町役場で大洗側がジリジリとプラウダに追い詰められている間、Ⅳ号と短十二糎の二両は爆走していたクルセイダー隊に追われていた。クルセイダー隊と鉢合わせたことでダージリンの後方に回ることを諦め、商店街に戻った二両。
『OY地点。今はこんな感じ』
「了解、こちらはまだ交戦中」
『了解、引っ張れるだけ引っ張るけど、期待はしないでねー』
角谷と通信を終えると、真澄が繋いでくる。
『もう二ブロック後退?ちょっと早いわね』
「あと五分が限界みたい」
「ありがとう沙織さん」
そこで戦況図を見て次の一手を考える。
「この先、道が蛇行しているから、できるだけサイン側に沿って進んで」
「分かった」
冷泉は指示に従い、車体を擦るギリギリまで寄せて走った。
スピンターンをした際に二番手に下がったローズヒップ。
「先頭車何をやってますの?ダージリン様のお紅茶が冷めてしまいますわ!」
ローブヒップがそう叫ぶと、先頭を走っていたクルセイダーが見えたⅣ号が一瞬で消えた。
「えっ!?」
驚いて左右を見ると、空き地を使って一気に旋回して砲口を向けたⅣ号に急ブレーキをかけて唖然となってしまい、その隙に至近距離で砲撃を喰らって撃破されてしまった。
「貰った!」
そして後続も先頭車に合わせて停車したところを、短十二糎は最後尾にいた車両に照準を合わせて発砲した。Ⅳ号はそのまま脇道に入り、逃走していった。
「マジですのっ?!」
思わず言葉遣いを直し、彼女は無線をつなげる。
「クランベリーは私と追いますわよ!ごめん遊ばせ…!!」
最後尾を撃破され、狭い路地で後ろに後退できなくなった二両のクルセイダー。ローズヒップは残骸の隙間を縫ってⅣ号と短十二糎の後を追いかけた。
「残弾、あと八発ね」
「うげっ、撃ちすぎたなぁ」
二両のクルセイダーから逃げる途中、真澄は榎本から残弾を聞くとすぐに無線で伝える。
「みほちゃ〜ん、こっちあと八発」
『分かりました。なるべく無理をしないように発砲してください』
「りょ〜かい」
残りの継戦能力がない事を伝えると、Ⅳ号の護衛にひたすら回っている短十二糎は後を追いかけた。
一方、大洗町役場前では激戦が繰り広げられていた。
何度も後退を繰り返しているⅢ突とポルシェティーガーだが、役場玄関前にまで弾が集中し始めていた。
「そろそろ撤収するよ〜」
時刻を確認してナカジマが指示を出した。
「「「分かりました」」」
「ヤーヴォール!」
「あいよー」
「にゃー!」
全員が撤収に頷く中、西の車両のみ無線機の不調でその指示が聞き取れなかった。
「あれ?調子悪いな〜。すみませ〜ん、聞き取りにくかったのですが?」
西は周りに大声をあげて指示を聞く。
「後退します!」
「はい?」
すると隣にいた八九式のハッチが開いて磯部が言った。
「後退です!!」
「「こ・う・た・い!」」
西が首を傾げたので磯部は再度大声で一句ずつ切って話す。周りはエンジンと砲声ばかりなので仕方ないと思っていた。
「と・つ・げ・き?」
しかし西は慣れない読唇術と、自分の中の語彙と照会を行ってその言葉が弾き出された。
「かしこまりでございます!」
そして理解した彼女はパッと表情を明るくして敬礼をする。
「何で?」
そして一気に加速して飛び出したチハに驚く磯部。
「え?」
「んにゃ?」
「何?」
その動きに園、ねこにゃー、河嶋も困惑気味に見てしまう。
「吶喊!」
一言、大きく号令を出すと西は全速でIS-2に向かって突っ込んでいく。
「チハ?」
「あれはタイミングを間違えていますね」
道路に仁王立ちをしたチハに首を傾げると、ノンナは照準を合わせて発砲する。
「あいたーー!」
真正面から砲撃を受け、思い切り横転してしまった西。
「すみません!敢闘及びませんでした!」
西は元気よく謝ったが、一連の行動に茫然となった磯部と佐々木はポツリと呟く。
「何がしたかったの?」
「さあ」
そして照準器越しでそれを見ていたノンナは言う。
「カチューシャなら違います。勝利に至る道筋を誤りません」
「いつも無茶をさせられますけど」
「そこは否定できませんね。相手がいる以上、犠牲は避けられませんから」
彼女はそこで退却を始める戦車を見る。
「来たぞ」
「逃げるにゃー」
一斉に逃げ出した八九式と三式。
「ですが我々を強く導いてくれる」
そして撃破したチハを避けて前進をする。
「西隊長!!よくもよくもぉ!!」
「ストーップ!!」
西の突撃を見た福田も後に続こうとしたところを八九式に真正面から止められる。
「止めないでください!このままでは面目が立ちません!!」
興奮している福田に磯部達が諭す。
「今ここでやられたら、それこそ面目立たないよ」
「後できっちり仕返しすればいいじゃない?」
そして福田のハ号を押し進める。
「仕上げの時間よ!あいつらにオクローシカを添えてあげなさい!!」
「『了解!』」
カチューシャが指示を出すと、クラーラは頷く。
「私たちを、そしてクラーラのような得難い人物を魅了する。私にはできないことです」
そこで照準を最も火力のあるポルシェティーガーに合わせて引き金を引くと、相手に白旗が上がる。
「見かけで誤解されやすいですが、カチューシャほど人を指揮することに秀でた人物を私は知りません」
撃破したポルシェティーガーを前に笑みを見せるカチューシャの姿を想像した。
後方から砲弾が飛んでくるにも関わらず、みほはキューポラから顔を出して周辺の状況を見る。
短十二糎自走砲とともに行動をしており、後方には二両のクルセイダーが追いかけてきていた。
「聖グロ一の俊足からは逃れられないんですのよ」
と言うより、時速四三キロも出る快速戦車から逃げられる車両も二次大戦中の戦車だとほぼいないわけで…。
そして二両のクルセイダーは砲塔を傾け、挟み込む形でⅣ号を見る。
「撃て!」
「停止」
ほぼ同時に号令が飛ぶと、冷泉が急ブレーキをかけ、照準を合わせていたクルセイダー二両が前方に飛んでいってしまうと、その内の右一両を砲撃で撃破する。
「なっ!」
そして後ろに追従していた短十二糎の車体砲を発射するために左に切って照準器に収めたところで発砲。しかし車体後部の切り欠きを掠ったのみで終わる。
「くそっ!」
「次があるって」
またも外した伊藤に真澄は優しく声をかけると、それを見ていた武部が言う。
「よーし、残り一両!」
『こちらレオポン』
喜ぶのも束の間、大洗町役場前にいたはずのポルシェティーガーから連絡が入る。
『OY防衛戦崩壊しました』
ナカジマは無線で横を通過するチャーチルやT-34/85を見ながら連絡を入れる。
『あとやられちゃった。ごめんね〜』
黒森峰戦並みにボコボコに撃たれて擱座したポルシェティーガー。道路を大きく占拠して擱座したので、通過する戦車たちは他の車両が逃げ出す時間を稼いでいた。
ヘッツァーとB1bisが全速で後退し、八九式が嫌がる福田の九五式を押して逃げていく。
「何で当たらないのよ!」
その砲撃の中を抜けて逃げ回る大洗の車両にカチューシャが怒鳴った。この道はやや上り坂となっており、まっすぐ逃げているようでわずかに斜めに傾斜していたのが当たらない理由であった。
「こんな時に、ローズヒップは何をしているのかしら?」
「猫の手でも借りたいですしね」
追撃をする際、二手に分かれたので聖グロ・プラウダの部隊も二手に分かれたのでやや防護に不安が残っていた。
「猫というより、犬っぽいけど」
アッサムはそこで脳裏に犬耳を頭につけて走り回るローズヒップが浮かんでいた。
その時、ノンナは前方からやってくる一台の戦車を見た。
「カチューシャ様。前方の車両は味方です」
「あれはクルセイダー、じゃあⅣ号と短十二糎も近くにいるわね」
カチューシャが言うと、周囲を見回す。
「オホホホホ!形勢逆転ですわ!」
合流した戦車隊の最後尾でドリフトをして合流したローズヒップは高笑いをする。
「みぃつけた!」
そこでカチューシャ率いる部隊と合流し、前方から詰め寄ってくる。
「左折して下さい」
そこで曲がっていくⅣ号。IS-2の122ミリ砲が掠めて家を一撃で木っ端微塵にする。
「博子!」
「牽制球!」
そこで車体に備えた37ミリ砲を発射すると、命中した砲弾から白煙が弾ける。
「無視して突っ込んで!」
それが目眩し用のものであるとわかると、煙幕を抜けてカチューシャの真横を短十二糎が駆け抜けるのを確認する。
「フラッグ車を追って!急いで!」
カチューシャはそこでT-34/85の砲塔を旋回させて走り去った短十二糎に砲撃をさせないように一発砲撃してからⅣ号の跡を追う。
狭い路地で左右に車体を不規則に振りながら走ると、横から砲弾がシュルツェンを弾く。その方を見ると家々の隙間からこちらを狙うT-34/85の姿があった。
「『逃がさないわよ』」
その砲手席でクラーラが照準器を覗き込んでいた。それに反応してみほも加速をさせる。
クラーラ車はそのまま頭を抑えようと加速し、Ⅳ号と直行した瞬間に発砲。しかし待ち構えていたⅣ号も撃ち返した。そしてクラーラ車はⅣ号の後ろにつけると、左右に振れるⅣ号に再度発砲。しかしこれも外れてしまい、商店街の中をすり抜けて走る。
「『ここで!』」
彼女は砲が止まる一瞬を利用して発砲。その砲弾はⅣ号を避けて信号を撃ち抜くと一気に信号は倒れてくる。
Ⅳ号はこれを素早く避けれたが、クラーラ車は避けきれずに信号に乗り上げて車両が浮き上がってしまう。しかしそのまま滑るようにクラーラ車はⅣ号を追いかけたが、すぐにⅣ号は左折。曲がり角にあった旅館が目の前に急速に近づいているのが見えた。
地元であるⅣ号はすぐにそれを簡単に避けてしまうが、クラーラは慣れずに勢い余って旅館に突っ込んでいく。慌てて急制動をかけてギリギリのところで停車した。
「『ふぅ…」」
ぶつかる直前に止まれたことに安堵したのも束の間。
「あらあらあらあらあらあら?」
先ほど折った信号機に思い切り乗り上げて車両が駒のようにスピンしたローズヒップの駆るクルセイダーが宙に浮かぶ。
「あだだだだだだどどどどどど!?」
そしてスピンしたままクラーラ車に後ろから思い切り激突をしてしまうと、後部の燃料タンクに引火して大爆発を起こしてしまった。
「やった!うっしゃーーー!!」
そして爆発した自分の家を見て歓喜の声を上げる旅館の店主。補助金を前に今度は建て替えである。
「またかよ」
「お前んの所ばかり羨ましい」
全壊した建物を見て羨ましがる近所の住民達であった。