その後、ショックで倒れた百合を運んで自宅まで行った。
普段の五十鈴の話し方から何処ぞのお嬢様なのだろうと思っていたが、まさか先生の御息女だったとは……。
豪邸と呼ぶに相応しい家に入り、みほ達はきょりきょろと飾られている掛け軸やらを見ていた。
「みほちゃん。はしたないよ」
「あっ」
客間で出されたお茶を嗜みながら真澄は綺麗な正座をしていた。
こういうところを見ると、真澄も良いところのお嬢様の気品が出ていた。
「すいません、私が口を滑らせたばっかりに……」
核ミサイル級の爆弾発言をしてしまった秋山が申し訳なさそうにする。ほんとに何やってんのよ……。
「いいえ、秋山さんのせいではありません。わたくしがちゃんと母に話してなかったのがいけないんです」
そんな秋山に五十鈴は首を振ると何か思い詰めた様子で少し俯いた。
「お嬢、奥様が目を覚まされました。……お話があるそうです」
すると奉公人である新三郎が襖を開けて部屋に入ってくると五十鈴にそう話す。十中八九戦車道を直ちに辞めろという話だろう。
「わたくし、もう戻らないと……」
「ですがお嬢!」
「お母さまには申し訳ないけれど……」
五十鈴は何も言わずに出て行こうとする所を止められる。その新三郎の目はとても真剣なものだった。
「お嬢…差し出がましい事を申しますが、お嬢の気持ちは……ちゃんと奥様に伝えた方が、よろしいと思うのです!」
そう言われ、五十鈴はどうしたものかと悩んでいた。
「行ってきなさい」
「黒田さん……」
するとそこで真澄が口を開いた。
「こういう時ははっきりと自分の思っていることを話さないと、いずれ大きな禍根を残すことになるわ」
「……分かりました」
真澄の説得を受け、彼女は覚悟を決めたのか真剣な眼差しで言った。
「お母様とお話ししてきます」
「いいのかな?」
「偵察よ、偵察!」
その後、五十鈴が心配なみほ達は客間を出て二人のいる部屋に向かう。
部屋の中でどのような会話が行われているのか。そっと聞き耳を立てていた。
『申し訳ありません……』
『どうしたの?華道が嫌になったの?』
『そんなことは……』
五十鈴に百合が捲し立てて聞く。
『じゃあ、なにか不満でも?』
『そうじゃないんです……』
『だったらどうして!?』
すると五十鈴は自らが思う感情を正直に伝える。
『わたくし活けても活けても……なにかが、足りない気がするんです』
『そんなことないわ。あなたの花は可憐で清楚、五十鈴流そのものよ』
『でも、わたくしはもっと、力強い花を活けたいんです……!』
彼女は鋼の意志を持っている。戦車道を始めたのも、彼女にとって自分だけの華道を探す為のある種のアクセントになると考えたからだろう。
しかし、百合はそんな彼女の意見を聞いて本気で頭を抱えた。
『素直で優しいあなたはどこへ行ってしまったの? これも戦車道の所為なの?
戦車なんて……ただ野蛮で不格好でうるさいだけじゃない!……戦車なんて…戦車なんて全部、鉄くずになってしまえばいいんだわ!」』
「て、鉄くず?!」カチンッ
「落ち着きなさい」
戦車マニアにしてみればブチ切れでしまう発言に思わず眉間に皺が寄った。
でもまあ、仕草や匂いが重要な華道にとって戦車は天敵だ。機械油、硝煙の香り、燃料などが粛々とした部屋で匂えば嫌がる人も当然いるわけで……。
『……ごめんなさいお母様。でもわたくし……戦車道はやめません!』
五十鈴は信念を曲げないことを伝えると、百合の目の色が変わった。
『わかりました。だったらうちの敷居を跨がないで頂戴』
『奥様、それは……!』
『新三郎はお黙り!』
事実上の勘当宣言に思わずやりすぎたと新三郎が言おうとしたところをピシャリと百合は制する。突然の動きに思わずみほ達も驚いてしまう。
「(いよいよまずいか……)」
話を聞いていた真澄は百合が激昂しており、周りが見えなくなり始めているのを危惧していた。
そしてそのまま彼女は襖の前に立った。
「先生、失礼します」
そう言い強制的に話を中断させる為に真澄は襖を開けた。
「ま、真澄さん!?」
「黒田殿!?」
「何しているの!?」
思わず驚いてしまうと、真澄はそのままズカズカと部屋に入っていく。
「申し訳ありません。先生とは私の方からお話しさせて頂きたく存じ上げます」
「真澄さん……」
「みんな、ここから出て行って。盗み聞きもダメよ」
そう言い、五十鈴含めた全員が部屋を後にし。新三郎に見張りをさせるとそこで真澄は百合と話し始める。
「先生、先程のお言葉は五十鈴流家元としてのお言葉でしょうか?それとも五十鈴華の母親としての御言葉ですか?」
「それは……」
「先生、確かに家元の御息女……それも一人娘となれば厳しく接するのも理解できます。ですが、勘当などと言う親の縁を切るほどの重大事項であるというのですか?」
「ですが、五十鈴流華道は……」
そこで真澄はそんな百合に軽く溜息を吐いた。どいつもこいつも、娘の扱い方が下手くそな母親が多すぎるよ……。
「先生、私は戦車道マネージャーとして彼女の姿を具に見てきました。そこからの推察ではありますが、彼女は元々の五十鈴流華道を残しつつ
華道とは芸術、それは先生が一番ご理解されています。彼女は元来の五十鈴流とはまた別に、自分の思う独自の華道を歩みたいと思っているのです。どうかその若い芽を摘み取らないようにして頂きたいです」
はっきりと自分の意見を言う真澄は百合の目をしっかりと捉えながら続ける。
「間違っても私のように戦車道を除名させれば良いなどと考えないでください。
生き甲斐を奪われた人間は、その命を簡単に放り投げられる原動力になります」
「……まさか」
「深く詮索しない方がよろしいかと」
真澄の目を見て驚く百合に彼女はそう答える。そして少し悩んだ後に彼女は五十鈴を呼び出した。
「……華さん、私は先程言ったことを取り消すつもりはありません。
ですが、それでもうちの敷居を跨ぐと言うなら証明しなさい。貴女の力強く可憐で清楚な花を活けることが出来たら帰ってきなさい。
私はそれまでずっと、華さんの帰りを待っています」
すると彼女は一瞬驚いた後に力強く答える。
「はい、お母様!必ずお母様の納得する自分自身の華道をお母様に証明します!」
彼女は自分なりの華道を咲かす為、努力する事を宣言していた。
そして五十鈴達が出ようとした所、真澄だけ呼び止められる。
「真澄さんはここに残ってください」
「はい……?」
何を言われるのかと首を傾げると真澄はみほ達に先に行くように言い、彼女は一人部屋に残った。
「貴方、先ほど戦車道のマネージャーをしていると言いましたね?」
「ええ、まあ……」
すると百合は真澄に言った。
「では、貴方から定期的に華さんの報告をして下さい。彼女が何処まで自分の華道を大成させられるのか、私が見極めます」
「……はい」
真澄は内心ゲンナリとすると渋々承諾した。これでまたマネージャーの仕事以外にも請け負ってしまった……。
「いつまでもまっています、お嬢様~!!」
その後、五人の女子高生を乗せた人力車を港まで引いた新三郎はそこで男涙を流しながら手を振って五十鈴を見送る。鼻水さえ出ていなきゃなあ……良い絵面なのだが。
「さて、行きましょうかね」
「うん。そうだね」
真澄とみほはそう話すと学園艦まだ向かっていく。
「……遅い」
港ではどっかの映画にありそうなポーズをして冷泉が待っていた。
「夜は元気なんだからー!」
夜戦では恐ろしく有用な、昼夜逆転型の冷泉に真澄も思わず苦笑してしまう。
そして学園艦の入口ではおかっぱ頭の風紀委員の園が待っていた。
「出港ギリギリよ」
「すまんね」
「すみません」
「すまんなそど子」
「その名前で呼ばないでって言ってるでしょう!?」
それぞれ乗り込むと、冷泉の言葉に嫌に園は反応を示した。
あまりにも似合っているからむしろこっち本名の方がいいんじゃないかと思っていると、園は真澄を見ながら一言。
「特にあなたは風紀委員になったんだから少しは規則を守って欲しいところね」
「へいへい」
機動隊と言う強制通用力のある鎮圧部隊は学校内の不良を叩き潰す事が任務だった。その為、不良関係の苦情があるや否や装甲車に飛び乗って出撃していた。
そして鎮圧した時に生まれる損害は全て風紀委員会本部に行く訳で、自分が隊長ではないのだが、立案者ということでよく小言を言われる身であった。
そして長い階段を登り切ると、そこではM3に乗る一年生達が一列に並んでみほを見ていた。
そして一歩澤が前に出ると、
「西住隊長……戦車を放り出して逃げたりして、すみませんでした!!」
「「「「「すみませんでした!!」」」」」
全員が頭を下げて練習試合での自分たちの行動を謝った。
そんな彼女達を見て真澄が前に出ると澤の頭を軽く叩く。
「貴方達はあの状況でよくやったよ」
「え?」
「でも私たち逃げ出したんですよ?」
大野が聞くと、真澄は少し屈んで目線を合わせて答える。
「良いか?これは戦争じゃない、戦車道だ。逃げたところで督戦隊が待っているわけじゃない。
だから逃げる事も重要なプロセス。ただ大事なのはその後に自分がどう行動するかだ」
「っ!!」
「頑張りなさいよ」
「「「「「はいっ!!」」」」」
一年生はすっかり真澄に懐いていた。
「なんかお母さんみたい」
「真澄さんは飴と鞭の使い方が上手いから……」
「まるでビスマルクてすね」
そう言うと木箱を抱えた角谷が現れた。
「これから作戦は西住ちゃんにまかせるよ。で…これ」
そう言い、角谷さんはティーカップと紅茶の葉が箱をみほに渡した。そしてその箱には『to friend』と書かれている手紙が入っていたの。そしてみほはその手紙を読む。
『今日はありがとう。あなたのお姉様との試合より面白かったですわ。また公式戦で戦いましょう』
そう言うと秋山が驚いた様子を見せた。
「すごいです!聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしか紅茶を送らないとか」
「へ~そうなんだ」
ダージリンが好敵手と認めた事実に武部は驚いていると、みほは手紙に追伸が記されていた。
『みほさん、真澄さんの能力を活かすのも殺すのも、あなた次第だというのを忘れないでください』
「……?」
みほはその手紙を見て少し首を傾げてしまっていた。