「『すみません、瓦礫で動けなくなってしまいました…カチューシャさまのお役に立ちたかったのに。残念です』」
瓦礫の山となった旅館の下で白旗の上がったクラーラが言うと、後続のカチューシャ、ノンナの乗るT-34/85とIS-2、チャーチルが通過していく。
「『あとは任せてください』」
通り過ぎる時、ノンナはロシア語でクラーラに言うとそのままⅣ号を追いかけ始めた。
「そろそろおしまいにしたげる!」
カシューシャを先頭にして商店街を右折すると、そこで待ち構えていたⅣ号の姿が見える。
「撃って」
「了解」
カチューシャの指示でノンナはIS-2を発砲する。その砲弾はカチューシャの横を掠めていったので思わずカチューシャは驚いてしまったが、Ⅳ号の左前に落ちた。
そしてカシューシャとノンナは道に広がって車線が被らないようにすると、同時に発砲をする。
しかし地の利を生かして冷泉は緩やかにカーブしている左のギリギリのラインを攻める。
「護衛が居ないうちに…」
カチューシャはそこで先ほど離脱した短十二糎が居ない間に撃破したいと考え、左カーブで見えなくなるⅣ号に追撃を指示する。
「この先は右にしか曲がれないはず…」
その時、速度が落ちたところを狙おうとしてⅣ号の姿を見る。
「勝負に絶対はあり得ません。ですが戦いを続けていれば、負けることの許されない局面が遠からずやってきます。そして、その場面にはカチューシャが必ずいる」
直後、カチューシャと同時に発砲をしたが、Ⅳ号は左に切り込んだ勢いのまま空き地で大回りをすると直角に曲がった道を、速度を落とさずに曲がっていった。続いて、あんばいやの角を左に曲がった。
「ノンナさん!ここは、カッコよく決めるところですよ!」
「恥ずかしいですね」
クランク状の道により、カチューシャ達は速度を落とせざるを得なかった。
ノンナは速度を落としきれず、そのまま直進をして行った。
『撒けた?』
「一旦は追撃はありません。そちらの状況はどうですか?」
みほはそこで先に県道二号線に出て大洗磯前神社方面に偵察に向かった短十二糎自走砲に確認をとった。
その頃、役場から他の車両とは反対の方に逃亡した福田の九五式と八九式は主要な車両がⅣ号追撃で消えてしまったので、やや手持ち無沙汰になっていたところを目の前にマチルダⅡが現れた。乗っていたルクリリは車両の足が遅かったため、他の敵の捜索を命じられていたのだ。
「!?」
突然の会敵に双方驚いて硬直をしてしまった。
「退避!」
しかし流石の反射神経というべきか、先に磯部が動いて福田が発砲をするが、九五式の主砲は元々対歩兵用に開発されたものであり、あのロンメルですら88ミリ砲を使って撃破したマチルダⅡには歯が立たなかった。そして反撃の2ポンド砲で車体が浮き上がってしまった。
「アヒル殿!どうしたら!」
この状況を前に福田が聞くと、ハッチを開けて磯部が体を乗り出す。今いる場所は片側二車線の直線が続く道路。こうも見えていてはどこに居ても危険である。
「広いところは危ないね。だったら…」
そこで彼女の目に見慣れた施設が飛び込んできた。
その頃、砂浜を爆走するヘッツァーとⅢ突。その後方ではT-34/76が幅広履帯による接地圧の低さを利用して徐々に距離を詰めていた。
「おのれ、数的にはこちらが有利なのに」
「追いかけっこは固定砲塔不利よね〜」
この状況だというのに、小山は呑気な声を出していた。
「また38tに戻してみるか」
「そんなお金ありません!整備班の子達に殴られますよ?!」
「むぅ〜」
角谷に対し河嶋が声を荒げた。元々ヘッツァーの改修をした際にも色々と言われていたので、角谷も血走った目でレンチを片手に持った整備班達に追われる未来が見えた気がした。
同じようにⅢ突の車内ではカエサルが指示を出した。
「よし、ひなちゃん、もといカルパッチョ直伝のアレをやるぞ」
するとそこでエルヴィンがおりょうに指示を出す。
「CV33ターン。別名、ナポリターン。行け、おりょう」
「ぜよ!」
その場で走行しながからくるっと一八〇度ターンを華麗に決める。二回戦、アンツィオ戦の時にやられた過去を糧に練習を繰り返してきた成果が現れた。しかし、
「それは分かってた」
スピンターンをした段階で追撃をしていた車長はニヤッと笑うと、Ⅲ突の砲撃を右に寄せて交わした。
そして砲弾を交わすと、そのまま交代速度で速度の落ちたⅢ突に速度を合わせて横に付く。
「あぁっ!そっちはダメぜよーー」
おりょうの悲鳴が響き、直後に至近距離で発砲されたことで砂浜を転がってⅢ突は撃破された。
撃破したT-34/76はそのままヘッツァーの追撃を開始した。
そしてカチューシャとノンナの追撃をするⅣ号は商店街を抜けるための道に入っていく。
自動ドアが開き、カチューシャが発砲したことで発砲煙が店内にまで入ってくる。
後方にはカチューシャが単身で追撃し、その一本横の道路をIS-2が砲塔を回して近づいてくるのをしっかりとみほは見ていた。
スペック上は向こうの方が足も速いので回り込んでくるのだろうが、違和感があった。
「このままだと前後に…」
みほの言った通り、ノンナの乗るIS-2が砲塔を回して前を押さえにきた。砲塔は牽制のために後ろを向いていたのでノンナを撃てない。
対してノンナは照準をⅣ号に合わせる。
「麻子さん、右にフェイントを入れながら左の道へ入ってください」
「ほーい」
みほが注文を入れると、冷泉は操作レバーを動かす。
大洗磯前神社の大鳥居の下をくぐり抜け、一瞬右レバーを引いてすぐに前に倒し、左を引いた。
そして冷泉の操作通りに一旦右に動いたⅣ号に挟んだ二人は釣られ、その直後に左に曲がった。
「うわっ!?」
そのままの勢いて大洗ホテルに突撃しかけたノンナ達は慌ててブレーキをかけると、颯爽とⅣ号は坂を登っていくとカチューシャも後を追いかける。
「『私はそんな眩しいあなたに必要とされています。毎日がこんなに幸せなことはありません』」
「ノンナァ!日本語!」
「すみません、カチューシャ」
叱責を受けたノンナは素直に頭を下げた。
アウトレットモールを走る八九式と九五式を見て周囲の観客から喝采が巻き起こる。
「な、何か恥ずかしいでありますな」
「どーもでーす!」
磯部が手を振る横で福田は顔を赤くして照れていた。
「ずるいぞ!ここは発砲禁止区域だ!」
「「知ってま〜す!」」
その後ろでマチルダⅡに乗ったルクリリが叫ぶ。九五式は二階に上がって通路を走ると、そこでも歓声が聞こえて照れてしまうと、頭を吊り下がった看板が直撃した。
そして下では八九式とマチルダが追いかけっこをしているのが見える。どう援護したものかと福田は考えていると、目の前にエスカレーターがあるのを見つけた。無茶な行動がお家芸でる知波単学園であり、また視界が今ひとつであったためにそのままエスカレーターに乗り上げてしまった。
「あれっ、あぁっ!!」
しかし無鉄砲に突入をしてしまい、いくら九五式とはいえ無茶が祟ってそのまま滑り落ちてしまう。
「っつ、アヒル殿!この後は?」
そこで噴水を中心にぐるぐる追いかけっこをしていた八九式とマチルダ。
「Dクイック試してみるから、とりあえず付いてきて」
「了解であります。アヒル殿!」
「アヒル殿って、なんかやだなぁ」
文句を言いつつも九五式と共に元来た道に戻っていく八九式。これから何をするのかと福田は首を傾げていた。
するとその時、福田に一本の連絡が入った。
『福田、聞こえているか?』
「っ!西隊長!」
それは先に撃破された西からであった。
「ご無事ですか!?」
『無論だとも』
先ほど、町役場前で撃破されてしまった彼女はそこで少々恥ずかしげな様子で福田に言う。
「申し訳ございません。我々のみが残ってしまい…」
『いや、それは構わない』
「し、しかし…」
すると西は福田に言った。
『福田、これは私の個人的な要望と思って聞いてくれ』
「はいっ!」
彼女は頷くと西からの要望を聞いた。
『この試合の間、何がなんでも生き残ってくれ』
「え?!し、しかし…」
その要望に驚愕すると、西は訳を話す。
『恥ずかしながら、今し方黒田隊長…じゃ無かった。黒田さんに説教を受けてしまってな』
彼女は昔の呼び方で真澄のことを呼んでしまって、直後に言い直した。
福田も中学生の頃、彼女に稽古を付けてもらった経験があり、試合前に挨拶も交わしていた。怖い印象があるが、その分優しさもあった。
『それで、福田には申し訳ないが『大洗の戦い方』を間近で見てほしいのだ』
「…」
西の意見は単純とも言えた。
『今、大洗に残っている他学校は福田だけだ。大洗がなぜ優勝できたのかを間近で見れるのは、今は福田達だけなんだ』
彼女は彼女なりに思うことを口にした。
『中等部にいた頃、黒田さんに言われたことがある。『諸君らの努力は十分だ。だが方向性が間違っている』と。私は、君たちの毎日の献身と努力を無駄にしたくは無いと思っている』
「…」
この話をする西も、かつては黒田真澄の家臣の一人として名を連ねた人物であった。
『それに、知波単に黒田さんが帰ってこない理由も知りたい。すまないが、頼まれてくれないか?』
「…畏まりました」
西の話を聞き、福田は納得した。
「不肖福田。これより大洗の皆様に付いて参ります!」
『うむ、頼んだぞ』
西も福田によろしく頼むと、そこで八九式に付いていった。
その頃、国道五一号線では三式中戦車が後ろに先ほどまでヘッツァーを追いかけていたT-34/76を引き連れて走っていた。
『アリクイ、目標地点にもうすぐ到着だにゃー』
ねこにゃーが後ろにしっかり着いてきていることを確認して無線で伝える。
「こちら準備OK」
「またこんな役か」
「良いじゃん、楽で」
小山が無線で返すと、今の体勢を前に河嶋がやや文句を連ね、角谷は呑気に干し芋を食べる。
現在、ヘッツァーの尻にはB1bisが乗り上げており、黒森峰の時に180トンの下に潜り込んだことを思えば32トンなど怖く無かった。
「行くわよ!スーパー風紀アタックッ!!」
「はい」「はーい」
そこで照準器にサンビーチ通りを爆走する三式中戦車を見る。
「まだねー、まだまだー」
その道の突き当たり、バイバスの上に影が見えた。
「撃て!」
そして下をT-34/76が通過した瞬間、上から無理やり仰角をつけたB1bisが主砲・副砲を一斉に発射してほぼ垂直に砲弾命中させると、T-34/76は白旗をあげた。
「やったぜ、ベイビー!」
それを見たねこにゃーはやや古い歓声をあげた。