知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一〇三射

『優勝、大洗女子学園!』

 

第63回戦車道高校生全国大会。廃校をかけて戦い抜いた彼女達の奮闘は苦闘の末に優勝をして幕を下ろした。

 

 

ここ最近の日本の戦車道でもっぱら話題となっているのは『世界で勝てる戦車道』となること。

近々日本で行われる予定である世界大会に向け、文科省とその支援を受けて日本戦車道連盟は積極的に国際強化選手の育成を行い、最終的にはプロリーグ設置を目指していた。

 

大洗女子学園の廃校が言い渡されたのも、そんなプロリーグ設立に向け大きな成果も無く、生徒数も減り、年々老朽化し、修繕費が膨れ上がっていった学園艦の統廃合の槍玉に挙げられていた。

そこで角谷は過去の栄光に縋るように始めたのが戦車道だった。

 

 

 

 

 

某月某日都内某所

 

「どうする、優勝してしまったぞ」

 

暗い部屋の中、会議をする人影があった。

 

「黒森峰が優勝し、それで箔をつけて主要メンバーを全日本強化チームへ参加させ、戦車道各流派と企業を中心としたプロリーグを立ち上げ、そして世界大会へとつづけるプランが…」

 

一人が深刻げに呟く。

 

「それ以前に問題なのは、大洗の勝利は今までの選手育成プランが全て崩壊したことを意味していることだ」

「まさか、そこまでとは」

 

今回の全国大会での優勝は、当の本人達の予想以上に周りの人間に大きな衝撃と影響を与えていた。

 

「いや、今まで我々は優勝校を支援し、そこの生徒を名門大学、名門企業に送り込んで、強化選手にしてきた」

「大洗はその流れを壊した、と?」

「ああ、無名校でも優れた指導と優秀なバックアップ体制を整えれば勝てることを証明した」

 

そこで彼らは大洗女子学園の戦車道部に敷かれた真澄の整えた整備班と輜重班のシステムに関心を持っていた。

 

「やはり、ここでも黒田の娘か…」

「彼女は素晴らしい人材だ。全く、チハ会と揉めてくれなければよかったのだが…」

「しかしおかげで警察庁長官は我々の言いなりとなった。彼がいてくれれば、警察の邪魔もなくなると言うものだ」

 

彼らはそこで真澄の除名処分に圧力をかけたことが弱みとなった巌に対しそう話すと、一人が言う。

 

「だがこの二年の間に彼女は腐らず強襲戦車競技(タンカスロン)の支援企業を設立してくれた。我々も投資のしがいがある」

「ああ、非正規とはいえ多くの個人チームがこぞって名を連ねる良い機会だ。戦車道の認知向上につながる」

「しかしこのままの強襲戦車競技(タンカスロン)は危険だ。いずれ規制せねばなるまい」

 

一人がそんな話をすると、隣にいたもう一人が聞いた。

 

「それ自体は選手層の厚さに繋がるだろう?」

「最大の懸念は『強化選手が今のままでは勝てないのでは?』と疑念を抱くことだ」

「疑念?」

 

そこで首を傾げると、また別の一人が資料を提出する。

 

「この資料を見ろ」

 

そこには戦車道連盟に提出された大洗女子学園の戦車道履修者の名簿が印刷されていた。

 

「大洗の生徒は、隊長の西住みほ、副隊長の黒田真澄、以下印をつけた四名以外が全員素人だ。だがあの試合はどうだ。第一試合のサンダース戦ですら、すでに熟練乗員のような動きをした者までいた」

「あれはサンダースが手を抜いたから…」

「戦車の温存のために強豪校がある程度初戦で手を抜くのは定石だ。だが戦車は素人が扱えるほど簡単じゃない。どの学校でも、未経験者が隊列を組んで行進するのに三ヶ月、目標に砲弾を当てるのに三ヶ月は最低で必要だ」

 

彼らは口々に『大洗の異質さ』を前に驚愕と興味深き視線を送っていた。

 

「それを大洗は一ヶ月程度で戦力化した、と」

「優秀な人材が埋もれていたのは確かだ。だがそれを見出し、育成するのは、普通は指導者たるコーチか監督の役割だ」

「だが大洗にはどちらもいない」

 

それに一人が頷く。

 

「そうだ。今頃は、企業チームの監督は頭が痛いだろうな」

「…黒田真澄の持っているという選手育成プランか?」

 

そこで一人が戦車道連盟の間でも専ら噂になっているモノを口にする。

 

「聖グロのダージリンと共同で出された論文は、国際戦車道連盟も読むほど興味深かった」

「翌年に規制強化という形で改訂されてしまったがな」

「欧米人が負けそうになってアジア人を締め出そうとするのはどの業界でも同じだ。せいぜい自爆するのを見ているが良いだけだ」

 

やや呆れた具合で一人が言うと、背もたれに深く座った一人が言う。

 

「まあ、伝統に縛られて硬直化した今の戦車道だ。そこに良くも悪くも新風を吹き込んだことは確かだろう。彼女達をうまく使えば、日本戦車道を世界で勝てるレベルにできるかもしれない」

「世界で勝てる、だと?」

 

そこで半ば夢物語を語っているようにしか見えない事に嘲笑をしたくなった。だが、彼らもまた『大洗のシンデレラストーリー』の光に目を焼かれていた。

 

「ああ、島田流も西住流も世界では通用している。だがその真髄を身につけるまでには非常に時間がかかる」

「個人重視の島田流、集団重視の西住流。対極のようだが、結局はどちらも乗員全体の優れたコンビネーションが必要だ」

「世界大会には向かない。そこを木戸と彼女の娘は分かっていたのだろう」

「…困ったモノだな。伝統というのは」

 

彼らは二人の身に降りかかった不幸を知っており、故に頭の痛くなってくる話だった。

 

「すでに戦車道連盟より黒田清子氏へ名誉指導顧問への推薦状を送り、承諾は得ています」

 

そこで日本戦車道連盟から派遣された役員が報告をすると、それに短く頷いてそこでプロジェクターで写した先の黒森峰戦の各戦車の動向を見る。

 

「やはり大洗は西住流の指揮官を擁しながらも、あの戦いは島田流のようだ」

「西住流の強力な戦車を揃えた力押しの集団戦ではなく、個々の戦車の能力を追求した変幻自在の島田流を思わせる戦いぶりだ」

「双方の良いとこどりか」

「木戸流のような軽快な足取りを用いた翻弄戦術でもない。全く新しい流派と言って良い」

 

その映像を前に口々に感想を述べるが、一人がⅣ号のキューポラから顔を出すみほとプラウダ戦で一騎当千で五両を撃破した真澄の顔が映し出される。

 

「重要なのはそこではない。素人集団を強化選手のように鍛え上げ、試合に挑ませたその教育法が欲しい」

 

彼らが最も関心を示したのは、春先に乗り始めた素人集団をわずが一ヶ月で全国大会に出場させることのできた訓練方法であった。

 

「確かに、それを手に入れられれば日本の戦車道のレベルは一段階…いや、数段階は上げられる」

「大洗の選手を他校に移し、各学校に新たな風を入れ、来る世界大会までに同じように埋もれている人材の発掘し、『世界に勝てるプロリーグ』を作らねばならぬ」

「それは戦車道の否定にはならないか?」

 

一人が各校の持つ伝統を破壊してしまうような行為に懸念を示すと、一人がそれに返す。

 

「我々が求めているのは、国内だけで通じる『道』のような曖昧なモノではなく、世界大会で優勝し、再び我が国の戦車道を活発化させることだ。そこを理解したまえ」

「そのためには…」

「大洗の存続は認められない」

 

そこで見たのは文科省から派遣された役人だった。大洗の生徒会に廃校の話を行い、此度のシンデレラストーリーを見せる気かけを作った彼は言う。

 

「しかし、私は約束を…」

 

彼はこの一連の活躍と、その対価にかの学校の生徒会長と行った口約束を伝える。

しかし目の前の幹部達はその話に首を傾げる。

 

「約束?契約書はどこにあるのかね?」

「今から予算を…」

「こんな時期に予算を動かすのは無理だ。君も最初から書類を作っていなかっただろう?」

「どこかに特例や抜け穴はないんですか?」

「無い。大洗解体以上に、各校の戦車道のレベルを上げる方法でもあれば別だが…」

「…………」

 

やや強引とも取れるやり方に一人が手をあげる。

 

「一つ、私の方から宜しいでしょうか?」

「何だね?」

 

その一人はある提案を持ちかけた。

 

「黒田真澄から話を聞くのです。彼女の選手強化プランの効果はすでに大洗で確認されています」

 

そう言うと、それを聞いた人物はやや皮肉げに答える。

 

「彼女が我々から話を聞くと思うかね?一度追放された身だ。戦車道連盟をそもそも信用しているかどうか怪しいぞ」

 

今までの境遇や過去の行動から彼らは真澄からの評価を落としていると思っていた。

 

「どちらにせよ、我々は本来のプランを粛々と進めるのみだ。計画に遅滞は許されない」

 

そう言ってその人物は立ち去ると、残された影がグッと手を握りし締めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

試合を終え、日もすっかり傾いてしまった頃。貸し切った大洗スパリゾート『潮騒の湯』に此度のエキシビジョンマッチに参加した全生徒が集まって湯船に浸かっていた。

流石にこの人数ともなると窮屈で、一部知波単学園の生徒達とクマさんチームは遠赤外線サウナに入って精神修養と此度の試合の説教を受けていた。

 

「本日は皆お疲れだった!先ずは全て部隊の健闘を讃えると共に、参加を快諾してくれた聖グロリアーナ女学院・プラウダ高校・知波単学園にも感謝の念を禁じ得ない。更には審判団を派遣してくれた日本戦車道連盟、北関東支部茨城第2管区」

 

その中の大浴場に入って校長先生並みの長さの話をし出した河嶋。無論誰も聞いていない。

 

「そして私事ながら、悲願の初撃破を…」

「河嶋〜。長い」

 

角谷に一蹴され、一瞬沈黙をしてしまう河嶋。

 

「では以上。皆、ゆっくりして行ってくれっ!!」

「はーーーい」

 

楽しそうに答える一同。聞いていた小山もホッとしたように笑みを浮かべる。

 

「いや〜〜〜〜〜今日は私が()()()したのだが、残念ながら負けてしまったな〜」

「とりあえず今回は、あんこう踊りがなくてよかったかな」

 

河嶋は撃破したクルセイダーのことばかり余韻に浸っており、試合の勝敗よりも優先されていた。

もしくは、廃校の危機が回避されたことによる不安から解消されたこともあるかもしれない。

 

「でも小山先輩のあんこう踊りはまた見たかったです!キレがあるって商店街のみなさんも言ってますよ!」

「あまり嬉しくないような…」

「先輩、踊りに興味あるようでしたらバレエどうですか?もちろんバレーでもいいですよ」

「え?え?」

 

そこで磯部達に詰め寄られて小山はやや困惑していた。

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