知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一一五射

角谷や真澄が東京に出かけた頃、仮待機所では『臨時生徒会室』と書かれた部屋が存在している。

河嶋と小山の下に腕章をつけた多くの生徒たちが詰めかけていた。

 

「河嶋先輩、虫刺されの薬がなくなりました」

「糧食班です。給食用の米が足りません!」

 

そんな聖徳太子のようになって話を聞き終えた河嶋は次々と指示を出す。

 

「分かった、米も手配する。調達班、事前の通達通り、預けてある倉庫から必要量を受け取ってきてくれ」

「わかりました。運搬は?」

「機動隊に車を出してもらえ」

 

河嶋の指示を聞き、複数の生徒たちは部屋を出ていくと、ある生徒が報告しにくる。

 

「あの…」

「ん?どうした」

「風紀委員の園さん、後藤さん、金春さんが地元の生徒とケンカしてます」

「何だと?場所を教えてくれ」

「はい、海岸沿いのコンビニ駐車場で」

「あそこか…分かった。機動隊の手隙の者を集めてくれ」

 

彼女は小山に後を頼んで出かける準備をする。

 

「ちょっとケンカの仲裁に行ってくる」

 

すると小山はそんな河嶋に微笑む。

 

「何だ」

「桃ちゃん、頑張ってるなぁ…って。もっと泣き叫ぶかと思ったのに」

 

そう言い、彼女は軽く河嶋のモノマネをする。

 

「そんな暇はない!それに今頑張らなければ、いつ頑張ると言うのだ」

「…そうだね」

 

少々頬を膨らして反論をした彼女に小山も頷いた。

 

「会長はどこに行っちゃったんだろうね」

「会長には会長の考えがあるはずだ」

 

そう言い、出かけると言って出て行った角谷を思い返す。

 

 

 

「全くさぁ、なんで風紀委員長が問題起こすのよ」

 

その後、河嶋に命令を受けて集合をした風紀機動隊の面々はトラックに乗り込んで仮待機所を出ていく。

 

「やさぐれてんでしょ?廃校になって仕事無くなっちゃったから」

「面倒な…」

「認知症前のババアかよ」

 

苦笑してトラックを走らせると、ハンドルを握る少女が言う。

 

「私たちの装甲車も持っていかれちゃったしね〜」

「あれの学校の備品扱いだしな」

 

彼らは九四式六輪自動貨車に乗り込んでおり、レストアした車両を使用していた。

風紀委員会ではくろがね四起(九五式小型乗用車)を主に使用し、機動隊はカマボコや九三式装甲自動車を主に使用していた。

しかし廃校と共にそれらはすべて回収されてしまった。

 

「尾崎」

「はい、何でしょうか?」

 

荷台に乗り込んでいた尾崎が答えると、ハンドルを握る三年生の生徒が聞いてくる。

 

「最近、小隊のみんなで黒田さんのところに行っているけど、どうしたの?」

「あっ、あれは…その、戦車を個人的に教えてもらっていて」

「戦車道にでもいくの?」

「あっ、それはまだ分かりませんけど…」

 

彼女はそう答えると、その人は言う。

 

「気をつけてよ?戦車道って結構怪我をしやすいらしいから」

「あっ、それはもう…重々分かっています」

 

尾崎はそう答え、急制動・急発進でぶつけた打撲跡や装填時のミスで絆創膏だらけの手元を見た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

場所は熊本、表札に堂々と書かれたた西住の文字。全体的に和風建築を用いた質素な建物の書斎で西住しほは書類にサインをしていた。

 

「どうしました、まほ?」

「お母様」

 

その時、縁側から足音が聞こえて話しかけると、まほは頭にバンダナ。前から『前進あるのみ』と印刷されたボコではないクマのプリントされたエプロンを掛けて両手に掃除道具を持っていた。

 

「はい。今日は学校の練習もないので、みほの部屋を掃除しようかと」

「もう済んでますよ」

 

しほの返答にまほは驚いてそのまま静かに掃除道具を片付けに仕舞った。

 

「…」

 

そして掃除道具を片付けたあと、西住家本邸の一室にあるみほの部屋に入ったまほはクリーニングされて袋詰めされたままのみほの黒森峰の制服を少し寂しげに見つめ、制服に少し触れる。掃除と称してみほの部屋に入ろうとしていたまほであったが、先にしほに言われてしまったのでやや困った様子で部屋に入った。

彼女は知らないが、まほよりも先にしほが家政婦の菊代と共に部屋の掃除をしていた。

あの日以降、逃げ出すようにみほは家を出て行ってしまった、部屋主のいなくなったこの場所は、それでもその時の香りを残しているようにも感じた。

 

 

 

その後、自宅で飼っている犬と共に近くの公園に移動してベンチに座る。

 

「することがない」

 

彼女はそこでようやく、思ったことを口にした。

 

「みほが大変な時だと言うのにな」

 

まほは犬に話しかけて軽く撫でる。

 

「私が動こうとするとダージリンの奴が止めるんだ」

 

そして彼女が暇を持て余していた理由を口にする。

 

「指揮官は待つのも仕事の内。影響力が大きいものが早計に騒ぐと自体が色々とややこしくなるから、大人しくしていろとな」

 

ダージリンに事実上の謹慎を言い渡されていた彼女は、自分の立場を理解していたが、それでも引っ掛かりを覚えていた。

 

「確かに一理あるが、うまく言いくるめられた感もある」

 

彼女の饒舌ぶりはまほも知るところであり、静観を決め込んでいる裏で何をしているかは彼女も知り得なかった。

すると犬が一吠えして、まほは忘れていたように長いリードを付ける。

 

「よし、束の間の自由を謳歌してこい」

 

そう言うと、犬はビューッと走り始めた。

散歩に来ていたまほは、そこでふと飛んでいく二羽のアマサギを見る。

 

「…」

 

その鳥を見て、まほは脳裏にみほと共にⅡ号戦車F型で近くの沼まで遊びに出かけたことを思い出す。

 

近所の駄菓子屋で購入したアイスを咥えながら、釣竿を戦車に引っ掛けて飛んでいくアマサギを眺め、食べたアイスがみほははずれ、まほはあたりを引いた。

その後、まほが先に戦車を降りて手を伸ばすと、みほは胸を張って戦車から飛び降りたが、姿勢を崩してしまい、それに慌てて支えたが、結局は沼地に倒れで泥んこになり、みほの持っていたアタリとハズレのアイス棒が泥まみれになって分からなくなり、二人で大笑いしてしまった過去だ。

泥んこになったアイス棒でも、洗ったらいけるかもとみほの手を引いて前を走った。

 

そんな昔の思い出に浸っていると、隣で戻ってきた犬が数回吠えていたことに気がついた。

 

「なんだ、もういいのか?」

 

まほが質問をすると、犬はまほの手元にあったおやつに近づいた。

 

「さっき食べたばかりだろうに、仕方のない奴だ」

 

おやつを欲しがったのかと微笑んで彼女は犬におやつを与える。

 

「もしこのまま大洗女子が廃校になったら、みほは黒森峰に戻ってくるのだろうか…」

 

まほは今起こっている問題を前にふとそんなことを口にした。

 

「い、今のは違うんだ。これではまるで、大洗の廃校を願っているようじゃないか」

 

しかし自分の発言を振り返り、犬の頬をにぎにぎしながら否定をし始める。

 

「違うんだぞ、忘れてくれ」

 

犬に向かってまほは言うと、それでもつい本心は漏らしてしまう。

 

「…一緒に戦いたいのは本心だが」

 

まほはそこで夏の全国大会の後にみほの見せた満面の笑みが過る。

その顔だけで、向こうでどんなことがあったのか。彼女は理解できてしまった。

 

「みほは…自分の道を見つけたんだからな」

 

犬は彷徨って近くの匂いを嗅ぎ回る。

 

「大洗女子を倒すのは黒森峰なんだ。だから無くなってしまっては…」

 

犬はおやつを食べ終えた後にまだないかと嗅ぎ回っていた。

 

「無くなっては困る。わかるか?」

 

まほはおやつを取り出すと、その音に反応してすぐに犬は近づいてくる。

 

「今日も私たち三年生は休みだが…。エリカたちが新体制への移行をしているところだ」

 

夏の大会を最後にまほは引退を行い、後輩であり副隊長を務めていたエリカが今度の黒森峰の隊長に選出されていた。

今は彼女の右腕的存在となった赤星と共に新しい黒森峰の部隊編成を行っていた。

 

「うまく行っているだろうか」

 

まほは元隊長としてしっかりと引き継ぎを行えたと思っているが、それでも不安に思うところはあった。

 

「…?」

 

そしておやつの袋を手に取ったが、そこで首を傾げた。

 

「!?」

 

袋を逆さにすると、おやつを入れていた袋は空になっていた。

 

「どう言うことだ?昨日の晩までは十分にあったのに」

 

買ったばかりで何故だろうと首を傾げながらリードを持つと、ピンと張って犬は引っ張られた。

 

「次の黒森峰には、私のできなかったことを…くっ」

 

まほは走る犬を何とか引き戻すと、座っていた足元に一つおやつが転がっていたのを手に取る。

 

「もう一つ残っていたようだな」

 

まほはその一つで犬を釣って軽く戯れると、立ち上がった犬を両手で抱きしめる。

 

「全国大会で、自分の戦車道を見つけたと…みほはそう言ったんだ」

 

まほの脳裏には夕陽の差し込む格納庫で笑うみほの顔があった。

 

「本当に嬉しかったよ」

 

一人の姉として、妹の久しぶりに見た本心からの笑みに嬉しく思わないことはなかった。

 

「だが同時に心が抉られる思いだった」

 

しかし同時に、年子の姉として心に来るものもあった

 

「私には結局、みほの居場所を作ってやることができなかったんだ」

 

本心としては、あの場所で『おかえり』と言いたかった自分もいた。

 

「あの試合で私が勝って居たら、やり直そうと立ち上がった妹の決意を、新しく見つけた仲間や旧友もろとも踏み躙ることになって居たかもしれない。

そうなってたら今度こそみほは戦車道を棄てていた。そうまでして西住の名を守ったとして…」

 

まほはだんだんと犬を抱きしめる力が強くなる。

 

「私の戦車道も、きっと今までと違うなにかになってしまってたんだろうな」

 

あそこで実妹を倒し、その時のみほの絶望した顔と、静かに鋭く見つめてくる真澄の顔。きっと考えたくもない徹底的な溝が生まれてしまっていただろう。もしかすると、二度と会えなくなっていたかもしれない。

その時、抱きしめた犬から悲しげな鳴き声が聞こえ、まほは強く抱きしめすぎてしまったかと思った。

 

「おっとすまない。ちょっと苦しかったか」

 

まほはそこで犬の弛んだ皮膚をクッと寄せて顔を縦に変形させて遊ぶ。

 

「心配らない。みほは勝ったんだぞ、私だって本気だった。それでも、あの状況でよく勝ってくれた」

 

そして犬の皮膚で遊びながら、その時の興奮を思い出して笑みが出てしまう。

すると犬は一吠えしたので、まほは立ち上がる。

 

「そうだな」

 

彼女はそこで立ち上がると、公園を後にして家に帰る。

出る時は表から出たが、まほは何となく勝手口の方に向かうと、そこではもじもじとしている様子のみほが気まずそうに立っていた。

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