知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第一二二射

「明日は殲滅戦だそうです」

 

メグミはそう愛里寿に伝える。

 

「殲滅戦?」

「そう決まったんだって」

 

アズミとルミも流石に驚いて聞き返してしまう。

 

「だって相手は九両でしょ?しかも高校生…」

「ちょっと可哀想よね」

 

試合の形式に文句は無いが、目に見えて分かる不利に思わず彼女達も同情してしまう。

 

「試合に可哀想も何もない」

 

そんな彼女達に愛里寿は静かにそう言うとそのまま外に出て空を見上げた。

 

 

 

満天の星空の演習場。

 

「島田…愛里寿ちゃんか…」

 

地図を持ってその全景を見ていたみほは少々暗い顔で愛里寿の顔写真に触れる。

 

「どう?調子は」

「真澄さん」

 

ザリッと土を踏む音を耳にしたみほは真澄を見る。

 

「真澄さんって、一気に一〇両倒せますか?」

「うーん、やれない事はないけど…ちょっと厳しいよ?」

 

それでもできないと言わないあたり、彼女らしいと言えばらしかった。

 

「どうする?明日の試合」

「え?」

 

その時、真澄の言葉に驚くみほ。

 

「辞退っていう手もあるけど」

 

彼女はそう言い、勝敗は誰が見ても明らかな事を口にするとみほはそれを否定する。

 

「それなしないよ。引いたら、道は無くなるだけだから」

「…うん、そうね」

 

それに少し肩の力を抜いて彼女は少し安堵する。角谷に言われてきたとはいえ、彼女の気持ちは変わらないようだった。

 

「…厳しいわね」

「ここじゃあ、いつもそうだよ。でも…」

 

その時、彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

「みぽりーん」

 

振り返ると、他のあんこうチームの四人が丘を登ってくる。

 

「みんながいるから」

「…そっか」

 

すると頭にライトをつけていた秋山はみほと真澄を照らす。

 

「お手伝いに来ました!あっ、黒田殿もいらしていたのですね」

 

秋山が反応をすると、武部はみほが持っていた愛里寿の写真をみた。

 

「あ、その写真。やっぱりこの娘って、ミュージアムの…」

「うん、まさか対戦相手になるなんてね」

 

真澄は以前にみほと愛里寿は会っていたのかとやや驚く。

 

「気になりますか?」

「ううん」

 

みほは五十鈴の言葉に首を横に振る。

 

「みんなと一生懸命。落ち着いて、いつも通りに」

 

彼女はそういうと、秋山達もみほの強い意志を感じて覚悟を決める。

 

「では早く終わらせて明日に備えての食事にしましょう。いま河嶋先輩と小山先輩が食事の準備をしてくれてますから」

 

五十鈴はそう言うと、みほ達もそれに頷いて丘を後にする。

 

「…」

 

そして一人残った真澄は、前の暗い演習場を見ながら呼びかける。

 

「もう出てきてもいいですよ」

 

彼女がそう言うと、丘の麓から隠れていた角谷が顔を出した。

 

「悪いね」

「いえいえ」

 

真澄は角谷に短く答えると、そのまま二人は横並びに立って演習場を見下ろす。

 

「…勝てると思う?」

「奇跡が起これば」

 

明日の試合のことで、角谷の質問に即答する。

 

「まあでも、私はこの雰囲気に覚えがあります」

「?」

 

どう言うことだと首を傾げる角谷。真澄はそこで今日の夕飯に準備されたカツを振り返りながら呟く。

 

「決勝戦の前も、こんな感じでしたからね」

「…なるほど」

 

今、宿舎では各メンバーが各々できる準備を行なっている。

ゲン担ぎにカツの入ったものを食べながら、各々ができる事を行う。これには既視感があった。

 

「じゃあ、奇跡に期待してみようか」

「ええ、是非期待しましょう?」

 

その時、角谷は何か聞きたい様子であったが、結局何も言わずに丘を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同刻、聖グロリアーナ女学院艦橋。

そこではダージリンが紅茶を傾け、ある詩を語る。

 

「秋の日の ヰ”オロンのため息の」

 

上空ではC-5Mが悠々と飛行している。そのコックピットでアリサが通信機からメモを取っている。

 

「ひたぶるに身に沁みて うら悲し」

 

それはフランスの詩人、ポール・ヴェルレーヌの詩『秋の歌』。

第二次対戦中、ノルマンディー上陸作戦の際に冒頭部分がロンドンからフランス国内のレジスタンスに向けて放送されたことでも有名な詩である。日本では『落葉』として紹介され、この和訳が有名であった。

 

「北の地にて 飲み交わすべし」

 

彼女の傍では通信機を使い、モールス信号を打電するオレンジペコの姿があった。

 

「…」

 

北の湖ではポモルニク型エアクッション揚陸艦の艦橋ではノンナが通信を聞き、その横でカチューシャは彼女の作ったボルシチを食べている。

 

「熱い紅茶ですね」

 

その通信を、洋上を飛行するツェッペリンを操縦していた逸見が呟くと、その背中で赤星が渡した通信機の内容を解読した紙をまほは見つめる。

 

「紅茶って、飲んだことないんだよな…」

 

移動中の列車の車内で、西が同様に受け取った通信文を見ながら呟く。彼女は鐵道科に頭を下げてK2蒸気機関車改を借りていた。

 

「あれ?そういえば何両持って行くんだっけ?」

 

カーブに差し掛かった時、玉田がふと口を開いた。すると細身が答える。

 

「覚えてない」

「まいっか。持ち出せる分だけ持ってきたし。大は小を兼ねる」

「憧れの物量戦でありますな!」

 

福田は目を輝かせて連なる貨車を見た。

 

「しかし黒田隊長の人気は流石だな」

「当然でありましょう。しかし鐵道科の御助力を簡単に取り付けられるとは…」

 

名倉が車内で言うと、それに浜田も頷いた。すると近くにいた車掌が彼女達に訳を話す。

 

「我が鐵道科は、伊藤さんと大隈さんに路線廃止を撤回してくれた御恩がありますので」

「なるほど」

「そう言う経緯でしたか」

 

事情を知り、納得をした両名は列車に揺られて見る列車を視認する。

 

「お茶会、楽しそうだよ」

「刹那主義には賛同できないね」

 

森の中でキャンプをしていたアキにミカはそう答えると、カンテレの音と焚き火の煙が月に昇って行った。

 

 

 

彼女達は、ある場所に向かう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌朝

北海道の演習場にてみほはぶつぶつと呟く。

 

「相手を山岳地帯に誘き寄せて、分散させて、各個撃破できれば勝機は見えてくるはず。多少、挑発にすべきかも…。でも向こうもこっちの考えは読んでいるだろうし、裏の道をかくしかない…」

 

大洗の隊長として、向こうの大学選抜の隊長と挨拶をするために行こうとする。しかしみほは勝算が見えなかった。

皆んなには詭弁に振る舞っていたが、色々と限界を迎えつつあった。

 

「でも、相手は経験も実力も上…。もしかすると今回ばかりは…」

 

すでにその場所には審判長の蝶野をはじめ三人の審判員が立っていた。

顔を見上げると、そこにはキリッとした視線の愛里寿と、その背後に立つ視界一杯の一〇〇を越す乗員。対してみほの背後には視界に収まる範囲の三六名の乗員。みほは見るだけでプレッシャーがあった。

 

「ではこれより、大洗女子学園対大学選抜チームの試合を行います」

 

そして蝶野が言い、両名が顔を見合わせる。

 

「(黒田お姉ちゃん…)」

 

その時、愛里寿はみほとの背中に立つ一人の生徒を見る。

一時間ほど前に、軽く口上だけを述べてパーシングに乗ってみほに挨拶をした訳だが、その時に優しげな眼差しを向けてくれた。

 

「…負けるわけにはいかない」

 

その時、みほの呟きが耳に入った。おそらく心の中で思っていたことが口に漏れてしまったのだろう。

その時の彼女の目というのは、崖っぷちまで何かに追い詰められている目をしていた。

 

「礼!」

 

そして蝶野の号令が響く。

 

「よろ」

 

これで全てが決まる。そう思った瞬間。

 

『待ったーーー!!』

 

試合会場に声が響き渡った。

後ろから聞こえた声に、みほは思わず振り返る。

 

「え?」

「何今の?」

「この声…」

 

今の声に榎本と大隈は首を傾げ、真澄はその慣れない事をしたせいでやや裏返った声を出してしまった人物がすぐに想像がついた。

振り向くと、そこには丘を下ってくる四両の戦車。中央には見慣れたティーガーⅠ、その隣にティーガーⅡ、両翼にパンターが並んでいる。

 

「…お姉ちゃん!?」

 

突然の出来事に誰もが唖然となる中、四両の戦車は横一列に停車する。

 

「あれ?」

「うちの制服じゃん」

 

そしてキューポラから降りてきたまほと逸見

 

()()()()()()西住まほ」

「同じく、逸見エリカ」

「以下十八名、試合に参戦する」

 

すると聞いた一同がざわつく。

 

「短期転校の手続きは済ませてきた。戦車道連盟の許可も取り付けてある」

 

必要な書類を提示し、短期転校とこの試合への参戦の特別許可証ももらっていた。

日本戦車道連盟理事長、児玉のサインと判子を押されたその許可証は有効であった。

 

「お姉ちゃん…ありがとう」

 

みほの言葉に一瞬口元が緩みそうになったが、まほはそれを隠すように無表情を装う。

観客席の大型ディスプレイに用意されていたテロップが追加される。それを見てどよめく観客。

 

「戦車まで持ってくるのは反則だ!」

 

辻は青筋を立てて怒鳴るが、隣で全ての事情を知っている児玉が涼しい顔をしている。

 

「皆、私物なんじゃなんじゃないですか、私物がダメってルールありましたっけ?」

「卑怯だぞ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「くそっ、その手があったか」

 

ドンッと机を叩く音が響く。

 

「短期転校まで行かなくても、交流試合で底上げが可能か?」

「誰だ、誰が裏で意図を引いている?」

「これを利用して次の一手を、世界で勝てるプロリーグではなく、勝てる戦車道を作り上げるのは可能か?」

「今すぐ情報を集めろ」

「他にも来たぞ!」

「何だと!?」

 

映像を見て彼らは狂乱していた。

 

 

 

「…始まったか」

「なんとか間に合わせることができました」

 

別の場所では、部屋のテレビに映し出された黒森峰の戦車を見た。一人は前に真澄と会談を行ったあの男である。その横で別の人物が言った。

 

「流石に肝を冷やしました。いくら大洗でも、九両では三〇両を相手できませんからね」

「一部我々でもどうにもならない事があったが…何より間に合ってくれた。さぁ、これから面白くなっていくぞ」

 

ニヤッと笑う彼は、そこでさらに駆けつける他の車両を見る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そしてまほ達が到着をすると、直後にエンジンの音が聞こえる。

 

「あれは!」

 

その音を聞いた秋山は途端に顔を明るくさせると、サンダース大付属高校の校章を付けたM4シャーマン、M4A1、シャーマン ファイアフライが並びで走ってくる。

 

「私達も転校してきたわよ!」

「今からチームメイトだから」

「覚悟なさい!」

 

ケイ達の声が聞こえ、ウサギさんチームはバンザイをする。するとその直後、上空をC-5Mが通過する。

 

「サンダースが来たぁ!!」

 

その三両に磯部が歓喜の声を上げる。

 

「黒森峰とサンダースの皆さんが来てくれるなんて!」

「鬼に金棒ね!」

「虎に翼」

 

秋山が目を輝かせ、それに武部と冷泉も続く。

そんな喜びの声に混ざるように液冷ディーゼルエンジンの音が聞こえる。

そこにはT-34/85を先頭に同じ車両とIS-2、KV-2の四両が現れる。

 

「もー、一番乗り逃しちゃったじゃない!」

 

優しく諭すようにノンナが問いかけた。

 

「お寝坊したのは誰ですか?」

「ま、まぁ来たくて来た訳じゃないんだけどね!!」

 

絶大なツンデレを披露した彼女に、ノンナは追い打ちをかける。

 

「でも一番乗りして格好いい所を見せたかったんですよね?」

「一々うるさいわね!!」

 

渡された制服の袖が長すぎて萌え袖とかしたカチューシャが怒鳴った。

すると次にチャーチルMk.Ⅶ、マチルダⅡ、クルセイダーMk.Ⅲの三両が現れる。

 

「やっぱり、試合にはいつものタンクジャケットで臨みますか」

「じゃあ何で、わざわざ大洗の制服揃えたんですか?」

「みんな着てみたかったんだって」

 

全員が同様の緑のセーラー服を着ており、オレンジペコの疑問にダージリンは肩をすくめて笑みを浮かべる。

何気に制服が純粋なセーラー服の学校は戦車道を行う学校では少なく、大小あれど高校生の制服の花形であるセーラー服に憧れたあったのかも知れない。

 

「グロリアーナやプラウダの皆さんまで!?」

 

みほはもう、驚きを隠せなかった。

 

『大洗の諸君!』

 

するとスピーカーから一発の大声が響くと、平原を爆走するCV33が現れる。

 

『ノリと勢いとパスタの国からドゥーチェ参戦だ!恐れ入れー!!」

 

アンチョビはそう言うと、その横で操縦手のペパロニが安堵していた。

 

「今度は間に合って良かったっすねー」

 

以前、大洗の決勝戦の観戦で寝過ごすと言うとんでもない失態をしでかしたので滑り込みで来れたことに安堵していた。

そしてカルパッチョがアンチョビからマイクを受け取る。

 

『カバさんチームの貴ちゃーん、来たわよー!』

「ひなちゃん!」

 

カルパッチョの声を聞き、カエサルが嬉しそうに反応をすると、それをなんとも言えない生暖かい優しい眼差しを他のカバさんチームが見つめている。

 

「…カエサルだ」

 

それに気がついて彼女は慌てて真顔になる。

 

「あれ、P40は?」

「まだ修理中なんじゃないの?」

 

応援に来るにしては豆戦車と言う、何の目的で来たのかにいまいち疑問が残る車両に真澄達は首を傾げた。

すると次に聞き覚えのないカンテレの音が聞こえた。

 

『こんにちは皆さん。継続高校から転校してきました』

 

ノロノロとゆっくり来たのはBT-42。

アキがマイクを切ると、隣でチューリップハットを被るミカを見る。

 

「なんだかんだ言って、助けてあげるんだよね」

「違う、風と一緒に流れて来たのさ」

 

彼女はそう答えてカンテレを奏でる。

 

「大活躍して廃棄車輌とか余った糧食とか、気持ちよく分けてもらおうね。ミカ!」

「そうだね」

 

継続高校は先のエキシビジョンマッチで、直前にトラブルがあった際のヘルパーとしてあの試合を観戦していた。

 

「すごいです…一気に十六両が加わりました!」

 

秋山も指を折って数えて、増援に来た車両を見る。

 

「これだけあれば、かなり戦える!」

 

河嶋も理解が追いついて声を上げる。

 

「これで二五対三〇…」

「あと五両は…」

 

すると平原に轟音が轟く。

 

『お待たせしました!』

 

そしてスピーカー越しに威勢の良い西の声が響いた。

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