マチルダⅡに追われて街中を逃げるⅣ号。街中を右に左に小刻みに曲がるⅣ号を追撃するマチルダⅡは大洗の街をタンクチェイスする。
そしてⅣ号がが緩やかな坂道のカーブを曲がった時、マチルダはその重量ゆえに勢い余って旅館の入り口に突撃をかましてしまう。
その瞬間、観客席ではその旅館の店主の絶叫ではなく歓喜の声が響いたという。まあ保険降りて新築できるからね。
こんな制度があるから街中で戦闘して欲しいと立候補する街が多いんだよ。
そしてひたすらに逃げるⅣ号であったが、運悪く工事中の道路に入ってしまう。
後ろには四両のマチルダⅡとチャーチルMk.Ⅶ。そしてダージリンがチャーチルから顔を覗かせると一言。
「こんな格言を知ってる? イギリス人は恋愛と戦争では……手段を選ばない」
そう言い、砲塔がⅣ号に向いた瞬間。
『参上~!!』
「生徒会チーム!?」
「履帯直したんですね!」
まさかの参戦に思わずダージリンも驚愕で手が止まってしまう。
『発射!!』
しかしゼロ距離なのに三七ミリ砲は空気を撃っていた。普通こう言う時って『強くなって帰ってきましたぁああ!!』じゃないの?
『あっ……』
『桃ちゃんここで外す?』
ドゴーン!!
そして即座に一斉射撃で復活した38tは瞬殺される。
『や~ら~れ~た~!』
「前進!一撃で離脱して、路地左折!!」
Ⅳ号は前に居たマチルダを撃破し逃げた。
「回り込みなさい!至急!!」
ダージリンは回り込むように指示を出す。
「榎本さん!」
『準備完了』
「予定通り回り込んでいます。見えますか?」
『ええ、ばっちり』
「お願いします」
『了解』
みほと榎本はそう短く話すと、武部が聞いた。
「みぽりん。榎本さんと何を話していたの?」
「うん、ちょっと昨日ね……」
そう言うと、みほは武部達に昨晩決めた作戦を話した。
「大丈夫なの?」
「大久保さんの腕なら……」
そう言うとⅣ号はひたすらに街を疾走していた。
「急げ!急いで回り込んで!!」
四両のマチルダⅡは疾走する。
「Ⅳ号は恐らく大通りに出るはずだわ!」
『ええ、そうですねルクリリ様……』
しかしその瞬間、最後尾を進むマチルダⅡが大爆発を起こして白旗が上がった。
「何っ?!」
砲声は聞こえなかった。ではどこに?
「警戒!何処かに短十二糎が隠れているわ!」
そう言いルクリリ達は否応にも速度を落とさずをいられなかった。
「大通りに出て先に路地を抑えます」
みほは一つ先の路地を進むチャーチルを見て焦る。
「急いで下さい!右折したら壁に沿って進んで急停止!」
「はい」
そしてみほ達Ⅳ号は、大通りの十字路の曲がり角で急停止して通って来たマチルダの側面を砲撃して撃破。更にやって来たマチルダを反対方向に回って側面を砲撃して撃破する。そして後にやって来たチャーチルは撃破されたマチルダを軽く押し除けて前に出る。
砲塔を砲撃するも効果なしだった。流石の重装甲だ。
「路地行く?」
「いや、此処で決着を着けます。回り込んで下さいそのまま突撃します」
Ⅳ号は一旦チャーチルから距離を取ると車体を反転させる。
「と、見せかけて合図で敵の右側部に回り込みます」
直後Ⅳ号は全速力でチャーチルに向かって突進。
「はい!」
とみほの合図でⅣ号はチャーチルの手前で急ブレーキを掛けドリフトでチャーチルの側面に回り込んだ。
「撃て!」
「はい!」
そしてチャーチルとほぼ同時に発砲し、爆発により爆煙に覆われる。
そして、煙が晴れるとチャーチルは履帯が切れた以外殆ど無傷状態。一方のⅣ号はチャーチルの砲撃で砲塔がやられ主砲が破裂し白旗が上がる。
「……後は短十二糎自走砲です」
「そうね」
するとアッサムがダージリンに告げる。
「しかし、我々は履帯が破壊され移動できません。それに、どうしてこう開けた場所に……」
「……もしや」
「どうしましたか?」
その瞬間、ダージリンの表情が一気に青ざめた。
「アッサム、どうしてⅣ号は
「っ!?まさかっ……」
その瞬間、ダージリンの乗るチャーチルに強い衝撃と轟音が加わり、判定装置が白旗を上げた。
「何処から……あっ」
ダージリンはキューポラを開けて双眼鏡を見ると、遠くに映る一両の戦車を見た。
「短十二糎
自走砲とは。搭載する巨大な大砲を持って敵車両などを射撃し、大火力で敵に大打撃を与えるための車両。
その車両はかつて、戦車として数えられていたと思われる過去から戦車道連盟はそれを戦車として認めた。
しかし自走砲の名の通り、前線運用よりも後方の運用を求められるその車両は今回。その能力を遺憾なく発揮していた。
どんな戦車の弱点でもある上面装甲をその車両は狙っていたのだ。だから高台に登って街を見下ろす形で車両を移動し、Ⅳ号は障害となる建物のない大通りの真ん中でチャーチルを立ち往生させたのだ。
「だから砲声が聞こえなかったのね」
おそらく座標をⅣ号が送っており、その座標に砲撃を行ったのだろう。だから向かってきていたマチルダが一両撃破された。
『聖グロリアーナ女学院チャーチル行動不能!よって、大洗女子学園の勝利!』
初陣の白星。その結果に驚きの声が上がっていた。
練習試合が終了し、撃破された戦車が回収されていく中。みほ達はレッカー車で回収されていく戦車を見て唖然となっていた。
「あの聖グロリアーナに勝てるなんて………」
その勝利に唖然となっていると、みほは声を掛けられる。
「あなたが隊長さんですわね?」
声を掛けたのはダージリンだった。
「あ、はい」
「あなた、お名前は?」
「あ……西住みほです」
名前を聞き、ダージリンは驚いた後に納得した表情を浮かべた。
「もしかして西住流の?…随分まほさんと違うのね……。そしてあなたが噂の……」
「え?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
そう言い、ダージリンは嘗ての同じ志を持っていた友人の話を思い出していた。
「みんなお疲れ様」
そう言うと、そんなみほ達に声をかける人が一人。マネージャーの黒田真澄だった。
「初試合と初勝利おめでとう。みほちゃん達はこのまま解散したらその後軽くだけど宴会よ」
「「「「「えっ!!」」」」」
みほ達はそう聞き、驚いていると真澄は当然と言った様子で語る。
「当然。勝ったからにはお祝いしないとね」
そう言うと、その後ろから角谷達が現れる。
「やあやあ、お疲れ様」
「あっ、会長」
あの悪魔の提案を持ちかけた鬼会長はみほ達に話しかける。
「初めての他校試合。お疲れ様」
「ええ会長。これでみほちゃん達の『あんこう踊り』は回避でいいですね?」
「うーん、それなんだけどさあ。榎本ちゃん達がいなかったら私たち負けてたでしょう?」
「え?」
おかしい、確か約束では……。
「だから榎本ちゃん達以外全員あんこう踊りね」
「「「「「……え?」」」」」
全員の声がハモる。嘘でしょう?
「ちょっと待てい!」
思わず真澄が角谷にツッコミをかける。
「会長!勝ったらあんこう踊りは無しでは?!」
「でも榎本ちゃん達以外負けてるじゃん。だから決行ね」
「「「「「?!?!?!?!」」」」」
その事実に秋山達は愕然となってしまった。みほが犠牲になるならと真澄が自ら生贄になろうとしたが、角谷が断固拒否していた。
その直後、真澄は全力でみほに土下座していた。するとそこで帰ってきた榎本達も事情をすると明らかに角谷に殺意を抱いていた。
「大変申し訳ありません!!」
「あのチビ会長!!」
「バットで百回殴ってしばき回してやる!!」
「何処ダァ!!」
「野郎ぶっころっしゃぁぁあああ!!」
その殺意にあまりにもみほは驚いてしまうが、後にその『あんこう踊り』を知り。恥ずかしさが限界突破していた。
その後、みほのあんこう踊りを守れなかった責任として真澄達は堂々と見ようとしていたところを思い切りみほに殴られ。結局見る事なく真澄は停泊する聖グロリアーナ女学院の校門前に訪れた。
「あっ、蜜柑ちゃん」
そして校門の前で真澄を待っていたオレンジペコを見てそう言うと。彼女は不満そうな表情を浮かべて反論する。
「蜜柑ちゃんじゃありません!オレンジペコと呼んでください!」
「ははは、悪いね」
そう言い真澄はオレンジペコの頭を軽く叩く。元々の身長が一七五という巨女故に周りの生徒も誰だと視線が集まっていた。
そしてそのままオレンジペコの後を追って校舎を進むと、彼女が案内を終えた。
そこは俗に『紅茶の園』と呼ばれる場所であり、一般の生徒が入れない為に他所の学校の生徒が入って行った事に驚きと羨望の眼差しを向けられていた。
「こちらです」
「ありがとう」
そう言い、彼女は扉を開けると。そこにはダージリンがティーセットを用意した状態で真澄を待っていた。
「あら、そのたん瘤はどうされたのです?」
「ああ、あの後ちょっとね……」
そう言い彼女はみほに思い切り殴られて出来たたん瘤を軽くさすった後にダージリンに聞いた。
「さて、私がここに呼ばれたのは……」
「ええ、紅茶を淹れてくれるかしら?」
「分かりました」
二つ返事で答えると、真澄はダージリンに聞いた。
「水は?」
「今朝、信州より取り寄せた汲みたての軟水ですわ」
「だとすればディンブラが宜しいでしょう」
真澄が言うと、ダージリンは控えていたルクリリに言う。
「ルクリリ、至急最高級のディンブラを」
「はっ、はい!」
ルクリリは驚いた様子を隠し切れずに棚からディンブラの入った缶を取り出した。
「持ってまいりました。ダージリンさ…ま……?!」
そこでルクリリはすでにポットとカップを温めている真澄を見る。陶磁器を温め、純白の装飾の施されていないカップを湯煎で温めていた。
「……」
そしてそのまま軟水を沸騰させると、温めてスプーンで綺麗に茶葉を入れたポットに、身長を生かして高い場所から湯を流し込んでおり。中の茶葉を踊らせる。
そしてタイマーを使って時間を測り、その後温めたカップに茶漉しを置いて高い場所から蒸らした紅茶を流し入れる。
「相変わらず完璧な淹れ方ね」
「喜んでくれて何よりです」
「……」
聖グロリアーナの生徒が見ても完璧すぎて敵わないその淹れ方にルクリリは唖然となってしまった。
「どうぞ?」
「あ、ありがとうございます」
少なくともローズヒップに一万回くらい見せつけてやりたい程美しい淹れ方に、当然の如くディンブラもいつもと全くと言っていいほど芳醇な香りが鼻腔を漂っていた。
「あの茶葉で……」
「さすがは紅茶検定上級を持っているだけあるわね」
「っ?!」
ルクリリはそれを聞いて思わず驚く。聖グロリアーナ女学院でも持っている人は少ないその資格を彼女は持っていたのだ。
「やはり貴方を雇おうかしら?」
「ご冗談を。私はお嬢様口調で話せると思います?」
ダージリンと真澄はそう話す。オレンジペコもこの時を待っていたかのように真澄の淹れた紅茶を飲んで嬉しげにしていた。
そして最後の一滴、ゴールデン・ドロップまでしっかりと淹れた後。真澄は自分の淹れた紅茶を一口飲む。
「正直、毎日飲んでいるせいであまりありがたみがないんですよね」
「羨ましいですわ。これほどの紅茶を毎日飲めるとは……」
「試合が終わるたびに私に紅茶を淹れろとせびっていたのが懐かしいですね」
真澄がそう言うと、ルクリリはもしや大洗と試合をしたのはこの紅茶が目的だったのでは?と思ってしまった。
でもそれほどの価値があるとも思ってしまった。それくらい美味しい紅茶だったのだ。