パーシングを一輌撃破した快挙を前に西達は双眼鏡で立ち往生をしている分隊を見つめる。
「相手は修理が必要だが、これでしばらく時間を稼げる」
西はそう話すと、隣で細見と玉田が言う。
「ここは再度攻勢に打って出るべきです」
「そうです!」
二人の意見に西は冷静に答える。
「いや、場所を変える。親善試合と同じ轍を踏むのは避けよう」
今と同じ戦法を隣のサファリパークでも実行しようと画策する西。
「せ、先輩方」
その隣で福田はそこで玉田達に話しかけた。
「いかがでしたでしょうか?」
やや恐る恐る彼女は聞くと、細見は答えた。
「悪くなかったぞ福田」
「あ、ありがとうございます!」
パーシング一輌撃破という、輝かしい戦果を前に福田は嬉しげに頭を下げた。
「ああ、久しぶりにやったが、ここまで上手くいくとは」
その後ろでは細身と玉田が話していた。
「意外とこう言う戦い方が我々の性に合ってたりしてな」
「はっはっはっ、冗句というやつか。細見はハイカラなことを言う」
そんな事を話していると、西は先ほど福田が行った意見を思い出していた。
細身と玉田から驚愕の声が上がった。
「正面から対峙しない!?」
「本気か福田!」
福田からの提案はそれほどに衝撃的なものであった。
「それでは敵と戦えんではないか!」
「いやまあ戦えはするだろ」
玉田の意見に細見は流石に突っ込んでいた。
「だがそれは知波単学園の戦い方ではない!」
「然り!」
しかしそれは知波単らしくない戦い方であるとして福田に詰め寄る。
「西隊長からも言ってやってください」
「…」
そう言い、玉田は西を見るが、彼女は腕を組んだまま福田を見つめた。そしてゆっくりと口を開いた。
「我々には、足りないものがある」
その呟きに玉田と細見は即答する。
「不退転の決意ですね!」
「わかります!」
「いや、そうじゃないんだ」
しかし西は指定したことで玉田が疑問視する。
「ではなんです!」
「さあ…なんなのだろうな」
西は直後に真澄に聞いたら予想の十倍は帰ってきそうな疑問を思い浮かべたと思った。その返答に細見が驚きの声を漏らした。
「え!?」
「一つわかっているのは、突撃は知波単学園の伝統として根付いたもので、我々の存在の在り方そのもの。おそらく今後もきっと切り離すことはできないと言うことだ」
彼女はそう言い、中等部の頃にその突撃癖をなんとかしようと苦心していた真澄達を思い出す。
「おお!ではやはり!」
「だが今は控える」
その西の断言に細見は驚愕する。
「た、隊長!?まさか臆されたのですか!?」
「いや」
その判断に西は軽く首を横に振る。
「何せ今の我々は、名実ともに大洗の生徒だからな」
彼女は現状の自分たちの立場を改めて玉田達に伝える。
「大洗はこれまで戦車道の経験が浅いながら、決して諦めず戦い方を自分たちで考え、全国優勝まで果たした」
一部では西住流や真澄などの強力な選手がいたからと言う見方もあるが、それは違うだろうと西は親善試合の際に肌身で感じていた。
「『勝利を掴む道筋』これが私たちと違う」
西は彼女達と自分たちで何が違うのかを考えた。
そしてこの隊長という立場を賜った身であるが、正直に言えば中等部の頃から
「し、しかし我々も今日こそは…」
「そう、今日は我々も大洗の生徒として、なんとしてでも勝たなければならない」
『大洗女子学園の生徒として』この場に救援に訪れた西達。その初心を彼女は思い出させ、同時に提案する。
「だから彼女達に倣った戦い方をしてみないか?」
大洗流の、全国優勝へと導いた奇跡をもたらしたあの伝説の戦い方を。
「突撃ができなくとも案ずるな。我々の魂は不変だ」
彼女はそう言い、玉田達を丸め込む。
「もし知波単学園と大洗女子の立場が逆になったとして、大洗の皆さんが助けに来てくれたとしよう。その時西住さんならきっとこう考えるはずだ。『最後まで勝利のために戦おう』と」
西はそこで今も戦っている同胞の顔を思い浮かべる。
「つまりこれは、『大洗女子流の知波単魂』!」
「おお、大洗流知波単魂!」
「…ちょっと待て、それって知波単魂なのか?」
そこで細見が違和感を感じて首を傾げると、玉田が言う。
「馬鹿だなあ細見、『知波単魂』って名前がついているんだから、知波単魂に決まっているじゃないか」
「なるほど」
その反論に納得が行った様子で細見は頷くと、西の提案に賛同する。
「…やってみるか」
「やらいでか!」
玉田もそれに同調すると、細見は聞く。
「で、どうやって戦えばいいんですか?」
「うーん…突撃?」
西はその問いに明確な答えを用意していなかったので、回り回って突撃の言葉を漏らしてしまう。
「それについてですが」
すると福田が彼女達に提案を持ちかけた。
「先ほど使えそうなものを見つけました」
彼女はそう話すと、そこでボートの資材置き場に放置されていた多数のアヒルの頭を模したゴム風船を確保した。
奇襲攻撃を成功させ、大学選抜の分隊を足止めした西達は隣のサファリパークに移動していた。
「西隊長、わかってはいるんですが、やはり待ちに徹するというのは慣れません」
「そういうな玉田。我が校の存亡がかかっている」
西は大洗女子学園の生徒となって玉田に寄り添うと、彼女達に成り切るために思想面での教育を施す。
「規範となる大洗の生徒たれ」
「ぐっ…」
指摘をされ、玉田達も反論ができずに不慣れながら口調を変える。
「や、やあ、今日の大洗は波が高いな〜!」
「生しらす丼って絶品よね〜」
「いいぞ」
西は二人のやりようを誉めるが、聞いていた福田はやや冷めた視線で見ていた。
「福田。さっきの作戦といい、今してる作戦といい、指示の手際がいい。もしかして前々から考えていたのか?」
「はっ。実を言いますと黒田隊…いえ、黒田殿に教えを賜ったものなのですが…」
少し恥ずかしげに福田は西に答えていた。
「で、ですが、西隊長と同じく。大洗の皆さんならどうするだろうか、というのをこのところ考えておりました」
「そうか、だがおかげで助かった。あの場面で先輩達にも萎縮せず、正面から進言してくれた」
西はそう言い、福田を褒め称えていた。
「見せてもらったぞ、福田の知波単魂」
「きょ、恐縮であります!」
二人は同じ人物に扱かれた経験のある中等部時代からの仲でもあった。
今ではその後の経緯や復活劇などから中等部でもあまり大袈裟に語られることは無くなってしまった…いや、正確に言うと支援団体と関係者のやらかしがデカすぎて黒歴史となってしまったことで、飾り立てようにも飾り立てられなくなってしまったかつての栄光。
「それに私たちを信用して実行に移してくれた玉田や細見たち。私はいい仲間に恵まれた」
西はそう言ってから一瞬俯く。
「本来、この地位は黒田隊長が就くべき場所であると思っていた…いや、今も私はそう思っている」
彼女の言葉は本心からくるものであるのだろう。少なくとも聞いていた福田は、彼女の声の細さがそれを表しているように聞こえた。
中等部の全国大会で準優勝を飾ったあの時のメンバーは、真澄が戦車道を辞めた後に散り散りになってしまった。元より抜群の才能を持っていた真澄についてきたような面々も多かったのがさらに災いしていた。
「しかし隊長は帰ってくると言ってくれた」
「っ…!!?」
その時、福田はやや目を見開いて西に驚愕の顔を見せた。
「ああ、このことはまだ内密で頼むぞ?」
「は、はい!」
西は口元に指を当てて告げると、福田は何度も頷いて承諾した。
「この試合は大洗にとって重要なものだが、我々にとっても転換点になりそうな気がする」
そして気を取り直したように西は顔を上げる。
「この調子で大洗の力になろう!」
「はい!」
福田も少し嬉しげな眼差しで新しくアヒル風船を装備する車両に近づく。
「それでなんだが、黒田隊長からはなんと?」
「はっ、黒田殿より『熱殺蜂球』というものを教わりました」
「なんだそれは?」
熱殺蜂球という聞きなれない言葉に西は首を傾げると、福田は真澄から教わったその知識を教える。
「熱殺蜂球というのは、蜜蜂が外敵の襲撃を受けた際に行われる方法だそうで、密集した状態で外敵を蒸し焼きにする殺法だそうです」
「ほう?」
「そこで黒田殿は『我々は蜜蜂と成りて敵を囲み、これを撃滅せんとする』とお教えなさいました」
「なるほど!」
西は福田経由で知る真澄の真意を汲み取って理解する。
「一匹では弱い蜜蜂であろうと、集まれば巨敵を倒すことさえ可能である。と言うことだな?」
「はい」
西の理解に福田は頷くと、二人は新しく装備を終えたアヒル付き風船の戦車に乗り込んで行った。
チャーフィーを追撃中であった真澄は、キューポラから顔を覗かせたまま晴れない表情をしており、その顔をエリカが見た。
「どうしたのよ、辛気臭い顔して」
「あんたに言われたかねえ」
無線で速攻言い返されると、聞いていたカチューシャが話しかける。
「どうせ西裏門のことでしょう?」
「あら、流石にフェーヤには分かるか」
「んまっ、カチューシャにはこれくらい簡単だわ!」
真澄は少し恥ずかしげにすると、カチューシャは少し胸を張っていた。
「一応、福田に聞かれたからやっておくべき戦術は提案しておいたんだけどね…」
「へえ、あの突撃一辺倒の知波単をどう丸め込んだのかは気になるところね」
そこでカチューシャはチャーフィーの追撃をしながら真澄と話していた。
「あの学校は別に悪いところばかりではないってこと。ただまあ、やる気と努力の方向性は完全に間違えてっけどね」
「…やっぱりダメじゃないのよ」
そう言い、聞いていたエリカは呆れてため息をついていた。
「今はどうだか知らないけど、まさかOG会が中等部の試合にまで口出してくるとは思わなんだ」
「え、嘘でしょう?」
そこで少し遠い目をした真澄にエリカはやや驚いた反応をしてしまうと、そこをすかさずカチューシャは突いた。
「あら、新隊長になるのにエレオノーラは知らなかったの?」
「それくらい知っているわよ!」
馬鹿にすんなとエリカは憤慨してカチューシャを睨みつけていた。その直後、無線で知波単がパーシング一輌の撃破の連絡を聞いた。
「あら、意外とやるじゃない」
「ふぅ…単純で扱いやすいのが彼女達の最大の利点でもあるんだけどね…」
ほろ苦く彼女は笑って安堵したため息を吐いていた。
オリ主とみほの戦いを先に見たいか否か。
-
見たい!
-
まだ先で良い