「はい、はい。……分かりました。日曜の十時、大洗町ですね」
その頃、聖グロリアーナ女学院の学生艦ではダージリンが電話の受話器を片手にメモを取っていた。
「ダージリン様、なんだか嬉しそうですわね」
その様子を見て茶髪の三つ編みをした少女がそう呟くと、その中で小柄な少女が呟く。
「日曜日の大洗女子との練習試合でしょうか?」
「ええ、そうよ。ルクリリ、オレンジペコ」
そこでダージリンは受話器を置くと頷く。
「あの人が大洗女子学園にいたの」
「あの人…とは?」
「私達の同志、と言えばわかるでしょう?」
「っ!!」
ダージリンの呟きにオレンジペコが少し驚いた様子を浮かべた。
「あの人が?あの、黒田真澄さんが?」
「ええ、今はマネージャーをしていたわ。今も、彼女と連絡をとりましたもの」
「黒田真澄とは……あの知波単の?」
クルリリがそう聞くとダージリンは頷いた。
「ええ、二年前。中学生大会で知波単学園をベスト2に導き、知波単一強時代を作るかもしれないと謳われたあの最強の軍師ですわ」
「そんな!!」
とんでも無い強敵じゃないかとルクリリは冷や汗が出てしまうと、オレンジペコが首を傾げた。
「でも、彼女は戦車道を除名された筈では?」
その疑問にダージリンは忌々しげな表情を薄く浮かべる。
「ええ、彼女は大会準優勝後。知波単学園同窓会や先輩達と大喧嘩をいたしましたね。
その後彼女が大会で優勝できなかったことに託けてありもしない虐めの情報をでっち上げて、彼女を戦車道の業界から追放したのです」
「そんな事が……!?」
「嘘…」
思わずルクリリやオレンジペコまでも唖然となってしまう。
自分達の聖グロリアーナ学園でもOG会の圧力が掛かっており、戦車の新規更新ができない状況ではある。しかし、ダージリンの何度も重ねた交渉の末。ようやくこの前一両の新規車両を購入することができていた。
「ええ、おそらく彼女は元々より喧嘩早かった部分もありましたので、おそらくはそこを突かれたのでしょう。
オマケにタカ派の彼女は旧体制にしがみ付く敵を中に抱え込んでしまっていた」
気のせいではなく彼女の持っていたカップに力が少し籠る。
「虐めの証拠の時間の時、彼女は私達と共に学校交流会パーティーに参加していた。彼女は会場から一歩も出ていなかったので虐めが出来るはずがないのですよ」
そう言うと彼女は後悔や安堵も交えた表情を浮かべてつぶやいた。
「おそらく彼女は見せしめとして戦車道を除名されたのでしょう。あの時は力及ばす、何処に消えたのかと思いましたが……」
「今日の訓練はここまで!」
『『『『お疲れ様でした!』』』』
空は藍色となり、戦車道履修者は整列して挨拶をする。その後ろでは後方係が訓練を終えた戦車の整備をする。
「え~、急ではあるが。今度の日曜日に練習試合を行う事になった。相手は聖グロリアーナ女学院!!」
河嶋の突然の試合に皆が驚く。
すると戦車道に詳しい秋山が少し渋い表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「聖グロリアーナ女学院は全国大会で準優勝したことがある強豪です……」
「準優勝!?」
対戦相手の学校の名を聞い、榎本達は懐かしげに呟く。
「聖グロね……」
「あそこのスチュアートにチハが食われたんだ」
「でも真澄のお陰で勝てたけどね」
「ええ、集中砲火で叩き潰したわ」
懐かしそうにそう話す彼女達。その表情はとても愉快げであった。
「場所は近日寄る港……大洗町で日曜日の十時に試合開始のため朝六時に学校に集合!」
その後ろで真澄はタブレットを持ってダージリンと話し合って決めた試合内容を伝える。
「試合形式は殲滅戦、六対六の同数対決です。試合区画は大洗町全域となるので……」
マネージャーとして彼女達に教え込んだ戦車道のルールを思い起こさせながら試合の話をする。
そんな中、河嶋の話を聞いてある一人の生徒が絶望した顔で呟く。
「……やめる」
「はい?」
「やっぱり戦車道やめる」
「もうですか!?」
「麻子は朝が弱いんだよ……」
秋山が驚愕し、武部は彼女が低血圧なことを知っているが故にその心情を理解する。
そして冷泉は夕陽に向かって歩き出す。
「ま、待ってください!」
「六時は無理だ!」
「モーニングコールさせていただきます!」
「家までお迎えに行かせてもらいますから」
「朝だぞ? 朝六時に……人間が起きれるか!?」
まるで全人類ができないというような様子で冷泉は言うと秋山が彼女にとってさらに絶望的な話をする。
「いえ、六時集合ですから起きるのは五時ぐらいじゃないと……」
秋山、それ今言ったらまずいですよ!!
思わず榎本達は心の中でそう叫んでしまうと、冷泉はそれを聞いてさらに絶望した表情で言う。
「人には出来ることと出来ないことがある! 短い間だったが世話になった!」
そう言い戦車道から離れて行こうとする彼女を真澄が引き留めた。
「冷泉、本当にそれで良いの?」
「なんだ、黒田」
肩を捕まれ、冷泉が振り向く。
「貴方、ホームセンターで言ったわよね?恩を返すために戦車道をすると」
「うっ……」
恩は恩で返すそうに育てられた彼女は真澄の言葉に思わず動きが止まる。
因みに今回の試合を取り決めた責任者として関係者と話をするために真澄はさらに早い四時起きという話だ。
「そうよ!それに麻子がいなくなったら誰が運転するのよ! それにいいの?単位!!」
「っ!!」
武部の言葉に冷泉は顔がさらに強張る。
「このままじゃ進級できないよ!? 私たちのこと先輩って呼ぶようになっちゃうから! 私のこと沙織先輩って言ってみ!!」
「さ…沙織…せせせっ、先輩……っ!!」
自分の尊厳がめちゃくちゃになる冷泉。そりゃそうだ、大学生ならまだしも高校生でこんなのメンタルが持つはずがない。
「それにさ、ちゃんと卒業しないとおばあちゃん物凄く怒るよ?」
「おばぁ!?」
その瞬間、冷泉の顔が今までで一番青ざめる。まあ、こんな育て方をさせている時点で冷泉の家族は厳しい家だと言うのがすぐに理解できた。
「……わかった…やる」
そして恐れからか麻子は渋々戦車道を続ける事を言った。これで火急の問題は解決されたわけだ。
「大丈夫よ。私が朝に起こしに行くから」
「すまない。黒田」
「そりゃあ、私は戦車道のマネージャーですし」
胸を張って彼女は答えていた。
そして訓練が終わり、日曜日の練習試合の為に各車長とマネージャーは生徒会室に集まって作戦会議をしていた。まぁ、主に河嶋広報の独壇演説に近かったが……。
「いいか、相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力を活かした浸透強襲戦術を得意としている」
そう言い彼女はボードに張り出された聖グロリアーナの主力戦車であるマチルダⅡやチャーチルMk.Ⅶ歩兵戦車の諸元表や得意の戦い方を記した紙を見せる。
部屋にはみほ、真澄、榎本、M3の澤、Ⅲ突のカエサル、八九式の磯部がいた。
「とにかく相手の戦車は堅い、主力のマチルダⅡに対して我々の方は百メートル以内でないと通用しないと思え」
確かに、マチルダの最大装甲は七五ミリ。この中だとⅢ突でなければ遠距離は無理だ。おまけに丸びを帯びているので弾きやすい。
「そこで一両が囮になってこちらの有利となるキルゾーンに敵を引きずり込み、高低差を利用して残りがこれを叩く!」
河嶋の作戦を聞に、各々勝てるビジョンを考えていたが……。
「どうしたの?西住ちゃん、黒田ちゃん達」
角谷が三人の反応を見てそう聞くと、みほは遠慮した様子だった。
「いいから言ってみ~」
角谷は優しく促すと、みほはゆっくりと口を開いた。
「…聖グロリアーナ当然こちらが囮を仕掛けてくることは想定すると思います。裏をかかれ逆包囲される可能性があるので……」
「あ~確かに!」
作戦に皆が納得をした声を出すが……。
「うるさい!私の作戦に口を挟むな!そんなに言うならお前が隊長をやれ!」
「すっ、すみません」
河嶋に怒鳴られ、みほは反射的に頭を下げてしまう。
「いや、みほちゃんは謝らなくて良い」
「何!?黒田!貴様も西住の方を持つ気か!?」
「五月蝿いよ?」
「ヒッ!!」
見た目よりもチキンハートな河嶋は榎本の睨みつけで黙り込んでしまった。
「まあまあ、河嶋。落ち着きなよ……で、黒田ちゃん達はどう思っているの?この作戦じゃあ不満?」
角谷が真澄と榎本に聞くと、二人は答える。
「まあ、広報の作戦は悪くありません」
「トーシローにしては」
「あ”?」
河嶋が聞き捨てならないと言った様子で真澄たちを見る。
「まぁ、打つ手が一つなのは愚策です。最低でも二つ…いや、三つはあったほうがいいかと」
「なるほどね~、でも隊長は経験豊富な西住ちゃんがやるといいよ」
「え?」
まあ、そりゃそうなるよなと真澄達は思う。
「西住ちゃんがうちのチームを引っ張てね。それと榎本ちゃん」
「はい」
「副隊長は河嶋がやることになったんだけどでね。榎本ちゃんも副隊長を務めてくれないかな~。河嶋だけだといろいろ心配だから」
「ええ、分かりました」
榎本は角谷に承諾すると、彼女は続けて彼らをやる気にさせる話を持ちかける。
「頑張ってよー、勝ったら素晴らしい商品をあげるから」
「え?何ですか?」
「最高級干し芋三日分!!」
来やがったよこの干し芋会長、本当に好きだな。
「あ、あの。もし負けたら………?」
磯部が恐る恐る聞く。
「う~ん。大納涼祭りでアンコウ踊りをやってもらおうかな~」
「「「「え”っ!?」」」」
その瞬間、部屋にいた全員……正確にはみほ以外の全員の顔が一気に青ざめた。
「あの、会長…それは流石にまずいんじゃあ……」
思わず真澄が角谷に言うと、彼女は言う。
「みんなのやる気を出させるためだから仕方なし」
「……」
悪魔だ。この干し芋会長、ケロッととんでもねえこと言いやがる。
「じゃあ、河嶋の作戦が失敗した時のための作戦。西住ちゃんと榎本ちゃんそこのところよろしくね~」
悪魔の干し芋ちびっこ会長はそう言い残すと部屋を出て行った。
「必ず勝たないと」
「ええ、みほちゃんにあんな恥辱と狂気の踊りなんてさせらんない」
二人は顔を近づけてそう話す。その後ろでみほはただただ困惑していた。
「ーーむっ」
その頃、遠く離れた場所に居る西住まほは脳裏に嫌な予感を感じた。
この感覚はみほに対するものだった。
「隊長?」
その側で銀髪の少女が首を傾げると、まほは軽く首を横に振っていた。
「いや、何でもない」
まほはそう答えるとホワイトボードに視線を戻していた。