双方の部隊が接近する中、観覧席でも観客が見物を行っていた。
その中、最上席のVIP席ではない場所にも関わらずそこには空間があった。
「…今はどう言う状況だ?」
そこで座ってモニターを見ていた男。黒田巌は隣に座る黒田清靖に聞いた。
彼の熊のように大きく、おっかない髭面の顔つきは、周辺の観客達に恐怖を植えつけるのに十分であった。
「まだ接敵前です。今は高地を取ろうと大洗連合は動いています」
「高地を取る理由は、視界を確保するためか?」
「そうです」
巌は、そこで最近学び始めた戦車道に関する知識の確認をすでにプロ級に学んでいた清靖に聞いて確認を行なっていた。
真澄が行った行為に対し、自分の行動を改めて見つめ直した彼は、真澄がそれほどまでに熱中した戦車道というものをゼロから学んでいた。
その為、今回の試合は家族総出で観戦に訪れていた。
ただ、おっかない見た目の人と抜群のイケメンがいることでその場の観客席の雰囲気ははっきり言ってカオス空間になっていた。
「あの車両はどんな車両なのだ?」
「あれは…」
そこで巌に聞かれ、モニターの車両を見て清靖は苦虫を潰したような顔をした。
高地山頂を確保しようと登坂するひまわりチームは、その途中で車体の重たいKV-2がT-34/85と軽く接触事故を起こしてしまった。
「ちょっと、ニーナ!」
「
「日本語で話しなさいよ!」
ニーナが叱責に咄嗟に津軽弁で返してしまったので、カチューシャは意味がわからずロシア語と同じように聞こえてしまっていた。
最も、日本語の方便の中でも特に聞き取れないことで有名な津軽弁であるので、仕方ないところではある。
「う〜〜ん…おりょう、先に出よう」
その様子を見てエルヴィンはおりょうに指示を出して迂回を行う。
「右側から登ってくれ。おっと、もっと右に、もっとだ」
「ん?ああ」
重量ゆえにノロノロしているIS-2を避け、先にこのひまわりチームの中では軽いⅢ突は先回りしてヘッツァーに追いつこうとしていた。
「ったく、何モタモタしてるのよ!」
『焦るな、エリカ』
その事に後ろを見たエリカが怒鳴ると、無線でまほが諌めた。
「ですが、両翼の部隊では相手との戦力に差がありすぎます。我々が迅速に展開して主導権を握らないと」
『まだ見えるものだけに捕らわれるな』
一刻でも早く高地を取り、その上で上から射撃を行おうとする定石の戦法に、エリカは少々不満ではあったが、こうも雑多な車両が多いと仕方ない部分もあるとして割り切っていた。
『戦車だけに目を向けるならエリカの言う通りだろう。だがそれを扱う選手達はどうだ?
大学選抜としての連携がどれほどかは未知数だが、今、乗車しているのは母校のチームで乗り慣れているものとは違う別の車輌。
隣で戦うのは普段とは違う他校の仲間。その違和感が最も強まる瞬間はいつだ?」
「…際場」
「そうだ」
エリカの返答にまほは頷く。
その頃、森でもあさがおチームは索敵警戒を行っていた。
「選抜は序盤からどう出て来ますかね。向こうの編成はウチと似てますけど」
『ん〜、編成はまあウチの上位互換ってところかしら』
『え〜〜』
ケイの言う通りである。
戦後、中戦車に分類されることとなるM26パーシングは、実質的にエンジン以外はM4中戦車の進化系である。
「ただ中身の方は突っついてみないとわからないかな」
『中身ですか?』
アリサが圧倒的に車両性能で優っている敵に対し、実際の所勝率は低いと感じていたのでケイの真面目な前向きな視点に少し意外性を感じていた。
「アリサ、
『戦力の平均化による汎用性と対応力』
「そ、ある程度経験を積んだ指揮官さえいれば幅広い戦術と安定した地力が出せるわ」
それはサンダースの先方の基本であり、ある種の
『隊長が沈んでも私やナオミが代わりを務められますしね。その為に指揮権委譲の順番も決めてますし』
アリサはケイに頷いて答えると、ケイは頷く。
「つまりウチはチームでミスや不測の事態をカバー出来る」
『確かに。後を託せる想定ができるなら思い切った行動も取れます』
「相手はそう言う所有車両にあったチームコンセプトをどこまで確立させているかってことね」
そう言って、ケイは事前の作戦タイムで真澄が言っていた『編成から訓練期間の短さ』を指摘していたことを思い出す。
まるで事前にわかっていたかのように彼女は最初にそのことを指摘していたので、自分達が知るよりもずっと以前にこの試合のことを予想していたのではないかと勘繰っていた。
「大洗のために急な呼びかけに皆が応じてくれた」
チャーチルの車内でダージリンは言う。
「誰かのために生きてこそ、人生には価値がある」
そしてカップを傾ける。
「まあいつもより優雅さには欠けるけど…」
そしてペリスコープ越しにⅣ号を見る。
まほは登坂をする最中で言う。
「純粋な戦力で勝敗が決まるものではないと言う事を、我々も大洗から学んだはずだ。引き摺り込んでやれ」
ケイは森を進撃中に言う。
「今回の件は向こうにどういう事情があろうと許される事じゃない。
大洗が勝つべきだわ、ミホ達の為に捨て石になってでも名シーンを演出するわよ」
ダージリンはティーカップを片手に言う。
「ぶちかまして差し上げましょう」
「喰いちぎるぞ」
「物語はいつもハッピーエンドでなくっちゃ!」
三人はそれぞれの想いを持ってこの試合に望む意気込みを改めて語った。
高地を登坂するひまわりチームの動きをじっと見つめる双眼鏡。
「こちらゼブラエイト、敵中隊、高地北上中!頂上到達まで推定五分!攻撃しますか?オーバー」
溝に隠れて簡単にタープを使って偽装を施していたM24チャーフィー。遠距離であるので、これほどの偽装でも十分に敵に気付かれずに索敵を行えていた。
「取らせておけ」
その報告に冷静に愛里寿は答える。
その一報を受けて愛里寿はタブレットに視線を落として、敵の戦術を推察する。定石であるのなら、中央高地を取って撃ち下ろしにしてくるだろうと考えられ、事実その通りに動いていた。
「アズミ隊。高地の麓西方の森林を全速で前進」
事前に立てた作戦計画の一つを展開し、その計画に沿って無線で指示を行う。
「敵部隊と遭遇した場合は、これを突破し、中央集団後方を脅かせ」
指示と同時に愛里寿から見て右翼、つまりみほから見て左翼、あさがおチームの場所に振られた赤い部隊符号をに×印が打たれる。
『了解』
アズミは無線を隷下の部隊に切り替えて指示を下す。
『中隊各車!全速前進!』
そこで展開中であったパーシングは前進を開始する。
「ルミ中隊。麓東方を湿原まで前進」
そしてタブレットでフリップが移動するのを確認する。
「接敵した場合は、突破せず相手を釘付けにしろ」
『了解!』
ルミも愛里寿に返答をし、イキイキとして指を鳴らして指示を飛ばす。
「こちらロジャー・ワン、中隊!隊形を横隊から斜行陣へ!」
そして次々と陣形を組むために少し遅れながら進発を開始すると、陣形が整い始める。
高地右側の森を進む大洗連合のあさがおチームの周囲は、開けていた視界がだんだん狭まり始めていた。
「前方に機械音確認できず」
目を閉じ、耳を澄ませていた真澄は無線機を手に取る。
「細見、西のチハは停止し、チハ改の名倉、玉田を前進」
「畏まりました」
「「「了解であります!」」」
便宜上、知波単支隊と呼ぶ部隊で真澄は指示を行うと、彼女達は半複縦陣とも言える陣形で進んでいたので、先行して対戦車戦闘を意識したチハ改二両を先行させる。
「こちらアリサ。前方に異常無し。オーバー」
アリサはM4A1のキューポラから索敵をしながら無線を繋ぐ。その後方にはうさぎさんチームのM3リーを先頭にケイのM4、ナオミのファイアフライが続く。
「了解、ケイ車より黒田車へ。そっちはどう?」
「こちらくまさん、こちらは問題なし。陣形を変更し、チハ改を先行させた」
そこで最後尾を進み、知波単らしくない陣形で森林を九五式を先頭に、チハ改二両を先行させた陣形を真澄は見る。これで火力支援役としてチハや短十二糎を集中的に敵に叩き込むことができた。
「各車長は目ぇかっ開いて索敵しなさい」
生憎、他の知波単学園車両は双眼鏡すら持ち込んでいなかったので、真澄は西が完全に手綱を握りきれていない状況に軽く歯噛みをする。なので基本、肉眼で索敵を行っていた。
「右翼に敵影無し」
その直後、何もいないと言ったはずの右の方角から飛来した砲弾が真澄と西の間をすり抜けていった。すると森の中で発砲する発砲炎を見た。
「応戦!」
この奇襲にすぐにサンダース側も気がついて横線を指示する。
「CQ!CQ!こちらあさがお、敵と遭遇!繰り返す!グリット7-5にて三時方向から砲撃を受ける。数は少なくとも五両以上!オーバー」
「三時方向!距離約二二〇に敵車両視認!」
「二二〇!?」
真澄の測距による予想外の至近距離に聞いていた全員が驚愕する。
ケイの通報はみほの元に届いた。彼女はその一報を聞いてすぐに対応策を指示しようとすると、すぐに新たな通報があった。
『こちらダージリン。敵戦車発見』
彼女は双眼鏡のメモリから戦車の車体全長から距離を測定すると、かなりの至近距離であることに驚く。
「方位10時、距離240ヤード」
強行偵察を兼ねて前進していたダージリンの乗るチャーチルでは森の切れ目から飛び出したパーシングを見た。
パーシングの主砲ではチャーチルの装甲を抜くのは難しいことはわかっていたが、それでも砲口がこちらを向くと反射的に反応をしてしまう。
「たんぽぽ各車、微速後退しつつ応戦!」
彼女は森の縁から出かけていた後続車に一斉に伝達する。
「向こうはあさがおとたんぽぽを潰しに来た!」
『11時の方向、パーシング。敵戦力増大中!』
みほは磯辺の報告も聞いて敵の強襲にすぐに対応策を考える。
オリ主とみほの戦いを先に見たいか否か。
-
見たい!
-
まだ先で良い