大洗連合が作戦タイムをとっている間に、大学選抜側はすでに試合会場の丘陵部に整列を完了させていた。
スタート地点である高台、その中でも一番高く、眺めのいい場所に大学選抜側の隊長である愛里寿のA41センチュリオンが停まっている。
その手前の試合会場寄りには、メグミ中隊のM26パーシング重戦車六輌が横隊で並んで待機していた。愛里寿から見て左側には、ルミ中隊のパーシング七輌とM24チャーフィー一輌、そして右側にはルミ中隊と同数のアズミ中隊が控えている。
大学選抜の選手はいろいろな大学から集められているが、車両は戦力の平均化のために島田流の支援によって主力はM26パーシング重戦車、M24チャーフィー軽戦車に統一されている。
『作戦はどうします?隊長』
『高校生とはいえ、相手はかなりの戦力を有しています』
メグミとアズミが無線で愛里寿に連絡をする。
『増援の車両が全てわかっているので、シークレット車両はありません』
ルミはタブレットを確認しながら大洗連合の車両編成を確認する。増援が駆けつけた際に全ての車両を確認していたので、相手の三〇両の車両がどのように来るのかを愛里寿は推察する。
「全車、これより作戦を伝える」
そして無線を取り、彼女は総員に連絡を入れる。
「試合場は原野を中心に周辺はまばらな廃村と遊園地。大洗の得意とする散開しての小さな戦いに持ち込まれると厄介だ」
見晴らしの良い丘陵部から一望できる試合場に、彼女は言う。
「原野で決めたい。なので砲撃に有利な地点を開け渡し、誘き出す」
大洗連合は雑多な戦車の寄せ集め、言うなれば戦車のサラダボウル状態。殲滅戦である以上、序盤の戦力が豊富なうちに脅威度の高い戦車から潰すのは定石である。特に黒森峰のティーガーⅡやプラウダのIS-2は脅威である。
「まずは、プラウダと黒森峰の重戦車を倒す」
愛里寿はそこでタブレットに事前に作成した作戦図を表示し、全車長に共有。それを見せながら詳細に説明を行う。
「アズミとルミの中隊は、私と共に一列横隊を形成してゆっくり前進。メグミ中隊は私の直援。側面からの強襲に警戒しろ。偵察のチャーフィーは敵に遭遇しても攻撃をするな」
『了解』
指名を受けた車長は返答をした。
「それとこの試合。私は後方で指揮に専念する」
『えっ?』
その次に愛里寿から言われた言葉に、聞いていた者達は驚愕した。
「皆に伝えておきたいことがある」
彼女はそう言い、全員に無線で話す。
「私は隊長でありながら、今までこのチームをどうしたいのか考えてこなかった。
最終的には自分で動けばいいと思っていたからだ」
丘陵部に並んだ戦車隊に彼女の声がよく響く。
「けれどもそれは指揮官として傲慢であると気付かされた。謝らさせてほしい」
愛里寿はその内心に、母から聞かされた事実を隠しながら話す。
「それとこの試合、対戦相手や試合形式などを含めて思うこともあるだろう。
だが我々はさらなる高みを求め、共に全国より集まった。それに勝る答えはないはずだ」
彼女はそこで砲塔に塗装されたマーキングを見つめる。
「私が指揮し、皆で挑む。その最高の形を常に目指そう」
愛里寿はそこで指揮官らしく、鼓舞するように言う。
「大洗に我々の強さを示す。勝負においてできることはそれだけだ。一切の遠慮はいらない。日本で最強の大学チームでなのだと言う矜持を見せてやれ」
「隊長…!」
そう宣言をした時、メグミが無線を繋いだ。
『た、隊長!』
そこで無線を繋いだことにルミが驚きながら行方を聞いていた。
『お話ししたいことがあります』
「メグミか。どうした?」
愛里寿に促され、彼女はそこでお誘いをする。
『私たち、いつも試合後にみんなで反省会をしているんですが、今回はぜひ隊長もご同席願えないでしょうか!』
その瞬間、聞いていた全員に一瞬の緊張が走った。
「わかった。もちろん構わない」
そして愛里寿の二つ返事の返答を受け取った直後、彼女たちは沸き立った。
『『『『『うおーーーーっ!!』』』』
無線がなくとも沸き立った声が愛里寿の耳にも届いた。
「聞いたわねみんな。隊長に恥ずかしいところは見せられないわよ!」
「任せてください!」
「メグミ!一番活躍した戦車の乗員達が隊長のテーブルだからな!」
興奮気味に彼女たちは無線で言い合うと、その様子に愛里寿は首を傾げた。
「騒ぐことなのか?」
『もちろんです!』
そこで彼女たちの絶好調を表すようにパーシングのエンジンも唸る。
「かつてないほど士気が上がっています」
「…ふっ」
「うっわ、ムカつく!あんだけヘタれてたくせに!」
そこで勝ち誇った様子のメグミにルミが軽く舌打ちをすると、満足した様子でメグミが無線で伝えた。
「隊長、試合開始です」
「各車前進」
そして試合開始の合図とともに愛里寿達は動く。
「こちらルミ、了解」
「アズミ、了解しました。前進開始」
「メグミ、中隊を併進させます」
丘陵部から、歓声の雄叫びと共に彼女たちは試合を開始した。
「接触は早くて二〇分」
大洗連合側がどのような戦術をとってくるのか、あの黒森峰との決勝戦のような奇策をどう打ってくるのかが彼女は楽しみだった。
対する大洗連合は、作戦会議を終了させるとスタート地点から一斉に前進した。
高地北側の平原を、横に並んだ多数の戦車が轍を引いて走っていた。
「しかし、流石に各校の優良選手が集まると集団行動も見事なものね」
その様子をキューポラを開けて顔を覗かせていた真澄が呟く。
「でも意外なのは
「足遅いですからね。あれは」
そう言いながら星グロリアーナから来た二台の戦車を見る。これほど急造チームでありながら、性能もまちまちの車両でこれだけしっかりと一列横隊を組んで走れるのは、各学校の練度の高さが伺えた。
「高校生でも意外とやるな」
「そりゃそうだ。西住流に各有名校の選手が揃っているんだからな」
「言うなら、大洗だって高校生選抜チームみてえなもんだしな」
観客席そう話しながら、彼らはみほにズームアップされる映像を見ていた。
「こちら大隊指揮車、相手の動きはまだ確認できていません。慎重に行動してください」
そして平原を走ると、そこで彼女は咽頭マイクに手を当てて指示を出した。
「では、三隊に分かれて所定の進路を取ってください。パンツァーフォー!」
無線を聞いていたCV33に乗っていたカルパッチョは、揺れるたびに目の前をチラチラと髪が横切り、そのことに我慢ならずについに彼女は言った。
「ドゥーチェ、ツインテールが邪魔です」
彼女の文句に安心したようにペパロニが言う。
「本来なら二人乗りなのに、これじゃ前見えないっすよ!」
本来の搭乗員は二人であるはずのこの車両に、無理やり座席をつけて三人乗りにしたことで色々と問題点が浮かんでしまっていた。
彼女たちは体格が小さいおかげでなんとか乗り込めたが、それでも窮屈であった。
「だったら、ペパロニ降りろ」
「そりゃないっすよ〜」
「だったら耐えろ!」
「外せばいいじゃないっすか、そのウイッグ」
そのペパロニの文句にアンチョビは激昂した。
「地毛だ!」
「そうだったんすか」
興味なさげにペパロニは車体を加速させると、坂道の起伏で車両が跳ね上がった。
「痛っ!」
その際にアンチョビは頭を打ってしまった。
そして急停車をすると、アンチョビはカルパッチョの頭越しに双眼鏡を出して索敵を始めた。
「いたっ!」
「ドゥーチェ、二度も言わなくてもいいっすよ」
ペパロニはそこで先ほどの文句を思い出しながらツッコミを入れたが、アンチョビは真剣な声で報告を行う。
「違う、集団発見!ゆっくり横一列で進んできている!」
双眼鏡の視界に、丘に向かう大量の戦車隊を見た。そして無線機を取り上げて報告を後続部隊に通達した。
カルパッチョの連絡を受け、中央を進んでいたひまわりチームを率いるまほのティーガーⅠと、その援護の位置についていたエリカのティーガーⅡが停車する。
「了解した。大隊本部、ひまわりは高地麓に達した。今、先遣隊を送っている」
左右のチームよりも先行した中央担当のひまわりチームは、そこで顔を挙げると土煙が上がっているのが見えた。それは偵察に出したヘッツァーである。
『頂上に敵はいないみたいだよ〜』
そこで高地頂上に到達し、同時に低い車体で姿を隠しながら偵察を行った情報が角谷が連絡を入れた。
「だったら、すぐに取るべきよ」
「大隊長の判断を請う」
連絡を受けてカチューシャが勢い込んで進言を行うと、まほはみほに判断を仰いだ。
みほは高地頂上に展開したヘッツァーを見ながら、一瞬考え込んでから指示を出す。
「罠かもしれませんから、十分に警戒してください。退路を確保しつつ、散開しながら前進。敵に遭遇した場合は無理をしないようにお願いします」
その間も、Ⅳ号は高地右側を進んで、その後にたんぽぽチームが続いていた。
まほは通信をひまわりチーム全員に切り替える。
「有利だが、包囲殲滅される危険が有る。他のチームとの連携が取れなくなるかも知れない」
「M26なんて登るの遅いし、ここは行くしかないわよ!」
「取れば戦術的に優位に立てます」
M26の弱点はエンジンであり、搭載しているエンジンはM4A3に装備されたエンジンと同じであるため、馬力不足が著しかった。
そしてこれはすべての戦車にも言えることであるが、基本的に上部装甲は薄い。
高所からの砲撃というのは、簡単に走行の薄い上面を狙えるので、それだけで戦況が変わるほどの優位に立てる状況であった。
「確かに優位だが、わざと山頂を空けているのかも知れない」
「大丈夫よ!あなた、何だかんだ言って妹の事信じてないのね?」
まほは懸念を示してカチューシャに伝えると、彼女は得意げに言い放ち、まほは言葉に詰まった。
「ノンナなんてどれだけ私の事信じてるか!私が雪を黒いと言えば、ノンナも黒いって言うくらいよ、ねっ!」
「はい」
得意げに彼女はいうと、ノンナは頷く。
「信じるのと崇拝するのは違う」
「うっ…」
それに冷たくまほは言い放すと、カチューシャは言い負けて絶句した。
オリ主とみほの戦いを先に見たいか否か。
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見たい!
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まだ先で良い