知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一一一射

朝、林の中をあんこうチームのⅣ号とクマさんチームの短十二糎が走り抜ける。

操縦席の冷泉や原以外、全員が開けられるハッチは全て全開にして外を眺める。

 

「ゆ、揺れる〜!」

「ちょっと砂浜を走っただけでいきなり公道走行なんて頭おかしいんじゃないんですか!?」

 

操縦席で軽く悲鳴を上げながら幣原は車体に取り付けられた37ミリ砲の照準を合わせる練習と、揺れる車内で無線の内容を聞き取る訓練をやらされる。

野営をしている大洗海岸近くで大隈が無線を伝えていた。

 

「っ…これ、結構忙しい!!あっ!」

「おっと」

 

クラッチを苦労しながら操作する原は操作を誤って戦車を急停車させながらここまで走る。

 

「大丈夫なの?」

 

その様子を隣で見ていた武田がやや不安そうに短十二糎を見ている。

 

「習うより慣れろだって、真澄がね」

 

砲塔の後ろでは監督役で大久保と伊藤が箱乗りをしており、タンクデサントを敢行していた。

 

「あれ?黒田殿は?」

「東京に行くって、朝から」

 

秋山に大久保が答えると彼女は納得した。東京といえば彼女の実家がある場所だったので、実家に転校手続きで帰ったのだと納得した。

 

「しかし初めて数日で戦車か」

「私達も似たようなもんじゃん」

 

呆れる冷泉に武田が返す。思い返してみれば冷泉も、たまたま乗り合わせたところを、操縦方法を一瞬で覚えて乗りこなしていた。

 

「だが動きが不安だな」

「まだ仮免なのに乗せて良かったの?」

「大丈夫だって、事故りかけたら上から怒鳴ればいいし」

「そ、そんなぁ…」

 

ハッチから顔を出して悲痛な叫びをするのは車長役の尾崎である。装填手兼任で搭乗し、その横で砲手の高橋が揺れる車内で砲身をなるべく揺らさないように心がけていた。

 

「やっぱり重いですね。この車両」

「そりゃあ120ミリの榴弾砲みたいなもんだからね」

 

彼女達は諸用で出かけるために戦車を出していた。

 

「まさか戦車でコンビニに行くことになるなんて〜」

「戦車の免許が役に立ったな」

 

冷泉はそういい、操縦席の覗き窓のそばに置いた免許証を見る。彼女の写真が貼られたそれは、戦車道連盟が認可した戦車専用の免許証であった。

 

「免許の写真くらい目ぱっちり開けて撮りなよ。私のなんてお見合いにも使えるよ!」

 

武部が胸元から取り出した免許を見せる。

 

「うおっ!?」

「あだっ!」

「おっと」

 

その時、原が急ブレーキをかけてタンクデサントしていた二人がそれぞれ反応すると、すぐに大久保が聞いた。

 

「どうした?」

「すみません。左から閃光が飛んできて…」

「左?」

 

どう言うことだと伊藤達は左を見ると、そこには並走して訓練に付き合ってくれるⅣ号と、ハッチから顔を出した武部の持つきめ澄ました写真の乗るキラキラした免許証。

 

「あのねぇ、物理的に不可能なことするんじゃないよ」

「うわっ、キラッキラしてやがる。どう言う現象?」

 

物理的に煌めいているように見えるその免許証に、五十鈴が車内まで照らせると苦笑して免許証をみる。

 

「…無駄に気合い入ってますね」

「あ、コンビニ前から茨城町方面のバスが出てましたよね。時間調べとかないと」

 

そう言って秋山がポケットからスマホを取り出して時間を確認する。

 

「なんで?」

「一度、親のところに戻るんです。転校手続きに親のハンコがいるみたいで」

「保護者…」

 

それを聞いてみほは一瞬俯く。

 

「おばあのところの行かなきゃね」

「面倒だな…また説教されるだろうし」

 

その前で武部がやや乗り出して冷泉に言うと、彼女は面倒そうに眉をやや顰めた。

 

「私もうちに戻んなくちゃ」

 

引っ込んで武部が言うと、ますますみほの表情が暗くなったので五十鈴が不安げにする。

 

「みほさんは?」

「一緒に行こうか?」

 

彼女達はみほの事情を知っていたので着いて行こうかと聞いた。

 

「西住流家元も見てみたいですし」

「ううん、大丈夫一人で帰れる」

「そうですか…」

 

秋山は少々残念そうにしていたので、みほは微笑むと、秋山は顔を上げた。

 

「また今度、遊びに来てね」

「はいっ!」

 

楽しそうなやり取りに五十鈴も微笑んだ。

 

「私は明日、家に帰ります」

「私もそうしようかな〜」

 

武部が五十鈴に続く。

 

「私も…あっ!」

 

みほも熊本までの帰り道を考え始めた時、横を走る短十二糎の向こう。道路脇に設置された看板が目に入った。

 

「止まってください。そのままバックして」

 

みほの指示で急停車し、後退を始めるⅣ号。

 

「ん?どしたの」

 

そこで伊藤が後退をしたⅣ号に首を傾げると、みほは伊藤に指をさす。

 

「?」

 

その意味が後ろであるとすぐに理解して後ろを振り向く。

 

「ボコミュージアム?」

「五〇〇メートル先、右折」

「看板、ボロボロですね」

 

みほが目をキラキラさせた理由をすぐに理解すると、伊藤も首を傾げた。

 

「ボコ?」

「え?こんな場所に?」

 

そこで看板に沿って進むと、そこは本当に営業しているのかと思ってしまうほどボロボロな洋風建築の建物があった。

手すりも錆びて今にも崩壊しそうな状況でみほと伊藤は目をキラキラとさせる。

 

「おぉ…!」

「知らなかった!こんなミュージアムがあるなんて!」

「今までで、一番テンション上がってるよ」

「すげぇ…」

 

その横で呆れる武部と大久保。二両の戦車を駐車場に停めて降りた。

 

「お、お化け屋敷…?」

「なんか暗くない?」

 

そこで短十二糎を降りた尾崎と原がその建物の暗さにやや怯える。

 

「施設の老朽化がひどすぎます。おそらく、長年赤字経営だと言うことでしょう」

「わぁ、役所から怒られそうなレベルですね」

 

すると秋山と五十鈴が入り口を見つけたのでみんなで中に入っていく。

 

「あれも大きいですわね〜」

 

入り口に置かれた巨大なボコ人形を見ながら五十鈴が言って入り口に入る。

 

『おう、よく来やがったな。お前達!』

 

すると入り口でボコ人形が手を振ってみほと伊藤は大興奮。

 

「ボコが喋った!」

「しかも動いてる!」

『おいらが相手してやろう。ボコボコにしてやるぜ!』

「生ボコだ…」

「可愛い〜」

「えー」

 

大興奮の二人にやや引き気味に見る武部。

 

「これ、アニマトロニクスですかね?」

「結構良く出来ていますね」

 

滑らかに動くボコ人形を見て秋山と五十鈴が見つめると、突然殴られたように仰け反る。

 

『うおっ、何をする。やめろ〜!』

「何もしてないよ」

 

するとボコは体をピクピクさせる。

 

『やられた〜』

「だから何もしてないって」 

「イキがる割に弱い」

 

突っ込む武部、冷泉は冷徹に言葉を浴びせる。

 

「「それがボコだから!!」」

「あぁ…そう」

 

もうなんかどうでもいいやと投げやりに大久保はみほと伊藤を見る。

 

「イタリア軍の第一〇軍みたいですね」

「縁起でもないからやめなさい」

「なんか、私たちの他にお客さんいないみたいですけど…」

 

秋山に大久保が突っ込むと、五十鈴は見回して感想を言う。

 

「せんぱ〜い、こっち中に入れるみたいですよ?」

 

すると施設を見た尾崎が手を振って大久保を呼ぶ。

 

『おう、よく来やがったな』

 

そして再びリピートで動くボコ人形。その前から伊藤とみほは動かない。呆れて大久保と秋山は二人を引っ張って館内に入っていく。

 

「え、安っ」

「採算性が取れているとは思えませんね…」

 

そこで料金を支払ったが、四桁をいくと想像していたのに、なんと値段が三桁な事実に驚く幣原と建物の痛み具合や値段を見てすぐに採算性は皆無だなと察する高橋。

 

「うぅ〜、突然崩れたりしないよね?」

「大丈夫じゃないかな?」

 

怯える原に腕をがっしり掴まれる尾崎。

 

「イッツ・ア・ボコワールド…」

 

秋山の持つパンフレットを見ながら、妙に既視感のある世界観でアニマトロニクスが踊り狂う軽快な音楽と共にボートでそれを眺める。

 

「凄いよ、世界中のボコがいるんだよ」

「全部同じにしか見えない」

 

大興奮中のみほだが、武部はやや投げやりに答える。

 

「ボコのボコによるボコのためのボコボコの世界がコンセプトなんだって」

「全然わかんないよ」

 

もはや諦めて適当に答える武部であった。

 

「ボコーテッドマンション…」

「おぉ、お化け屋敷?」

「全然怖くないですね」

「まあボコだから」

 

尾崎達は次のアトラクションを見てそんな感想を述べる。

 

「スペース・ボコンテン…」

「やっぱり見覚えない?」

「なんか怒られそうだからやめておこうよ」

 

パンフレットを持ってアトラクション…と言ってもジェットコースターにしてはゆっくりすぎるものに乗って大久保達は話す。

 

「…遊園地なのかミュージアムなのか」

「コンセプトがまるでバラバラです。安直にコピーをしたからでしょう」

 

やや疲れ気味の大久保に高橋は容赦なく鋭く指摘をする。

 

「次は?」

「ボコショーというものがあるみたいです」

 

秋山が言うと食い気味にみほと伊藤は奥の扉に入って行った。

 

「やれやれ…」

 

それを見て呆れたため息をつく大久保。

 

「どうしますか?先に出ます?」

「あの様子じゃあ満足するまで出てこないよ」

 

尾崎に諦めた様子で大久保も秋山達に続いて奥の扉に入ると、尾崎達もどうしようかと少し相談してからそれに続いていった。

 

「おい、今ぶつかったぞ!気をつけろ!」

「あぁ?」

 

そこではボコが青い猫二人の間をすり抜けようとして、ボコの肩が相手に当たってしまった。

 

「生意気だ、やっちまえ」

「「おお」」

 

親分の白猫に青猫とネズミが反応する。

 

「面白れぇ、返り討ちにしてやら!」

 

それを見て大興奮のみほと伊藤。帰って話のネタになるかな程度に大久保は足を開いて葉巻型チョコを咥える。

 

「口ほどにもない奴らめ!」

「「オラオラオラ」」

「くそっ、このっ」

 

三人にボコボコに蹴り飛ばされて倒れるボコ。

 

「みんな、おいらに力をくれーーー!!」

「ボコ、がんばれ…」

「もっと力を!」

 

ボコから声が飛ぶ。

 

「いけ!」

「がんばれ!」

「もっとだ!」

 

伊藤とみほは一瞬逡巡して息を吸う。

 

「がんばれ、ボコー!」

「「「「え?」」」」

 

その瞬間、誰かが立ち上がって叫ぶ声がし、驚いて尾崎達は振り返ってしまう。

 

「がんばれ、ボコーー!」

「行け!やっちまえぇ!」

 

負けじとみほと伊藤も声を出し、伊藤に関してはほぼ怒号となっていた。

 

「ボコさん、頑張って」

「ボコ、いけーー!」

「ファイト!」

「頑張ってください」

「頑張れ〜」

 

それに釣られて一同も声を出し始める。

 

『きたきたきたー、みんなの応援がオイラのパワーになったぜ、ありがとよ!!』

 

力がみなぎったかのようにボコは立ち上がり始める。

 

『さぁ、お前らまとめてボコボコにやっつけてやるっ!…あらっ!?』

 

そして渾身の一撃を与えようとしたが、その一発は外してしまった。

 

『パワーもらってその程度かよ!』

『オラオラ!』

 

そして再び猫達にボコボコにされるボコ。

 

「何これ?」

「結局はボコボコにされるんですか」

「それがボコだから!」

 

みほは満足げに答えると、猫達は去っていった。

 

「また負けた…」

 

倒れたボコはそのまま猫達が消えると同時にバッと立ち上がって拳を握る。

 

「次は頑張るぞ!」

 

その瞬間、垂れ幕が落ちてショーは終了した。

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