知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第三一射

冷泉のお婆さんを見舞いに行ってから数日後。

真澄達のシェアハウスではマネージャーとしてまず初めに起きる真澄はそこで敷布団から体を起こすと、そこでいつもは床の間に飾っている日本刀を手に取って庭に出た。

 

「……」

 

そしてそのまま帯刀した日本刀を鞘から抜くと、真澄は息を整えて素振りをする。

この太刀は本当に斬れる逸品であり、真澄が中学校に入る時に父がわざわざ作って贈ってくれた物だった。名前を『和泉』と命名されていた。

剣舞とも言えるその素振りの動きは洗練されており、とても美しい物だった。

 

時々やっている彼女の日本刀を用いた素振りは鍛錬の一種であり、彼女が今までに築いた技の一つだった。

日本刀を振るたびに、空気を斬る音も聞こえ。ここに藁があれば一刀両断していただろう。

 

その光景を、彼女が戦車道を始める前……彼女が剣道を主にやっていた頃から知っている榎本はその寸分違わない真澄の素振りを見て改めて自分ではあそこまで辿り着けないと実感してしまった。

 

「(剣道でも食って行ける実力はあるのだけれど……)」

 

実に惜しいことをしていると、こっそり見ていた榎本は思う。彼女は剣道の他にも戦車道という才能を見出しており。二兎追う者は何とやらと言った具合で、今はそのどちらにも実力を持て余す結果だった。

事実、警察道場に居る人達を一人で圧倒できてしまう時点で実力は折り紙つきだ。かく言う榎本自身、彼女との出会いは剣道大会だったのだから。

 

「(思えば、あの時はこんな風になるなんて思っても見なかったけれど……)」

 

榎本は当時はライバル関係だった真澄を思い出していた。

すると、素振りを終えた真澄は太刀を元に戻すとそのまま部屋に戻ってきた。

 

「あら、起きてたの?」

「ええ、さっきね」

 

家に入ってきた真澄はそう言うと、戦車道をやめた時から。まるで罪鎖の如く長く伸ばしている黒曜石のような髪を見た。

 

「相変わらず、親との折り合いが悪いわよね……」

「なんか言った?」

「ううん、何でもない」

 

榎本の小さな呟きに真澄は聞くと、彼女は首を横に振っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

戦車道を始めてから、規則正しい生活を送るようになったからか。最近だと真澄の目元に出来ていたくっきりとした隈は今では消え掛かっており。元の鋭い目が姿を見せていた。

元々威圧感のある顔だったのが、更に厳つくなってしまっていた。これも父親譲りなのだろう。

 

「おはよう、みほちゃん」

「あっ、真澄さん、武代さん。おはよう」

「おはよう」

 

通学途中、みほと出会った真澄達はそこで軽く挨拶をする。大久保達は所用でここには居らず、別の場所に買い出しに出ていた。

そして二人が出会った時。

 

「お〜は〜よ〜」

「沙織さん?!」

 

そこに背中に冷泉を背負った武部が現れた。

 

「大丈夫?!」

「な、何とか……」

 

そう答える武部は今にも倒れそうだった。

 

「武部、交代よ」

「あ、ありがとう……」

 

そう言うと、真澄が冷泉を簡単に背中に背負う。元々でかい身長故か、冷泉を背負っても何だか幼い子供を背負うどこぞのお父さんみたいになっていた。

 

「寝ながら登校とは、良い御身分ね」

 

そして登校した校門の前では風紀委員の園が立っていた。

するとそこで冷泉は目を覚ますとふらつきながら近づいた。

 

「おお〜、そど子。ちゃんと起きてるぞ〜」

「そど子って呼ばないでって何度も言ってるでしょ!私の名前は園みどり子ときちんと呼びなさい!」

 

そんな二人の戯れ愛を見ていると、ふとそこで真澄達は学校にアドバルーンが浮かんでいるのが見えた。垂れ幕には『祝戦車道全国大会一回戦突破!!』と書かれており、よく見るとアドバルーンも戦車を模したものとなっていた。

 

「はぇ〜、よくあんなの許可したね」

「凄い!私達、注目の的になっちゃうかな?」

「生徒会が勝手にやっただけだから、それより冷泉さんを何とかしてよ!」

 

武部がそういい、園が冷泉を引き剥がそうとしていた。

 

 

 

 

 

そして数時間後、昼休みの時間。生徒達は好きな場所で食事を摂る中、みほはⅣ号の居る戦車倉庫を訪れていた。

 

「二回戦、この戦車で勝てるのかな………あのサンダースとの試合だって武代さんたちのおかげで何とか勝てたけど、次は……」

 

不安げにみほは呟く。一回戦は経験者の榎本達が上手く敵の撹乱や、撃破をしてくれたおかげでなんとかなったが、次の試合でも同じことが起こるとは限らなかった。

 

「あれ?みほちゃん?」

 

するとⅣ号の横の短十二糎から榎本が姿を現した。

 

「榎本さん?どうしてこんな所に……」

「いやぁ、一緒に食べようとしたんだけど。真澄が呼ばれちゃったから……」

「ああ……」

 

そこでみほは納得する。今の彼女は戦車道部のマネージャーだ。自分達の練習スケジュールの設定や補給物資の調達など、多くの後方要員を従えながら自分達が万全な体制で試合に臨めるようにしてくれていた。

おかげで黒森峰の時よりも自分がすべき仕事量は減っていた。

 

「あれ?西住殿に榎本殿?」

「優花里さん?」

 

するとそこに、弁当箱を持った秋山が現れた。

 

「おや、二人もここで食べるの?」

「はい!今日は戦車と一緒に食べたいと思いまして。榎本殿もですか?」

「そんな所ね」

 

すると今度は武部や五十鈴も現れた。

 

「あ、いたいた」

「教室にも食堂にもいないんできっとここだと思って……」

「あ、パン買ってきたよ」

「ありがとう」

 

みほはそう答えると武部の買ってきた昼食を受け取っていた。

 

「秋山さんはお弁当ですか?」

「はい」

「じゃあ、一緒に食べようよ」

 

そう言うと、今度は驚きの場所から声が聞こえた。

 

「私にも分けてくれ……」

 

そう言いⅣ号のキューパラから冷泉が顔を覗かせた。彼女のことを知らなければ半分ホラー展開のようだった。

 

「麻子、授業をさぼったでしょ?」

「違う。自主的に休養した。だからこれはさぼりではない」

「も~、屁理屈言って。おばあに言いつけるよ?」

 

武部がそう言うと冷泉は顔を青ざめた。

 

「それは………困る」

 

あのお婆さんだ、怒られるのは怖いに決まっている。

そうして皆で囲んで食事を取ろうとした時。

 

「あれ?みんなも来ていたの」

 

そこに用事を済ませた真澄が現れた。

 

「あ、真澄さん」

「黒田殿!あっ!一緒に食事いかがですか?」

「え?私乗れる場所ある?」

「少し詰めれば大丈夫です!」

 

秋山がそう答えると、真澄は軽く首を振って答える。

 

「そこまで居なくていいわよ。私はこっちで食べるから」

 

そう言うと彼女は用意していたのだろう、倉庫に置かれた椅子とテーブルを見た。

するとみほが真澄を見ながら聞いてきた。

 

「真澄さん、みんなで食べようよ」

「……はぁ、仕方ないわね」

 

ただを捏ねる妹に諦めた姉の様なため息を吐いた彼女はそのままみほ達のいるⅣ号のエンジン部分の上に登っていた。

 

「これ、母が戦車だって言い張るんです」

 

そう言い秋山が持ってきた弁当を嬉しそうに見せる。

 

「すごーい!キャラ弁じゃん!」

「食べるの勿体ないですね」

 

秋山の見せた弁当を、武部が携帯で写真を撮り、五十鈴もその弁当を見て覗き込む。

 

「あ、そう言えば掲示板見ました?生徒会新聞の号外!」

「う、うん……」

「凄かったね……」

「号外?」

「はい、今朝配られていた物です」

 

そう言い秋山はポケットから畳まれた新聞紙を取り出すと、そこには『大勝利!大洗学園強豪校を倒し一回戦突破!!』とみほのことを褒めちぎっていた文章が添えられていた。

 

「あっ、榎本さんの記事だ」

 

そして新聞には『短十二糎自走砲、脅威の活躍!!』と書かれた小さなコラムがあった。

 

「記事ちっさ!」

「そんな!あの試合で最も活躍したのは榎本殿達なのに」

「ああ、真澄の仕業ね」

「「「「「え?」」」」」

 

榎本が言うと、みほたちの視線が真澄に集まる。彼女は料亭ばりの弁当を食べており、五十鈴が少し羨ましげに見ていた。

 

「ああ、彼方の事は大きく書くなって新聞屋にきつく言ったのよ」

「ど、どうして……」

「家の事情」

 

真澄がそう答えると、横で榎本が注釈を入れる。

 

「真澄、今お父さんと大喧嘩しててね。真澄の関係者の私が大っぴらになると真澄にまで影響するのよ」

「喧嘩……ですか?」

「あの巌さんと?」

 

みほが首を傾げると真澄は頷いた。するとそこで榎本がこれ以上詮索しないでほしいといった目を向けたのでみほ達はこれ以上聞くことはなかった。

 

「それは兎も角、あのサンダース大学附属高校に勝ったんですからね」

 

そこで秋山が話題を変えるとみほ達も頷いていた。

 

「『勝った』と言うより、『何とか勝てた』の方が正しいと思うけどね……」

「でも勝利は勝利です!!」

 

秋山が胸を張ってそう言う。

 

「そう、だよね……」

「「「「「?」」」」」

 

すると突然、沈んだように顔を俯けるみほ。そしてみほは呟く。

 

「勝たなきゃ、意味がないんだもんね……」

「うん?そうですか?」

 

秋山の素朴な返事にみほは驚く。

 

「え?」

「楽しかったじゃないですか」

「うん」

 

秋山がそう言い武部が同調して他の皆も頷く。

 

「サンダース付属との試合も。聖グロリアーナとの試合もそれから練習も戦車の整備も練習帰りの寄り道もみんな!」

「うんうん。最初は狭くてお尻痛くて大変だったけど何か戦車に乗るの楽しくなった!」

 

武部達がそう言うとみほも思う部分があって、頷きながら答えた。

 

「そう言えば、私も楽しいって思った。前はずっと()()()()()って思ってばっかりだったのに、だから負けた時に戦車から逃げたくなって……」

「私、あの試合。テレビで見てました!」

「!?」

 

そして、みほが重い口で語り始めた。

 

事の始まりは、昨年の戦車道全国大会決勝戦で黒森峰とプラウダとの試合で黒森峰はこの試合で十連勝が掛かっていた。

その時は雨が降っており、川沿いの断崖の道を黒森峰の戦車隊は一列で走行していた。

その時、突然プラウダの奇襲攻撃を受けみほの前方を走っていたⅢ号戦車が砲撃でバランスを崩して崖から川へと滑り落ちっていた。

落ちたⅢ号戦車は川の激流に飲み込まれた。それを見たみほはティーガーから降りて川に飛び込みⅢ号戦車のハッチを抉じ開けて中の乗員達を救出した。

だがしかし、プラウダ高校はみほが不在で無防備となったティーガーのフラッグ車が砲撃し撃破され黒森峰は敗退し、十連覇を逃した。

 

やはり、改めて聞くとおかしな点も多い。まず初めに悪天候の中を無理に細い道を進んだ事だ。おまけにみほがいない間、棒立ちしていたと言うティーガー。フラッグ車と言う重役なのだから車長が居なくとも自分の車両を守るくらいしなさいよと愚痴りたい気分だった。

 

ただ、みほもみほであんな雨の中を一人で飛び出すんじゃないよと言いたかった。濁流の中を一人で行くのは命の危険もある。大会審査員に一報を入れれば一時中断と言う形でもっと安全に救助できたのだから……。

 

「それで、私達黒森峰は十連覇出来なかった」

「「「「「「…………」」」」」」

 

みほの話を聞いて黙り込んでしまう武部達。

 

「私は、西住殿の判断は間違ってなかったと思います!」

 

するとそこで真っ先に秋山が口を開いた。

 

「優花里さん……」

「そうね、結果よりも人命の方が何倍も大事よ」

「伝統なんてクソ喰らえ!!ってね」

 

真澄らしい言い方に思わず苦笑してしまうみほ。

 

「でも優花里さん……ありがとう」

 

みほがそう言うと秋山は髪をくしゃくしゃとしながら喜んだ。

 

「す、スゴいッ!私、西住殿に『ありがとう』って言われちゃいましたぁ~~っ!!」

 

相変わらずあなた、みほちゃん大好きねー。関心ものだわ。

 

「オットボール軍曹」

「あ、それ言わないで下さいよ」

 

すると冷泉が秋山がサンダースに偵察した時に名乗った偽名を言われて恥ずかしがる。

 

「そうですね…………戦車道の道は、一つだけじゃないですよね」

「そうそう!私達が歩んできた道が、私達の戦車道になるんだよ!」

 

そういうと武部は何処ぞの漫画のように指を天井突き立てて立っていた。

 

 

 

すると秋山が真澄たちに聞いた。

 

「そうです!この際ですし、黒田殿達の昔のお話も聞いてみたいものです!」

「良いわよ」

「「えっ!?」」

 

真澄がすんなりと答えた事にみほと榎本が驚いた目をしてしまった。

 

「い、いいの?」

「ええ、元々秋山には言おうと思っていたしね」

「大丈夫なの?」

「いやぁ、もう二年も前の話よ。今じゃ私の中では笑い話よ」

 

彼女はそう言うと秋山達にその話を始める。

 

 

 

伝統と権力を盾に、新芽を徹底的に叩きのめした戦車道界の黒歴史を……。

 

 

 

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