戦車道履修者は集められている中、秋山は楽しそうに自前のツェルトバーンを取り出す。すると彼女と競うようにカバさんチームが張り合おうと幔幕を取り出して野営を始める。
続いてバレー部が練習のために体育館の使用を求めてきたが、機動隊との兼ね合いもあったので共同使用のために空いている時間の使用を河嶋が許可するが、生活拠点にすることは禁止していた。
他チーム、特に一年生達は連れてきたウサギと一緒に暮らせるかと興味を持っていたが、ダメそうだったので割り当てられた教室に戻っていく。
「ねーねー、戦車いつ戻ってくるの?」
「本当に来るのかなぁ」
「サンダースが『これ貰ったー』とか言わないよね」
「サンダースってお金持ちなんだよね?うちの戦車なんていらなくない?」
「あ、でもほら私たちの戦車アメリカ製だから」
「うちのだけ帰って来なかったら困る!」
「困る!」
「またあの飛行機で持ってくるの?」
「でもここって下りられないよね?どうするのかな」
チームメイトを他所に窓の外を見る丸山の視線の先には白いモンシロチョウが飛んでいた。
「いい?私たちは高校生である前に風紀委員なんだからね?」
「それじゃ逆だよそど子」
金春がツッコミを入れると、銘板を持った園は校舎の前で叫ぶ。
「ってなによ!校名つける場所がないじゃない!」
狭い校門にケチをつけるも、取り直して園は風紀委員として銘板を片手に意気込む。
「まあいいわ。ここを第二の大洗女子学園としてしっかり風紀を…」
「…」
「どうしたのよごも代」
しかし彼女の隣で少し言いずらそうにしていた後藤がもじもじしていたので園は話しかけた。
「大洗をいい学校にしたいから風紀委員頑張ってたけど、全部無駄になっちゃったね…」
「私たちはルールを守るように呼び掛けてたけど、そのルールを作る大元が約束を反故にするんだからやってられないよね」
「う…で、でも私たちのやってきたことはちゃんとみんなに伝わって…」
その時、ビリビリと空から微かに音が聞こえた。
その後、秋山の父親が軽トラックで学校前に荷物を届けにきてくれた。
「なんだ、その三角布?」
冷泉の疑問に秋山は説明をする。
「これはツェルトバーンと言って、ドイツ軍のポンチョ兼テントなんですよ」
「登山用の畳めるビバークテントをツェルトっていうけど、あれと同じか?」
「あ、どうでしょう。多分そうだと思いますが、ドイツ以外でも使われていたり、今でも同じようなものが売られているのは知ってます」
説明をしながら秋山はいくつかのツェルトバーンを組み合わせて五人が余裕で寝られるようなテントを設営した。
「凄いですね。こんな大きなテントを直ぐにできるなんて」
「私も作れるようになったらモテモテになるかな?」
感心してその作業を眺めていると、みほは軍用テントの設営の経験があったのであっという間に完成してしまう。
「レーションも各種ありますから!ちょっと待っててください!」
そこで彼女自慢のコレクションを並べ、一回戦のサンダース戦の際に見せてくれたような種類が置かれる。
「何か生き生きしてるよ…」
「逞しい…」
「見習いたいです…」
手際よく野菜を切って調理を行う彼女を見て呆然と見守る武部、冷泉、五十鈴の三人。
野菜を切って鍋に投入し、つながったソーセージを取り出す。
「あれ、五人分にしては多すぎるよね」
「でも全員が食べるには少ないです」
「布団が欲しい」
武部と五十鈴が反対の意見を言い、冷泉は退屈した様子でうつらうつらとし始める。
そこでみほはふと息をついて山の上から海を眺める。
街越しに海が見えるが、相当な距離があり、周囲に見えるのは山と森という一面のクソ緑。いつも無意識に感じていたエンジンの振動もなかった。
「…もう海の上じゃないんだね」
それに気がついてポツリと呟くと、一同も押し黙る。
「波の音も聞こえないし…」
「潮の香りもしませんし…」
「え〜いいじゃん。山も緑がいっぱいあって」
「まぁ、確かにそうだが…」
お気楽そうに答える武部に冷泉が苦笑する。
「ちょっとちょっと、誰よここで焚き火しているのは」
すると彼女達の後ろから声がしてみほが振り返ると、そこには真澄が立っていた。
「あっ、真澄さん」
「黒田殿?」
今まで姿を見せなかった彼女はそこで絶賛沸いている鍋を見て首を傾げた。
「ここで焚き火やっていいの?」
「生徒会から許可はとってあります」
「ベンガジバーナーにしておきなさいよ。校舎まで煙が見えて火事と間違われるわよ」
軽く注意を入れると、みほは聞いた。
「榎本さん達は?」
いつもいそうなメンバーがいないことに疑問を感じていると、真澄はいない理由を短く答える。
「教室で後輩に指導中」
「?」
どう言うことだと首を傾げて聴こうとした時、真澄の後ろから突如轟音が響いてハッとなった。
見上げると、そこには昨夜見たサンダースのC-5Mスーパーギャラクシーの機影があった。
一度磯前神社の上空を通過すると、そのまま機体を見せるように旋回して大洗の町に進入する。
「あら、ギャラクシー」
その機影を見た榎本が呟くと、廊下を一年生達が急いで駆け降りていく。
「届けに来てくれましたよ!榎本先輩!」
態々澤がドアを開けて言うと、そのまま戦車道履修者は校舎を出ていく。
「行かないんですか?先輩」
「…そうね」
「迎えに行きますか」
「よっと」
「碁石吹っ飛ばさないでよ?」
尾崎が聞くと、榎本達はそれに答えるように席を立って教室を出て行った。校舎からは他のチームも一斉に出ていく。
「ちょっ、ちょっと!貴女達上履きのままで…!!」
園はそこで一斉に喜んだ顔で、彼女の言うことも聞かずに出て行った。
「あ…」
そしてそのまま出て行ってしまった彼女達に呆然と立ち尽くす。
「西住、さくら坂通りだ!」
「わかりました!」
無線機を持って通信を行った小山の隣で河嶋が拡声器で叫んだ。
「急ぎましょう!」
「待ってよ〜」
武部は眠たげな冷泉を引っ張って追いかけ、他のメンバーも坂を駆け降りてさくら坂通りを跨ぐ陸橋に向かう。
ちょうどそこでは旋回を終えたC-5Mが超低空で進入してきた。
すでに後部ハッチが展開され、ドラッグシュートが開いて繋げられたパレットに載せられた戦車が一斉に投下されていく。
「LAPESです!戦車を投下する時に位置の誤差を少なくしたい時に使います!」
秋山は説明をするが、誰も聞いていなかった。
「約束通り運んできてくれました!」
「良かった…」
「戦車を見ると、ホッとする…」
そこで戦車を下ろして軽くなったC-5Mはふわっと浮き上がってハッチを閉めながら陸橋の上を通り過ぎていく。
『ちゃんと届けたわよ!』
「ありがとうございます!」
遅れた河嶋がみほに無線を渡すと、ちょうどよくケイが伝えた。
『この貸しは高くつくわよ!』
「えっ!?」
アリサこの声に驚くみほ。しかしその内容にもっと驚く。
『この借りを返すために戦車道を続けなさい!今度は私達がコテンパンにするんだから』
「はいっ!」
ツンデレたっぷりなアリサにみほは勢いよく返事をする。
それに対してC-5Mは主翼を振るとそのまま飛び去っていった。
戦車を届けてくれた彼女達に、みほ達は機体が見えなくなるまで手を振り続けた。
「もう、私たちの言うことなんて、誰も聞いてくれないんだわ…」
その頃、校門の前で園はやや捻くれていた。
その後、投下された戦車に近づいた整備班の生徒が言う。
「わぁ」
「すごい、ピカピカに磨いてありますよ」
「見て、ここ新品になってる〜」
サンダースの方で手入れをしてくれたのだろう痕跡を見てそう話すと、角谷が手配した給油車から補給を受けると、暗くなりかけた道をⅣ号を先頭に仮待機所に移動を開始した。
「お帰りなさい」
「おう」
戻ると、そこでは尾崎達が真澄達の帰りを待っていた。
後ろでは火をつけっぱなしにして出て行った秋山が慌てて戦車を降りて走り去る。
「どう?これが戦車よ」
「…」
真澄に見せられ、呆然と見上げた尾崎は何かときめくものを感じた。
「戦車?自走砲じゃないの?」
「砲戦車って言われたんだから戦車よ」
「うわっ、なんか知波単にいた時みたいな言い訳ですね」
「はははっ、懐かし〜」
短十二糎から降りながら榎本達が言うと、そこで尾崎は一歩前に出て聞いた。
「あの…榎本先輩」
「ん?」
榎本はそこで尾崎に聞かれた。
「その…私たちに戦車道って、できますか?」
その質問に真澄からシガレットを受け取った榎本はやや驚いた表情を見せた。
「それはどうして?」
「あっ、いえ、その…格好いいな、って思って…」
やや照れながら尾崎は言うと、その後ろで原、幣原、高橋の三人も同様に興味津々な様子を見せた。
「…なるほどね」
その返事を聞いて榎本はニッと笑う。
「じゃあ乗ってみようか」
「え?で、でも学校は廃校で…戦車道も…」
尾崎は言うと、真澄がそれに答える。
「やれることはある。それこそ操縦訓練とか無線機の扱い方。装填訓練とか、できる訓練はいくらでもあるわよ?」
戦車を動かす上での基本的な操縦方法を行うだけでも十分な訓練となることを言うと、隣にで肘を立てていた大久保が苦笑する。
「流石に砲撃訓練はできないけどね」
射撃場がないのでどうしようも無いと言うと、大隈が言う。
「どうする?やってみる?」
彼女が聞くと、尾崎は全員の顔を見た後に原達に聞く。
「どうする?」
「まあ、やってみてもいいんじゃない?」
「面白そうじゃん。最後にやろやろ〜」
「私としては異論はありません。戦車の操縦が行えるのは将来的に利益になるかと」
三人はそれぞれ好意的に受け止めると、尾崎は振り返って真澄達に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「「「お願いします」」」
それに続いて後ろの三人も頭を下げると、真澄達も笑みを浮かべた。
「よし、じゃあ明日から稽古をつけるぞ」
「突貫で仕上げるから。キツくいくわよ?」
「覚悟しておいて」
「「「「はい!」」」」
真澄達に尾崎達は元気よく返事をすると、ここに彼女達の戦車道が始まった。