砲塔側面に『義』の字の描かれた九七式指揮戦車シキの車内で一人の少女が徐に呟く。
「ねぇ、知っているかしら?」
「?」
すると横にいた装填手の少女が首を傾げてこちらを見る。
「人間の資質は主に四つあるそうよ」
「四つ?」
「ええ」
すると彼女は指を出しながら呟く。
「ゼークトの組織論の中では、
『利口で勤勉』
『利口で怠慢』
『愚鈍で怠慢』
『愚鈍で勤勉』
軍人の資質はこの四つで分類が出来ると言われているそうよ。それぞれ、参謀・現場指揮官・雑兵・軍人に向いていない人間に分けられるそうだわ」
「はぁ……」
無線手の少女は困惑げにそう話すと、その少女……男のようなウルフヘアに桜型の金細工の着いた軍帽を被り。そして、知波単学園の戦車服を纏う黒田真澄はそんな与太話をし始める。
すると操縦手が操縦桿を動かしながら答える。
「お言葉ですが、それは今言うことですか?」
そう答えると、真澄の乗るシキは現在、聖グロリアーナ女学院のバレンタインとM3スチュアートの部隊に追撃を受けていた。
「撃て撃て!敵のフラッグ車だ!集中砲火で叩け!!」
スチュアートに乗る聖グロの車長がそう叫んでいた。
「もう無理です!ここは潔く突撃するしか……!!」
「この状況での突撃は愚者の選択よ」
「しかしっ!」
するとそこで真澄はキューポラの覗き窓から後ろを見ると、片手に無線を持つ。
「行けるわね」
『はっ!お任せください!!』
その無線の向こうで大久保の声が聞こえると、真澄は指示を出す。
「〇四一〇地点、到着予想時刻残り一分。各車砲撃用意」
そう言い後ろから追いかけてくるスチュアートの集団を見る。
「……撃て」
そう言うと先頭を走っていたスチュアートが集中砲火を浴びてあっという間に撃破された。
「っ!!待ち伏せだ!!」
「各車散会!」
渓谷の上からの砲撃に聖グロ戦車隊は停車すると、渓谷の上から撃ち下ろすように試製一式砲戦車ホイ三両と旧砲塔チハ三両が砲撃を加える。
『ホイ三号車、スチュアート撃破!!』
『チハ二号車、バレンタインの履帯を狙います!』
三両の砲戦車は聖グロの戦車隊を足止めすると、その中で小隊長を務める大久保利子は指示を出す。
「ホイ各車、タ弾装填」
『『了解』』
「発砲」
そう言い大久保は指示すると、発射した成形炸薬弾はバレンタインの正面から貫通。集中砲火を受けた先頭のバレンタインは白旗をあげた。
『『『おおっ!』』』
そんな快挙に知波単の生徒たちは大きく驚いた様子を見せた。
「そのまま足止めを続行。これより無理な攻勢、突撃を一切禁ずる」
『はっ……!!』
真澄がそう言うと、別の無線から連絡が入る。
『こちら面小隊、敵旗車発見!〇二一七地点!』
「了解、直ちに垂小隊を向かわせる。我々も行くぞ」
「はっ!」
そう言うと真澄の乗る指揮戦車はそのまま去って行く。
「足止めを頼んだぞ。大久保」
「はっ!お任せください!!」
去り際に大久保とそう話すと、真澄の乗る戦車は砲塔側面に剣道の防具である垂の書かれた旧砲塔チハ三両を引き連れて渓谷を去っていく。
「くそっ!知波単ってこんなに強かったか!?」
渓谷で足止めを喰らう聖グロの戦車隊では思わずそんな言葉が漏れる。
「そんなはずは無い!知波単は突撃馬鹿の集団の筈だ!!」
そう言い二ポンド砲に砲弾を装填するバレンタインの装填手はそう答える。
すると無線で悲鳴に近い声が聞こえる。
『助けてください!知波単の九七式三両に追われています!!』
「逃げ続けろ!我々も戦車を片付け次第そちらに向かう!!」
無線でそう返すと、車長は思わず愚痴ってしまう。
「くそっ!嵌められた……!!」
そう呟くと忌々しげに渓谷の上に隠れている試製一式砲戦車を見ていた。
同じ頃、今回のフラッグで車である聖グロ所属のM3スチュアートは三両の九七式新砲塔型に追いかけられていた。
「撃てぇっ!!」
側面に面が描かれたキューポラから顔を覗かせて榎本が指示を出すと、三両から一気に砲撃が加わる。四七ミリ砲塔から発射された砲弾はM3の周囲に着弾する。
「ここまで聖グロを追い詰めるとは……」
「流石は我らの軍師殿だ!」
同じ小隊の車長がそう口々に言うと、その表情はとても嬉しげであり。同時に尊敬の念も感じていた。
すると、小隊長の榎本に無線が届く。
『こちらシキ。面小隊、現状の報告を』
「はっ!現在敵旗車を追撃中であります!」
『間も無く合流する。面小隊は二五〇三地点で停車』
「了解であります!」
榎本が答えると、小隊の車長達が驚きの声をあげた。
「このまま敵を逃すのでありますか!?」
「なりません!このまま撃ち続けるべきです!!」
「まて、軍師殿にはそれなりの考えがあるはずだ。それに命令違反を起こして『学園艦護謨跳びの刑』を受けたいか?」
「「……」」
それを聞いて青ざめる車長達。その恐ろしさを知っているからこそ彼女たちも慌てた首を横に振っていた。
「では、我々は隊長の命令通りに動くぞ」
「「はっ!!」」
そう言うと新砲塔三両は追撃をやめると、指示された場所に移動を始めた。
「ん?追撃をやめた……?」
そしてその様子を見るM3スチュアートの車長は首を傾げた。
逃げ切れたのかと思った瞬間、
「二時方向に敵!」
「っ!!」
そこに二両の旧砲塔チハが現れ、スチュアートは再び逃亡を続ける。
「突撃ぃ!!」
そう叫びながら小隊長の大隈が大喜びで突撃を敢行すると、そのままスチュアートに砲撃を行う。
「そのまま通過!」
そしてそのまま二両はスチュアートの前後を通過するとそのまま森の中に消えていった。
「っ!!砲撃!!」
慌ててスチュアートの三七ミリ砲が火を吹くと、通過した前側の一両を撃ち抜いて撃破した。
「申し訳ありません!!」
『ご苦労。勇敢な戦いであった』
直ぐに真澄からそう返されると、残った一両。大隈の車両は逃げるスチュアートを追いかけていた。
「畜生ですわ」
「まさか知波単がこんな実力を隠していたなんて」
逃げるスチュアートはそこで追撃を加える一両のチハを恨めしく見る。
「たかが二回戦でこの聖グロがやられるわけには行きませんのよ」
そう言い聖グロのフラッグ車は逃げ続ける。このまま味方部隊の居る場所まで撤退を行えば、こちらに勝機はある。すると……
「っ!!前から敵影!!」
「何っ!?」
丘を乗り越えて突如現れた旧新砲塔チハ四両。それから指揮戦車シキが乗り越えてくると、思わずスチュアートは停車してしまう。
先ほど離脱した三両は先回りをして待っていたのだ。
「あっ……」
前方に五両、後方に一両の挟まれた状態でスチュアートの車長は思わず言葉が漏れる。
視線の先ではシキに乗る真澄が無線機を片手に指示を出した。
「撃てっ!」
その瞬間、スチュアートは集中砲火を受けて白旗が上がった。
『知波単学園の勝利!!』
そのアナウンスと共に第二回戦は終了した。
「お疲れ様でありました。軍師殿」
指揮戦車から降りた真澄は駆けつけた伊藤にそう言われる。
「構わない。それより、次の対戦相手は?」
「はっ、準決勝の相手は『マジノ女学院中等部』であります」
「分かった。引き続き、情報収集を頼んだぞ。博子」
「はっ!!」
そう言うと伊藤は敬礼して去って行った。
そして試合が終わった所を、整列する生徒達に真澄は腰に日本刀を帯刀して答える。
「諸君、ご苦労であった!」
まず初めにそう言うと、真澄は彼女達に激励を送った。
「我々は今日。強豪聖グロリアーナを打ち破り、準決勝へと駒を進めた!」
「「「っ!!」」」
その事実に沸き立つところを真澄は一喝する。
「しかし!我々の目標はこの大会にて御旗を持ち帰る事にある!その為の努力を怠るな!!」
「「「「はいっ!」」」」
そう答えると、真澄はそんな彼女達に言う。
「では諸君、細やかなものであるが。聖グロリアーナ女学院勝利と準決勝進出を記念して宴会を行うぞ」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
そう言うと既に準備されている宴会用具を見て他の生徒達はその料理に飛びついていた。
「おお!宴会!宴会であります!!」
そう言い料理に飛びついて盛り上がる彼女達を眺めながら真澄はその隅で片手に蜜柑水を飲む。
「お疲れ様」
「ああ、武代か」
そしてそんな彼女に榎本がラムネを持って横に座ると、真澄は少し申し訳なさそうに言った。
「悪いな」
「?」
「いきなり、戦車道なんかに誘って」
「……」
そんな真澄の表情を見て榎本は少し微笑んだ。
「良いわよ、これはこれで楽しいから……」
「そうか……」
真澄はそう答えると、なぜか出来上がっている一人の生徒が大きな声で叫んだ。
「我らの軍師殿は最高であります!!万歳!!」
そう言うと、それに釣られるように他の生徒たちも同じように叫び始める。
「軍師殿に万歳!」
「「「「「ばんざーい!!」」」」」
そう言い祭り上げられている真澄に榎本も笑う。
「今じゃすっかり人気者ね」
「ええ……」
するとその時、真澄の持っている携帯が鳴る。
「ん?……っ!!」
そしてその名前を見た時、真澄は少し微笑むと宴会の楽しむ中。一人先に会場を後にした。
それを見て榎本は彼女が珍しく嬉しそうな表情をしていたのを見て誰からなのか一瞬で分かっていた。
「……ああ、もしもし?久しぶり」
そして宴会場から外れた場所で真澄はいつもの硬い言い方ではなく、緩んだ様子で話していた。
『あっ、真澄さん。久しぶり』
相手は友人のみほだった。
『準決勝進出おめでとう』
「ええ、みほちゃんもね。おめでとう」
するとみほのところでも宴会をしているのか、電話の向こうからどんちゃん騒ぎの音が聞こえた。
「楽しそうでなによりだわ」
『うんっ!真澄さんは?』
「抜け出してきたわ」
『えっ!良いの?』
「大丈夫よ、あの子達だけでも十分楽しんでいるから」
そう話すと、みほと真澄は電話越しで楽しげに話していた。
『真澄さんも次の試合、頑張ってくださいね』
「ええ、決勝でまた会いましょう」
そう話すと、丁度そこで数人の人が入って来た。
「おっ!おりましたぞ!」
「ここに居られたのですか。黒田隊長」
「大隈に大久保か……」
そこに現れた二人を見て真澄は電話を切った。
「じゃあまた」
『うん、またね』
そう言うと、大久保が聞いた。
「ご友人ですか?」
「ああ、古い友人だ」
「ははっ!では少し申し訳ないことをしましたな」
「いいさ、丁度終わるところだった」
そう言うと真澄は二人ここに来た理由を聞いた。
「いやはや、隊長には宴会場にて音頭をとっていただかなければなりませんからな」
「そうか……」
真澄は呼びにきた理由を察すると大久保達を連れて宴会場に戻っていた。