知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一〇一射

大洗の街を使って次々と撃破報告や被撃破報告が上がる中、ダージリン達は大洗の街中で停車してテーブルを開いていた。

 

「試合、長引いてますね」

「それだけ大洗が魅力的なチームになったということかしら」

 

その時、遠くで砲声を耳にした。何処で誰が撃ったのかは知らないが、返事をしているような間合いに聞こえた。

 

「ふふっ、最初の練習試合の時のチームも捨てがたいのだけれど」

「隊長によって変わったという事でしょうか?」

「その逆も然りね」

 

ダージリンはそこでカップを傾けながら大洗の街を見る。

 

「お互いが与えられた場を大切にしてきた、そういうことではなくて?」

 

少々謎めかしく彼女はこの時期には咲かない花の話をする。

 

「紫陽花の花は、植えられた土壌の環境によってその花の色を変えるそうよ。みほさんは、育つべくして育った人材ね。でも西住流や姉の許にいたままだったら、きっと今のような色はつけていなかったのではないかしら」

 

そこで彼女達が思い返すのは夏の全国大会。当時無名であった大洗女子学園はどんどん勝ち進み、終いには優勝旗を掻っ攫ってしまった。

 

「やはり、西住みほと黒田真澄という二大巨頭がいたからでしょうか?」

 

アッサムがティーポットを置いて此度の優勝の理由を考える。

 

「いえ、それは違うわアッサム。大洗が勝てたのは『西住みほと大洗の生徒達』のおかげよ」

「なぜでしょうか?」

 

しかしすぐにダージリンが否定し、それにアッサムはやや驚いた。すると彼女の疑問にダージリンはクスッと笑って教えてくれた。

 

「戦車道連盟はどう思っているか知らないけど、真澄さんは『何もしてやれなかった』そうよ」

「…本人から聞かれたのですね」

「軽く基本の教練と練習相手になってあげただけで、あとは全部みほさんにお任せしたそうよ」

 

ダージリンは真澄の言ったことを疑っていなかった。

 

「だから、今回の優勝。真澄さんも『何故だか分からないけど、勝てる気がした』そうよ」

「…彼女らしくない、運に頼った話です」

 

アッサムは今まで収集した彼女に対する戦車道の姿勢からは想像がつかないと口にした。

 

「『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』時に名将でさえ、何故勝ったのか分からないことだってあるわ」

 

ダージリンはそう言い紅茶を傾けると、オレンジペコはやや意気込んだ様子を見せる。

 

「故に、今回の試合では負けられませんね」

「ええ、誰が最初に大洗に黒星をつけられるのか。今頃は他の学校も血眼になっていることでしょう」

 

今の所、練習試合も含めて全て白星の大洗女子学園。今の高校生戦車道、特に強豪校の間ではその牙城を崩すことを虎視眈々と狙っていた。

 

「無論、向こうもそのことを承知している。だから必死になって守りを固めてくることでしょうね」

 

ダージリンがそう言った時、チャーチルの近くに着弾があった。

 

「おのれ、ちょこまかと!!」

「そうだね、すばやい相手だね」

 

撃ったのはヘッツァーで、砲手席には河嶋が乗っていたことで停車中の相手への走行間射撃でも命中打を出せなかった。

そして敵の戦車が近づいたことでダージリン達もティーセットを片付け始める。

 

「忙しないですこと」

「試合中ですってば」

「では、咲き誇る花を摘みに参りましょうか」

「せっかく咲いたのに?」

 

ダージリンの言葉にオレンジペコが首を傾げると、彼女は不敵に笑った。

 

「あら、美しいものであればあるほど、自分だけの傷をつけたくなるものではなくて?」

 

その顔は、まるで欲しがり屋の子供にも、全てを悪魔的に欲する魔女のようにも見えた。

 

 

 

 

 

神社を登り切り、そのまま境内に入ったⅣ号は一度石階段の前で停車した。

 

「…」

 

流石にみほでもこの角度の石階段は停止して身を乗り出して考え込んでしまう。

一週間前の奉納試合で、アヒルさんチームの敵となったテケ車がこの神社の前で恐怖のスライダーをしていたのを見ていた。その時、中央にあった鉄製の柵はボロボロになって撤去されており、Ⅳ号でも降れる状況が出来上がっていた。

エンジンもアイドリングになって静寂が神社に広まり、そのために後ろから追いかけてくるT-34/85の履帯の音を耳にする。この近くにある門を破壊すれば再びゴルフ場に出るのだが、その選択はしたく無かった。またここは発砲禁止区域であるが、下から見覚えのある戦車が姿を現した。

 

「お〜い」

 

石階段の下には土地色・草色・枯草色の三色の日本陸軍後期迷彩で塗られた戦車。

砲塔側面にボコの顔を書き記した自走砲。

キューポラから顔を出すのは見知った幼馴染の顔。

 

「無事〜?」

「大丈夫」

 

大きく手を振って待っているように見えた黒田真澄を見てみほは答えると冷泉に言う。

 

「ここを下ります」

「ん」

 

冷泉は平然と答えたが、武部は不安そうにみほを見た。

 

「大丈夫なの?」

「麻子さんなら大丈夫」

「まかせろ」

 

彼女はそう言うなり躊躇なく戦車を前進させる。鳥居をくぐり、激しい振動と轟音を立てながらⅣ号は石階段を降りていく。

 

「おほ〜」

「こりゃすごいわね」

 

砲塔側面のハッチを開けて石階段を降りていく様を見る榎本。

 

「こりゃ神様も飛び起きそうだ」

 

反対で大久保もほぼ落下しているような勢いのⅣ号と、その後ろを追いかけてきたT-34/85とIS-2を見た。

 

「バッカじゃないの!?ミホーシャ、無茶しちゃってっ!!…うわっ、自走砲!!」

「ここは発砲禁止区域ですよ」

 

駆け降りて行ったⅣ号を見てカチューシャは呆れていると、ノンナは一応の確認をする。

 

「戻って回り込みますか?」

「このまま進むに決まってるじゃない!ミホーシャが出来る事はカチューシャにだって出来るんだから!!」

「知ってます」

 

カチューシャの性格をとことん知っているノンナは予想通りの回答を聞き、後ろを向いて念の為に安全祈願のために手を合わせて一礼する。

その間、黒森峰のヤークトティーガーのような目に遭わないように砲身を後ろ向きに旋回させてからカチューシャは慎重に階段を降り始める。

 

「面白いことをするわね」

 

その様子を見ていた蝶野審判長が観測用の窓から興味深げに微笑む。

 

『救援は必要でしょうか?』

 

審判本部からの連絡を受けるが、蝶野は笑みを大きくして答える。

 

「必要ないわ。彼女達ならあの程度、問題なく下りるでしょう」

 

彼女はそう言うと、実際に先に降りたⅣ号も、後から追いかけた二両も無事に下の県道一〇八号前に降りて一旦南下を始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

福田は八九式に追従をして大洗の街を走っていた。

あのアウトレットモールを脱出してからと言うもの、発砲禁止区域を出たにも関わらずマチルダⅡからの攻撃を受けていなかった。

街中を地元であるアヒルさんチームは右に左に、縦横無尽に駆け回ってあっさりとルクリリの駆るマチルダⅡから逃げ切ってしまった。

元々速度にネックのあるマチルダⅡでは軽快に走る八九式と九五式に追いつけなかった。

 

「…」

 

大洗の街中を走るルクリリはふと、周りの景色を見てあることを思い出した。

それは春に行った大洗との練習試合での一幕。今回の八九式の逃走経路はその時にも通った場所と同一であると確認した。

 

「(ならばこの先は…)」

 

この先の景色は見覚えがあり、八九式と九五式の逃亡先には心当たりがあった。

速度を落として角を曲がると、そこには見覚えのある立体駐車場があった。

 

「…」

 

ハッチを開け、周りを見てみるが二両の姿は何処にもない。

 

「やっぱり…」

 

予想通りだと思い、ルクリリはそのままターンテーブルの上に戦車を移動させる。そしてそのままマチルダⅡを立体駐車場の正面に向ける。

ゆっくりと開いていく扉の背後ではブザー音にかき消されるように機械式立体駐車場から隠れていた八九式が背り上がってくる八九式の姿。

 

「バカめ、二度も騙されるか!」

 

ニヤリと笑って叫ぶと振り返るルクリリ。彼女の車自体はすでに砲塔を後ろの機械式駐車場に向けており、八九式に照準を合わせていた。満面の笑みを浮かべて砲撃指示を立とうとした時、

 

「ん?」

 

八九式が地下から上がってくると同時、真横の機械式駐車場から九五式が降りてくることに気がついた。

 

「え?」

 

流石にこの至近距離であれば、九五式軽戦車の主砲でも上面は貫通されてしまう。

 

「え!?わぁっ!」

 

ルクリリは慌ててハッチを閉めると、九五式が発砲。やや撃ち下ろしであったので車体上部を貫通してマチルダⅡに白旗が上がった。

 

「よし」

「お見事〜!」

 

二度めの正直に磯部はガッツポーツをし、佐々木は撃破した福田達を褒めた。

 

「ああ…」

 

福田はそこで突撃ではなく、地形を利用した搦手によって聖グロの、それも『戦場の女王蜂』と呼ばれたマチルダⅡを九五式軽戦車で撃破したと言う事実に茫然自失となった。

実はゴルフ場での戦果は、後にカバさんチームのものであったと言うことが報告され、撃破したと思っていた面々が意気消沈していたのだが、これに関しては紛れもなく福田や知波単の公式戦果であった。

 

 

 

 

 

その状況を、観客席で西や先に撃破された知波単学園の生徒達は声を上げる。

 

「やるではないか、福田」

「しかしあれは突撃の成果ではないぞ?」

 

生徒達は福田のあげた戦果に賞賛を贈る者もいたが、一方で突撃での戦果でない事に不満を持っている様子の生徒もいた。

その数は五分五分といった様子で、それを見ていた西はそこでハッとなって理解した。

 

「(なるほど、黒田隊長が壊したがっているのはこの雰囲気か)」

 

今の福田の戦果というものは惜しみのない賞賛を贈るべきであり、それ以外に送る言葉はない。

しかし今の状況というのは、突撃という伝統に則らずに撃破したことで純粋な評価ができなくなってしまっている状況であった。

 

「お、いたいた〜」

 

そんな時、西達にある人物が声をかけてきた。

 

「おぉ、これは大洗の」

「どうも〜」

 

声をかけてきたのは撃破されて戻ってきたナカジマであった。

 

「どうかされましたか?」

「ちょっとね〜、ウチの副隊長の話とかを聞きたくて来ちゃった」

 

副隊長と聞き、西は脳裏に二人の副隊長を思い出した。

 

「それは…その、どちらの副隊長でしょうか?」

「黒田ちゃんだよ」

 

ナカジマはやや苦笑して西にいくつか質問をした。

 

「一応。黒田ちゃんの母校でしょ?向こうだと、どんなことをしていたのかなって」

「なるほど…そういうことでしたら」

 

そこで西は中等部での真澄の行動を思い出すと、一言。

 

「…まず喧嘩でしょうか。戦車道部に入ったその日に部室の窓が割れました」

 

初っ端から出てきた西の話にナカジマ達はドン引きした。

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