東方Project二次創作短編集 作:dwwyakata@2024
チルノに起きている異変は、夢に関するものであって、幻想郷に波及するものか見極める必要があります。
幻想郷の管理者である霊夢は、チルノのためだけではなく。
幻想郷に起きている問題なのか、それを判断する立場にある。
だから動かなければならないのです。
博麗の巫女、博麗霊夢は情報を集めながら、腕組みしていた。
知っていた。
大妖精と呼ばれる上位妖精の一人が、チルノと親友である事は。一見良心的で心優しそうな大妖精が、チルノには異常な執着を見せる事も。
チルノはアホだから気付いていなかったが。
あれはストーカーに片足を突っ込んでいるレベルだった。
実際に眠っているチルノに添い寝して、じっと様子をうっとりした様子で見ていたり。
チルノの羽根を削って集めていたり(妖精だから肉体のダメージには疎い)と。
霊夢が集めた情報だけでも、大妖精が「やりすぎている」事は確かだった。
問題は、その大妖精が見当たらないこと。
そして、いくら何でも実際にチルノに加害する事は思い当たらない事である。
事実、以前勝ち目0の妖怪に襲われたとき。
大妖精は身を張って、チルノを守った。
それについては、駆けつけた霊夢が。手当たり次第に暴れていたその妖怪をしばき倒したので、実際に目にしている。
だが、まて。
ひょっとして大妖精は。
チルノを独占するために、命まで賭けたのではあるまいか。事実、妖精にとっては命はとても安いものなのだから。
可能性は、否定出来ないか。
頭をばりばりと掻く。
頭脳労働は得意ではないのだ。
最近は、色々と頭を使う必要性が増えてきて、霊夢は苦労が倍になったと感じている。
今までのように勘で全てを解決できる訳では無いと、理解したのが理由だが。
そもそも今回の問題、何かしらの事件が起きている可能性が高い。
なお、幻想郷に今来ている大妖怪。
伝承に残る夢を食べる妖怪である獏、ドレミー=スイートには、真っ先に話を聞きに言って、違うと言われた。
確かにチルノが変な夢を見ているのは事実のようだが。
チルノの夢に誰かが外から干渉している事は無いそうだ。
となると、一体何が起きているのか。
一通り情報収集を終える。
勘が告げる場所を見て回ったが、大妖精はいないし、チルノ自身も紫の保有する施設に連れて行ってしまったしで。
どうしようもない。
ルーミアがSOSを入れて来たし。何よりも、チルノは実の所要監視対象の存在だ。
妖精の領域を超え始めている力の持ち主。
何よりもそろそろ「妖精では無くなる」可能性が高い存在。
それを考えると。
チルノ自身に罪は無くとも、妖怪になってからどんな影響が周囲に出るか分からないのである。
場合によっては人里を襲うかも知れないし。
その時は、今までの力だけ強い無邪気な子供、という事実を全て忘れ。頭をかち割って地底に封印しなければならなくもなる。
色々な意味で。
覚悟は決めていた。
ただ、覚悟を決めていたからといって、何かが常に解決するわけではない、というのも事実である。
実際問題、今手がかりは全く得られていない。
命蓮寺を丁度今出た霊夢は、腕組みをしながら、ぶつぶつ呟きつつ。
情報を整理していた。
ちなみに命蓮寺に出向いたのは、大妖精が来ていないかの確認と。煩悩について知識が深そうな住職と話して、何か得られるものが無いかの確認である。
命蓮寺の住職が人格者なのは霊夢も知っている。
だからこそ、煩悩を退散させる方法も知っているし。
それで具体的な対策を知っているかどうか、確認したのだが。
流石に妖精の精神構造までは専門外と言われてしまった。
博麗神社まで出向くと。
一度神社の裏手にある大きな木に出向く。
其所にはそこそこ力のあるいたずら者の妖精が三人住み着いている。
チルノとはそこそこ交流もある。
話を聞きに出向いて見ると。
通称光の三妖精。リーダー格の元気なサニーミルク。おっとりした雰囲気だが極めて腹黒いスターサファイヤ、縦ロールの髪の毛が印象的な苦労人ルナチャイルドは。丁度いた。
霊夢が姿を見せると、探知に特化した能力持ちの三妖精はすぐに気付いて顔を見せる。
此奴らも妖精としてはかなり力が強い方だ。
妖精は小さいのだと掌サイズだが、此奴らは普通に幼児くらいの背丈はある。
悪戯も時々度を超した事をするので。
霊夢としても、見張りをしなければならない相手だった。昔は魔法の森に住んでいたのだが、幸い博麗神社の裏手に移ってくれたので。監視そのものはやりやすくなったのも事実だが。
その一方で、うるさくもなった。
三人に話を聞いてみる。
最近チルノにおかしな事は無かったか。
大妖精は見かけていないか。
此奴らは神社の裏手に住んでいるので、話を聞きに行くのは最後で良いかと思っていたのだが。
意外な答えが返ってくる。
「大妖精なら最近見たわよ」
「! 何処で、いつ」
「えっ!?」
迂闊な事を口にしたと顔に書いたルナチャイルドの手を掴む。
いつも貧乏くじを引いている三人組の苦労人は、今回もどうやらその役回りらしい。さっとサニーミルクとスターサファイヤは距離を取っているのが微笑ましいが、霊夢にとっては頭に来る。
「話しなさい」
「や、やだ、一回休みやだ!」
「話せば殺さない」
「ひっ……」
霊夢がその気になれば、妖精を「殺せる」、つまり一回休み以上の状態……妖精を消滅させることも出来る事を、三妖精は知っている。
だからルナチャイルドは怯えたのだが。
その恐怖を、積極活用して行く。
せわしなく視線を動かしたルナチャイルドは、助けを求めたのだろう。
だが、今彼女を助けられる存在は周囲にいない。
薄情なものである。
サニーミルクとスターサファイヤも、側でじっと様子を見ているだけなのだから。
「何か穴掘ってたわ! それ以上は分からない!」
「穴?」
「そう、人間から買ったらしいスコップとか言う道具使って! 場所は紅魔館の近くよ!」
「……」
手を離す。
ルナチャイルドの手には、くっきりと霊夢の手形が残っていた。
涙目になって震えているルナチャイルド。
どうやら力が入りすぎていたらしい。
逃げようとする所を、襟首を掴んで捕まえる。
「とりあえず情報有難う。 でも、どうして情報を出し渋ったのかしら?」
「そ、それは、大ちゃんってば、時々すっごくこわいから」
「詳しく」
「チルノに対しては、もの凄く独占欲が強いのよあの子! 普段は良い子だけれど、チルノが誰かに取られると思ったら、手段を選ばなくなるの!」
余計な事をと、サニーミルクとスターサファイヤが顔に書いている。
空間転移して、二人の背後に出ると。
空いている右手で、大幣を取りだし、地面をぽんと叩く。
何故か地面がクレーター状にえぐれるが。
まあ、霊夢もたまには力加減を間違える。
「貴方たちも色々知っていそうね。 詳しく聞かせて貰いましょうか」
人形みたいな動きで振り返った二人が。
霊夢の顔を見て、完全に固まる。
真っ青になり、ちびりそうな表情をしているが。
許す気は無い。
既にルナチャイルドに至っては、ぶら下げられたままくすんくすんと泣いていた。
そのまま、楽しい尋問タイムが開始され。
しばらくして、つり下げられたスターサファイヤが、有効な情報を吐いた。なお全身を縛り上げ、逆さに木の枝からつり下げられた状態で、やっとである。
「わ、私達が喋ったって言わないなら良いわよ!」
「あら、私より大妖精の方が怖いとか?」
「……」
「へえ」
これは意外だ。
要するに拳を叩き込んで地面にめり込ませる程度で済ませる霊夢と違って、大妖精は此奴らを怖がらせるくらいの狂気持ちと言う事なのだろう。
妖怪化した後。
色々厄介な事になるかも知れない。
スターサファイヤの頬をなで上げながら、霊夢は精一杯の優しい笑顔を浮かべながら続きを聞く。
「それで、どういうことかしらね」
「ひいいいっ! だ、大妖精ってば、前に魔法使いの所に出入りしていたの」
「魔法使いと言っても色々いるけれど、誰かしら」
「アリス=マーガトロイドよ!」
意外な名前が出てきた。
魔法の森に住まう人形遣いの魔法使い。
後天的に魔法使いになった存在で。要するに努力を重ねて人間の状態から、魔法を習得して不老不死になった者である。
霊夢の親友、自称「普通の魔法使い」である霧雨魔理沙よりも少し先を行っている存在で。
普段はあまり喋る事はなく、極めて寡黙だが。
たまに気が向くと人里に出向いて人形劇を披露したり。
また森で迷った人間を助けて人里に送り届けたりと。
魔理沙と犬猿の仲であることを除くと、問題を起こす理由はほぼ思いつかない。人間にはごく好意的で、霊夢の監視対象としては比較的軽度の存在である。
魔法の森には魔理沙含めて問題行動を起こす魔法使いが何名かいるが。
その中でももっとも物静かで、問題を起こさない一人だとも言える。
「それで、何か魔法を習っていたらしいの! それ以上は知らない!」
「本当でしょうね」
「本当! 本当!」
ほっぺをつねりながら言うと、スターサファイヤは半泣きのまま言う。
なおルナチャイルドは地面に首だけ残して埋め。サニーミルクは木の枝に縛り付けて、焚き火の上で自動で回している。火は弱火だが、恐怖でサニーミルクは既に失神していた。
いずれにしても、まあいいだろう。
札を額に貼り付けると、拘束を解いてやる。
三妖精はひしっと抱き合うと、霊夢を見て震え上がっているが。
まあこのくらいは恐怖を認識させておかないと。
舐められる。
幻想郷で舐められるというのはかなり致命的な事なのだ。
だからこれでいい。
「その額の札、無理に剥がそうとすると一回休みじゃ済まないわよ。 今の話が嘘じゃないか、私がアリスに確認してきて、それが有益な情報だったら自然に剥がれるようにしてあげるわ」
「……」
「それじゃあ情報提供ありがとう」
跳躍すると、そのまま飛行の体勢に入り、魔法の森へと急ぐ。
意外なところから情報が出てきた。
勘だけでは解決しないというのは近年霊夢も学んでいたことなのだが。
それでも勘は頼りになる。
ただ、それでも頭を使わなければならないのも事実ではあるが。
魔法の森の上空に出る。
住民でさえ迷う森だ。
素直に魔理沙の家にでも出向くかと思ったが。
上空をくるくる回っているうちに、幸いアリスの家を見かける。
アリスの虫の居所が悪い時は、魔法で家を隠していたりするのだが。
今日はそんな事も無い様子だ。
降り立ち、戸を叩く。
非常に不機嫌そうに、アリスが姿を見せた。
アリス=マーガトロイドは多数の人形を同時に操る魔法使いで、その人形を攻防共に活用する。このためアリスが従えている子供の様な姿をした膝下くらいの背丈の人形は、常時武装している。
容姿は非常に整っていて。霊夢と同年代くらいに見えるが、実際には違う。美しいセミロングの金髪も、整った顔も、さながらお人形さんのようである。本人が一番人形じみていると、色々な者から表されるほどだ。
寡黙な上に自己主張をしないが、実力は確かで。
客が来ればもてなすし。
たまに魔理沙と喧嘩したり。
逆に魔理沙と連携して一緒に異変の解決に出向いたり。
魔理沙とは犬猿の仲ではありながら、色々と面白い関係性のようだった。
友人の友人は他人という言葉通り。
霊夢とはあまり関係が深くなく。
今日は何をしに来たのだろうというアリスは無言で圧力を掛けてきていたが。
大妖精の名前を出すと、ああと納得した様子で頷いていた。
「何を教えたの?」
「その前に立ち話も何だから、家に入りなさい。 靴は脱いで」
「……」
洋風の格好なのに、家のマナーは和式なのか。
入り口で靴を脱いで中に入ると。
家の外以上の数の人形が、アリスが操作しているのかしていないのか、兎も角働き続けている。
ある者は掃除を隅々までして。
ある者は料理をしたり花を世話したり。
家の中は、とても落ち着いた空間になっていた。
ああ、なるほど。
これは妖精にも過ごしやすい場所だと、霊夢は納得する。
椅子を勧められたので、頷いて座る。
茶は人形が出してきた。
順番に話をする。
夢に関する問題は、幻想郷では笑い事では無い。チルノを助けるためというよりも、異変が発生しているのなら早期解決のために行動していると告げる。アリスは頷くと、ずばり本質を告げてくる。
「ここのところかなり積極的に飛び回っているようだけれど、何か意識が変わることがあったのかしら。 前は尻を叩かれるまで、異変解決には動かなかった貴方が」
「……想像以上にこの世界が脆いと気付いただけよ」
「まあいいわ。 大妖精に教えていたのはこれよ」
人形が分厚い魔法書を持ってくる。
そしてアリスは、触らないようにと霊夢に言うと。
手を動かさずに、魔法書を開いた。
ページがばたばたとせわしなく動き。やがてぴたりと止まって開く。
其所には、見た事がない文字で、びっしり魔法について解説されているようだった。
「何コレは」
「人の夢を操る魔法」
「夢を操る?」
「以前、幾つかの異変で、夢がこの幻想郷で大きな意味を持っていることは、貴方も知ったと思うけれど」
言われるまでも無い。
実際問題、何度か夢に関する事で、酷い目にあった。
事実獏であるドレミー=スイートに最初に会いに行ったのも、それが理由である。
獏が非常に強大な妖怪である事も理解しているし。
事実、チルノの夢が干渉されていることは、最初から分かっていたのだ。
だが、夢の管理者である獏が感知しない範囲で。
大妖精程度の存在が、どうやってというのは気になる。
実際問題として、大妖精の実力は、霊夢だったらデコピン一発。三妖精と大差ない程度でしかない。
アリスはかみ砕いて説明してくれる。
この魔法は、相手の夢に自分を出す事が出来るもの。
つまり、恋の魔法の一つだという。
恋の魔法か。
魔理沙が口にしているようなものということか。
ともかく、その恋の魔法は使い方次第で、相手に自分を強く印象づけることが出来。
いつも相手の心に、自分を出す事で。
心を掴む事が出来るという。
と言う事は、だ。
夢の世界で、チルノと大妖精は混じり合っている、ということか。
だとすると、ドレミー=スイートが自分は関係無いと言い張ったのも納得である。
霊夢は嘆息する。
これで幻想郷全体に波及する異変の可能性は減ったか。
霊夢が動いていたのは、手間を事前に軽減するため。
此処から手がつけられない異変にならない内に、処置をしておくつもりだったのだが。
どうもこれは、大妖精一人の勇み足で起きた事らしい。
だったら、後は少し力を抜いても良いか。
「それで大妖精の姿が見当たらないのだけれど」
「恐らくだけれども、自分しかしらないような秘密の隠れ家に潜んでいるはずよ」
「……どういうこと?」
「この魔法を行使するには……」
幾つかの説明を受けるが。
最後の説明が引っ掛かる。
アリスによると、呪文だの何だのを使った後。
最後に自分自身も眠る必要があるという。
多分大妖精は、己の巣とも言える安全な寝床で、ずっと静かにしている筈だという。
それは困った。
彼奴がチルノに執着しているのは分かったが。
奴の巣が何処なのかは全く見当がつかない。
元々悪さをする妖精では無いから、殆ど居場所については感知していない。
ただ、どうにも嫌な予感がする。
勘がびんびん告げているのだ。
そもそもあの大妖精。
ストーカーギリギリの行為をチルノに対して行っていた。それが非常に気になるところなのである。
チルノ自身がアホで、全く気付いていなかったし。
或いは友達だから良いとでも思っているかも知れないが。
チルノはそうでも。
大妖精はそうだとはとても思えない。
そして霊夢の勘は当たる。暴力的なまでに。
巫女だからではない。
霊夢の勘だからだ。
ともかく、アリスに礼を言って家を出る。後は寝こけているだろう大妖精を探してやるだけだ。
一応、進捗を紫に連絡しておくか。
紫も、今回の件が大規模異変につながるかも知れないと思って、心配していた口だ。
紫が主導して異変を起こす場合もあるのだけれど。
幻想郷が想像以上に脆く。
紫の負担が大きいと知った今。
これ以上、霊夢の方から、厄介ごとを大きくするつもりはなかった。
客観的に見ていれば、主観的な光景とはまったくべつのものが見える事があります。
霊夢から見ても、チルノに対する大妖精の行動は、明らかに一線を越えるものだったのです。