川の土手でエリカと話す真澄。久しぶりだと言うのに先週会ったかのような感覚で話す。
「一回戦、知波単だってね」
「ええ、あなた達の元母校よ」
「……」
真澄はあまり興味なしと言った様子でエリカに答えると彼女は聞いてきた。
「貴方、戦車道やっているの?」
「いや、私はマネージャー。除名されてる私が戦車に乗れるわけないじゃん」
「……」
すると我慢できなくなったのか、エリカはいきなり真澄の胸ぐらを左手で掴んで怒鳴った。
「どうして!あの時あんたは抵抗しなかったの!?多くの誹謗中傷を、冤罪で受けて……貴方は、戦車道を除名された……」
「……」
「いつものアンタだったら報復していた!抵抗していた!それなのに何で……」
エリカの表情には後悔と怒りが混ざった複雑な感情が混ざっていた。
「嗤いなさいよ!三年前みたいに!私を『隊長の忠犬のようだ』と言っていたあの時のように!!」
するとそんな彼女に真澄は一言。
「抵抗してないんじゃない……抵抗
「っ!?」
その瞬間、エリカの表情が固まる。空いていた右手は強く握られていた。
「あの時、私は親父に精神の叩き直しで警察の剣道道場に叩き込まれた。その間家に帰ることすらできなかった……。永遠試合と稽古をさせられ、帰ってきたら全てのことが終わっていた」
「っ……!!」
「私は戦車道選手から除名され、私に対する戦車道界隈からの視線は冷たいものとなった。
父親からは『自業自得』と言われ、私は逃げるように実家と学校を出て行った」
彼女は淡々と事実を告げるとエリカは信じられないと言った表情で真澄を見る。
「私が戦車道に参加できなくなって怒っているなら、好きなだけ殴れば良い。私は、転校先では不良をやっていたからな」
「……ふんっ、」
そんな胸ぐらを掴んでも一切抵抗しようとしない真澄を見てエリカは言う。
「抜け殻になった人間を殴っても意味ないわよ」
「そうかい、つまらんなぁ」
「あの時よりもアンタのおかげで頭は回るわよ」
そう言うと彼女は掴んでいた手を離す。すると真澄はそのまま立ち上がって土手を去って行く。
「今の貴方は死人同然よ」
彼女はそう言うと真澄は答える。
「人生の楽しみを奪われた人間は死人も同義」
そう言い残すと彼女は土手を去って行った。残ったエリカは無気力な真澄を見て、
「…あの馬鹿野郎……」
無念と悲しさの混ざった表情で見ていた。
数時間後。
真澄やみほ達は学園艦の連絡船に乗り込んでおり、真澄は連絡船のその手すりに手を乗せていた。
「真澄さん」
夕日を眺めていると、みほが現れた。
「ああ、みほちゃん。夕日を見に?」
「うん、そんな所」
少し悩んだ様子のみほ。多分、さっきの喫茶店の一件で頭を悩ませているのだろう。
「綺麗ね……船上でないとこの景色は見れないわ」
「うん……」
みほと真澄はそう言い夕日を眺める。
「みほちゃん、さっきのエリカの……」
「うん、分かってる」
あれはエリカがまほを庇うためのフェイクであると言うことを。
まほはその外見や言葉数の少なさゆえに同じ黒森峰でも誤解されていることが多く、それ故そのフォローをエリカやみほがする事が多かった。
少し心配だったが、どうやら彼女もわかっていたようだ。
「覚えている?初めて私とエリカがあった日の事」
「うん、知波単学園と黒森峰の中学校の初めての練習試合で。真澄さんがエリカさんと大喧嘩して……」
「取っ組み合いになったけど喧嘩してたらいつの間にか仲良くなってたって言うね」
どっかのバトル漫画じゃあるまいしと真澄は内心苦笑していた。でも、あれ以降エリカとは公私に渡って遊んでいたりした。
それ故に真澄は黒森峰でのまほとみほの間に立って二人の対応に困るエリカに度々助言を与えていた。
そしてその過程で、子供の頃のエリカとみほ達が会って居たと言う事も。ああ、全てが懐かしい……。
思わず懐かしい光景を思い出していると、
「寒くありませんか?西住殿。黒田殿」
後ろから秋山が話しかけてきた。陽が落ちて来て冷える頃合いだから呼びに来たのだろう。
「ううん…大丈夫」
「ありがとう」
そう言うと彼女はそんな二人に向かって話す。
「全国大会、私は出場出来るだけで充分です。他校の戦車も見れますし……大切なのはベストを尽くす事です。例えそれで負けたとしても…」
戦車マニアの彼女にとってみれば、他校の戦車が見れるだけでも十分なのだろう。それ故にその顔も満足げなものだった。
それに今の大洗の戦車道チームは素人同然。怪我なく楽しくやってくれればいいと考えていた。
『戦車道はスポーツであり。スポーツとは、楽しむことに意味がある』
それが真澄の考える戦車道の理念だった。元々どうしてもそれに戦車という戦いの道具として扱われて来た歴史を持つ戦車道はそれ故に悪い印象を抱く人間もそれなりにはいる訳で。その中に自分の身辺者がいるのだからやりずらい。
「それじゃあ困るんだよね~」
「え?」
後ろから声が聞こえ、三人は振り返ると。そこにはいつからいたのか生徒会三人組がいた。そして、河嶋は迫真に迫られた様子で言う。
「絶対に勝て!我々は絶対に優勝しなければならんのだ」
「それまたどうしてですか?」
秋山が首をかしげてそう言う。
「そ、それがね…負けたら我が校は……」
「し~!!」
小山の震えた様子の言葉を角谷は遮った。
「会長?」
「なんでもないよ。それより、試合には勝ってね〜。負けたらアンコウ踊りだから」
そう言うと生徒会トリオは逃げるように去って行った。
「……」
絶対何か隠していると真澄は確信する。しかし調べるにも何を調べればいいのか……。
まあでも、何か生徒会が大きなことを隠している可能性はありそうだ。
「だ、大丈夫ですよ、西住殿!頑張りましょう!!」
「まだ初戦だからファイヤフライは出してこないと思う。でもエリカさんの言う通り出す可能性もあるし…せめて相手のチームの編成がわかれば……」
「……」
みほが心配げに呟くのを見て秋山は何か決心した表情を見せていた。
翌日、マネージャーの仕事を部下に任せた真澄はある場所に訪れていた。
「あれ?秋山の家ここだったんだ」
そう言いよくみれば看板に『秋山理髪店』と書かれていたのを彼女は見る。
「失礼しまーす」
そう言い店の扉を開けると、そこではこの店の店主の淳五郎さんが新聞を読んでいた。
ここは大洗女子学園の中でも真澄は(多分)一番いい腕をしている散髪屋だった。なので真澄達はここの常連だったのだ。
「おや?真澄ちゃんじゃないか。この前切ったばかりじゃないのか?」
「ああ、いえ。今日は優花里さんに用事があって……」
「?!」
するとあまりの驚きか、淳五郎さん。新聞を落とす。
「優花里に……友人!?」
目を見開いて淳五郎は真澄を見ると、真面目な顔で言う。
「これから毎回割引するから優花里のことをよろしく頼むよ!!」
「そんな、割引しなくても……」
戦車マニアほど悪人のいない趣味のなさそうだし……。
そもそもこの両親を見て悪人が育つ訳ないし。いや、どっちかって言うとこの感じ……。
「もしかして秋山さん。ぼっちでした?」
「そうなんだよぉ、だから……」
「ちょっとぉお?!」
そんな淳五郎の声を聞いて慌てて降りて来たのだろう。秋山が慌てた様子で降りて来ていた。
「余計なこと言わないでください!」
秋山はそう父に厳命するとそのまま真澄を連れて二階の自室に引っ張っていた。
「すみません。あんな人で」
「いいじゃない。毎日が愉快な生活になりそうだわ」
そう言いふと真澄は弟を思い出す。今は東京の方の良い学校に通っているが、前に会ったのはいつだっただろうか?
「でもすごい部屋ね」
「えへへ、嬉しいです」
そう言い戦車の模型や砲弾の、おそらくは本物のダミー弾なんかが飾られた部屋を見ていた。
「……」
そして何より、学校の校門前で家族写真を撮るその顔がとても幸せそうで、少し羨ましかった。
「(家族写真なんて、前撮ったのいつだったかな……)」
そう思っていると、秋山がそんな真澄を見て聞いた。
「どうかされましたか?」
「……いや、何でもない」
真澄はそこで秋山がわざわざ呼び出した理由を聞いた。
「それで?私を呼んだ理由は?」
「あ、はいっ!実は黒田殿にお願いしたい事がございまして」
「何かしら?」
そこで真澄は秋山に聞くと、彼女は呼び出した理由を話す。
「実は私の極秘任務に付き合って欲しいのです」
「極秘任務?」
真澄が聞き返すと、彼女は持っていた鞄からある物を取り出す。
「これは……」
コンビニの制服にサンダース大付属の制服、ロープにビデオカメラ…これは……。
「サンダースに潜入して偵察をしようと思いまして。黒田殿にはそのバックアップについて貰いたいのです!」
「ああ、それで一番暇そうで話しかけやすい私を呼んだと……」
「はい……って、黒田殿は黒田殿でマネージャーとして忙しいじゃないですか」
秋山は慌てて否定するも、真澄はそう言いながら出て来た制服を見る。
「これは?」
「はい、コンビニ船に乗りますので。扮するんです」
「ああ、なるほど……」
偵察か、悪くない。昔知波単にいた頃も第33部隊と言う情報組織を作ってデータ収集と諜報を行わせていたのが懐かしい。
あの後、部隊はどうなったのだろうか。まあ、解散しているかもしれないな……。
「いつ行くの?」
「はい、明日の〇六〇〇に定期コンビニ船に乗り込みます。そのために色々と買って来たんです」
そう言い彼女はリュックサックの中身から色々とサバイバルグッズやメイク道具などを取り出した。
「どこでこんなの仕入れたのよ」
「それは秘密でお願いします」
半分呆れていると、真澄は秋山に言う。
「秋山。別にこんな事しなくても、簡単に中身させてくれる方法あるわよ?」
「え?」
「ちょっと待っててね……」
携帯変えたから番号いちいち打つの面倒だな……。
「……ああ、もしもし?」
そこで彼女はある人物に電話をかけていた。よかった、番号は変わっていなかったみたいだ。
その直後、耳を劈くような声が聞こえたが……。