知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一〇五射

角谷がみほ達に事情説明をして深々と頭を下げる後ろで、役人は短十二糎自走砲の隣に立っていた。

 

「黒田真澄さんですね?」

「えぇ」

 

役人はそこで本人確認を簡単終えると、懐から二通の封筒を渡した。

 

「お手紙をお預かりしております。どうぞ」

「…」

 

その手紙の差出人を確認した彼女はそれをそのままポケットに入れると、質問をした。

 

「ちなみに聞くと、これをやったのは()()()?」

「…」

「どっちかって聞いてんの?」

 

シガレットを咥え、より様になった彼女が役人を問いただすと、彼は少々言いにくそうにした。

 

「普通、学園艦の解体なんて大きすぎて解体業者の手配や入札でこんなに早く決まらない。本来三月に行うのを八月に繰り上げられる人なんて限られるんですよ〜」

 

戦車の横で彼女は言うと、その後ろで他の乗員達も静かに役員を見ていた。その五人の視線を送られ、根負けした役人は小さくため息を吐いた。

 

「上ですよ。詳細はお父様にでもお聞きください」

 

役人の返答を聞き、真澄はやや憐れんだ同情の視線を送った。

 

「やれやれ、中間管理職は胃が痛むね」

「…君の気遣いには礼を言っておく」

 

役人はそう言い残すと学園艦を後にする。そして彼を見送ると、真澄は伊藤に言う。

 

「博子、片っ端から電話しなさい」

「え?何で?」

 

首を傾げた彼女に真澄は言う。

 

「廃校よ?文科省にうちらの戦車取り上げられるに決まってんじゃん」

「っ!なるほど…!!」

 

事の深刻さを理解すると、次に指示を出す。

 

「武代、機動隊の方は?」

「何とか、でも混乱していそうよ」

 

電話をかける彼女は風紀機動隊の事務所に繋げようとしていた。

 

「あーあ、せっかく作ったのにねぇ」

「もったいないなぁ」

 

そこでゾロゾロと戻ってくるみほ達を見る。彼女達は意気消沈した顔で乗り込むと、一路寮や家に戻っていく。

 

「あっ、繋がった」

 

榎本はそこで風紀機動隊の事務所につながると、話をする。

 

「今出せる?」

『はい…一応三個ほどは。しかし我々は自宅待機を…』

「多分、これから生徒会室に生徒達が詰めかけるから。その誘導ってことで緊急出動よ」

『はっ、了解しました』

 

電話一本で風紀機動隊を出動させると、次に彼女は道路に残ったヘッツァーを見る。

 

「ちなみに何もらったの?」

 

榎本が聞くと、真澄は先ほど役人から受け取った二通の風のうち内一枚を渡す。

 

「招待状。ほれ、君たちの分もある」

 

その封筒は透かし印刷で知波単学園の校章が入っていた。

 

「呆れたね〜、推薦状?」

「特待生のね」

「ヘッドハンティング?」

「引き抜きでしょ」

「くだらねぇ〜」

 

それを見て五者五様の反応を見せた。

 

 

 

時は少し戻り、全員が帰った頃。

 

「…会長、もういいですよ」

「すまない」

 

小山に話しかけられ、やや感情のこもった言葉を出す角谷。

 

「いいんです、それが私達の仕事ですから。さあ、桃ちゃんも立って」

「柚子ちゃぁん…」

「ほら泣かないの、私たちも準備をしましょう」

 

足元で泣き崩れる河嶋を小山が介抱をすると、彼女達は校門を開けて中の生徒会室に向かう。

学園艦艦橋の奥のエレベーターに乗り込み、生徒会室前の廊下まで上がると、そこは非常灯の赤いランプが付いていた。

ここは二四時間、誰かしらがいる場所なので本当に廃校になるのだと言うことをまざまざと実感させられる。

 

「ここも真っ暗だな」

「すぐに電気をつけます」

「そう言う意味じゃなかったんだけどなぁ…」

 

やや苦笑して河嶋に言うと、角谷は静かな生徒会室に入る。

 

「…会長」

 

その様子を見てやや震える河嶋を何度か宥めながら生徒会室の中に入る。

 

「諸君、我々の戦いはまだ終わっていない!」

 

角谷が言うと、いつ向いていた河嶋と小山が顔を上げる。

 

「退艦までに艦内を隅々まで綺麗にして、恥ずかしくない姿を文科省に見せつけてやろう!小山、生徒会員を全員招集!」

「はいっ!」

「河嶋」

「はっ!」

「すべての書類を整理、あらゆる備品の員数確認だ。ネジ一本見落とすな!」

「了解!」

 

角谷が言うと、河嶋はキビキビと動き始める。

 

「頼むぞ…これで終わってたまるものか」

 

 

 

その後、生徒会員全員が招集され、生徒達が駆け込んできた。

基本的に文科省の指示で家族は退艦させられていたが、多くの生徒は情報不足で自宅待機をしていたため、招集命令がくると急いで駆けつけていた。

生徒会メンバーは角谷の訓示を聞くと、背筋を伸ばしてそれぞれが非常退艦要項に従って粛々と整頓を始める。

 

「あ〜、こっちこっち!」

「勝手に入ろうとしないで!」

「説明はメールで配信しますから」

 

そして艦橋の足元では風紀機動隊が照射灯も持ち出してメガホンで生徒会室に詰め寄りかける生徒達を誘導していた。

 

「先輩!」

「ん?」

 

その時、一人の生徒が機動隊と共に誘導をしていた真澄に話しかけた。

 

「どうしたゆき?」

 

そこで高校一年生で機動隊所属の尾崎ゆきがやや不安げに見てきた。

 

「その…本当に学校がなくなっちゃうんですね」

「そうよ」

「…あの大洗の決勝戦は何のためにあったのでしょうか…?原ちゃんや幣原ちゃん達も同じことを思っていて…」

 

彼女はそこで黒森峰戦の時のことを口にした。

 

「…」

 

そんな彼女に真澄は僅かに笑うと、膝を曲げて視線を合わせた。

 

「でも無駄ではなくてよ?」

「え?どうしてです?」

 

首を傾げた彼女に真澄は言う。

 

「貴女、大洗は好き?」

「はい。私はここで卒業したいです」

 

彼女は断言すると、真澄は言う。

 

「ならチャンスは巡ってくるってものよ」

 

それだけを言うと、尾崎の頭を軽く叩いてから誘導に戻った。

 

 

 

 

やや混乱の声が生徒会の耳に入りつつも、淡々と作業を行う。

 

「こんな形でこの学校と別れることになるなんて、思わなかったね」

 

小山はそう言って持っていた資料を指でなぞる。

 

「…もう、決議案や予算案の書類…いらないのかな?」

「できるだけ持って行くぞ、これは我々の……歴史だからな」

「この椅子も持っていくからな〜!」

 

角谷はそう言って椅子にもたれかかる。

 

「…迂をもって直となす、最後までできることをやろう」

 

彼女はそこで小山を見る。

 

「小山、書類作ってもらいたい。大至急だ」

「会長!」

「任せてください!」

 

河嶋も反応をすると、そこで生徒会室のドアが開いた。

 

「やぁ会長」

「お〜、外の誘導。ありがとね」

 

そこで風紀機動隊の誘導を行なっていた真澄に角谷は挨拶をすると、そのまま近づいて前に話す。

 

「連絡がつきました。会長」

「ん?」

「落とし物を拾ってくれるそうです」

 

彼女が言うと、角谷はニッと笑った。

 

「OK〜。何処に落とし物を用意すばいいかな?」

 

 

 

 

 

一度、寮や家に戻っていた生徒達も学校が空いたという話を聞いて三々五々に集まってそれぞれの私物やら何やらを取りに学校に来ていた。

 

「ほら、入って」

 

その中ウサギ小屋では澤が残っていたウサギをケージに入れる。

 

「私、生き物係じゃないんだけどな〜。生き物苦手だし」

「慣れるよ!」

「やっぱ置いて行けないもんねこの子達」

 

彼女達はそう言うとウサギをすべてケージに入れて運び出す。

 

 

 

昔、Ⅳ号に取り付ける砲身を見つけた部活動棟。

 

「また貼られている」

 

風紀委員会の貼り付けた張り紙に磯部が一瞬顔を顰めると、近藤が剥がしてバレー部備品置き場に入って道具を持ち出す。

 

「バレー部、もう永遠に復活できないんだね」

「うん…学校がなくなっちゃうんじゃね」

 

佐々木が言うと、全員が一瞬くらい影を落としたが、磯部が持ち出した器具を見て提案をする。

 

「最後にやろっか!バレー!」

「ハイッ!」

 

 

 

校門では園・金春・後藤の三人が学校名の入った銘板を磨いていた。

 

「毎朝毎朝、学校のために遅刻を取り締まってきたのに…」

 

園は銘板を見上げる。

 

「私たち、これから何を生きがいにすればいいの?」

 

落ち込む二人を見て金春は軽い気持ちで銘板を指さす。

 

「校門、持ってく?」

「えっ」

 

その瞬間、園は目を輝かせる。

 

「それ、いいわね!」

「本気じゃないから」

 

金春が冷静に言うと、園と後藤はしゅんと肩を落とす。

直後、空からバレーボールが飛んできて園の頭に命中する。

 

「あっ」

「何してんのよ!」

 

そこには呑気に校門から出てくるアヒルさんチームの姿があった。

 

「あ、すいませーん」

 

磯部が気の抜けた声で答える。

 

「あーあーーあーーー、待って〜〜!」

 

そして目の前をケージから脱走した大人のウサギを慌てて追いかける澤。

 

 

 

街の街灯しか灯らず、学園艦の道を走り抜ける白いトヨタ ソアラ(Z20)

 

「ここを走るのも最後かー」

「しんみりするな!飛ばすぞ!」

 

スズキが呟くとホシノは発破をかける。

 

「走り納めだな!」

 

ツチヤはニコニコしたままシフトレバーに力を込める。

 

「最後に思いっきりドリフトしてやる!」

「思いっきりやんな」

 

ナカジマが許可を出すとツチヤは激しいスキール音を立てて大洗の街にドリフトの音を聴かせた。

 

 

 

カバさんチームの家でもエルヴィン達は荷物をまとめ、アリクイさんチームは部屋で戦略ゲームを行う。

 

「もうだめだ〜、もうだめだ〜。陸に上がったら、この店はあっという間に潰れてしまう」

 

店の前でトリコロールのポールを抱えて秋山の父が絶望的な表情で嘆く。

 

「大丈夫よ!」

 

その様子を毅然と秋山の母が言い放つ。

 

「優花里もね」

「うん」

 

そして二階からその様子を見ていた秋山に言うと、頷いて部屋に戻る。

 

 

 

「えっ、お嬢の学校が!?」

 

連絡を受けて五十鈴家で新三郎が驚いた声を上げてしまう。

 

「転校先の振り分けが決まるまで、しばらく待機になるらしいの」

『でしたら、ぜひお戻りくになってください』

 

彼はすぐに言うが、五十鈴は花壇の中でひまわりの種を一つとって見つめる。

 

「私だけ戻るわけにはいきません。それに…何処でも花は咲けるわ。心が萎れない限り」

『流石お嬢!ご立派です!』

「…」

 

新三郎の感極まった声を最後に電話を切ると、彼女は小さくため息をつく。

 

「とは、言ったものの…」

 

もう一度ひまわりを見ると、その姿は萎れかけていた。これでは行けないとひまわりを見て首を振った。

 

 

 

「いい?家具はここにまとめていたからね?」

 

武部は冷泉の家で彼女を見ながら言うと、彼女は挟まっていた枕を引っ張り出して抱きしめる。

 

「せっかくまとめたのに!」

「枕変わると寝れないんだ」

 

そう言うと枕に顔を埋め、武部はいつも通りの冷泉に呆れたように言う。

 

「何処でも寝れるじゃん」

「眠りの質が違う」

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