知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一一七射

ッーーー!

 

その瞬間、大洗海岸で一発の砲声が轟く。

ここはエキシヴィジョンマッチの試合の終盤、チャーチルを追いかけまくった場所である。

波が泡を立てて白くなりながら細かくなって飛沫をあげる中、洋上に浮かぶ的の上を掠めて離れた場所に着弾して水柱を上げる。

 

「外れ。目標より三〇メートル奥に着弾。敵速、時速二〇キロ」

「修正射します」

 

その様子を九三式砲隊鏡を用いて着弾観測を行っていた尾崎が言うと、砲手の高橋が言われた角度に照準器を合わせて砲塔に戻った尾崎が砲弾と装薬をそれぞれ順番に装填していく。

 

「装填完了!」

「発射!」

 

トリガー代わりの拉縄を手元に巻きつけて引き金を引くと、砲身が大きく後退してもなお抑えきれない反動でやや車体全体が後方に揺れる。

放たれた弾道はそれを見ていた大久保達も確認し、そのまま洋上に着弾。的に命中したことで120ミリ砲弾の榴弾が炸裂。木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「おぉ〜」

「大当たりだ」

 

それを見ていた他の機動隊員所属の生徒達。一人はラジコンの操縦を行っており、洋上に的を乗せた無人船を誘導していた。

 

「よく当てたな。洋上の的なんて波で揺れて当たらないだろうに」

「へへっ、慣れたんでしょうか?」

 

純粋に褒められ、少し嬉しげにする尾崎。

 

「おぉ〜、すごいね〜」

 

その様子を見ていた大久保も素直に尾崎達を褒める。

大洗海岸で砲撃を行うことは、基本的に戦車道の試合以外では禁じられているが、事前の申請と安全に配慮した内容であれば役所に届出をすれば許可されていた。

 

「やってるやってる」

 

その砲撃音を聞いて、山郷が言う。

 

「何の音?」

「尾崎ちゃん達が海に撃ってるんだって」

「練習?」

「大久保先輩達が監督してるんだって」

 

ウサギさんチームの面々は口々に話しながら砲撃訓練を行なっている短十二糎を見た。

 

「熱心ぜよ」

「新しい戦車道履修者か」

「こんな近場で撃っていいのか」

 

120ミリのビリビリとくる砲声を聞きながらカバさんチームはやや驚きつつもトングを使って空き缶を拾っていた。彼女達は海岸でゴミ拾いを行っていた。他にも風紀委員の金春がゴミ拾いに参加していた。

 

「お疲れ様でした。近所の人たちも喜んでいましたよ」

 

ゴミ袋が多く溜まるほど回収し終え、そこで澤が集まった全員に報告をする。

そこでは阪口が左衛門左の真似をし、真似られた本人が恥ずかしがっていた。

 

「お礼に色々と頂いちゃいました」

「飲み物どうぞ」

「野菜がいっぱいだ〜」

「金春先輩にはきゅうりですね、わかります」

「え…何できゅうり…」

 

そこで海岸清掃のお礼にもらった返礼品を見ながら和気藹々と話していると、山郷がある段ボールを見た。

 

「こっちは何?」

「名作映画のDVDみたい」

「処分するから好きなの持ってってくれって」

 

そこで大量に積まれたDVDの箱を覗き込んで大野達は呟く。

 

「へ〜、でも面白そうなものはなさそうだね」

「じゃあこれはいっか」

「あ」

 

山郷達がDVDから離れようとした時、丸山が手にした一枚のDVDに金春が反応した。

 

「これ…劇中でM3が登場するよ。本物じゃなくて、シャーマンを流用したモノらしいけど」

「え!本当ですか!?」

「見よう見よう!」

 

その映画は、ノルマンディー上陸作戦を映した名作映画の監督が若き頃に監督を務めた『1941』と言う題名の映画であった。

 

「ほう、詳しいな金春」

「まあ…」

 

左衛門左がそこで話しかけると、一年生達は宝物を見つけたと大喜びをし、それに金春はやや顔を赤くして照れていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

西住家書斎。

机の上には『大洗銘菓紅はるか紅子芋』と書かれた袋と『友人からのお土産です。 まほ』と書かれた書き置き。そしてハンコが消えていた棚を見てしほは小さく息を付く。

 

「学校の友達、ね」

 

すると静寂を破るようにローター音が聞こえ、耳を弄するほど大きくなると庭先に一機のOH-1が土煙を上げて着陸をする。

所属は霞ヶ浦駐屯地。機体と所属だけで誰が来たのかは一目瞭然であった。

 

「家元、蝶野様がお見えです」

「分かっている」

 

その時、住み込みの弟子が告げるとそのまま客間に通すように言った。

 

 

 

「来年の大会に大洗女子学園が出て来なければ…黒森峰が叩き潰すことが出来なくなるわね」

 

そして客間に移動し、挨拶もそこそこに蝶野を見てしほは事情を理解した様子で静かに口を開くと、蝶野は深々と頭を下げる。

 

 

 

「すまないね。こんな事を君に頼みに来てしまって」

 

同刻、児玉は角谷と共に都内の黒田邸に向かった。

 

「いえいえ、私としても他人事ではありませんので」

 

応接室のソファ、児玉と角谷の反対に座るのは清子であった。

 

 

 

文科省。

角谷は一人で訪れた時とは一転し、蛇に睨まれた蛙のような青い顔をしてソファに座る辻局長。

 

「若手の育成なくしてプロ選手の育成は成し得ません。これだけ考えの隔たりがあってはプロリーグ設置委員会の委員長を私が務めるのは難しいかと」

 

その反対には厳しい顔をしたしほが座る。左横には清子、右には蝶野が座り、空いていた左端に角谷が。そして児玉は場所がないので立って状況を見ていた。

中々の面子を前に、辻は取り寄せた茨城産の干し芋を混ぜたアイスを提供するが、それは彼等にとって神経を逆撫でする行為に等しかった。

 

「いや、それは…。今年度中にプロリーグを設立しなくては、戦車道世界大会の誘致が出来なくなってしまう事は先生もご存じでしょう?」

「勝した学校を廃校にするのは文科省が掲げるスポーツ振興の理念に反するのでは?」

 

しほは冷静に言い放つ。そして彼女は用意された麦茶を飲み始める。

官僚ですら怯える気迫。その理由には彼女の隣に座る清子の影響もある。彼女はこの大洗廃校に巻き込まれた生徒の保護者でもあり、彼女は目元が笑っていなかった。

そんな二人を前に、辻は眼鏡を押さえながら弁明する。

 

「しかしまぐれで優勝した学校ですから…」

 

それを聞き、わずかにしほのこめかみに力が入ると持っていたグラスをダンッとテーブルに叩きつけた。

 

「戦車道にまぐれ無し、あるのは実力のみ」

「!」

 

辻は思わず息を呑む。追い詰められた表情を浮かべる彼に、少し表情を緩める。

 

「どうしたら認めていただけますか?」

 

彼女の質問に、辻は苦し紛れに弁明をするように口に出す。

 

「まぁ…大学選抜チームに勝ちでもしたら…「わかりました!」っ!?」

 

その瞬間、待っていたと言わんばかりに角谷が口を開いた。

 

「勝ったら廃校は撤回して貰えますよね」

「えぇっ!?」

 

角谷の反応に辻は眼鏡がズレる勢いで声が裏返った。

 

「今、ここで覚書を交わして下さい。では口約束は約束ではないようですからねぇ~」

 

彼女の手には『せいやくしょ』と書かれたA4紙とペンが握られていた。

 

「……!!」

 

角谷の予想外の行動に辻は冷や汗をかきながらそのまま顔面にぐりぐりされそうな勢いのサインペンを見た。

しかし、彼とて一度決めた役所の決定を覆されるわけにはいかない国家の役人としてのプライドがある。この試合を取りやめさせることは不可能であるが、やれることはまだあると踏んで書類にサインをした。

 

「あら、美味しい」

「本当?」

 

その後ろで、提供されたアイスを一口食べたしほに清子が反応した。

 

 

 

そして正式な『誓約書』にサインを行い、手筈を整えた後。文科省の廊下で児玉と蝶野が話す。

 

「では蝶野君、急ぎですまないが試合の各種手配を」

「承知しました」

 

児玉と蝶野はその足で大学選抜チームとの試合の調整のために動き出す。

 

「家元、それに児玉理事長、蝶野教官、清子名誉顧問。本日はありがとうございました」

 

その時、角谷はここまで足を運んで協力をしてくれた大人達に頭を下げて礼をする。

すると角谷を見て蝶野は少し微笑んで返す。

 

「礼には及びません。これはあなたたちだけではなく戦車道連盟全体の問題です。そもそも私たちにできたのは舞台を整えるまででした」

「十分です。こうして次に繋げてもらえただけでも」

 

角谷はそう言うと、その彼女の動きを静観していたしほはこれから動く児玉や、苦労する辻を想像しながら話す。

 

「真剣な行動というのは、厄介なもので相手方に必ずなんらかのリアクションを求める事が出来ます。

例えば自分がどう動けば良いか結論を出せない時でも、受容か、拒否か、ハッキリとした結論を要求されてしまいます。

あるいは望んでもいない事への対応に労力を割かねばならない事態になるかもしれません」

 

そこで彼女は角谷の顔を見る。

 

「あの子も、こうして巻き込んだのでしょうか」

「…はい」

 

しほの軽い追求に、角谷は素直に答えた。

 

「こうやって巻き込みました。すみません」

「構いません、みほが自分自身で決めた事です。

もしも流された上でのことでしたら、そちらの方が尚の事あの子を咎めねばなりません。角谷さん」

「はい」

 

しほはみほが再び戦車道をやり出すようになった経緯を理解し、どこか安堵もしたような雰囲気も混ざったような口ぶりで続ける。

 

「あなたは廃校のかかった学校を全国優勝に導き、今また状況を前に動かしました」

 

彼女の隣では、児玉達が電話をかけていた。

 

「あなたの熱意が私たちを動かし、道を切り拓いたのです」

 

しほは夏の大会から始まった変革の波を薄々感じ取っていた。故に、この波を作ったみほ達や角谷のことを褒める。

 

「お見事です」

 

彼女はそう言うと、角谷は少し俯きながらみほを巻き込んだ当時のことを振り返る。

 

「それもこれも、西住さんや黒田さんのおがげです」

 

その時、しほと隣に立っていた清子も僅かに反応した。

 

「行き詰まっていました、自分たちではどうする事も出来ない壁を彼女達が打ち砕いてくれたんです。

黒森峰や知波単での事情はある程度把握してました、酷なことをさせたと思ってます。

ですが彼女達は、どんなときも挫けず私たちを助けてくれました」

 

角谷はそこで窮地に立たされても、それでも立ち向かい続けた二人の女傑の顔が浮かぶ。

 

「だから今度は、西住さん達の戦車道が間違ってなかったと私たちが証明してみせます」

 

その時、しほはやや目を見開き、同時になぜ大洗が優勝できたのかを感じた気がした。

 

「アイスは気に入っていただけましたか?」

「?ええ」

 

その時、角谷の話題の振り方にやや戸惑うしほ。

 

「事が済んだら、ぜひ大洗へお越しください。美味しいもの沢山用意して待ってます」

 

彼女はそう言うと、しほはこれからの苦難を迎える角谷に激励の言葉を贈る。

 

「ご武運を」

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