「やれやれ、私が纏めるとはね」
学生居住地域にある一軒家、そこでシェアハウスを借りていた榎本達。
「全く、荷物が多くて困っちゃうね」
その隣で伊藤も自分の部屋から荷物を取り出す。
「ちょっと、また増やしたの?」
そこで彼女は伊藤の部屋に積み上げられていた同人誌と十八禁本を前に呆れる。
曰く『呆れるほどエロ娘』の伊藤は個人的な趣味で部屋が真っピンクになる程収集していた。
「この前いい新作出たのよ〜」
「悪いけど、それ風紀委員に摘発されても知らないわよ?」
「どうせ動かないですって。今頃は校門の銘板でも外しているんじゃないんです?」
伊藤は的確に園達の行動を予測していると、そこで段ボール箱に本を仕舞って積み上げる。
「こっち、まだ片付けに時間かかりそう〜」
「OK」
個室で大隈がそう言うと、
「ただいま〜」
玄関が開いて真澄達が戻ってきた。
「おかえり〜」
帰ってきた真澄と大久保の二人は片付けの進む家を見る。
「うわっ、博子の荷物また増えた?」
「また買ったらしいよ?」
積み上がるエロ本を見て呆れたため息を吐くと、彼女は家に上がって自分の部屋の荷物を片付ける。
真澄の部屋はシンプルなもので、片付けもダンボール一つで方が付くほどだった。
「あっ、まだ返してなかったか」
その時、部屋に『ボコキュア』のDVDが埋まっていたことに気がつき、それがみほのものであるとすぐにわかる。
「…後で返すか〜」
「うわぁ!」
返そうかと思った頃、後ろで悲鳴が上がった。何が起こったかはすぐに推察できた。
「ったく、後でヘリに乗せるんだから量考えてよ?」
「わかってますよ」
そこで頭にスケベ本を被った伊藤が答えた。
これらの荷物は学園艦のヘリポートに駐機してある
「…みんな〜、終わったら移動するよ」
「「「「はーい」」」」
真澄が言うと、全員が答えた。
その後、真澄はある場所に向かう。
「あっ、真澄さん」
その途中でみほと出会した。
「これ、借りっぱだったみたい」
「あっ、ボコキュア!真澄さんの家にあったんだ」
見つからなかったDVDを前にみほは安堵した表情をした。
彼女の後ろには榎本達も軽く手を振っており、荷物をまとめ終えた後だった。
「明日には退艦か…」
「寂しいね」
「…そうね」
みほに真澄も頷くと、そのまま彼女達はある場所に向かう。
校門を抜け、校舎を抜けると暗い戦車道練習場へと向かう。
「あーーー!」
「やっぱり隊長達も」
「みんな来てますよ」
そこでは倉庫の前で戦車が並んでいた。
「ちっちゃい身体で頑張ったよな」
「短い間だったけど、本当にありがとう」
八九式の前で磯部達が頭を下げる。
「お前のサンダース戦の一撃はすごかった」
「プラウダ戦も良かったぞ」
「「「「それだ!」」」」
Ⅲ突の前でエルヴィン達はいつもの調子で話し合う。
「特に申し合わせたわけでもないのに、なんか自然に集まっちゃったもも」
「これでお別れピヨ…」
三式の前でももがーとピヨたんが言うと、ねこにゃーは他の車両を見て思った。
「みんな同じ気持ちみたいだったにゃー」
戦車の前にはそれぞれのメンバーがおり、愛着ある車両との別れを惜しんでいた。
「ぴよ…」
「こんなのってないナリ…」
「…まあまだ私たちはいいよね。リアルが充実しまくってるってわけでもないからダメージも少なくて」
ねこにゃーが言うと、聞いていた二人が大慌てで何か別のものにダメージを受けた気がした。
「わぁぁああ、ごめんだにゃー!」
ねこにゃーは慌てて二人を宥める。
「い、いや。そう意味ではなくて…」
そこで彼女はⅣ号を見上げるみほを見る。
「西住さん、前の学校から転校してきて、クラスでもやっと落ち着いてきた頃だったにゃー…」
彼女はそこでみほの苦労を想像した。
「隊長の仕事とか大変なこと乗り越えて、これから楽しいこといっぱい待ってたはずなのに、あんこうチームのみんなともバラバラになっちゃうかもしれないんだにゃー」
みほの転校の騒ぎを知らない彼女であったが、いきなり隊長をやらされてその後の諸々の苦労を見てきた彼女は哀れに思えてしかたなかった。
「西住先輩一番頑張っていたのに…」
「そんなのひどいピヨ…」
それには二人も同情してしまった。
その後、ナカジマ達が黒板を持ってきてメンバー全員で寄せ書きを行った。
「え?マジで銘板剥がしてんじゃん」
「さっきバールで剥がしてたぞ」
「あぁそう…」
伊藤の予測が命中したことに思わず榎本は驚いてしまうと、現場を見ていた冷泉が答える。
「で、なんで冷泉は枕持って来た?」
真澄が聞くと、彼女は枕を見つめた。
「ああ…もう、お別れかもしれないからな」
冷泉の言葉にみほは胸が詰まると、その隣で真澄が言った。
「さて、それはどうかな?」
「え?」
そこで腕時計で時間を確認した真澄に首を傾げると、整備班の一人が声をかけてきた。
「副長、準備できました」
「ん、始めちゃって」
彼女が指示を出すと、整備班所属の九四式六輪自動貨車がヘッドライトを照射したまま校庭を走る。
「何が始まるんです?」
「まあ見てなって」
突然動き始めたトラックや応援の風紀委員会所属の九五式小型乗用車や機動隊所属の九三式装甲自動車に首を傾げた秋山にほくそ笑む大久保。
「…雷?でしょうか」
すると遠くから聞こえた音に五十鈴が首を傾げた。
「違います、あの音は!」
だんだんと近づいてくる音に秋山は心当たりがあった。
「照射ぁ!」
すると機動隊員の一人が叫んで戦車練習場に一斉にライトが照らされる。そして轟音の正体が戦車格納庫の頭上を通過した。
「あれは…」
「サンダース大付属の…C-5Mスーパーギャラクシーです!!」
上空を数かしたその巨人機は胴体にデカデカと校章が印刷された輸送科所属の機体。世界最大級の輸送機に秋山は興奮していた。
その機体は一度学園艦の上空を旋回すると、今し方照射した投光器の灯りを滑走路代わりに着陸を敢行した。
「おぉ〜、珍しく時間ぴったり」
「片っ端から電話した甲斐ありましたね」
真澄と伊藤がそんなことを言って着陸した輸送機を見る。そして着陸をした機体を全員が唖然と見ていると、
「サンダースでウチの戦車を預かってくれるそうだ」
河嶋が口を開いて全員がその方を見た。
「えっ!?大丈夫なんですか!?」
五十鈴の問いに小山が得意そうに書類を見せつける。
「紛失したという書類を作ったわ!」
「これでみんな処分されずにすむね〜」
あっけらかんと角谷が言うと、エンジンを止めてコックピットからケイがタラップを降りてくる。
「お待たせ〜」
「全く世話をかけさせるわね」
その後をアリサがやや不満そうに続いてくる。
「サンキューサンキュー」
「こんなのお安い御用よ!」
ケイはそう言うと一度手を合わせて向き直る。
「さぁ、みんなハリー・アップ!」
「「「「「はい!」」」」」
一斉に答える大洗の生徒達。
「燃料はほぼ空。弾薬も全て降ろしました」
「よくやった」
整備班はそう言い、エキシビジョンマッチでの損傷の修理の傍で必要な作業を全て終わらせてくれた。
「悪いわね。いきなり呼んで」
「ノンノン。お役に立てて光栄よ」
ケイと真澄はそこで早速前方のハッチを開けて戦車を乗せていくⅣ号を見る。
「結構重たいけど飛べる?」
「No problem.上空にKC-10を控えさせているわ」
「…あまり無駄遣いしないことを薦めるわ」
そこで上空を飛ぶ空中給油機にやや苦笑してからロードマスターとなったナオミが戦車の誘導を行う。
「こっちの鎖、長さ調整頼んだ」
「了解」
「Ⅲ突とM3、もっと詰めて!」
「オーラーイオーラーイ」
貨物室では整備班の生徒達があっちこっちを走って乗り込んだ戦車を事前に決めた位置に収まるように誘導を行う。
「かなり人数が多いのね?」
「それぞれ専業化させてある。今は整備班、輜重班、経理班に分けて運営しているわ」
「なるほど、これは便利ね〜」
そこでテキパキと作業を行う様を見てケイは感心していた。
そして全車両の積載を終え、全員が降りたことを確認する。
『確かに預かったわ』
ハッチを閉じ、ロックをかけたことをナオミが操縦席で確認をする。
『移動先が分かったら連絡頂戴!』
無線でケイは言う。
「はい!ありがとうございます!」
『届けてあげるわ』
ナオミはそこで僅かに笑みを見せ、みほとアイコンタクトをとるとすぐに真剣な表情で正面を向く。
コックピットの前では誘導灯を持った整備員の一人がマーシャラーとなってナオミ達の誘導を開始する。
ゆっくりと機体を旋回させてマーシャラーの指示に従うと、エンジンの轟音がみほ達にも聞こえる。最後に右腕をあげて離陸許可を出すと、マーシャラーは走って滑走路から退避した。
「大丈夫でしょうか?」
「重そうだが飛べるのか?」
「頑張って〜」
乗っているのは戦車九台。まずまともに飛べるのかと言う不安が冷泉達を襲う。
行きと違ってとても重くなった機体は先ほどと違って動きもややもっさりとしていた。
「V1」
そして輸送機は離陸決心速度まで加速する。
「VR」
加速し、機首上げ速度まで達して操縦桿を手前に引くと、機体はやや軋みながらも無事に輸送機は離陸をしていった。
「よかった…学校は守れなかったけど、戦車は守ることができました」
「うん…」
秋山に静かにみほは答え、夜空に消えていC-5Mを見送った。
輸送機を見送り、全員がそれぞれ自由時間を迎えると真っ先に真澄達はヘリポートに向かった。
「全くさ、元々荷物減らしていたとはいえ…」
そこで彼女は自家用ヘリコプターに次々とダンボールを乗せていく。
「ちょっとしか運べないから!」
「はーい」
引越し用の荷物を次々と運び入れる伊藤達。それを見てコックピットでは真澄が飛行前の安全チェックを行う。
「ったく、みんな私のところに送ろうとするんだから…」
文句を垂らしながら真澄はチェックを完了させると、榎本が後ろに座った。
「どうした?」
「夜だからついていこうかなって」
「…すぐに戻るよ?」
「大丈夫大丈夫」
榎本がそう返すと、真澄は呆れた様子を見せた。
「どこが大丈夫なんかね」
そう言いつつも助手席に榎本を乗せたままヘリコプターのエンジンをかけて少々重そうに離陸していった。