知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一一八射

文科省で話し合いを終え、大洗に帰る途中。角谷は清子の誘いを受けて東京駅まで送ってもらっていた。

 

「今日はご協力ありがとうございました」

「何の何の、私も巻き込まれた側の人間ですよ」

 

運転手を神谷に任せた彼女は、角谷に微笑んで返す。

 

「ですが、大学選抜との試合を提案してくださって助かりました。私はそこまでビジョンが見えませんでしたから」

 

彼女はそう言って、大学選抜との試合を提案した清子に感謝をする。

清子は二つ返事で協力をしてくれたので、角谷としては安心できる味方であった。

 

「名誉顧問の名がまさかすぐに使うことになるとは思っていなかったけど…まあ、今回は功を奏したようね」

 

清子は日本人初の国際戦車道連盟の役員を務めた経験もある人物だ。そう言った経歴もあり、彼女は戦車道のプロリーグの監修を行う名誉顧問の職を与えられていた。

 

「まぁ…」

 

すると清子は角谷に次の試合を提案した経緯をぶっちゃける。

 

「大学選抜の話は、貴女達が来る直前に真澄から言われたんですけどね」

「そうなのですか?」

 

彼女の口から出た事実に角谷はやや驚いた。

 

「ええ、転校手続きに必要な書類をもらいに家に来て、その時にね」

 

清子は角谷とは別の官僚に真澄が呼び出されたことを巌経由で知っていた。内容こそ知らないが、大洗廃校に反対する官僚との接触があったと言う事実はすでに把握していた。

 

「そうだったんですか…」

 

角谷はそこで真澄も東京に来ていたという事実に驚愕をした。

辻とは別の官僚と会っていたと言う事実を彼女は知らないが、彼女も自分とは別の方向で動いているのかななどと推察をしていた。

 

「まあ、娘の母校をいきなり潰されたと言う点に関しては私も思うところはあるから。後の事はこっちに任せてちょうだい」

「重ねてですが、ありがとうございます」

 

角谷はそう言うと、清子はそんな彼女に微笑みかけて話す。

 

「感謝されることでもありません。あなたのお陰で娘は戦車道に帰ってきてくれました」

 

その時の清子の顔は安堵に満ちた表情だった。

 

「元々は我が家の問題だったのですが、貴女が来たことで彼女も戦車道をやろうと背中を押してくれた。彼女も、貴女に感謝をしているからこうした恩返しをしているのですよ」

「…」

 

清子の話を聞き、角谷はそこで知った彼女の除名処分に関する騒動を思い出す。

彼女の父により、冤罪を突きつけられた彼女は強制的に戦車道を奪われた。その後遺症は今も残ってはいるが、お陰で彼女は活気を取り戻した。

 

「しかし、私はご迷惑をかけました。他所の家の問題に踏み込んだのですから」

「元々こちらの問題です。夫は今も悩み続けていますから、ある意味でトントンと言ったところでしょう」

 

かつての所業を理由に巌は退職願を出そうとしていたが、情報を握った戦車道連盟や戦車道興進を目論む官僚達などから取り下げをくらい、彼は彼等の言いなりに動くしかなかった。

『四機の熊親父』とまで言われた巌がバックにつけば、戦車道の試合で住民の避難や戦車道の危険性を訴える一部の警察官僚などは萎縮して動けなくなってしまった。

 

「さて、そろそろ駅ですね」

「送ってくださってありがとうございます」

「いえいえ、貴女もお気をつけて。娘にどうぞよろしく」

「はい」

 

そこで車は東京駅に到着をすると、彼女はそのまま茨城に向かう列車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その時、仮待機所の一部屋では不穏な空気が蔓延していた。

 

「…」トントントントン

 

部屋に中では一人、真澄が椅子に座ってこめかみに指を当てて肘を立てていた。

 

「うわっ、マジギレじゃん…」

「く、黒田先輩…」

 

その様子を見ていた大隈はドン引きし、尾崎は怯えてしまっていた。

部屋のドアの前では榎本以外のクマさんチームや尾崎達が恐ろしい目をしていた。

 

「ど、どうしたの?」

 

すると窓の外から見ていた彼女達に武部が話しかけた。隣にはみほ達あんこうチームの面々がおり、何があったかと不安げに見ていた。

 

「中、真澄がブチギレ寸前の模様」

 

武部の問いに大久保が答えた。

 

「えぇ…」

「それは…」

「おばあ並みに恐ろしいな」

「あらあら」

「黒田殿、どうしたのでしょうか?」

 

あんこうチームの五人は爆発寸前の真澄にそれぞれ疑問を感じていると、伊藤が事情を話す。

 

「東京から帰ってきたっきりこれでね」

「怖いですね…」

「そろそろ物が飛んでくるのでは?」

 

幣原と高橋がそんな事を口にすると、仮待機所に騒がしい声が聞こえてきた。

 

「ん?なんだ?」

 

冷泉がそれに反応して声のする方を見る。すると、

 

「あ、こっちだこっち」

 

仮待機所の廊下を歩いて一人の好青年が現れた。清靖である。

ああ、どうりで声が上がるわけだと顔を見た瞬間に冷泉達は察した。

 

「あっ!清靖くん」

「どうも皆さん」

「どうしたの?」

 

この前、九州の実家から百里のヘリポートまで送ってくれた清靖にみほが反応をすると、彼は頭を軽くかいた。

 

「いやぁ、そろそろ姉さんが暴れ出さないかって思ってさ」

「「「「「あぁ…」」」」」

 

妙に納得できる理由に一同頷いてしまう。

 

「まだ暴れてなさそうでよかった…」

 

清靖は窓が割れていない静かな仮待機所を見てホッとすると後ろを振り返った。

 

「大丈夫そうだよ。まだ暴れていない」

「…そうか」

 

すると野太く、重い声が廊下に聞こえた。

誰の声だと武部達が首を傾げた瞬間、仮待機所にヌッと大きな影が現れた。

 

「なっ…!?」

「だ、誰この人?!」

 

その巨体と濃い顔、熊のような威圧感を持ったその男を見て武部達は驚愕をした。ザッと二メートル近い身長があるにではないかと思うほどの巨体だ。

 

「あっ」

 

しかしみほと大隈達だけは、その男性を見上げて少し驚いた。

 

「お、お久しぶりです。巌さん」

「…ああ」

 

その男性はみほを見ると、短く答えた。

 

「み、みぽりん?」

「だ、大丈夫なのでありますか?」

 

あまりの威圧感から秋山は怯えて後ろ手にM24型柄付手榴弾(ポテトマッシャー)を取り出してしまう始末。

しかしみほは見知った顔の様子で男性に気安く話しかけた。

 

「久しぶりにお会いしたな。いつぶりだったか」

「えっと、四年ほどでしょうか?お姉ちゃんの東京遠征でお世話になりましたので」

「そうか…」

 

年月を聞き、男性の中でのみほの記憶と今の姿の照らし合わせを行った。

 

「随分とあの頃から大きくなった」

 

そう言う男性はみほを見ると、膝を曲げて顔を近寄らせた。

 

「あの方は、みほさんとお知り合いなのでしょうか?」

「誰の親だ?」

 

五十鈴と冷泉はみほの反応からそれぞれ推察をすると、尾崎達も突然現れた男性に驚愕していた。

するとそんな部屋の外のガヤガヤに気が付いたのか、真澄がドアを開けて廊下を右に見た時に思わず声が出た。

 

「ゲッ、親父?!」

『『『『えっ!?』』』』

 

その一言に武部達は驚愕をする。

 

「何でここに?」

「榎本さんに呼ばれたんだよ」

 

武部達とは別の意味で驚愕をしていた真澄に清靖が言うと、武部が恐る恐る聞いた。

 

「え?今お父さんって…」

「ではこの方は、真澄さんのお父様であらせられるのですか?」

「そうだよ」

 

真澄はやや呆れたように彼女よりも身長の大きな巌を見る。

 

「えぇ…」

「すごい、人ですね」

「熊みたい…」

「黒田先輩のお父さん…」

 

すると予想外の来客の正体を知った尾崎達は唖然となりながら巌を見上げていた。

一見、ヤクザのようにも見えてしまう巌を前に武部達は唖然となった後に真澄や清靖と顔を見合わせる。

 

「あっ、でも結構似てるかも」

「特に真澄さんとお父様はそっくりですわね」

 

武部と五十鈴はそんな事を言うと、巌はみほに聞いた。

 

「みほさん、今度の誕生日は何が欲しいですか?」

「おい、甘やかすんじゃ無いよ親父」

 

巌に真澄が呆れた様子で言うと、みほとの関係ある人物のイメージからかけ離れたその姿にどう言う事だと困惑している武部達。

 

「昔、みほさんた父さんと出会った時に『ボコみたい』って父さんのこと怖がらなくて…ほら、あの見た目だから大体子供に泣かれた父さん。嬉しかったみたいでね」

「あぁ…」

「なるほど」

「それで黒田も呆れているわけか」

 

さっきまでブチギレ寸前だった真澄もすっかり呆れてしまった様子を見て武部達は安堵すると同時に、彼女の父親がここを訪れた理由を察せてしまった。

 

「ガス抜き要員という事ですか」

「そゆこと」

 

五十鈴に榎本が答える。

 

「お、戻ってきたの?」

「ええ、呼び出し終えたからね」

 

清靖と巌を読んだ張本人は真澄を見て安堵した様子を見せる。

 

「とりあえず、巌さんとみほちゃんがいたら真澄は呆れて怒りもおさまるかなって」

「流石に手慣れているな」

「そりゃあね、小学校以来の付き合いですもん」

 

真澄の扱いに関して完璧なまでに誘導を行った榎本の手腕に冷泉は舌を巻く。

 

「すごいですね。黒田先輩のお父さんと西住先輩の組み合わせ…」

「とんでもない化学反応よ」

「まじ奇跡よ」

「しかもこう言う時の特効薬です」

 

尾崎に大隈達もウンウンと頷いて三人を見る。

 

「で、親父何でここに来た?」

「ああ…」

 

そこで真澄に聞かれた巌は立ち上がると、そこで彼女が出てきた教室を見る。

 

「話すことがある」

「…そーですか」

 

教室を見て言ったので、真澄はすぐに『あまり余人に聞かれたく無い話があるのだろう』と察した。すると真澄は二回手を叩く。

 

「は〜いみんな、とりあえず出てけ」

「え?」

「どうしたのいきなり」

「親父と話があるのよ」

 

彼女はそう言うと武部含めたここにいた全員を廊下から追い出した。

 

「清靖、武代。監視頼んだ」

「りょーかい」

「分かった」

 

そこで榎本に言うと、他の生徒達も次々と追い出されるように教室から離れる。巌と真澄は部屋の中にはいる。

巌は体が大きいのでやや屈みながら教室に入ると、そこで教室に残されていた椅子に座る。

 

「真澄、次の試合が決まった」

 

そして開口一番、彼から真澄は新しい情報を聞いた。

 

「何処と?」

「大学選抜だ」

 

巌の返事にピクッと一瞬眉を動かした真澄は目元を変える。

 

「…プロリーグのチームとですか」

 

真澄は巌から聞いた情報に相槌を打つと、彼は言う。

 

「取り繕わなくていい。お前が東京で何をしたかは聞いている」

「おい、しれっと娘の動向観察させんじゃないよ」

 

巌の言い方に真澄は突っ込まざるを得なかった。おかげで色々と考えていたことが一瞬で吹き飛んでしまった。

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