しかし、まほは自分が不必要に悩んでいたことも確かだと思い直す。
西住流としては、ここで悩む前に動くのが鉄則であるが、今は大洗女子学園の窮地を救うために来たのだ。ここで悩んでいる間にチャンスを逃す、それだけはなんとしても避けなければならなかった。
「確かに試合が長引くと経験の多い相手が有利だ。序盤で戦果を上げておきたい」
「はい」
間髪入れずにエリカが答えると、猟犬を放ったように勢いよくティーガーⅡが前進を始める。
「さぁ、行くわよ!二〇三高地よ!」
号令と共にカチューシャ達も前進を開始する。
「おっ、二〇三高地ですか!」
「旅順開城なんとやら、ですな!」
「旅順攻囲戦な?」
そこで無線を聞いていた西に玉田が反応すると、その隣で真澄がツッコミを入れていた。
「プラウダはどんな戦いか、知っているのか!?」
「負ける気か?」
叫びあげて移動を始めたカチューシャたちを見ながらエルヴィンは苦笑し、カエサルもうんざりとしていた。
「プラウダ的にはせめてゼーロウ高地とか」
「それも厳しい戦いの気がする」
「飯盛山とか?」
「ここは天王山だろう」
「「「それだ!」」」
全員が左衛門左に同意した。
その間にもひまわりチームは高地を登り続けている。黒森峰とプラウダという重量級戦車を主軸に編成されているため、どうしても登るのが遅い。
「遅いわよ、もっとサクサク動きなさい!」
カチューシャは登坂能力の低い頭でっかちなKV-2に向かって叱責をしていた。
「ちびっ子隊長、無理言うでないだよ」
『何か言った?』
そこで搭乗員のぼやきが、地獄耳のカチューシャにも聞こえていた。
「な、何も言ってないだよ、であります」
マリーヤは背筋を伸ばして言い訳をした。
『あっそう、ならさっさと進みなさい』
その直後、怒声がなかったことに彼女たちは安堵していた。
一方、高地左側の森林をあさがおチームは進んでいたが、途中で視界が悪くなり、道も狭まったことで進撃速度は落ちていた。
『あさがおチーム。ひまわり左翼をそのまま前進してください!』
「OK!」
「了解」
みほの指示にケイと真澄が返事を行った。そして周囲の索敵を、持ち前の身長で見つめていると、彼女は無線を入れる。
「この先、二手に分かれている」
「戦力分散かー、ちょっと困るね」
二つに分かれた道を前に少し首を傾げていた。
『偵察は私がしっかりやります』
『我々も偵察は得意です』
アリサが勢い込んで進言すると、西もそれに張り合う。
「どうする、マスミ?」
「我々は装甲が不十分です。接敵の可能性を考慮し、高地側を私と西達で、どうでしょう?」
素早く的確な判断を聞き、ケイも承諾した。
「OK。じゃ、頼んだわね」
「分かりました」
そして西達の知波単の部隊を率いて彼女達は高地側を、谷側をサンダースとM3は進んでいく。
「ずぅうぇったい勝つ」
『絶対って……勝負事にそう言うの持ち込むなっていつも言ってるの隊長じゃないですか』
「今日はいいの」
真澄達と分かれてケイは無線で言うと、聞いていたアリサたちは首を傾げていた。するとケイは胸ポケットからある紙を取り出した。
「なんですか、それ?」
彼女の取り出した折り畳まれた紙に搭乗員が聞くと、彼女は紙を広げて描かれていた可愛らしいC-5とケイ達の書かれたイラストを見せた。
「アズサからもらっちゃった。ホントは、自分のお守りにするつもりだったんだって」
そう言い、彼女の意気込んでいた理由を理解して追従してきたM3に乗る梓を見た。
「隊長、いつになく力入ってますね」
「入り込み過ぎにならなきゃいいけど」
彼女が気合い入っていた理由を察し、同時にそれが空転を起こしそうな勢いであったことに少しばかり警戒してしまう。
「アリサ、知波単の様子はどう?」
そこでケイは無線機を取ると、アリサは答える。
『まったく物怖じしてないです。その分勝手な動きをされない様、こっちでもフォローしないと』
「仲間をちゃんと抑えられるかがポイントね。若いチームだから、キヌヨも苦労してんじゃないかしら」
高地側を進んでいる西達を見ると、ナオミが言う。
『そこは真澄が抑えてくれるはずだ』
「そうね〜、でも今の彼女の母校は大洗よ?」
ケイとナオミは最後尾で彼女達の支援を行うための車両として続く短十二糎をみる。
『なにせやる事が極端ですからね。今日は突撃一辺倒とか勘弁して欲しいですよ』
「うまいこと言うわね」
『え?』
ケイの唐突な返答に、アリサは困惑気味に首を傾げた。
「『キョクタン』な『チハタン』は突撃がいつもの『パターン』」
その直後、無線を聞いていた全員が凍りつく。
「…ぷっ、あははははは!!ナイスジョーク!それで仲間は『どっか移動』ってワケね!『北海道』だけに!あはははははは!」
そして徐々に聞いていた彼女達は目から生気が消えていく。
「あーはははははは!!あーお腹!お腹いたーい!あははははは、あーはははははは!!隊長の『ゴクロー』は私たちで『フォロー』あはははーー…」
皆が一様に目から光を失いながら、ケイの一人芝居を聞いていた。
「はー、面白かったわねー。ゴメンねー、大事な試合なのに笑っちゃって」
『ええ、気をつけてもらわないと』
その時、死んだ魚の目をした顔でアリサはケイに忠告を入れていた。
「こちらくまさん、偵察状況を知りたい。どうぞ」
『こちらアンチョビ。現在、敵車列は依然として進軍中』
「数は?」
『えっと…パーシングが五…いや六輌、それからーー』
そこで偵察情報で敵車両の編成を確認しながら彼女は伊藤がホワイトボードに記した情報を書き連ねていく。
「流石に全容は分かりませんね」
「まだ始まったばかりだしね」
伊藤に大久保が言うと、真澄は次にCV33に指示を送る。
「アンチョビさん、そのまま敵総数の計測、および数の照合をお願いできますか?
指示を送って承諾を得た真澄はそのまま空を見上げた。
「…そろそろ雨が降りそうね」
「あら、そんな天気?」
榎本が聞くと、真澄が顔を下ろして言った。
「一応、土砂に気をつけておくように警戒だして」
「了解です」
そこで伊藤は全体に向けて天候の変化を注意した。
高地右側を回り込むようにみほ率いるたんぽぽチームが進んでいる。
「私達は?」
「たんぽぽはひまわり右翼の高地脇を前進。ひまわりの援護を行います!」
それを聞いてオレンジペコが地図を再確認する。
「この先には川があって、その周辺は沼地になっています」
「湿地は機動力が落ちるので困りますね」
操縦手のルフナが顔を少し顰めると、アッサムも戦車一覧で確認をして口を開く。
「履帯の細い車両は困るでしょう。ローズヒップのクルセイダーとか」
「ローブヒップから機動力を奪ったら、困っちゃうでしょうね」
ルフナが軽口を叩くと、ダージリンはオレンジペコに指示を出す。
「ペコ、渡河に適した場所も探しておいて」
「分かりました」
彼女も地図を見つめて渡河地点やその後の移動経路を探る。
「成功は『大胆不敵』の子供。最初から勝負に出るのね」
そこでペリスコープ越しに、丘を登っていくひまわりチームを見た。
「定石通りの展開だと思うのですが、ダージリン様」
「その分、相手も対策を立てやすい。みほさんはそれを承知の上で挑んでいるのよ」
ダージリンは今までの喉の対決で確信した大洗と、彼女達を率いるみほの強かさを知っていた。
「ペコは大洗廃校の件、あちらの隊員たちが知っていると思う?」
「どうでしょうか?でも、知っているならさぞ戦意も振るわない事だろうと思います」
オレンジペコは容易にそのことが想像でき、戦車道を嗜む者として、乗組員の感情は操縦に出る事は分かっている。そして操縦に出ると言うことは、全体の動きにも直結することを知っていた。しかし敵は機敏に動いていることが事前にアンチョビ達の偵察で分かっていた。
「知らされていないとしたら?」
「ただの練習試合として臨んでいるのではないでしょうか」
オレンジペコは推察を立てると、概ね予想通りと言った様子でダージリンも頷く。
「大洗の情報は私達にとって重圧にもなるけど、きっと皆に最後まで挫けない粘り強さももたらしてくれる」
それが大洗という学校の強さであり、無敗で全国優勝を掻っ攫った源である。
「今回の試合、私達の戦車道にとっても有意義な時間にしましょう?」
「はい」
ダージリンの強い言葉に、オレンジペコも強く頷いた。
そして二手に分かれて進撃中の真澄達は、そこで目の前を進む四両のチハと九五式を前に軽く西達と話していた。
「ーー突撃を行う意味…でありますか」
「そうだ」
西はそこで後ろを走る真澄を見ながら聞き返すと、彼女は頷いた。
「精神?でしょうか」
「違う。もっと物理的な意味だ」
彼女は片手にノンアルコール日本酒の一升瓶を握りながら言った。
「先の大洗の市街地戦もそうだが、突撃を行った結果でかつての先輩方のような実績は出せたのかと聞いている?」
「それは…」
その追求に西は言葉に詰まってしまう。
先の大洗で行われたエキシビジョンマッチにおいて、独断専行で行われたゴルフ場での突撃は、戦力を無意味に減らしただけに過ぎない結果で終わっていた。その末大洗は負けてしまい、月刊戦車道にも『敗因はゴルフ場での戦力喪失』と思い切り書かれてしまっていた。
「しかし見事な知波単魂を世に知らしめることができたであります」
そこで玉田が少し反論気味に真澄に言うと、真澄は毅然と返す。
「それが月刊戦車道に載ったことは?」
「うっ…」
彼女達は、インターネットを使うことに不慣れであることは重々承知していた。しかし月刊戦車道は部活動棟に毎回置かれることを知っていたので、彼女は言い返す言葉がなかった。
「もう少し学内新聞ではなく月刊戦車道に目を通せ。無理強いはしないが、高校を卒業しても戦車道を続けたいのであれば必要なことだ」
彼女はそう言い切ると、そのさっぱりとした雰囲気が西達は懐かしさを覚えた。
「はっ、これより玉田は月刊戦車道を毎日熟読いたします」
「はははっ、別にそこまでする必要も無かろう。必要なのは月刊戦車道に乗る全国大会の試合をまとめた記事と、戦車道連盟が許可を出した新しい装備品の項目だ」
森を進撃中、そんな話をしながら真澄は西達を見ていた。
その所作といい仕草といい、西達は中等部の頃を思い起こさせる。とても彼女の母校である大洗が崖っぷちの状況であることさえ忘れてしまいそうな…。
「あっ…」
その時、西は一つ気が付きを得た気がした。
オリ主とみほの戦いを先に見たいか否か。
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見たい!
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まだ先で良い