知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一〇七射

「大洗が廃校?それは撤回されたのではなくて?」

 

紅茶を飲むダージリンは眉を顰めた。

 

「いえ、文科省が廃校を早めたそうです」

「根拠は?」

「サンダースが大洗から戦車を預かったと」

「なんですって?」

「先ほどアリサから連絡をもらいました。伊藤博子と言う、大洗の戦車道履修者から連絡が入って、緊急で今日中に全部の戦車を預かって欲しいと」

 

その名前には聞き覚えがあった。真澄を敬愛する部下の一人だったはずだ。となると、真澄が動いたと言う確証が持てた。

 

「それは深刻ね、他には?」

「すでに大洗港では学園艦から生徒と関係者の退艦がほぼ終了しています」

 

アッサムは大洗の現場の報告を行う。

 

「じゃあ明日明後日にも?」

「恐らく。あとは大洗の街で、制服の投げ売りが始まっています」

「制服…アッサム。それをできるだけ買い集めなさい」

 

予想外の指示にアッサムは驚きの顔を見せるが、すぐに戻る。

 

「それは一体?」

「戦車を預けたと言うことは、大洗は簡単に廃校にされるつもりはないと言うことよ。だとしたら、きっともう一波乱あるわ」

「一波乱ですか」

「ええ、あの生徒会長…何より、真澄さんならこの騒動の本質に勘付いている可能性も…」

 

ダージリンは独り言のようにカップを傾け、そして笑みを浮かべる。

 

「このままだと、大洗に勝利したのは我が校とプラウダだけになるわね」

「ダージリン様!?」

 

彼女の言い振りにアッサムは驚く、

 

「でもあれはエキシビジョンの連合を組んでのこと。単独で出場する公式試合で勝ってこそ、我が校の強さは証明されるわ。ペコ、電話を」

「はい」

 

そこで静かに控えていたオレンジペコが電話機を渡した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ちょっと、まだ運び出せていなかったの?」

「昨日の今日で全部出せるかい」

 

港の前、グランカートに乗せられた盆栽を見て苦笑する真澄に大隈が反論を入れる。

朝日に照らされる大洗港、そこに浮かぶ学園艦だが、艦底部の赤い塗装が見えるほど喫水が浅くなっていた。それはここに住む住人三万と生活物資を降ろしたためである。甲板には猫一匹もいない。

 

普段は九〇〇〇人の生徒がいた校舎も無論、誰もおらず倉庫の黒板の書き置きには中央に書かれた『ありがとう!大洗女子学園戦車道チーム一同』の大きな文字。周りには実に多様な言葉が残されていた。

 

「荷物は?」

「元々減らしていたのが幸いしてたわ。すぐに終わって清靖がヘリも引き取ったわよ」

「なんだか、すっきりしないお別れですね」

「仕方あるまい」

 

そう言うと上空を文科省から派遣されたヘリが通過し、それを見て一瞬角谷が忌々しげに見るがすぐに視線を戻す。

 

「全員、揃っているな」

「はい…」

 

小山がリストを確認すると

 

「出港してしまうんですね」

「これでお別れなんですか…」

 

五十鈴の隣で秋山も残念げに見る。

 

「さらば」

「こんなの彼氏と別れるより辛いよー」

「別れたこともないのに?」

 

厳しい顔の冷泉に武部、最後に五十鈴が容赦なくツッコミを入れる。

 

「行かないで〜〜」

 

港を出ていく学園艦を阪口が追いかけ始めると、それを追うように他の一年生達も追いかけ始める。

 

「笑って見送ろ〜よ〜」

「ありがと〜う」

「元気でね〜」

「「さようなら〜!」」

 

一年生達は立ち入り制限の手前まで学園艦を走って見送ると、他の生徒達も同様に学園艦を見えなくなるまで見送る。

よく見ると港には他にも学園の生徒達が、まだ集合前であるにも関わらず集まっていた。

 

「敬礼!」

 

港では機動隊の隊員達が、整列をして出航をしていく学園艦を見送っていた。

 

「よし、全員バスに乗車!」

 

角谷はそこで待機していたあバスの車列に生徒達を乗せていく。

見慣れた光景を、絶望を纏ったバスの車列は街にだんだんと別れていく。

 

「だんだんバスが別れていくね…」

「生徒の数が多いから、みんな学科毎に分かれて宿泊するそうです。戦車道をとっている人達はみんな固まっているみたいですけど…」

 

みほと秋山はそれぞれ段々と気落ちしていくと、その時に後ろからポテトチップスの袋が突き出され、驚いて振り返る。

 

「とりあえずお菓子、食べよ!」

「みんなで頂きましょう!」

 

そこでは武部が元気を纏って振りまいており、五十鈴もそれに乗っかった。

 

「うん…」

 

二人の気持ちは嬉しいが、当然ながらみほの気分は沈んだままだった。

 

「黒田殿もどうです?」

 

秋山がそこで前に乗り出して座っていた真澄に話しかけると、

 

「あ〜、分かった。あとでまた届けにいくから。仕入れたらそのまま送っちゃって」

 

彼女は秋山を一瞥した後に電話を切ると、そこで聞いた。

 

「どうした?」

「あっ、いえ、一緒にお菓子でもどうかと」

「あぁ、もらっても?」

 

真澄はそこでチップスを一枚受け取った。

 

 

 

戦車道履修者が宿泊することとなったのは磯前神社の裏手にある廃校となった学校であった。

バスを降り、整備班や輜重班、経理班と言った後方で動いていた戦車道履修者も含めた生徒達は荷物を持って木々に囲まれた学校の校舎に入っていく。

 

「転校の振り分けが完了するまでひとまず、ここで待機となりま〜す」

「クラス別に教室が割り当ててある。速やかに移動しろー!」

「「「「「はーい」」」」」

 

河嶋に生徒達は答えると、小山が話しかける。

 

「ふふっ、桃ちゃん大丈夫?」

「…」

「こういう時こそ、我々がしっかりしなければ。それにきっと会長がなんとかしてくれる…はずだ」

 

そう言い、最初に愛用の椅子を校長室に運ばせた角谷は干し芋を食べながらお茶を啜っていた。

 

 

 

生地達は誘導に従って上履きに履き替えると、次々と校内に入って興味深く中を見ている。

戦車道履修者と風紀委員、生徒会メンバー以外にも一部の生徒達が割り当てられ、特にすることもない彼女達は校舎が付近の散策を行ったりしていた。

 

「あっ、先輩」

 

そこで一人の生徒が榎本達に気がついて駆け寄った。

 

「おぉ〜、尾崎ちゃん」

 

彼女はそこで後輩に近づくと、他にも彼女達に声をかける少女が三人。

 

「大隈せんぱ〜い」

「おぉ、原」

「先輩達もこちらにいらしたのですね」

 

彼女達は全員、榎本達が機動隊にいて可愛がっている一年生であった。

 

「あら、幣原もか」

「私もいますよ」

「高橋?」

 

普通科の尾崎ゆき、幣原キヨミの他に農業科の原たか子、水産科の高橋是美が榎本達を見る。

 

「黒田先輩は?」

「校長室。生徒会長に呼ばれたんだって」

 

榎本はここにいない黒田の居場所を軽く答えると、そこで校舎の空き教室の椅子に座る。

 

「わぁ、学校で寝れるなんて…」

「それも数日ね」

 

廃校となった学校の校舎でやや苦笑気味に榎本が答えると、そこで窓の外から見える太平洋を見る。

 

「…夏の決勝戦、先輩達はあれだけ頑張っていたのに廃校ですか」

「どうしたって学園艦の維持費は負担になるからね。BC自由学園みたいに学園艦を組み合わせて学校を統合したりとかもする学校があるわけだし…」

 

尾崎は納得のいかない様子で呟くと、その横で大久保が言う。

 

「元々学園艦の数を減らしていくのは国の方針だからね」

「ただまあ、昨日の今日で追い出されるように学園艦を降りたのは癪だけど」

 

伊藤と大隈はそう言うと、その横で高橋が電卓を叩いて答える。

 

「私としては、大洗女子学園の学園艦を解体することは経済的とも言えるかと」

「是美ちゃん…」

 

計算が得意で、金庫前の番人として優秀な彼女の判断に尾崎がやや不服そうに言う。

 

「でも早いですよ、まだ二学期も始まっていないのに」

「私たち、まだ一年生なんですけど…」

 

原はため息混じりに制服に手を触れると、幣原も頷く。

 

「申し訳ないね〜、機動隊を作ったばっかなのに」

「いえいえ、先輩のせいではありませんから」

 

大久保に尾崎が言うと、彼女は持ってきた荷物をガサガサとさせる。

 

「どうした?」

 

伊藤がそこで首を傾げると、彼女は囲碁盤と碁石、そして葉巻型チョコ入れを取り出した。

 

「暇だし、囲碁でもどうかと。みんなやらない?」

「え?でも私ルールなんて…」

「教えてあげるわよ」

 

驚く幣原に大隈が言って彼女の教えを受けて彼女達が囲碁を打ち始める。

 

 

 

その頃、呼び出しを受けた真澄は元校長室で角谷と対面する。

 

「…で、まんまと出し抜かれた形ですか」

 

シガレットを取り出して彼女は角谷に言う。

 

「そうかな?」

「学校を存続させるために自ら悪役になった貴女がそう言いますか」

 

シガレットを齧る彼女は、そこで角谷杏という女をよく知っていた。

 

「私が戦車をサンダースに引き取らせる時、貴女は戦車を二つ返事で預けた」

「…」

「おかげで大洗女子学園の手元に戦車は残された。会長、貴女は文科省から戦車を隠してまで何をしたいのですか?」

 

真澄の問いかけに角谷はしばし沈黙する。そして長く沈黙をした後、ゆっくりと最初に持ち込ませた椅子に触れる。

 

「…私がこの椅子に座る理由は一つだよ。真澄ちゃん」

 

彼女は窓の外に椅子を回して答える。

 

「廃校を言い渡された時、私はかつての学園の栄光に頼り、ちょうど良くここに流れ着いた西住流の系譜に圧力をかけた」

「…」

「まだ参戦校が他のスポーツと比べても圧倒的に少ない戦車道。残された一年の猶予…ここしか無いと思ったんだ」

 

今、大洗女子学園に所属している戦車はかつて廃部となった際に売れ残った戦車ばかり。どれも一癖も二癖もある車両をレストアしてそのまま全国大会に参戦である。

 

「恥ずかしいね。下級生にこんな弱気を見せるとは…」

「いえいえ、私としてはその献身に舌を巻いてしまいますけどね」

 

正直、並外れた母校愛がなければここまでは動けない。まさに大洗で育った角谷だからできた賜物である。

 

「貴女の努力を見て、みほちゃんや他の生徒達も貴女についてくのでは?」

「そうかな?私も西住ちゃんについて行っているだけの素人だよ」

 

窓の外には鬱蒼と生い茂る緑の森が広がる。

 

「素人?プラウダ戦の大立ち回りは見ものでしたよ」

「そうかなぁ?」

 

角谷はそこで経験者の真澄に言われてやや照れるように反応する。

 

「で、これからどうされるんです?角谷会長」

「…無論、やられたからにはやり返す!」

「倍返しですか?」

「いや〜、等倍でいいよ。その分、やることはきっちりやるだけだよ」

 

みほに圧力をかけて戦車道の引き摺り込んだ張本人はそう言うと、座っていた椅子から立ち上がった。

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