東方Project二次創作短編集   作:dwwyakata@2024

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とても自発的に見るとは思えない悪夢に悩まされるチルノ。

現実でも不眠というのは大変に苦しい病気で、生活リズムを無茶苦茶にされます。

チルノは妖精ですが、肉体以上に精神が体に影響を与える妖怪に近い存在にまで成長している者。

だとしたら、普通の人間よりも、それは大きなダメージを心身に与えるのです。

それに。

親友だと思っている大妖精が出てくる悪夢なんてものを見ている事は、親友を信じて疑わないチルノにはとても苦しいことなのでした。

その親友が不自然に姿を消していることも、チルノは不可解に思えていません。大ちゃんとまで呼んでいる親友が、チルノに何かするわけがないと心の底から考えているからです。









1、いない親友

チルノは頬をつねる。

 

痛い。

 

つまり、夢じゃないと言うことだ。

 

眠りを断ってから二日目。

 

妖精は死なない、力が弱い、空を飛べるという事を除くと、人間を真似した生活をする事が多い。

 

家を作って其処に住んだり。

 

時間を決めて眠って起きたり。

 

特に問題が無い場合は。

 

人間と同じように生きて。無駄に長すぎる生を、ゆっくりゆっくりと送っていくのが常である。

 

ただ、そうしない事も、その気になれば出来る。

 

何しろ眠る事が怖くて仕方が無いので、ずっと無理に起き続けていた。

 

退屈だと思う事もあったが。

 

寝落ちしそうになると、あの怖い夢が頭に浮かんできて、すぐに目が覚めてしまう。眠ろうとしても、眠れない、というのがむしろ正しいのかも知れない。

 

ぼんやりしていると、かまくらをルーミアが覗く。

 

二日ぶりだ。

 

「ルーミア……」

 

「本当に弱ってるのだ。 夏場のチルノよりよわよわなのか」

 

「うん……」

 

「はあ。 博麗の巫女、後は頼んで良いのか?」

 

びくりと身震い。

 

そして、乱暴にかまくらに手が突っ込まれ。

 

引っ張り出される。

 

手に吊されたチルノが見上げた先には、博麗の巫女の姿があった。

 

博麗の巫女。

 

幻想郷最強を謳われる人間。

 

チルノの自称している「最強」じゃない。

 

本物の最強だ。

 

幻想郷の人間側の管理者でもあり。その実力は、最強の妖怪八雲紫を凌ぐとも言われている。

 

普段だったらある程度仲良く話したり、酒盛りに参加したりするのだけれど。

 

今日は、とてもそれどころじゃない。

 

なお凍傷を防ぐためか、手に札を巻いていた。

 

「本当に弱ってるわね。 良いわ、後はこっちでやるから」

 

「助かるのだー」

 

「いいのよ。 なんだかんだで、酒盛りの時にはちゃんと肴持ってくるし、此奴がいないと退屈だしね」

 

そういって、吊したまま博麗の巫女はルーミアと会話をしつつ。

 

手にした大弊を振るって、かまくらを消し飛ばす。

 

もう確かに必要はないけれど。

 

何も壊す事はないのに。

 

紅魔館の門番が(いつの間にかまた美鈴に戻っていた)、咎めるように視線を向けたが。博麗の巫女は気にしている様子も無い。

 

そのまま、大股で歩き始める。

 

「それで、変な夢を見るようになったのは何時から?」

 

「多分一週間くらい前から……」

 

「幾つか可能性があるけれど、どうにも解せないのよね。 どうしてあんたの周りで、今そんな事が起きているのかが分からない」

 

「あたいだって分からない……」

 

そうねと呟くと。

 

博麗の巫女は、浮き上がり、飛び始める。

 

吊されるように運ばれると、風がもの凄く強く感じる。というか、博麗の巫女、本気で飛ぶとこんなに速かったのか。

 

かなり高い所まで出る。

 

すごく寒い。

 

力は多少湧いてくるけれども。

 

同時に空気も薄いようだった。

 

「どう、これなら多少は気分も良いでしょう」

 

「うん。 でも霊夢は平気?」

 

「私は色々対策しているから大丈夫よ。 空を飛ぶときに使っている術は、「空を飛ぶ」だけではないの。 これは何も私に限った話じゃなくて、空を飛べる人間だいたいに共通しているんだけれどね」

 

そうか、平気なのか。

 

まるで他人事のようにチルノは感じる。

 

そして、涼しいには涼しいけれど。

 

元気が出てくるかは、また話が別だ。

 

それをすぐに理解したのだろう。博麗の巫女は、ぶらんぶらんとチルノを揺らして。抵抗がないのを見て、ため息をついた。

 

「ルーミアに聞いてはいたけれど、手応えがないわね。 あたいは最強なんだーって、噛みついて来なさいよ」

 

「あたい、今は最強じゃない……」

 

「はあ」

 

「ていうか、分かってるでしょ。 いつもだって、最強なんかじゃない」

 

チルノ自身だって分かってる。

 

最強と言うのは、自分を鼓舞する言葉に過ぎないのだと。

 

普段は絶対に認めないが。

 

心が弱ると、こうも簡単に認めてしまうものなのか。

 

情けないと感じるけれど。

 

だけれども、どうしようもない。

 

大ちゃんがいない事が原因では無いだろう。

 

ずっと怖い夢を見続けて。

 

そして怖い夢から逃げてずっと起き続けている。

 

それで精神が完全に参ってしまっている。

 

馬鹿でもそれくらいは分かる。

 

妖怪のように、精神が駄目になると死ぬ、というルールで妖精は生きていないけれど。

 

それでも精神が弱ると、こんなに心が弱るものなのか。

 

チルノは弱い者いじめをしていなかっただろうか。

 

最強を自称して、心が弱っているものを、痛めつけていなかっただろうか。

 

頭が悪いからあまり記憶がない。

 

もしやっていたら。

 

今後は絶対にやらないと決めていた。

 

「張り合いがないわ。 とりあえず、場所を移すわよ」

 

「……」

 

霊夢が空間転移する。

 

正確には、空間転移したのだと気付いた。

 

気がつくと、知らない部屋。

 

もの凄く寒いけれど。周囲には、カチカチに凍った食べ物が幾つか点々と置かれていた。

 

何だろう、此処は。

 

普段だったら興味津々に探し廻り。

 

寒いので元気いっぱいになっていただろうに。

 

今は涼しくて気持ちいい、くらいにしか感じない。

 

隅っこにチルノを放り出すと。

 

博麗の巫女は、チルノを札で縛り上げる。

 

普段だったらキャアキャア喚いて抵抗しただろうに。

 

その気力も起きなかった。

 

「ここなら、あんたの力の源である冷気で満ちているから、死ぬ事はないわ。 後そこに監視カメラがあるでしょう。 其所から見てくれているから、心配しないで眠りなさい」

 

「そうする……」

 

「はあ。 情けないったらありゃしないわ」

 

そのまま、白い息を吐いていた博麗の巫女が消える。

 

空間転移したのだろう。

 

それにしても、此処は何だろう。

 

規則正しく棚が並んでいて、其所に色々置かれている。氷室という奴だろうか。だがそれにしては広いような気もする。

 

いずれにしても、博麗の巫女に封じられて動きが取れない。

 

普段だったら最強を自負する力で。

 

これを突破しようと試みるだろうけれど。

 

今はとてもじゃないけれど、それどころじゃない。

 

きんきんに冷えた部屋だ。

 

体が壁とか床とかにくっつくかも知れないけれど。

 

それを気にする余裕すら無かった。

 

「大ちゃん……何処行ったのさ……」

 

呟くチルノ。

 

夢の中で出てくるおっかない大ちゃんじゃない。普通の大ちゃんに会いたい。

 

それと、まともに眠れるようになりたい。

 

涙が零れる。

 

寒すぎる部屋にいるからか。

 

零れた涙は、頬で凍り付いていた。

 

 

 

いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。

 

夢の中だというのは分かる。

 

辺りが完全に凍り付いていて、まるで冬真っ盛りのようだ。いや、冬でも此処まで真っ白になることは滅多にない。

 

妖怪の山のてっぺん付近は真っ白になっている事があるけれど。

 

それにしても、チルノの縄張り近辺で、こんな異常な白は初めて見る。

 

ぼんやりチルノは飛んでいた。

 

猫背で、いつでも墜落しそうな体勢で。

 

妖精は存在が自然そのものだから。そのまま、生まれた時から自由自在に空を飛ぶことが出来る。

 

息をする事が出来るのと同じである。

 

だけれども、この夢の中では。

 

チルノは元気いっぱいどころか。

 

完全に弱り切っていて、まるで死にかけのセミのように、頼りなく飛ぶ事しか出来ていなかった。

 

周囲に多数のカエルが転がっている。

 

いずれも凍り付いて死んでいる。

 

そうだ。

 

チルノは、蛙を捕まえては、凍らせて遊ぶ事をしていたっけ。しかも凍らせたカエルは、半分くらいは溶けても生き返らなかった。

 

その蛙たちの怨念だろうか。

 

でも、お仕置きは何度もされた。

 

守矢神社のおっかない神様の下僕。

 

でっかいカエルに丸呑みにされて。

 

どれだけ暴れても出して貰えなかった。

 

最初に丸呑みにされたときは、暴れたら吐き出してくれたのだけれど。

 

二回目以降は、改良が施されたのか。暴れても、外に出してくれることは無くなったのだった。

 

そこで、真っ暗な中、怖い思いを散々して。

 

もう絶対にカエルを無闇に殺さないと約束をしたら、出して貰う。

 

そんな目にあった。

 

それで怖い目にあったから、カエルを凍らせて遊ぶ事は辞めたのだけれど。

 

考えてみれば、それまでに無意味に殺していたカエルは、もう戻る事は無いのだ。

 

嗚呼。

 

そうか、こんな酷い事をしていたのか。

 

ぼんやりしているうちに、ついに高度が落ちきって、地面に墜落。

 

浮き上がろうとしても、上手く行かない。

 

ふと気付くと。

 

背筋が凍り付いた。

 

あのおっかない大ちゃんが、見下ろしている。

 

目が赤く光っているように見えるのは、気のせいだろうか。

 

ひいっと声が漏れて、必死に這いながら逃げようとするけれど。背中を踏まれて、一歩も動けなくなった。

 

顎ががちがち言っているのが分かる。

 

氷の妖精が、恐怖に凍り付いているのだ。あまりにも滑稽すぎる姿だと思うけれど。恐怖でそれどころじゃない。

 

「チルノちゃーん」

 

「や、やめて、やめて!」

 

「前から思ってたの。 チルノちゃん、どうして私以外を見るんだろうって」

 

え。

 

何それ。

 

そういえば、以前から、たまに大ちゃんが普段から怖い事があった。

 

なんでか知らないけれど、寝言の内容を知っていたり。

 

その場にいなかったはずの大ちゃんが。遊んでいた内容を事細かに知っていたり。

 

普段は頭がアホだから気付かないけれど。

 

たまに気付いてしまうと、冷や汗がどっと流れたりするものだった。

 

そういえば、大ちゃんの話をするとき、いつも遊んでいる弱めの妖怪達が、口をつぐんだり、視線をそらしたりする事があったっけ。

 

ひょっとしてだけれど。

 

最初から、大ちゃんはこうだったのではないのだろうか。

 

「チルノちゃんには、私だけを見ていて欲しいの。 だからいっそ、他のものを見ようとする目なんて、取りあげちゃおうかな」

 

「ひいっ! な、何言ってるんだよ大ちゃん! こわいこわいこわい!」

 

「チルノちゃんが悪いんだよ。 私だけを見ていれば良いのに」

 

「ぎゃあああああっ!」

 

大ちゃんがチルノの顔を掴む。

 

みしみしと、凄い音がした。

 

そして、目玉をえぐり出しに掛かる。

 

妖精は死んでも即座に蘇生するとは言え。

 

これはあんまりだ。

 

恐怖に絶叫するけれど、大ちゃんは止めてくれない。というか、こんなに力が強かったのか。

 

いつもはチルノが最強だと自称すると、笑顔で最強だねと褒めてくれていたのに。

 

この力。

 

チルノと同等か、それ以上では無いのだろうか。

 

右の目玉をえぐり出される。

 

目の痛みが凄まじくて、悲鳴を上げるけれど。悪夢は止んでくれない。それどころか、右目をえぐり出した後は。血だらけの手で、左目もえぐり出そうとする大ちゃん。笑顔のままなのが、怖すぎる。

 

そのまま、抵抗も虚しく、左目もえぐり出されてしまう。

 

何も見えない。

 

大ちゃんの嬉しそうな笑い声が。

 

鈴を鳴らすように、周囲に響き渡った。

 

「これでチルノちゃんは、私以外を見られないね。 これからは私がチルノちゃんの目になってあげるからね」

 

「い、一回休みで……」

 

「だーめ。 一回休みするたびに、目をえぐり出しちゃうんだから」

 

激痛が走る中、大ちゃんの声は狂気に歪んでいる。

 

完全に頭がおかしくなっている妖怪や人間をチルノも見た事があるけれど。

 

そういうのと同じ状態だ。

 

もはや何も見えない中。

 

痛みにチルノは絶叫し、更にそれを押さえつけながら、耳元で大ちゃんは囁く。

 

「そうだ、チルノちゃんの羽根ももいじゃおうか」

 

「ひいいっ!」

 

「そうすれば、チルノちゃんはずーっと私の手の中。 逃げられないし、私がいないと何もできない。 可愛いチルノちゃんを私が独り占め。 嬉しいなあ」

 

「や、やめ、やめてえええええっ!」

 

背中に鈍痛が走る。

 

そして、目が覚めた。

 

呼吸を整えながら、周囲を見る。

 

目は、ある。

 

羽根も。

 

拘束はされているけれど、周囲はチルノにとって心地よいとても寒い空間だ。体を傷つけるようなものは何も無い。

 

目とかを寝ている間に壁とかにぶつけたのかと思ったけれども。

 

そんな事は一切無い。

 

呼吸を整える。

 

今までの追いかけ回される夢とは文字通り段違いの恐怖だった。あんな目に会わされていたら。

 

チルノは或いは、本当に死んでしまうかも知れない。

 

妖精も、一回休みと言うくらい簡単に死ぬとはいえ。

 

彼処までの恐怖の中死んだら、蘇りを拒否するかも知れない。

 

ましてやチルノは警告されていたのだ。

 

チルノの力は、妖精の領域を越えつつあると。

 

このままだと、妖精では無く、妖怪や、下位の神になるかも知れない。

 

そうなった場合、生活が根本的に変わってくる。

 

妖怪が苦労していることは知っている。

 

人間を怖れさせなければならないからだ。

 

チルノが妖怪になったら、適度に人を襲っては、博麗の巫女や、人里の退治屋に退治されなければならない。

 

それも手加減必須で。

 

もし人を本当に殺してしまったら、おっかない鬼がいる地底に封印処置されてしまうだろう。

 

人を襲い、退治される。

 

茶番と分かっている行動を、他の妖怪同様に行わなければならないのである。

 

それだけじゃない。

 

もしも神になってしまった場合。

 

人間の信仰を集めなければならない。

 

弱い弱い神になると、人間の信仰を殆ど受けていないらしく。

 

実際に、妖怪と大差ない力の神をチルノも知っている。

 

そういう神になってしまったら。

 

かなり惨めな思いをする事になるだろう。

 

呼吸を整えながら、頭を振る。

 

多分相当うなされて、泣きながらあの夢を見ていたらしい。粗相はしていなかったけれども。

 

それでもあんな夢を見続けたら、体がどうなるか分かったものじゃない。

 

物音がしたので、びくりと身を震わせる。

 

何故か姿を見せたのは、八雲藍。

 

知っている。

 

賢者。八雲紫の式。腹心として、色々な仕事をしていると噂される九尾の狐である。

 

正確には九尾の狐に鬼神を憑依させているらしいが。

 

チルノには難しくてよく分からなかった。

 

藍はかなり背が高く。

 

チルノを見下ろすと。嘆息した。

 

「貴方はただうなされていただけです。 誰かが側に来ているようなことはありませんでしたよ」

 

「……」

 

「無理をせず、しばらく眠っていなさい」

 

「や、やだああっ!」

 

悲鳴混じりの絶叫が漏れる。

 

あの夢。

 

あのリアルすぎる痛み。

 

とても夢とは思えないのだ。

 

必死に藍に訴える。夢の中で、目玉を、羽根を抉り取られたこと。別人のように怖い大ちゃんに、世にも恐ろしい事をされた事を。

 

藍はしらけた目で聞いている。

 

他人の夢なんか知るか、という顔である。

 

だけれども、ずっとこの夢ばかり見るし。そればかりかどんどん内容が悪化しているのだ。

 

このままでは夢の中で殺されてしまう。

 

もう涙がぼろぼろ零れて、その先から凍っていく。

 

情けない事は分かっている。

 

普段最強を自称しているものにあるまじき行為だと言う事は分かっている。

 

でも、おかしい。

 

耐えられないのだ。

 

藍は聞くに堪えないと言わんばかりに姿を消す。

 

そして、チルノはその場に残された。

 

しばらく嗚咽を続けるけれど。勿論誰かが助けに来てくれるわけがない。拘束されたまま、ずっと冷たい部屋にいるしかない。

 

また眠りそうになる。

 

だけれど、気合いで必死に耐える。

 

もう、あんな夢は御免だ。

 

それにあの夢を見ていると、大ちゃんを疑いそうにもなる。

 

確かに、色々おかしな事をしているのも分かっている。

 

冷静に考えてみれば。

 

確かに普段から、チルノに対して変なことをしているらしい節はあったのだ。友情と言うには行きすぎている行動を。

 

だけれども。

 

それでも大事な友達なのだ。

 

やっぱり妖精は妖精と。妖怪は妖怪と。人間は人間と。

 

長い間見て来て、一番良い関係を作れるのは、相手を理解出来る存在なのだと思う。

 

勿論同じ種族同士で上手く行かない場合もある。

 

一杯見て来た。

 

だけれども、この友情を疑う事はしたくない。

 

今でも身が震えるほど怖いけれど。

 

きっと何かの間違いだ。

 

絶対に間違いに決まっている。

 

唇を噛んで、必死に恐怖に抗いながら。チルノは友を信じ続ける。何処とも知れない、寒い寒い部屋の中で。







普段と全く違う恐ろしい大妖精の側面に、震え上がるばかりのチルノ。

一体何が起きているのか。

まだまだ事態は加速していきます。










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