知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一二一射

大洗が作戦会議をしている頃、聖グロリアーナ女学院の『紅茶の園』では優雅なアフタヌーン・ティーが行われていた。

 

「あら、美味しい」

 

オレンジペコから差し出されたジャム付きのスコーンを齧ってダージリンが言う

 

「新しいコケモモのジャムが手に入りましたので」

「コケモモ?フィンランドかしら?」

「はい」

 

そこで紅茶を一口飲んだアッサムがファイルを捲る。

 

「大洗のみなさん、大変ですわね。九対三〇のチームで戦うとか」

「流石にこれで大洗も終わりね」

 

優雅に紅茶を飲むダージリンを見て、オレンジペコは眉を顰める。

 

「いいんですか、このままで…」

 

するとダージリンが徐にある格言を持ち出す。

 

「こんな言葉を知っている?『世界だもし明日で終わりだとしても、私はこうもりんごの種を蒔くだろう』」

「…何をなさる気ですか?」

 

いつもの彼女の格言にオレンジペコが聞く。しかしそれに答えず、ダージリンはアッサムに言う。

 

「ふふっ、勘が当たったわ。アッサム、例の物の用意を」

「分かりました」

 

その時のダージリンの顔を、オレンジペコはこう述懐する。

 

『あれほど楽しげな顔は初めて見た』と。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

大学選抜チームとの試合を決めた大洗女子学園。

明後日には試合となるので、全員が急いで準備を整える。

 

「相手は?」

「M26パーシングとM24チャーフィーと…」

 

自分の戦車の吸気口のそばで榎本と伊藤が仕入れた情報の確認と精査を行っていた。

 

「乗る船は?」

「さんふらわあでそのまま北海道よ」

「じゃあ中で一泊確定ですね」

 

大久保は葉巻型チョコを食べながら整備班の生徒と道中の予定の整理を行う。

 

「だからさ、できたら苦労しないんだからさ」

 

その横で電話越しに真澄は話していた。相手は連絡をしてきた西であった。

 

『しかし、できることがあれば何でもお申し付けください!』

「ああ、ありがとね」

 

そこで電話を切ると、傍から大隈が話しかけてくる。

 

「今の西?」

「ええ、戦車を貸してくれるってさ」

「おお、アソコなら大量に貸してくれそうよね」

 

少なくとも母校であるので、そこでの事情を知り尽くした大隈は西が足りない二二両の戦車を引っ張ってくる光景を想像する。少なくともこっち(大洗)と違ってあっち(知波単)は車両も人員も十分に用意されている。

 

「全く、プラウダやサンダースからもみほちゃんに連絡が来たらしいからね」

「好かれてんね〜、みほちゃん」

 

これほどの人望を集めていると言う事実に大隈は少し嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「夏の大会を見ればわかるわよ」

 

そこで真澄はみほに挨拶をしにきた各校の生徒達を思い出す。

 

「さて、我々もそろそろ出るか…」

 

今、彼女達は試合前最後の練習に明け暮れている。

これから苫小牧まで「さんふらわあ」で移動。そこの先にある演習場で試合となる。

 

「しかし…九対三〇ねぇ。三倍以上の数量差がある」

「えぐいくらいの寡戦ですね。攻撃三倍の法則だと負け確ですね」

「ランチェスターの法則で計算してみる?」

「私、記憶力には自信あるけど計算力自信ないんですけど」

 

そうこう言っているうちに出航時間が迫って、戦車道履修者達は全員が戦車の積み込みと人員の移動を始める。

 

「私たちは転校手続きで行けないけどこっちで応援しているから!エキシビジョンと一緒でモニターに映してくれるんだって。頑張ってね」

「ああ」

 

乗り込んでいく冷泉に船舶科の生徒が話しかけ、それに頷く。

他でも多くの生徒や住民達が出ていく戦車道履修者達を見送るために集まっていた。彼女達は皆、今度の試合は最後の記念試合と聞かされていた。

誰が広めたかは知らないが、すでに試合をすることは広まっていたため、対処療法的に生徒会がそうしたのだ。

 

中には急に決まったこの試合に、一部の生徒達はまた夏の大会のように事後報告で何か言われるのではないかと言っていたが、それでも離岸していくさんふらわあを見送るために岸壁に集まって手を振る。

 

「いってらっしゃーい!」

「気をつけてねー!」

 

普通科や船舶科、水産科や農業科と言った多種多様な学科選択をした生徒達がみほ達を見送る。

そしてみほ達も、本当の事情を伝えぬままに手を振りかえす。

 

「…」

 

その様子を見ていた真澄は、岸壁で待機していた尾崎達を見た。

 

「先輩、お気をつけて!」

「ああ、一発蹴り上げに行ってやるさ!」

 

他の事情を知る隊員達はすでに移動のためにに自宅やトラックに乗り込み始めており、ここにはいなかった。

しかし代表として尾崎達が見送りに来てくれたので、真澄達も応援に応えるために苫小牧に向かう。

 

「で、問題は向こうが何をしてくるか」

 

離岸後、船内の椅子に座って推察を行う真澄。

 

「妨害工作はしてくるでしょうね」

「だが何をしてくるか…」

「向こうは躍起になってきます」

「一応、こちらでも情報の収集は行なっていますが、やっぱり人手が足りませんね」

 

他の四人もそれぞれ同じことを想像していた。

無理ぐり決めた試合ではあるが、向こうは何かしら手を打って大洗が負けるように仕向けてくるはずだ。

 

「…いっそダー様に聞くか」

「何を?」

「今何しようとしてるかって」

「え?」

 

どう言うことだと首を傾げる大久保だが、榎本はすぐに察したように頷いた。

 

「中野組の子達使えないの?」

「一応連絡はつきますが…今動けるかはちょっと…」

 

伊藤は申し訳なさげに答えた。

かつて、真澄によって引き抜かれた彼女はその際に設立した情報収集班を持っていたが、真澄の除名処分の騒動で今はどうなっているか伊藤も全容を把握していなかった。

 

「でもどうする?圧倒的に数が足りてないよ」

「…やるならフラッグ車とタイマン張るために遊園地逃げるの一択じゃない?」

 

真澄はそう言いつつ、あの官僚からの連絡を待っていた。

 

 

 

その頃、船の車両甲板では、大洗の戦車整備班が総出で工具を持って整備をしていた。

 

「整備時間は十八時間だ!モタモタしてるやつは海に叩き落とすぞ!」

 

工具箱片手に怒鳴り散らすのは班長の榊 清(さかき きよ)、ティアドロップ型フレームのサングラスが特徴的な彼女はレンチ片手に部下に指示を出す。

そして大勢の整備班所属の生徒達はハッチを開けて車両の整備を行なっている。

元々は機動隊にいた三年生であるが、戦車道残存したいわゆる『転属組』と呼ばれる彼女は、その整備の腕前から『戦車隊の闇将軍』や『整備の神様』と言われ、自動車部にスカウトされるほどの腕前を持っていた。

 

ほとんどに整備班の手が加えられている中で、レオポンさんチームはナカジマ達がエンジンとモーターを釣り上げてまだ何かの調整を行なっていた。

 

「おいシゲ」

「はい?」

 

すると彼女はそんなポルシェティーガーを見ながら近くにいた(シバ)繁子を呼んで聞いた。

 

「まだ終わらないのか。自動車部は」

「ええ、何でもまだ最終調整が終わらないまま来たみたいで」

 

整備班は全員が胸元に大洗の校章をプリントした白のつなぎ服に、同色の白帽をかぶっていた。

 

「…なあシバ」

「?」

 

そして各々が戦車の各種整備を行なっている様を見ながら榊が聞いた。

 

「お前、これで大洗は終わると思うか?」

「…」

 

その質問に、柴は少し間を開けた。

視線の先には同じ制服を着て戦車の懸架装置の点検や砲身内の清掃。光学機器の点検を行う整備班の生徒達を見た後に後に答えた。

 

「どうでしょうね。勝っても負けても、我々のやることは変わらないと思いますよ?」

「…そうか」

 

彼女はそう応えると、その返答に榊も少しだけ口角を上げた。

 

 

 

十八時間の船旅は作戦や、必要な準備を進めているとあっという間に終わってしまう。

到着をした苫小牧から次々に戦車を下ろし、その後ろを整備班を乗せたトラックが追従する。

 

用意されたかまぼこ型の宿舎にて明日の試合に待機するため、みほ達は夏の大会にも適用されたフラッグ戦での試合を前提に動いていた。

 

が、ここで問題が起こった。

 

「殲滅戦って何だったっけ?」

「相手の車輌を全部やっつけた方が勝つんだよ」

 

大野の疑問に山郷が教えた。

その前で、みほは愕然とし、聞いた真澄も呆れた目を訪れた辻にむけていた。

 

「あの、三〇両に対して九両で、その上突然殲滅戦ていうのは…」

「予定されるプロリーグでは殲滅戦が基本ルールになっておりますので、それに合わせていただきたい」

 

得意げに辻は言うと、それに合わせてみほの顔も曇っていく。

 

「もう大会の準備は殲滅戦で進めてるんだって」

 

辻の隣で苦しげな表情を見せるのは児玉だ。先ほどまでこの宿舎の外で辻と言い合いをしていたのを聞いており、向こうにとっても予想外な話だったのだと真澄は理解していた。

 

「辞退するなら早めに申し出るように」

 

それだけを言うと辻は宿舎を出て行った。

 

「けっ、これだから役人は…」

「役人がその道のセオリーを知らずに土足でぶっ壊すのは昔からの手だしね」

「それ、経産省の自動車会社の削減のやつやん」

「やられた側はたまったもんじゃないよ」

「こうなったらゲリラ戦展開ですかね」

 

毒吐く真澄を榎本が宥めるように言うと、他の面々も口々にそういうと、どうしても大洗をつぶしたいと考える向こう側の面々に、内心では腑が煮え繰り返りそうであった。

 

 

 

そして今回の試合がフラッグ戦ではなく、殲滅戦となったことはすぐに車庫にも広まった。

 

「殲滅戦?」

「うわっ、最悪」

 

榊の言葉に一人の整備員が反応をした。

 

「そんなの、無茶苦茶じゃないですか!」

「どう考えたってこっちつぶしに来ているよね。これ」

「向こうも必死なんでしょ、お役所って一度決めたことを撤回したくないし」

「だからって…」

 

一層の事全員で向こうの戦車倉庫に忍び込んで細工でもしてくるかなどと言う意見も出てくる中、榊が一喝を入れる。

 

「馬鹿やろう!テメェら勝手に相手の戦車に細工とか言う馬鹿な真似はすんじゃねえぞ!」

 

彼女の一喝に整備班達は一瞬萎縮をして榊を見てしまう。すると彼女は続けて彼女達に言う。

 

「もし細工したことがバレてみろ!西住隊長の顔に泥塗ったと同じだぞ!これから試合前だってのに、より心配事増やさせんじゃねえ!」

 

大洗の戦車道は始まったばかりで、傷ひとつ付いていない新品同然の水晶玉のようなものである。

もしここで整備班の暴走で傷がつくこととなれば、彼女の性格から抱え込んでしまうことは間違いなかった。故に、榊は部下達に注意をしたのだ。

 

「いいか!アタシらは隊長が試合途中で整備不良で壊れないようにしとけ!敵に細工を仕掛ける前にウチらの戦車を壊れないようにしろ!いいな!?間違っても敵チームの倉庫に行くんじゃねえぞ!」

『『『『『はい!』』』』』

 

釘を刺して彼女は言うと、整備班達は覇気のある声で返事をしてそれぞれ与えられた戦車の整備を始めた。

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