知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一一六射

久しぶりの帰省だが、みほの心は重かった。

簡単な荷物を持って私服を着た彼女は、転校に必要な書類のサインをもらうために強制的に帰宅せざる得なかったのだ。

船を降り、バスに乗り換えて勝って知ったる道を歩いて家の前に到着をする。

 

勝手口に手を伸ばそうとして逡巡し、躊躇ってしまっていると、

 

「みほ」

 

横から声をかけられ、声の方を向く。

 

「お姉ちゃん」

 

そこには散歩帰りで私服姿のまほの姿があった。

彼女は帰省してきたみほを見て小さく、しかし温もりのこもった笑みを浮かべる。

 

「お帰り」

 

彼女はそういうと勝手口のドアを開けて中に案内する。

 

「あっ、これお土産」

「ありがとう」

 

みほはそこで大洗産の土産を受け取ってから庭を歩いていく。

 

「…いいの?」

「ここはお前の家だ。戻ってくるのに何の遠慮がある」

 

庭を堂々と歩くまほについていくと、その言葉にみほはほっと息を付くと、彼女に近づく。

 

「まほ?」

 

その時、引き戸を挟んで室内から声がする。

 

「はい」

「お客様なの?」

 

その声の主にどうしようかと慌てるみほ。

 

「学校の友人です」

 

しかし平然と答えたまほにみほは驚きの顔を浮かべた。

 

「…そう」

 

室内で手紙をしたためていたしほは去っていく足音の方をじっと見つめた。

 

 

 

そして家に上がり、二階にあるみほの部屋に部屋主を通すと、中に入って足を止める。

 

「…」

「どうした?」

「…変わってない」

 

みほは部屋を出た時から全く変わっていないことに軽く感動を覚えた。

 

「書類は?」

「あ」

 

まほに言われ、持ってきた鞄を開けて中から書類を取り出す。

 

「これ」

 

書類を受け取り、それを少し見つめる。

 

「ちょっと待ってろ」

「あ、うん」

 

そう言って部屋を出て行ったまほを見送ると、みほは部屋を見回してからゆっくりと奥に入っていく。

 

「ただいま、元気にしてた?」

 

部屋にはサイズの問題や動かしたくなくて置いてきたボコのぬいぐるみや戦車道のあれこれ、壁にかけられた黒森峰のパンツァージャケットがそのままにされていた。埃一つかぶっておらず、丁寧な清掃が行われていると分かる。

机の横の写真立てにはみほとまほが戦車の上でかき氷を食べている写真と、真澄に羽子板でボコボコにされて顔が真っ黒になった清靖を見て、顔に墨を塗られて爆笑している自分達の写真があった。

 

「みほ」

 

すると階段を登る音が聞こえて振り返ると、まほが部屋に戻ってきていた。

その手に持った書類を見ると、そこには母の字と違うサインに家の印鑑が押されていた。

 

「え!?お姉ちゃん、そのサインとハンコは?」

「シーッ」

 

驚くみほに、まほは人差し指を口元に当ててジェスチャーをする。その左手にはハンコが握られていた。

姉の行動に驚き、みほは肩を落として苦笑してしまう。

 

「じゃあ帰るね」

「そうか、送って行こう」

 

用事を終え、書類を締まった彼女はそう言うと二人は車庫に向かう。

 

 

 

車庫には自家用戦車がいくつか並んでおり、その中にサンドイエローに塗装されたⅡ号戦車F型が止まっていた。

 

「結局、転校手続きの書類を作成してとんぼ返りか。忙しないな」

「ごめんね」

 

戦車に乗りながらまほとみほはそう話すと、みほは砲塔の上に座った。

 

「本当に駅まででいいのか?」

「うん、ありがとう…」

 

田んぼの畦道を走りながらみほは故郷を見て回りたいと言ってまほに言う。

このままでは冗談抜きで大洗までまほは見送りかねないとみほは思っていた。

 

「ここも昔のまま…」

 

そこでみほは飛んでいく数羽のアマサギを見てふと昔のことを思い出す。

それは先ほど、まほが思い返したのと同じ思い出だった。

あの後、泥だらけになったアイス棒を持って走っていると、次第にどうでも良くなってしまった。

 

「あのアイス、向こうだと売ってなかったんだよね…」

 

そのアイスは九州地方をメインに活動をしており、かつて遊びにきた真澄達が『珍しい』と言っていた理由に納得できてしまった。

そんな昔の、ずっと続いて欲しいと思うような思い出に浸っていると、故郷の景色を見る間も無く、あっという間に駅前の駐車場についてしまった。

 

「睡眠と食事はちゃんと取っているか?夏バテには気をつけろよ。それから…」

「お姉ちゃん」

 

駅に着き、色々と言うまほにみほは少し笑って見せる。

 

「大丈夫。今度は挫けたりしないよ、みんなと一緒だから」

 

彼女はそういうと戦車から飛び降りる。

その時の彼女は、昔と違ってとても安定した姿勢で落ちる気配もなかった。

 

「…そうか」

 

その安定した飛び降り方に、まほはもう自分が支えなくてもいいほどに成長できたんだと、寂しさと嬉しさが二律背反しながら、それでも姉として少しだけ寂しげな表情をしてしまった。

 

「お姉ちゃん?」

「いや、何でもない」

 

そんな表情に気がついたみほに、まほは気持ちをうやむやにするように返すと、そこで聞いた。

 

「他に…何かできることはあるだろうか?」

「ん〜〜、じゃあ…」

 

みほはそこでまほに聞かれ、その意味をすぐに理解した彼女は一つ、姉にお願いをした。

 

「アイス、奢ってもらおうかな」

 

そこで近くの駄菓子屋のアイスケースを見下ろす。

 

「好きなのを選べ」

 

まほは言うと、みほは少し苦笑してしまう。

 

「えっと…そうじゃなくて、お姉ちゃん選んでよ」

「?仕方のないやつだな」

「えへへ」

 

そこでまほはなぜそんなことをするのだろうかと思いつつも一つ、あの思い出のアイスを手に取ってみほに渡す。

 

「ほら、これで良いか?」

「うん、ありがとう」

 

アイスを受け取って駄菓子屋の前でそれを食べ始める。

 

「電車で帰るのか?」

「あっ、それはね…」

 

アイスを食べながらまほの質問にみほが答えようとした時、二人の上から巨大なローター音が響いた。

オリーブドラブ色一色に塗られたその機体は、そのまま駅前の駐車場に着陸をする。

 

「どうも」

 

そして着陸したヘリコプター(WS-51 ドラゴンフライ)のコックピットからはインカム付きのヘルメットを脱ぎながら見覚えのある青年が降りてきた。

 

「お久しぶりです。まほさん」

「…清靖か」

 

高い鼻にホリのあるくっきりとした顔立ちに大きな瞳と逆三角形の顎とバランスのとれた顔。もしここに十人の女性がいれば、十人が『イケメン』と答えるであろう完璧な容姿の青年、あの黒田真澄の弟である黒田清靖はまほに会釈をすると、駄菓子屋で待っていたみほを態々東京から迎えに来ていた。

 

「なるほど、みほの出迎えか」

「ええ、みほさんに頼まれてしまっては断れませんので」

 

少し恥ずかしげに、しかし嬉しそうに答える彼に、まほも少し笑って見上げる。

 

「しかし大きくなった。前は、私よりも小さかったのにな」

「優秀な父と母のおかげですよ。不便なことばかりです」

 

立ち上がってもなお顔を見上げてしまう身長に、まほはまたも昔を思い返してしまう。

最後に出会ったのも、まほが中等部にいた頃の話で、当時彼は小学生であった。ただこうも見た目が変わってしまうと、色々と混乱してしまうなとプラウダ戦の時からまほは常々思っていた。

 

「ではみほさん。行きましょうか」

「うん」

 

そこで彼はみほの荷物を受け取ると、ヘリの荷台に乗せて彼女の手を取ってヘリコプターに乗せる。

 

「ごめんね。真澄さんにどうせ言われたんでしょう?」

「いやいや、みほさんに頼まれて断る馬鹿はいませんよ。それに姉さんも前に東京で呼び出し受けてましたし…」

「そんな…」

「帰ったら怖いですよ〜。姉さん、今日は一泊こっちに泊まる予定ですから」

「何があるの?」

「さぁ?でも嫌な予感しかしないんですよね〜」

 

彼がわざわざ出迎えに来た事や、みほの手を取った時の手慣れている雰囲気などからまほも色々と察せて嬉しいと思う反面、姉として色々と思う部分も出てきてしまった。無論、みほに手を出そうものならティーガーⅠで突撃をして直接射撃で発砲して差し上げる所存であった。

 

「まほさん」

「?」

 

清靖はそこで一つの白封筒をまほに手渡した。

 

「聖グロのダージリンさんからです。まほさんには個別に渡して欲しいと姉さん経由で言われて…」

「そうか、すまないな」

 

真澄を経由してダージリンから渡された封筒に何だろうかと首を傾げつつも、とりあえす届けてくれたことに感謝をした。

 

「いえいえ。正直、今日家に帰ったら怖くてたまらないんですけどね…ハハハハ」

「…」

 

封筒を受け取ったまほは清靖をじっと見つめる。

 

「…もう、まほお姉ちゃんとは言ってくれないんだな」

 

彼女は挨拶をした時の物足りなさを清靖に向ける。

 

「僕は中学生ですし、この見た目ですからね。流石にこの体では周りが驚きますよ」

 

スーツ姿が型にハマる見た目に苦笑する清靖。姉と全く同じことを言った彼にはまほも笑ってしまう。

 

「フッ…似たもの姉弟だな」

「お褒めの言葉と受け取っておきます。では、しほさんにもよろしくお伝えください」

「ああ」

 

清靖はそう言うと、すでにコックピットに乗り込んで待っていたみほの前の操縦席に座るとエンジンをかけて離陸していく。

座席でみほも手を振っており、まほは離陸していくヘリコプターを見送る。そしてヘリコプターが見えなくなった頃に先ほど受け取った封筒を開けて中の手紙を読む。

 

「…」

 

そして手紙を読んだまほはフッと笑う。

 

「みほ、私を救ってくれたのはお前だ」

 

その手紙を持ち、まほはみほの消えて行った方角を見つめる。

 

「今度は私の番だ」

 

彼女はそう言うと、晴れやかな微笑みを向けた。

 

 

 

離陸し、東京に向かう途中の機内。食べ終えたアイスを見てみほはフフッと笑う。

 

「流石はお姉ちゃん」

 

みほはそう言い『あたり』と書かれたアイス棒を手にしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それは早朝五時、まほがまだ犬を散歩に出かける前の話。

縁側に座って庭に座る犬を見るのはしほだった。

 

「撃てば必中。守りは固く。進む姿は乱れ無し」

 

彼女の手には買ったばかりの犬用のお菓子が用意されている。

 

「鉄の掟、鋼の心」

 

そして犬用のお菓子を逆さまにし、片手から溢れるほどの量を一気に取り出すと、音に反応して犬は近寄ってくる。

 

「わかりますか?」

 

しほは手元でお菓子にがっつく犬に話しかけるが、当の犬はお菓子に夢中でガツガツと食べる。

まほが首を傾げたおやつが無くなっていた理由は、しほが先に思い切り与えていたからであった。

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