夕暮れに染まり、赤く染まった仮待機所。
カラスも巣に帰ってしまうほどの時間、河嶋は一人でリヤカーを引いていた。
リヤカーには彼女の数倍はあろうかと言う体積のパイプ椅子や段ボール箱を載せて。
「うわっ、あぶっ!」
苦労して引っ張ってゴミ置き場まで運んでいたが、足元がおぼつかない彼女は後ろから滑り落ちてきた段ボール箱に頭をぶつけて前に倒れてしまう。そしてバランスを崩し、そのままパイプ椅子までも巻き込んで倒れた。
下敷きとなり、埃丸けになった彼女は体を起こして折れかけた心を強制的に立て直して前を見た時、校門でリュックサックを背負った角谷が立っていた。
「ただいま」
その時、色々と限界を迎えていた彼女はブアッと涙が込み上げた。
彼女がいない間、多くの
「かいちょーーーーー!」
半ばタックルのように抱きついて号泣をすると、角谷は優しく頭を撫でた。
その後、軽いチャイム音が流れた。
『非常呼集、非常呼集!会長が帰還されました!戦車道履修者は直ちに講堂に集合!繰り返します!戦車道履修者は直ちに集合!』
小山の声が響き渡り、その放送を聞いた戦車道履修者達は一斉に顔を上げる。
「とにかく…いくにゃー」
放送を聞き、バーベルを使ってベンチプレスをしていたねこにゃーがそう言うと、簡単に放り投げて起き上がる。
それを聞いた阪口は首を傾げて放送に混じって聞こえる音に気がつく。
「ねえ、後ろで変な声聞こえない?」
「こわ〜い」
彼女達は川沿いでハゼの干物や銛、籠や土器まで並んで近くにはティピーまで設営されていた。
「なにこれ?」
「泣き声?」
「え?ホラーやめてよ?」
海岸ではクマさんチームや機動隊隊員達も顔を上げて放送を聞いていた。
ちなみに音の正体は、小山の足元で泣きじゃくっていた河嶋であった。
その後、講堂に戦車道履修者達は集められ、壇上に河嶋・角谷・小山の生徒会トリオが立っていた。
「全員集まったな」
泣き止んだが、ハンカチ片手にまだ目元の赤い彼女は生徒達を一瞥して点呼を取った。
「カモさんチームが来てませ〜ん」
「何ーーー!」
磯部の報告に河嶋はブチギレ、そのテンプレと化したいつもの光景に生徒達は呆れた視線を送る中、冷泉は体の向きを変えて出口に向かっていく。
「何をするの?」
「遅刻を取り締まってくる」
そしてそのまま彼女は講堂を後にすると、ニワトリ小屋に向かった。
そこでは髪も服装も乱れ切ってやさぐれていた風紀委員会の三人がタイヤに座り込んでキュウリを齧っていた。
「何してる?」
「関係ないでしょ」
「集合だ」
「いやだ」
金春が代わりに答え、後藤が口を開く。
「集まって何するってのよ」
その答えに、冷泉は園の袖を掴んで引っ張り上げる。
「いいから来い!」
「何すんのよ〜、離しなさいよ〜、私たちのことなんか放っといてよ〜」
ジタバタする彼女に冷泉は叫ぶ。
「そど子がいないと風紀が乱れるだろ!」
その言葉に園は一瞬石のように固まる。流石に冷泉も照れて少し俯いてしまう。
「それにちょっと寂しい」
「私たちは寂しくないんだからぁ〜!」
その言葉に、ついに園達も泣き出してしまい、その後冷泉に連れられて三人は泣きながら講堂に入ってきた。
「泣き生徒多くね?」
「ストレスストレス」
真澄はこの場に四人も泣く生徒がいる事実に苦笑すると、榎本が耳打ちをした。
そして後ろではハンカチを渡した武部が、園に思い切り鼻をかまれてしまってドン引きしていた。
その様子を気にすることなく、全員が集まったことを確認した角谷は発表をした。
「みんな!試合が決まった!!」
どよめく一同。なお真澄達クマさんチームは表情を変えずに角谷を見ると、角谷も真澄の顔を見た。
「試合?」
「大学強化チームとだ!」
対戦相手にみほと秋山は驚愕する。
「大学強化チームとの試合で勝てば、今度こそ廃校は撤回される!!」
彼女はそう言い、ガサゴソと鞄から一枚のバインダーを取り出す。
「文科省局長から念書も取ってきた!日本戦車道連盟、大学戦車道連盟、高校戦車道連盟の承認も貰った!」
そう言って差し出された上には言った他に文科省大臣と学園艦局長のサインと印鑑もある。彼女、本気である。
「さすが会長~〜!!」
「やっぱりちゃんと動いてくれてたんですね!」
河嶋と小山は泣きながら角谷を見る。
「会長!もう隠してる事はないんですよね?」
「ない!」
カエサルの質問に胸を張って答える。
「勝ったら本当に廃校撤回なんですね!」
「そうだ!」
磯部にも同様に答える。
「無理な戦いと言うのはわかってる。だが…必ず勝って、みんなで大洗に」
角谷は壇上を飛び降りると顔を上げる。
「学園艦に帰ろう!!」
それを聞き、大いに盛り上がる一同。
「やるぜよ!」
「敗者復活!」
「頑張りましょう!」
「オーーー!」
その横で真剣な顔になる風紀委員。
「あんたも『オー!』とか言いなさいよ!」
「オー」
「はいはい」
冷泉は呆れていたが、園のすっかり調子を取り戻した様子に少し嬉しげでもあった。
「西住殿…」
その熱の中、みほと秋山は冷静に顔を見合わす。
「博子」
「はい。向こうの戦力ですね」
「そうだ」
真澄も事前にこの事を聞いていたので、裏で手を回したあの官僚からの連絡を待ちつつ、独自で仕入れるように指示を出す。
ここが大洗の分水嶺である。何がなんでも勝利をしなければならないと、彼女達は強く決意を固める。
「だがその前に…」
そこで彼女はスタスタと講堂の園達が入ってきた場所とは別のドアを上ける。
「うわっ」
「え?」
「ぎゃあ!」
すると雪崩を打つように奥から数名の生徒達が倒れてくる。機動隊の隊員達だ。
「あっ」
「えへへ…」
その中、顔を上げた尾崎と幣原がやや不味そうな表情をすると、他の隊員達と一緒に蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
「こんの馬鹿共!盗み聞きしやがって!箝口令だ!」
講堂から一歩出て真澄が怒鳴り散らかすと、逃げていった機動隊の隊員達を左右に首を振って見送った。
「えーっと、ちょとお待ちください。大学選抜の新聞は確か…」
校長室、そこに集められた各チームリーダー。クマさんチームは機動隊の説教に向かった真澄に変わって大久保が出ていた。
秋山は見出し程度であればこの新聞をある程度覚えており、それを知った武部がやや引いていた。
「あ!ありました!」
そこで見つけた新聞の表紙には『大学選抜大金星』『社会人チーム撃破』の見出しが堂々と貼られていた。
「社会人を破ったチーム!?」
「しかも関西地区二位のくろがね工業じゃないですかヤダー」
大隈は苦笑して撃破された社会人チームの実力を口にする。
「いくら何でも無理ですよ!」
「無理は承知だよ〜」
角谷は平然と言い放ち、河嶋はみほを見る。
「西住、どう思う!」
その質問に、みほは新聞を見て既視感を感じていた。
「選抜チームの写真。…どこかで見た覚えが」
それは大学選抜の隊長の顔写真であった。
「島田愛里寿?」
「天才少女って言われているらしいな。飛び級したとか」
「島田流家元の娘なんだよね」
小山の疑問にカエサルが読むと、ねこにゃーが意外な博識ぶりを見せた。すると写真を見た大久保が一言。
「あぁ、この子ボコミュージアムの…」
「っ!あぁ!!」
そこでみほは瞬時に繋がった。
「つまり、この試合は西住流対島田流の対決でもあるんだな〜」
「おい」
角谷の爆弾発言に大久保がツッコミを入れると、磯部が質問をする。
「で、相手は何両出してくるんですか?」
「三〇両」
「「「「えっ!?」」」」
相手の数に驚愕する一同。流石に知らなかった大久保も驚いてしまう。
「もうだめだ」
「今からでも遅くはありません。署名とか抗議とか、何か別の方法を!」
膝から崩れる河嶋と、強く主張する小山。
しかし時間は文科省に味方している。グズグズしていると学園艦の解体業者の入札が終わって解体が始まってしまう。
「その場しのぎにしか過ぎないよ。強みのない高校は、結局は淘汰されちゃうからね」
角谷の言葉に河嶋はパニックでみほに縋ってしまう。
「西住、貴様からも勝つのは無理だと伝えてくれ!!」
みほも険しい表情で少し考える。
「確かに…今の状況では勝てません」
河嶋は小さく頷くと、みほは話を続ける。
「ですが、この条件を取り付けるのも大変だったはずです」
その言葉に河嶋と小山は意外な顔を見せる。
「普通は無理でも、戦車に通れない道はありません。戦車は火砕流の中だって進むんです。困難な道ですが、勝てる手を考えましょう」
みほの覚悟を聞き、各メンバーも覚悟を決める。すると大久保は両手を一旦パンと叩いて注目を集めさせる。
「では作戦会議としようか。なにせ相手は三〇両だ」
「長い会議になりそうね」
そうして始まった会議の全員の表情はやや堅かった。
「「「「「えぇー!?」」」」」
同刻、講堂に集められた機動隊隊員達は一様に声をあげる。
「どうしてですか?」
「理由をお聞かせください!」
納得のいかない様子の尾崎と高橋に他の生徒達も頷く。
「今度の試合の内容を公言しないのはいかがなものかと…」
「この前の夏の大会の際も、正式発表は大会後のことです」
「この際、全校生徒に放送を行うのが良いのでは?」
すでに講堂での話を聞き、その上で箝口令を敷かれた彼女達な口々に今回の試合の意義を知らせるべきだと言った。すると真澄はそんな彼女達に一喝する。
「馬鹿、全校生徒に知らせたらどうなる?私らの胃袋に穴開けさせるようなことすんじゃない!」
その一言に全員が同じことを思った『あなたの胃袋なら大丈夫でしょ』と。
するとそんな彼女達を見て察したように榎本が聞いた。
「でも西住隊長はどう?」
すると彼女達の反応は一転。
「な、なるほど…」
「西住隊長なら…」
「ありえるかもしれませんね」
「…黙って見るしかないのか」
彼女達は普段のみほの様子から納得した様子を浮かべて、同時に難しい表情をした。
「お前達が観戦に来るかは自由だが、我々は今晩中に出発するぞ」
真澄は言うと、機動隊隊長が立ち上がって姿勢を正して答える。
「無論。我々全員で行かせていただきます!」
彼女はそう言うと真澄に敬礼をし、それを見た他の隊員達も同様に立ち上がって真澄達に敬礼をした。