射撃場で銃を返却し、ブリーフィングルームに向かうナオミと真澄はそのまま部屋の前に到着する。
「席は自由に座ってくれ。じゃあな」
「ええ、また会いましょう」
そう言い、ナオミが去ると。真澄は部屋の中である人物を探すと。その横に座った。
「隣失礼」
「あ、はい……って、黒田殿?」
そう言い驚く秋山。彼女は荷物を持ったまま真澄を見ており、彼女は横に座った。
「どうしてここに?」
「暇だから来た」
「ジャージ姿目立っちゃいますって」
「大丈夫よ」
緑色のジャージ服を着ている生徒なぞ珍しいと言うことで周いからは『こんな子いたっけ?』と言った目を向けられる。
しかし、日本最大の戦車道部。全員の顔を覚えているわけでは無いので次の瞬間『まあいっか。どこかの子なんだろう』や『きっと新しく入った子だ』と言って特段気にした様子がなかった。
「ね?」
「……」
思わず秋山はこのガバセキュリティに変装しなくても良かったのでは?とも思ってしまった。
すると会場が騒ぎ出し、いよいよブリーフィングが始まるようだった。
「もうすぐではじまりそうです」
そう言い彼女はビデオカメラを取り出す。よくやるよ、そしてバレないよ。
「では、一回戦出場車両を発表する」
そう言い壇上に上がったケイやナオミ。それから知らないツインテールの子がメモを見ながらそう言う。多分あの子、高校から入ったんだろうな。
「ファイアフライ一両、シャーマンA1 七六ミリ砲搭載一両、七五ミリ砲搭載一両……」
「容赦がありませんね黒田殿」
「初陣からやる気十分って事だ」
もしかするとケイは私が出るからと思って全力を出して来たからかもしれないが……それはないか、だって何事にも全力で取り組むのが彼女のやり方だから。ただチハ車体にシャーマンはオーバーキルも良いところだよ。
「じゃあ、次はフラッグ車を決めるよ。OK?」
「「「「「イェーイ!!」」」」」
ケイの言葉に賛同し、周りの生徒達も同様に腕を上げて陽気に答える。
「随分ノリがいいですね。ここでもアメリカ流ですかね?」
「良くも悪くもアメリカ式ってことよ。ほら、あの食堂のメニューあれ全部Sサイズよ」
「え?」
秋山が真顔でこちらを見る。そうだとも、物量で押し込んでくるのはサンダースお得意の優勢火力ドクトリンだ。
「あっ、フラッグ車が決まったそうです」
そう言い、決まったのはM4A1らしい。地味に有用な情報だなこれ。
「何か質問は?」
「はい!小隊編成はどうしますか?」
するとそこで横に座っていた秋山が手を挙げてケイに聞く、随分と度胸あるよ。
「お~いい質問ね。今回は完全な二個小隊が組めないから三両で一小隊の一個中隊にするわ!」
「フラッグ車のディフェンスは?」
「ナッシング!」
ケイさんケイさん、人が良すぎですよ。あなたが答えている子、昼間に私と飯食ってた子ですよ?覚えていないんですか?
「敵にはⅢ突や短十二糎がいると思いますが?」
「大丈夫!一両でも全滅させられるわ!」
やけに自信たっぷり。まあ物量で押し切れる量だしな。
ケイの言葉に生徒達は『おぉ〜』と言葉が漏れる。するとナオミはそんな秋山を鷹の目のように鋭くして見ていた。こりゃバレたな。
「……見られない顔ね」
「え?」
ああ、確信。
「所属と階級は?あんたどこ所属?」
するとツインテールの子が秋山にそう問いかける。あれ?なんで私バレてないの?
するとケイが自分を見て小さくウインクし、ナオミが自分を見た。ああ、二人の友人って事を知っているのね。
「え!?あ、あの第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります!」
秋山のその返答にツインテールの子は驚き、ケイは少し笑い。ナオミは笑いを堪えていた。
「に、偽物だ…ふふふ……」
そんな笑うか?まあ、元ネタは戦争映画だしな……。
「逃げなさい」
「あっ、はい!!」
そう言い、秋山は慌ててカメラを持って逃げ出す。
「あっ!逃げた!追いなさい!」
そう言いツインテールの子が叫ぶと、その横でケイとナオミは彼女を宥めていた。
「良いのよ」
「しかし!大洗のスパイですよ!!」
「追いかけても、もう逃げられているさ」
ナオミがそう言うと、その少女は言う。
「隊長!作戦を変えましょう!」
ツインテールの子がケイに言うと、彼女は言った。
「その必要はないわ」
「なぜです?!」
その問いにケイは一瞬だけ自分を見て答えた。
「だって……
向こうには最強の軍師がいるもの。変えたところで、見抜かれてしまうわ」
「?」
ケイの言葉に、ツインテールの少女は首を傾げていた。
その後、ブリーフィングを終え。真澄は部屋を出てコンビニ船に戻ろうとした時。
「マスミ」
ケイに声をかけられた。横にはナオミも立っており、ジャージ姿で昔よりも生気の無くなっている様子の真澄を見ていた。
「ケイさん……」
真澄は答えると、ケイは彼女の手を握った後に抱きついて言った。真澄の身長ではケイですらも小さく見えてしまい、彼女の頭が真澄の胸に当たる。
そして彼女は強い意志を持った言葉で真澄に言う。
「私たちはいつでもあなたの罪が嘘であると言うことを訴え続けるわ。もしもの時は全力で支えになってあげる」
「ケイさん……」
するとナオミが近づいて真澄に言った。
「我々は無実を証明する多くの証拠を持っている。是非とも協力させてくれ」
「……ありがとうございます」
そんな二人の行為に真澄はそう答えると、そのまま接眼するコンビニ船の方に向かっていく。
「じゃあ、次は試合会場で。また会いましょう」
「ええ」
「ああ」
そう答えると真澄は歩いて去って行く。
その時、彼女は小さく呟いた。
「そんな事、無駄な努力でしかないと言うのに……」
哀愁漂うような目で彼女はそう言うと、そのままサンダースの学園艦を去って行った。
その頃、大洗の学園艦では戦車道を履修するみほ達が首を傾げた様子で話していた。
「秋山さん、結局練習来なかったね。真澄さんも来ませんでしたし……」
「メールは?」
みほに榎本が聞くと、彼女は携帯の通信履歴を見る。
「帰って……来てないね」
「全然、電話掛けても二人共圏外だし。榎本さんは何かしらない?」
そう言い武部が振ると榎本は答える。
「うーん、なんか出かけてくるって言って今日は来ないって聞いてたけど……」
「お出かけかー。どこ行ったんだろう?」
そう言って首を傾げると、武部が思いもよらない話を持ちかけた。
「もしかして……二人でデートとか?!」
「「は?」」
武部の話を聞き『お前は何を言っているんだ?』と言う表情で答えるみほと榎本。
「だって怪しいじゃん!二人していないんだよ?!」
武部がそう言うと、みほと榎本が手を振って答える。
「「ないない。真澄(さん)に限ってそんな事は」」
「なんでよ!!」
武部が息ぴったりな二人にそう反論していると、二人は交互に答える。
「だって真澄さんは……」
「デートするくらいなら……」
「「家で竹刀振っているような人だもん」」
二人は同時に答えた。
「……」
それを見て武部は本当に変人なのだと思ってしまった。ある意味で可哀想な人間だと思っていた。
「と、とりあえずゆかりんの家に行こう!その後ますみんの家!」
そう言い武部達はそれぞれの家に向かおうと提案し、まず初めに秋山の家に向かうことにしていた。
そして数分後、武部達は秋山の実家に到着する。
「あれ?ゆかりんの家、床屋さんだったんだ」
そう言い、トリコロールカラーのサインポールの置かれた『秋山理髪店』と書かれた店に到着していた。
「いらっしゃいませ」
店の中には一人は椅子に座り新聞を読んでいるパンチパーマの男性とそのそばにいる女性がいた。
「あ、あの……優花里さんはいますか?」
「あんたたちは……?」
「友達です」
武部が答えると、その男の人は大層驚いた様子で武部達を見る。
「友達……。と、とと友達ぃい!?」
「お父さん落ち着いて!」
その横で、おそらくは秋山の母なのだろう女性が秋山の父を抑える。
「だってお前! 優花里の友達だぞ!?あの黒田ちゃん以外にも友達が!!」
「わかってますよ、いつも優花里がお世話になっています」
「お、お世話になっております!」
母親が丁寧にお辞儀し、父親は慌てて土下座する。それを見てみほ達は苦笑していた。
「あの……」
「優花里、朝早くうちを出てまだ学校から帰ってないんですよ。どうぞ二階へ」
秋山の母はそう言うとみほ達を二回のあきたまの部屋に案内していた。
「どうぞ、食べて頂戴」
「あの〜良かったら待っている間に散髪しましょうか?」
「お父さんはいいから!」
「……はい」
そう言われスゴスゴと帰っていく秋山父。その驚きや待遇が完全に悪徳商法のそれっぽくも思えてしまったのは内緒にしておこう。
「すみません、優花里のお友達がうちに来たのなんて昨日の真澄さん以外初めてなもんで、何しろずっと戦車で気の合うお友達が中々出来なかったみたいで、戦車道のお友達が出来て随分喜んでいたんですよ。じゃあ、ごゆっくり」
そう言うと秋山母は部屋を後にしていく。
「ここ、真澄の行きつけなんだ……」
「いいご両親ですね」
「うん」
そうみほ達は話していると、冷泉は秋山の机に置かれた家族写真を見て複雑な顔を顔をするのだった。
すると突然部屋の窓が開き、そこからコンビニの制服姿の秋山が入って来た。
「ゆかりん!?」
ダイナミックな帰宅に驚いてしまう武部。すると秋山は首を傾げた様子で聞いた。
「あれ?皆さんどうしたんですか?」
「秋山さんこそ……」
「連絡がないので心配して」
「すみません、電源を切ってました」
「つか!なんで玄関から入って来ないのよ!」
榎本が聞くと、秋山は今来ている服を指差しながら……。
「こんな格好だと父が心配すると思って」
「「「「ああ〜」」」」
妙に納得できてしまった四人。すると今度は反対の部屋の入り口の襖が開き、そこから緑ジャージ姿の真澄が入ってきた。
「入るよ〜…ってなんで武代?」
「あんたが一向に電話に出ないから。ここまできたのよ」
「ああ、なるほど」
真澄は納得した様子で部屋に入ると、武部が聞いてきた。
「二人とも何していたのよ?!」
「ああ!その事で是非とも見てもらいたいものがるんですよ!」
そう言い彼女は懐からUSBメモリを取り出していた。
そしてそれをテレビに繋げると、そこでサンダースのブリーフィングの映像などを映したあのカメラの映像が流れていた。
「なんと言う無茶を……」
「頑張りました!」
「いいの?こんな事して?」
「試合前の偵察行為は承認されています」
秋山はそういうとUSBをみほに渡した。
「西住殿、オフラインレベルの仮編集ですが、参考になさって下さい」
「ありがとう。秋山さんのおかげでフラッグ車も分かったし、頑張って戦術立ててみる!!」
メモリを受け取った彼女は秋山に素直に感謝していた。
「でも、ゆかりんよかった~」
「怪我はないか?」
皆が心配そうにそう言うと、彼女は少し顔を赤くして答える。
「……心配していただいて恐縮です。わざわざ家にまで来てもらって……」
「いいえ、おかげで秋山さんのお部屋も見れましたし」
「あの、部屋に来てくれたのはみなさんが初めてです。私ずっと戦車が友達だったんで……」
秋山がそう言うと武部はいつの間にか秋山のアルバムを見て驚いていた。
「本当だ、アルバムの中ほとんど戦車の写真」
「どれどれ?」
武部の見ているアルバムを見る。するとその写真には秋山には似合わないパンチパーマの髪型をした秋山が写っていた。
「「なんでパンチパーマ?」」
「くせ毛が嫌だったのと、父がしてるのを見てかっこいい!と思って、中学からはパーマ禁止だったんでもとに戻したんですけど」
するととこで武部が言う。
「いや、友達が出来なかったの戦車の所為じゃなくてこの髪型の所為じゃ……」
「え?」
武部のガチトーンでされた指摘に目を丸くする秋山。すると冷泉がコホンと咳をした。
「ま、なんにせよ、一回戦を突破せねば」
「頑張りましょう!」
そう言うと、武部が冷泉に言う。
「一番頑張んないといけないのは麻子でしょ?」
「なんで?」
「明日から、朝練始まるよ」
「………え?」
彼女にとって、死刑宣告に近いような発言だった。