらく顔を見かけない。

 

そういえば、夢の中で見るようになってからか。

 

だとすると、何か関係があるのかも知れない。

 

「ちょっと前に、夢の中の自分と入れ替わる事件があったのだー」

 

「ああ、そういえばあった。 ルーミア、何か知ってるの?」

 

「ぜんぜん。 ただ、あの時は見分けがつかない別人が、暴れ回っていて大変だったのだー」

 

頭をかきむしる。

 

服は完全に冷や汗まみれ。

 

氷の妖精が冷や汗なんて、笑い話にもならない。

 

だけれども、事実である。

 

怖くてかまくらから出られない。

 

そう言うと、ルーミアはいつもとは違う、少し真面目な表情を見せる。

 

それから、ちょっと手を打つと言って、かまくらを去って行った。

 

しばらく、かまくらの奥で膝を抱えてブルブルと震え続ける。

 

あの夢を見るくらいなら。

 

眠らない方がマシだ。

 

勿論大ちゃんがあんな怖いわけがない。

 

一番の友人。

 

チルノは幼児そのものの見かけと裏腹に、相応の年を生きている。

 

六十年前も生きていたし。

 

その時も同じ姿だった。

 

妖精は基本的に死ぬ事はない。

 

享楽的で。

 

とても長生きだ。

 

チルノも例外ではなく。

 

いつ生まれたのか、もうよく覚えていない。

 

生まれた時にはこの姿だったし。

 

その頃は、人里の人間がもっと妖怪に殺されて死んでいたような記憶もある。

 

後、もう少し前には、地底がかなり騒がしかったっけ。

 

外で戦争とか言うのがあって、人がたくさん死んだからだ。

 

呼吸を整える。

 

最強の妖精。

 

その魔法の言葉を唱えて、何とか心を落ち着かせようとする。

 

最強の妖精は、夢なんかに屈する事はない。

 

なぜなら最強だから。

 

そう自分に言い聞かせ。

 

必死に勇気を振り絞って。

 

かまくらを這いだした。

 

直射日光や高熱が苦手なチルノは、いつも霧が立ちこめているこの湖周辺を好んで徘徊している。

 

この辺りは余程の物好き以外は人間も来ないし。

 

近くに強力な吸血鬼の勢力の本拠、紅魔館が存在するためか、強い妖怪もあまり姿を見かけない。

 

その代わりあのおっかない博麗の巫女が、たまに本気モードになってかっとんで行く事があって。

 

そういうときは、最近はチルノも怖いので避けるようにしていた。

 

何かの切っ掛けで気が大きくならない限りは。

 

近年の博麗の巫女は、近付くだけでぞっとするほど怖いのである。

 

ただ、博麗神社にいるときは其所まで怖いと感じないので。

 

たまに神社に遊びに行って、其所で一緒に遊んだりはするけれど。

 

ともかく。今日も霧は出ていて。

 

チルノには多少過ごしやすい。

 

だけれども、おっかなびっくり周囲を歩いて見て回る。

 

今日はどうしてか、霧がいつものように、自分の味方とは思えなくて。

 

何か恐ろしいものに見張られているような。

 

そんな感覚を覚えて仕方が無いのだった。

 

そのままふらついているうちに、紅魔館に。

 

今日はいつも眠っている門番の妖怪、紅美鈴が、ちゃんと起きている。

 

何か拳法だとかをしているが。

 

そういえば最近。

 

眠っている姿をあまり見かけない。

 

何より、美鈴の代わりに最近は数名の紅魔館で仕事をしている妖精や。或いはおっかないメイド長が門番をしている事があって。

 

前と紅魔館は、体勢が違っているらしい。

 

木陰からこっそり伺っていると。

 

動きが一段落した所で、向こうから声を掛けて来た。

 

「どうしましたか、チルノさん」

 

「ひえっ! どうして分かるの!?」

 

「それは……知らない方が良いと思いますよ。 隠れていないで出てきては」

 

「そうする……」

 

不思議そうに眉をひそめる美鈴。

 

隠れているチルノに気付ける程度の力はあるということか。

 

いつも居眠りばかりしている印象があったのだが。

 

何かあったのだろうか。

 

近づいて見ると、長身で中華風の服に身を包んだ美鈴は、結構圧迫感が強い。

 

だけれど、美鈴の方から腰を落として、チルノに視線の高さを合わせてくれる。

 

この辺り、優しいのだと何となく分かって。

 

チルノは、この「怠け者」と噂される門番が嫌いじゃなかった。

 

「最近居眠りしていないね」

 

「ここのところお嬢様が、仕事の体勢を見直してくれたんですよ。 私が人里で拳法を教えるようになって、この機会に私にだけ門番をさせるのは悪いのでは無いかと思い始めたようでしてね」

 

「人里に出入りしているの?」

 

「私の拳法が役に立つ、と人里で判断してくれたみたいです。 それで、簡単に紅魔館代表として威を示せると、お嬢様も判断したようで。 利害の一致ですね」

 

美鈴は、チルノに元気がないことは、察している様子である。

 

時々周囲を伺いながらも、話は聞いてくれる。

 

悪夢ばかり見る。

 

大ちゃんを見かけない。

 

そう話をすると、美鈴は言う。

 

「そういえば……此方でも見かけませんね。 もっとも、私は紅魔館の門番をしていないときは人里に行っているか紅魔館の自室で寝ているので、私の行動範囲にいないだけという可能性が高いですけれど」

 

「なんでだろう。 一番の友達だと思ってたのに、怖くて仕方が無いよ」

 

「一番の友達だというのなら、会いに行ってみてはどうでしょう」

 

「……そうする」

 

肩を落として、その場を去る。

 

大ちゃんは気まぐれで住処を変える。

 

少し前まで住んでいた、霧の湖近くの森に出向いてみるけれど、その姿は見かけられなかった。

 

住処にも姿はない。

 

本当にどこに行ってしまったのだろう。

 

大ちゃん。

 

呼びかけてみるが。

 

返事はない。

 

むしろ恐ろしい獣の唸り声がしたので、チルノはびくりとして、あわてて森を飛び出していった。

 

本当に参っているらしい。

 

いつもだったら、あんな獣の鳴き声くらい。

 

怖がる事なんて、ないのに。

 

途方に暮れて困って歩いていると、ルーミアが戻ってくる。

 

霧の中だからか。

 

闇を司る力で、体を覆っていない。

 

人間を脅かすときは、闇で体を覆って球体状になって。それで妖怪だと示すルーミアだけれども。

 

流石に霧の中でまで、闇の力を使うつもりはないのだろう。

 

「チルノー」

 

「ルーミア、どうしたの?」

 

「大妖精の話、周囲で聞いて来たのだ」

 

「ありがとう。 それで?」

 

地面近くに降り立つと、並んで飛ぶ。

 

あれ。

 

ルーミアって、チルノより背が高かったっけ。

 

いや、背が高いんじゃない。

 

チルノの背が曲がっているんだ。

 

気が弱っているからか。猫背になってしまっている。情けない。いつもはこんな事、絶対にないのに。

 

「この辺りに住んでいる妖怪は、見かけていないようなのだ」

 

「大ちゃんに何かあったのかな」

 

「仮に何かあっても、一回休みで終わりなのだ」

 

「……そう、だよね」

 

妖精の不死性は非常に高い。

 

妖怪も肉体を破損しても、精神を破損しない限り死なない。

 

妖精の不死性はそれ以上で。

 

精神構造が単純な事もあって。

 

ちょっとやそっとの事では死なない。

 

賢者などの強い妖怪は、妖精を殺す方法を知っていると言う話を聞いたことがあるけれど。

 

それは人里に入り込んで悪戯をするとか、度を超した行動を取った妖精に対して行われる処置であって。

 

流石のチルノも人里で悪戯をするほど命知らずじゃない。

 

ましてや温厚な大ちゃんがそんな事をするとは、考えられなかった。

 

「誰かがさらっていったとかかな」

 

「何のために?」

 

「分からない……」

 

「チルノ、疲れているのだ。 とにかく休んで」

 

力なく、ルーミアの言葉通りに頷く。

 

かまくらに戻ると、横になる。

 

周囲を冷やす力もなく、かまくらが溶けかかっているのが分かった。重症だなと、普段とは別人のような口調でルーミアが呟く。だが、それも一瞬で。後は、いつものようなアホ面を浮かべていた。

 

「ちょっと助けを呼んでくるのだ」

 

「うん……」

 

普段だったら。

 

最強なんだから助けなんていらないって、絶対に突っぱねていたのに。

 

今日は素直に受け入れていた。

 

というか、ルーミアの足を反射的に掴んでいた。

 

振り返るルーミアに言う。

 

「ごめん、怖くて仕方が無いよ。 せめて側にいてよ」

 

「でも、それだと助けを呼びに行けないのだ」

 

「怖いよ……」

 

「分かったのだ。 それなら、美鈴の所に連れていくのだ」

 

言われるまま手を引かれて、また紅魔館の入り口に。

 

美鈴はいない。

 

代わりに、おっかないメイド長が、険しい表情で周囲を睥睨していた。

 

あのメイド長、人間という話なのに、とにかく怖い。

 

時間を止める力も持っているらしいし。相手が本気になったら、何をされるかわかったものじゃない。

 

だけれど、ルーミアは平気で話しかけていて。

 

厳しい表情のメイド長は、チルノを一瞥した。

 

チルノはそれに萎縮してしまう。普段だったら、精一杯見栄を張る事が出来るのに。

 

「分かりました。 悪戯をしないというのなら、その辺りにいることを拒否はしません」

 

「ありがとうなのだー。 ほら、チルノ。 お礼を言うのだ」

 

「ありがとう」

 

「……」

 

冷たい目で見下されたけれども。

 

でも、側に誰かいるだけで、今は嬉しい。

 

何とか力を振り絞ってかまくらを作ると、その奥に引っ込む。側でメイド長が、他の妖精と話しているのが聞こえたが。その内容までは分からなかった。








本作のルーミアはいわゆるEX形態を持ちます。ただし今は何をやっても強くはなれません。てか、一般的な東方Project二次に登場するEXルーミアとは少し方向性が違うとだけ言っておきます。
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