東通用門から現れたT28の主砲である105mm砲の砲撃が建物の壁を抉っていく。
「まるでジャバウォッキーです」
「と言うよりもバンダースナッチね」
その砲撃を鏡の国のアリスの映画の中に出る怪物に例えるオレンジペコとダージリン。
「ならば、私たちに必要なのは希望ですね」
アッサムもその例えに準って話を続ける。
「こちらも砲撃よ」
ダージリンも優雅に微笑んで反撃を指示する。
効果は皆無に等しいが、運が良ければどこかが故障するかもしれないと言う望みをかけていた。
『騎兵隊とうちゃーく』
そこにサンダースのケイの声が聞こえる。
「来ましたわね」
「希望の到着ですね」
通信と同時にナオミのファイアフライが滑り込み、真後ろに着くなり17ポンド砲を発射する。しかし正面装甲300mmという規格外の装甲はこの強力な主砲を持っても貫通不可である。
その反対でマチルダⅡとM4が砲撃を行う。
『行きますわよーー』
その直後にローズヒップの声が飛び込んだ。
何事かとケイがキューポラを開けると、そこではクルセイダーが東通用門に飛び出し、全速力でT28に突撃をかましていた。
「え、何あれ?」
『ああいう人なんですよ』
驚くとオレンジペコが答えていた。
その間にT28に肉薄したクルセイダーは至近距離で砲撃を行うと、全速で後退する。その細かな動きに苛立ったようにT28は砲撃を行うが、クルセイダーの脅威の後退速度で地面を抉るだけに終わる。
T28の幅広い車体はこの狭い通用門ギリギリであり、うっかりすると壁に引っかかってエヴァーギブンとスエズ運河よろしく通路を塞いでしまう可能性があり、T28はただでさえ遅い足をさらに減じて進んでいた。また車幅ギリギリであるので後続のパーシングも砲撃を行うことができなかった。
「お待たせー、って本物のT28だ」
「うわ、でかい!」
予想以上に遅かったので南正門にいた大洗の援軍も到着した。
「また上に乗れそうですね」
「砲塔無いから乗っても意味ないよ」
「そっか」
到着した八九式の車内で佐々木達はそう言うと、佐々木はややがっかりしていた。
そして到着した援軍は次々と砲撃を行っていくと、T28の砲撃で蜘蛛の子を散らすように散開する。
「なんて硬い戦車だ」
エルヴィンも思わず驚いた声を漏らしてしまう。
「どっか抜ける所ないの?」
「重戦車キラー行ってきなよ」
澤が呟くと宇津木が無責任に阪口を煽った。
「あいー」
しかし流石の阪口も首を横に振った。
「履帯を狙って!」
そこでダージリンの指示が飛ぶと、直後にヘッツァーの近くに着弾する。
「2ブロック後退」
最前列にいたダージリンが距離を見て一時後退指示を出した。
「あれが通り抜けたら、その後のパーシングが一斉に追ってくるわ!」
悔しげなダージリンが本格的に後退指示を出す。
「後退して、みほさんたちに合流するわよ」
その後、一斉にその場から全車両が撤退する。
T28が加速し、通路から車体を全て出すと、その後ろから満を辞してパーシングが飛び出してきた。
『こちらメグミ中隊。東通用門突破。予定通りにZ地点に向かいます』
「了解」
愛里寿は丘上から観測を続けていた。
「さぁ、狩りの始まりだ!」
「楽しみましょ」
歓声を上げたルミにアズミが静かに唆る。
「簡単に撃破されないでね。命乞いしたくなるほど、可愛がってあげるから」
メグミは逃げ出した大洗連合の部隊を見てニッコリと笑うと、各車両に追撃を指示する。
完全に忘れられている西門では、真っ暗な車内で玉田が汗をかく。
「西隊長!味方の危機ですよ。直ちに総攻撃に向かうべきでは?」
「そう言うな玉田、これも作戦だ」
西は冷静に指示を出すが、玉田はイライラがまたって貧乏ゆすりが激しくなっていた。
同じく陽動となった南正門では、煙幕が邪魔をして目の前の敵の総数が分からなかった。
「…」
目を閉じてキューポラから顔を出した真澄は砲撃の音と場所を大まかにエコーロケーションで把握する。なるほど、残したのはこれが理由かと納得しながら索敵を行っていた。
「多分、四輌だけ」
「私たちを引き付けておくだけみたいだけど、どうする?」
その隣でカチューシャが聞いた。
「分かった、行こう」
敵の数を把握してまほは小さく頷く。
「エリカ、頼む」
「はい!」
それを聞いてエリカは満面の笑みを浮かべ、即座に前進を指示する。
「カチューシャ、合わせられるか?」
「誰に言ってるのよ」
まほにそう答えながら正門から飛び出して行く彼女達。
「真澄は私たちの後ろで待機」
「へーい」
そこで索敵要員として残され、装甲ペラペラである真澄達は正門の安全な場所で待機すると、飛び出した三輌はそのままの勢いで出ると思わせてそのまま急制動。履帯を小刻みに動かして正門の壁にスライドし、パーシングを射界に捉える。飛び出したところを狙い撃ちにしようとした二輌のパーシングは、ティーガーⅡの動きに撹乱され、迂闊に発砲。あらぬ方向に砲弾は飛んでいった。
最も、パーシングの主砲ではティーガーⅡを正面から撃ち抜くのは困難であるため、エリカは気楽に照準を合わせて砲撃を指示する。
「撃てっ」
「撃ちます!」
そして発砲を行うとパーシングに白旗が上がる。それと同時にティーガーⅠも加速し、撃破されたパーシングの横を通り過ぎて隣のパーシングに命中させて撃破する。
その後、すぐに撃破された車体を縦にまほは隠れると、後方に隠れていたパーシングとチャーフィーが砲撃を行うが、その砲弾は撃破された車両に吸い込まれた。
続いて回り込んだT-34/85が撃ったばかりのパーシングを撃破する。
「撤退します!」
チャーフィーが慌てて加速し、正門に飛び込む。その際に伊藤が車体砲を発砲したが、その砲弾は命中せずに外れてしまった。
「くそっ!」
普段の彼女らしくない発言が出ると、大隈が呆れた様子で話す。
「だから、あんたのそれは一泡吹かせ用だって言ってるでしょうに」
「くそぅ、これでパンターを倒したことだってあるのにい!!」
悔しがる彼女に聞いていた大久保と榎本が言う。
「そりゃ静止目標には当たるでしょうよ」
「あれで外したら河嶋先輩以下の腕前よ?」
そんなひどい話をしながら彼女達は戦果の確認を行う。
「こちら正門、パーシング三輌撃破、チャーフィー一輌が園内に入った。これより追撃を行う」
『了解です。先ほどの情報と合わせて他の車輌に注意してください』
無線のやり取りを確認すると、伊藤はホワイトボードで車両数を減らしていく。
『残敵は見当たらず。追うぞ』
『了解』
そこで周囲の状況を確認してから彼女達は移動を始める。
「なかなかやるじゃない。黒森峰の副隊長さん」
「は?」
「まあ妥協点ってところかしらね」
カチューシャの上から目線な言い振りにエリカは不満げに答える。
「行くわよ、エレオノーラ」
「ふん」
彼女の昇格された呼び方に鼻を鳴らしてエリカはカチューシャの後を追いかけて園内に戻っていく。
その頃、西裏門でジリジリと苛立ち始める玉田は限界を迎えようとしていた。
来るなら早くこいと言う彼女の願いが通じたようにパーシングが西裏門に展開する。
「撃て」
そして分隊が砲撃を行って門を吹き飛ばす。
「前進」
そして突破口を作ってからパーシングはゆっくり前進を始めると、周囲を忙しく観測する。
「敵影なし」
門を抜け、後続に場所を譲り、次々と園内に侵入。砲塔を回して周囲のどこにでも撃てるように警戒を行うも、視界の中にそれらしい影は一つも見えなかった。
「対岸にも敵影無し」
「主力に追い立てられているのね」
分隊長はここに敵はいないと判断し、警戒をしながらも次のエリアに繋がる一本橋の上を進む。
奇襲にはもってこいの場所であるが、それを分かっていて彼女達はその場所を選んでいた。
すると橋の半ばに差し掛かった頃、先頭車に向けて砲弾が命中した。
「やっぱり!」
二号車がすぐに砲弾の飛んできた方角を見ると、橋の上に旧砲塔チハを視認した。
「敵発見、右前方通路上、旧砲塔チハ、脅威度低」
先頭車と三号車がチハに照準を合わせようとすると、チハは後退した。
ゆっくりと前進するパーシングがスワンボート乗り口に差し掛かった時、先頭車に衝撃が走った。
「何!?」
「被弾、右前方破断音、履帯損傷の可能性!」
「停止!」
車長が急停止を指示してキューポラから顔を出すと、同時にスワンボートの隙間に挟まったアヒルが破裂。砲弾が飛来する。後続の車両も左右を確認しようとすると、最後尾の車輌に着弾。
「どこから」
砲弾の飛来源を確認すると、そこには揺れるひっくり返ったボート。
「よし、今だ!」
そのボートが動き出し、桟橋をよじ登る。
「何、あれ」
「敵だ!全車対応急げ!」
パーシングがボートに照準を合わせようとするが、至近距離であるために照準がつく前にチハがボートを振り落として二号車のパーシングに肉薄し、超至近距離でパーシングに発砲。ターレットリングを破壊したのか、白旗を上げさせた。
「バンザーイ!」
「玉田よくやった!」
奇跡のような戦果を前に細見や西は称賛する。
「よし、もういっちょ」
「それ位にしておけ!」
欲をかいて戦果向上を図った玉田を西は注意すると、すでに三号車が旋回を終えて照準を向けていた。
「あれ」
「戻れ!」
慌てて後退するチハ。
その瞬間、パーシングから砲撃が届くも先に回避したことで砲塔を掠めるにとどまる。しかし砲弾を弾いた衝撃で水切りのようにチハは吹っ飛んでいった。
「後退的前進!」
次々と砲撃が来る中を西が命令を下し、彼女達は桟橋から離れていく。
途中で反撃も行うが、そもそも全てのスペックにおいて負けているので逃げる以外の選択肢が彼女達にはなかった。
「こちら西、西裏門からパーシング四輌侵入、二輌の履帯を切断、一輌撃破、無事な一輌も橋の上で立ち往生中、即時戦闘参加は困難と思われる」
西の通信を聴き、武部は指示を出す。
『お手柄です。直ちに我々と合流してください』
それを聞いて、改めて知波単の面々は感動が湧き上がった。
「やったぞ、奇跡の撃破だ」
「我々の戦術的勝利だ!」
玉田と細見は大いに盛り上がり、西と福田も嬉しそうに見つめていた。
オリ主とみほの戦いを先に見たいか否か。
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見たい!
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まだ先で良い