一回戦、サンダース大付属高校対大洗女子学園との試合は大洗女子学園の勝利と言う稀に見る弱小校の勝利に終わっていた。
なにせ優勝候補の一角のサンダースがまさかの初戦敗退だ。この結果には思わず戦車道を糧に生きる人間からしてみれば実に驚くべき事件であった。
しかし、まだまだ強豪校は多いわけで。今年の大会は大きく動く可能性は低いと見られていた。
「一同、礼!」
『『『『『有り難うございました!!』』』』』
審査員の号令と共に最後の礼を済ませるとみほ隊大洗戦車道隊は大きな拍手や歓声を持って迎えられる。
「すごい拍手……」
「中学生大会を思い出すわね……」
「二年前のね」
「懐かしいなぁ……」
思わず榎本達はそう口々に話すと、その横でみほ達も喜びの声を上げていた。
「すごい拍手…」
「勝った〜」
「あのシャーマンに勝てるなんて、夢のようです〜!」
秋山は感無量と言った様子で嬉しげな顔をしていると。
「あ、あの!武代さん!」
「ん?」
みほが榎本に話しかけてきた。
「あの、試合中。ありがとうございました……!!あの時、励ましてくれなかったら。どうなっていた事か……」
「……ふふっ」
みほのそんなツギハギだらけの言葉に思わず薄っすらとした笑みを浮かべると、彼女はみほの肩を持った。
「私は戯言を言っただけよ」
「え?」
「あの時、他のみんなを励ましたのは貴方でしょう?
貴方の言葉があったから、みんな前向きになれた。
最後にフラッグ車を倒したのは誰?それは貴方達Ⅳ号。それは紛れもない事実よ」
そう言うと、彼女はみほをくるりと回すして他の生徒達のいる場所をみほに見せる。
彼女達は一回戦突破の喜びに浸っており、みほはがこちらを見たのを確認するとみほに目線を向けていた。
その目は希望と喜びを分かち合おうとする、今まで見てきた景色とはまた違った戦車道の光景だった。
「貴方が見るのは私たちじゃなくて、あの子達」
「……」
そう言われ、みほは秋山や武部達を見た。
「勝ったのだから、堂々と胸を張りなさい。……貴方はまだ、始まったばかりなのだから」
ーーそう、本当の意味での。始まり…真澄が言う『新時代の芽』……。
「『リーダーにとって間違いなく最高の資質は誠実さ』」
「え?」
「アイゼンハワーの残した言葉よ。指揮官は勤勉で誠実な子が最も望ましい……真澄の受け売りだけどね」
そう言うと榎本は少し笑った。本当、あの人はなんでもよく知っている人だ。だからこそ、敵に回った時ほど厄介なことはなかった。
今思うととても懐かしい話だ。すると……
「Hey!タケヨ!」
「ケイさん」
そう言うと、ケイと榎本は握手を交わす。
「久しぶりね。いつぶり?」
「二年前のパーティー以来です」
「Oh、随分話し方が柔らかくなったわね」
そう言うと、ケイはみほを見て榎本に聞いた。
「この子が、大洗の隊長?」
「ええ、そうよ。我ら大洗戦車道部隊長、西住みほよ」
「みほ……ああ!マスミの言っていたみほって……」
「ええ、彼女よ」
「?」
みほは思わず首を傾げてしまうと、ケイはいきなりみほに抱きついた。
「エキサイティング!こんなに楽しい試合が出来るとは思わなかったわ!」
「わわわっ!?」
ケイは大喜びでみほにそう言うと彼女は困惑した様子で、猫が毛を逆立てたように驚いていた。
「ケイさん……」
「でもよかったわ。噂の人と試合ができて……」
ケイはそう話すと、榎本がケイの口を軽く塞いだ。
「ケイさん、口外無用って約束じゃないんですか?」
「おっと、いけなかったわね」
ケイがそう言うと、みほは今までで一番気になっていた話を彼女に聞く。
「あ、あの……」
「なに?」
そこでみほはケイに聞く。
「あ、あの……何で六両残っていたのに五両で来たんですか?」
「貴女達と同じ車両数だけ使ったの」
「どうして……?」
するとケイは微笑んで、腕を広げて答える。
「これは戦車道、戦争じゃない!道を外れたら戦車が泣くでしょ?」
ケイは自身の語る戦車道を語ると、今度はバツが悪そうにみほに言う。
「無線傍受で盗み聴きなんて、つまんない事して悪かったわね」
そう言い後頭部を掻いて彼女はアリサの一件を口にした。
「いえ、もし全車両で来られたら間違いなく私達が負けてました」
みほがそう答えて謙遜するとケイが手を差し出して来た。
「でも、勝ったのは貴女達」
「ありがとうございます!!」
ケイが差し出した右手をみほは両手で取って握手をする。
そして今度は榎本を見ながらケイは言う。
「ナオミが
「いえ、相打ちですよ」
そう言うと、ケイは榎本に言う。
「ナオミから伝言よ『次こそは必ず勝つ』だって」
「ええ、分かった。利子に伝えておく」
榎本はそう答えると、ケイは最後に。
「マスミは私達の仲間ってこと。忘れないでね」
「ええ、もちろん」
そう答えると、ケイは去っていく。
「またね、大洗のキャプテン。タケヨ」
そう言うとケイはサンダースの仲間の元へと帰って行った。そしてケイは待たせているアリサの肩に手を置き『反省会』と言うとアリサの表情は青ざめていた。
「さぁ、こっちも引き上げるよ!お祝いに特大パフェでも食べに行く?」
「行く」
そして解散するみほ達はそこで武部に言われると、冷泉がすぐに答える。
「おいおい、この後どうせパーティーするわよ?」
「大丈夫。ちょっと食べるだけだし」
さっき特大パフェ食べるとか言ってませんでした貴方?
すると冷泉の携帯からにゃーにゃーと着信音が聞こえる。
「麻子鳴ってるよ携帯?」
武部にそう言われて冷泉は携帯を取る。
「誰?」
「知らない番号だ」
冷泉は自分も知らない番号だと言って誰からだろうと通話ボタンを押す。
「はい……えっ?……はい」
すると突然冷泉の顔色が変わって動揺し始める。そして冷泉が電話を切ると武部が聞いた。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない」
冷泉はそう言うが手が震えていて手に持っていた携帯を落とした。明らかにただ事ではない。
「何でも無いわけないでしょ!」
「……何があった?」
武部と榎本が心配そうに冷泉に問いただす。冷泉は、悲しそうな顔でポツリと
「おばあが倒れて……病院に……」
「「「「「!?」」」」」
その言葉に皆驚き緊張が走る。
「麻子大丈夫!?」
「早く病院へ!」
「でも、大洗までどうやって……」
「学園艦に寄港してもらうしか……」
「撤収まで時間が掛かります」
みんながどうにかして冷泉を大洗の病院まで連れて行こうと話し合っていると、冷泉がローファーと靴下を脱ぎ始めたのでみほ達が慌てて必死に止める。
「麻子さん!?」
「何やってるのよ麻子!?」
「泳いで行く!!」
そんな正常な判断ができず、無謀な遠泳をしようとする冷泉を榎本がとめる。
「バカ言うな!ここから何千キロ離れていると思っている!?」
「榎本、止めないで。私は、行かないといけない!」
麻子を羽交締めにしていると背後から声がした。
「私達が乗って来たヘリを使って」
その声がした方を向くと、そこにはまほとエリカの二人が立っていた。
「エリカさん……」
「その子の貴方。急用なんでしょう?早く乗りなさい」
エリカがそう言うと、冷泉を連れてヘリポートに向かう。そしてヘリポートでは黒森峰所属のフォッケ・アハゲリスFa233が待機しており、操縦席ではエリカが離陸準備を進めていた。
「エリカ、操縦を頼んだ」
『はい、隊長』
「早く乗って」
「私も行く!」
そう言うと、冷泉が心配な武部も同乗し。そしてFa233は離陸を始める。
そしてそれを見届けたまほはそのまま無言で去ろうとしていた。
「お姉ちゃん、ありがとう……」
みほはまほとすれ違い様にお礼を言う。
「……これも戦車道だ」
その時、まほは少しだけ微笑んでいるようにも見えた。
そして冷泉達を乗せたヘリは離陸していくと、そのまま大洗まで飛んで行った。
「……」
それを受けて、榎本はやはり黒森峰で何があったのかしっかり聞く必要がありそうだと感じていた。
そして一回戦が無事に終わり、損傷した戦車の回収と修復を行う大洗の戦車倉庫では連盟より修復を受けた戦車達が運ばれてきていた。
「全車両の修復が完了しました」
「了解。そろそろ撤収するから、みんなに連絡よろしく」
「はいっ!」
報告を受けて真澄は言うと、次から次へと今度は補給科のメンバーから無線が入る。
『マネージャー。月刊戦車道から取材要望が来ています』
『こっちはMC・アクシスからです!』
『あと戦車道連盟からも来ています!』
「全部断っちゃって!!」
真澄はそんな話を一蹴すると、また別のところから無線が入る。
『マネージャー、お電話が来ています』
「誰から?」
こんなクソ忙しい時に誰だと思いながらやや乱暴に聞くと、名前を聞いて思わず動きが止まってしまった。
『マネージャーのご家族からです。”黒田清靖”と言っていました』
「っ……!!」
その名前を聞いて、真澄は一瞬間を置くと無線で答える。
「……分かった。すぐ行くわ」
そう言い無線を切ると、片手にメガホンを持って真澄は後方係に叫んだ。
『いい?一九〇〇までに作業を全て終えて撤収しなさい!私は所用で離れるわ。備品ぶっ壊すんじゃないよ!』
「「「「「了解です!」」」」」
そう言うと真澄はそのまま積み込み作業の行われている戦車道部から離れて行った。
同じ頃、撤収中のサンダースでは地獄の反省会が行われており。すっかりメンバーはゲンナリしていた。
「隊長、角谷杏という人が来ていますが……」
すると恐る恐る部屋を開けた生徒がそう言うと、ケイは少し驚いた様子を浮かべた。
「あら、アンジーから?どうしたのかしら?すぐに行くわ」
彼女がそう言うと、反省会を受けていたアリサ達は心底ホッとした様子で部屋を出て行くケイを見ていた。
「はいはいアンジー。どうしたの?」
そこで待っていた角谷と合流したケイはそこで真面目な顔の角谷を見た。
「……少し、聞きたいことがあるんだけど」
角谷はケイを見ると、片手にバインダーを持った状態で彼女にある事を聞いていた。