知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第三〇射

あの驚きの結果をもたらしたサンダース戦から翌日。真澄やみほ達はある大きな病院を歩いていた。

目的は倒れたという冷泉のお婆さんの見舞いだ。彼女達を送ったエリカから『お礼は拳一発でいいかしら?』とメールが送られてきていた。返事で『殴る意味のない抜け殻の人間を?』と返したところ『うっさい!とっとと帰ってきなさいよ!このお馬鹿!!』と帰ってきていた。

 

「えっと……冷泉さんのおばあさまの病室ってどこでしょう?」

 

手に流石な綺麗な花束を持って整ったワンピースを纏う五十鈴。

 

「確か武部殿のメールでは1029号室といっていましたが……」

 

その横でボーイッシュな服装の秋山がそう答える。そしてその号室に入ろうとした時。

 

『もういいから帰りな!!』

「「「「っ!?」」」」

 

ドアの向こうから怒声が響き、その剣幕に扉越してみほ達は気押された。

 

「何怖がってんのよ」

 

そんなみほ達を見て呆れる真澄と榎本。みほに関してはこれよりも怖い人に会っているはずなんだが?

 

『いつまでも病人扱いするんじゃないよ!あたしの事はいいから学校行きな!遅刻なんかしたら許さないよ!!』

 

ドア越しでもこの剣幕。よっぽど元気そうに見えるのは気のせいだろうか?

 

『なんだいその顔?人の話ちゃんと聞いてのかい!全くお前はいつも返事も愛想も無さ過ぎなんだよ!!』

『そんなに怒鳴ると血圧が上がる……』

 

そして部屋の中で冷泉が落ち着かせようとしていた。

 

「あの……帰りませんか?」

 

すっかし怖気付いてしまった秋山。君、敵地に吶喊して偵察していた子だよね?

 

「いえ、折角来たんですから。ここは突撃です」

「五十鈴殿って結構肝座ってますよね」

 

むしろ君がチキンハートすぎるだけや。

そして五十鈴が扉をノックすると、部屋の中に入って行った。

 

「失礼します」

「あ、華!みぽりんにゆかりん。それにますみん達も!」

 

部屋には武部や冷泉、そして冷泉のお婆さんがおり。その様子はとても元気そうだった。

 

「なんだい?あんた達?」

「戦車道を一緒にやっている友達」

「戦車道?あんたがかい?」

「うん」

 

冷泉が戦車道をやっていたことにお婆さんは驚いていた。まあ普通、低血圧の彼女には似つかわしくないよな。

 

「あっ、西住みほです」

「五十鈴華です」

「秋山優花里です」

「黒田真澄と言います」

「榎本武代です。初めまして」

 

それぞれ自己紹介をするとそこで武部がそんなお婆さんに言う。あっ、名前久子さんって言うんだ。

 

「わたしたち全国大会の一回戦に勝ったんだよ!」

「一回戦くらい勝てなくてどうするんだい」

 

しかし、そんな武部の一回戦の勝利を自慢げに言うが、冷泉のお婆さんは呆れ気味に反論する。

確かに、優勝しなければ大会に出る意味はないわけで。中学生大会の時もいきなり宴会をしようとした大久保達を怒鳴り散らしていたっけ……。

 

「で、戦車さん達がどうしたんだい?」

「試合が終わった後、おばあが倒れたって連絡が、それで心配してお見舞いに……」

 

すると久子さんは冷泉に怒鳴る。

 

「あたしじゃなくてあんたを心配してくれたんだろ!!」

「……わかってる」

「ちゃんとお礼言いな」

 

お婆さんに言われた冷泉、成る程冷泉さんがああも律儀になるわけだ。冷泉は恥ずかしいのか少し顔を赤くしていた。

 

「わざわざ…ありがとう…」

「少しは愛想良く言えないのか!!」

「……ありがとう」

「さっきと同じだよ!!」

「だから怒鳴ったらまた血圧上がるから……」

 

興奮している久子さんに冷泉はそう言う。まあ、久子さんが本気で怒っているわけじゃないと言うのは見ていてもよく分かる。

 

「お婆ちゃん、今朝まで意識が無かったんだけど、目が覚めるなりこれなんだもん」

 

武部がそう言う、あの調子なら大丈夫だろう絶対。死のうと思ってない目をしているもの。

 

「寝てなんかいられないよ!明日には退院するからね!!」

「いやだから、まだ無理だって」

「何言ってんだい!!こんな所で寝てなんていられないだよ!!」

「おばあ、みんなの前だからそれ位に……」

 

確かに冷泉は心配するだろうが、見ていてとても微笑ましく思えてしまう。

 

「あの?花瓶あります?」

「ここにはないけどナースセンターにならあるかもよ?」

 

五十鈴の問いに武部が答えると、二人は病室を後にした。

 

「あんた達もこんな所で油売ってないで、戦車に油さしたらどうだい?」

「え?」

 

お婆さんの言う事にみほが首を傾げ、お婆さんが冷泉の方に向き直る。

 

「お前もさっさと帰りな、どうせ皆さんの足を引っ張ってるだけだろうけどさ」

「え、そんな……冷泉さん、試合の時いつも冷静で助かってます」

「それに、凄く戦車の操縦が上手で憧れてます」

 

お婆さんの言葉にみほと秋山がフォローするが、お婆さんはそっぽを向いて言う。

 

「戦車は操縦出来たって、おまんま食べらんないだろ?」

 

お婆さんが意味深な事を言う。まぁ、確かにお婆さんの言う通り高校生が戦車道をやって収益が入るわけじゃ無い。だけど……

 

「じゃあ、おばあまた来るよ」

 

そう言い、病室を出ようとした時。

 

「……あんな愛想のない子だけどね、よろしく」

 

静かにそう呟く冷泉のおばあさん。ああ、やっぱり大事にしているんだな。

 

 

 

そしてみほ達が病室を出ていった後。残った冷泉久子は見舞いに来た孫の友人の一人。確か、黒田真澄と言った友人のその顔を思い返していた。

 

「あの子の目……」

 

その時、脳裏に冷泉を預かった時の目を思い出してしまった。その時の彼女はとても虚な目をしていた。

 

「まさか、また同じ目を見る事になるなんてね……」

 

どこか悲しげに呟いていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

冷泉のお婆さんのお見舞いが終わり、みほ達は電車に乗って連絡船乗り場の港まで行く。

空はすっかり日が暮れてオレンジ色に染まっていた。帰りの電車の中で冷泉は武部の膝の上で寝っていた。

 

「麻子さんのお婆さん、思ったより元気で良かったね」

「えぇ」

「何か冷泉殿が絶対単位が欲しい。落第出来ない。って言う気持ちがわかりました」

 

秋山がそう言うと、五十鈴も納得した表情で言う。

 

「お婆さまを安心させてあげたいんですね」

「うん、卒業して早く側に居てあげたいみたい」

「祖父母孝行ってやつね」

 

そして武部は膝の上で寝ている冷泉の頭をそっと撫でる。

 

「麻子、あまり寝てないんだ。お婆ちゃん何度も倒れてて」

「お婆さまがご無事で安心したのかも」

「でも、この前は凄く動揺してましたね。あんな冷泉殿見たのは初めてです」

「たった一人の家族だから……」

「え、ご両親は?」

 

思わずみほが聞いてきて武部が暗い顔になった。まずいこと聞いたかな……

 

「麻子が小学生の時、事故で……」

「あ、そうだったんですか……」

 

五十鈴が申し訳なさそうにする。なるほど、道理で大事にする訳だ。

 

「家族か……」

 

冷泉に比べたら、家族がいる時点で自分も幸せ者なんだな。

真澄は内心、申し訳なくも思っていた。

 

 

 

 

 

そして連絡船に乗り込むと、さすがの五十鈴達も疲れていたのだろう。船の上のベンチで三人とも寝てしまっていた。

 

「あれ?武代さんは?」

「実家が近くだから、寄り道するってさ」

 

彼女はそう答えると、みほは納得した様子で軽く頷くと真澄は海を見ながらみほに聞いた。

 

「覚えている?夏休みに私がよく遊びに行っていた時の事……」

「うん、よく覚えている。お姉ちゃんがⅡ号戦車で山の上まで送ってくれて……」

「それで帰りがよく遅くなって怒られたなあ……」

「……」

 

するとみほはどこかバツが悪そうにそっと目を伏せた。それを見て、真澄はみほに敢えて突っ込んだ。

 

「去年の全国大会……見たわよ」

「っ!!」

 

それを聞き、みほは少し動揺してしまう。

 

「散々な目にあったわね」

「……」

 

真澄の話にみほは思わず怯えた様子を見せてしまう。だって自分のせいで、大きな失態を犯してしまったのだから。

 

「でもね、あなたの行動に間違いは無いわ」

「っ……」

 

すると真澄はみほの体を寄せると優しく背中を叩いた。

 

「大丈夫。貴方を叱る人はここには居ないわよ。ほら息吸って」

「……」

 

懐かしい、この暖かみのある大きな体。女性にしては大きすぎるその体。

とても同級生とは思えないその巨体はみほにとっては懐かしく思えた。

 

「でも、真澄さん。私は……」

「いい?戦果よりも人命の方が優先されるべき事案よ」

「……」

「あの場所で、あの子を救っていなかったら。貴方は一生後悔していたわ」

 

貴方はあまりにも優しすぎるから……。

 

「悔いのない生き方をしなさいって。前にも言ったでしょう?」

「……」

「貴方はその子を助けて、後悔したことはある?」

「……」

「自分の胸の手を当てて、ゆっくり考えなさい」

「……」

 

そこでみほは少し気持ちに整理が追いついたのか、荒れていた息が戻ってきていた。

 

「みほちゃんは私と違ってやり直せるチャンスを与えられた。これからは、貴方自身の戦車道を見つける時間よ」

「自分自身の……?」

 

すると真澄は頷いた。

 

「そう、貴方を縛る鎖は外れている。貴方は昔から、何かに追われて自分自身を殺し続けてきていた」

 

そしてその時の情景、みほが西住の家の名を継いで。その責務に追われて笑わなくなった日々。

 

「でも今は違う。今の貴方は黒森峰や西住流と言う拘束は無い。何をしても許される立場。

戦車道をすると言う選択を貴方が取ったのなら、それなりに自分のしたい事を見つけないとね」

「……真澄さん」

 

その目は覚悟が決まっており、みほはふとその中に混ざる諦めの感情を見た気がした。

 

「真澄さん、もしかして……」

「ん?」

「いや…何でもない……」

 

その目を見て一瞬、みほは何か気づいてはいけない事に気づいた気がしてしまった。

これ以上探るといけないと自分の中の防衛本能が働き、慌ててみほは話題を変えた。

 

「それより、清靖くん。元気にしている?」

「ああ、昨日も電話があったよ。今度学校に来るってさ」

「本当?!」

 

そこでみほは少し嬉しげな表情を見せると、真澄も少し笑った。

 

「ああ、アイツが来たら何作ってもらおうかね?」

「私、清靖くんの作ったロールケーキとか食べたい!」

「はははっ、じゃあ頼んでおこうかな」

 

真澄はそう言って少し笑うと、みほと共に学園艦に戻って行った。

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