現在中学三年生の黒田真澄は中学生最後の戦車道大会に知波単学園戦車道部隊長として参加しており、その怒涛の快進撃は学内新聞にて大きく報じられていた。
『知波単学園の勝利!』
白旗の上がるフラッグ車のルノーD2を見ながらそばに二両のホイを控えて真澄はその光景を眺める。
「おおおっ!!やりましたな!隊長!」
「……ああ」
少し間をおいて真澄は答える。彼女は相変わらずシキに乗っており、その周りではマジノ女学院に勝利した事実に大喜びの知波単の生徒達。
「これでいよいよ決勝であります!」
「歴史的快挙であります!!大戦果であります!!」
同じように大喜びの同級生や二年生。そして各小隊の小隊長達。
「おめでとうございます!黒田隊長」
「ああ、西か……そうだな」
そう言い、準決勝に合わせて新たに作った小隊である竹刀小隊の隊長を務める西絹代は真澄にそう話しかける。
「如何なさいました?」
「いや…今度の相手は厳しい戦いになると思ってな……」
「……」
試合が終わり、いつもなら喜んでいるはずの真澄がここまで真剣な表情を浮かべていた事に西はやや驚いていた。まぁ、それもその筈かと後に分かるのだから……
中学生大会で初めて決勝まで進んだ知波単学園中等部戦車道部、そこで今年の隊長を務めることとなった黒田真澄は中等戦車道部の大規模な改革を行っていた。
まず初めに突撃禁止令や命令違反の厳罰化などを行った。厳罰化の内容は俵運びや学園艦護謨跳び……俗に言うバンジージャンプなどが挙げられる。
それから食事面でも毎日銀シャリを出すことを徹底させ、大好評となっていた。
そして他には車両の大規模改造なども行った。彼女は戦車単体の火力向上を行い、同時に乗員の選抜を行うようになっていた。
「申し訳ないけど……」
「そ、そんな……」
申し訳なさそうな顔をし、榎本が片手に紙を持って言うと。その生徒は肩を明らかに落としていた。
「彼奴も落とされたか」
「可哀想に……」
周りでは哀れんだ目をした生徒が多くいたが、その生徒は肩を起こすと真澄達に言う。
「ですが次こそは軍師殿のお力添えになれるよう努力いたします!!」
「ああ、その時を待っている。楽しみにしているぞ。今度練習に付き合ってやる」
「はっ!!」
そう言うと、遠くでは射撃訓練が行われており、決勝に向けた練習が行われていた。
「去年は辻先輩がいて毎日大喧嘩だったね」
「ああ、厄介な人ではあったが……ある意味で扱いやすい人だったよ」
彼女はそう言うと、榎本も少し笑っていた。遠回しに馬鹿って言っているようなものだったからだ。
「『高校に来たら覚えていろ』だったっけ?」
「ああ、扱き回す気らしい」
そう言うとある生徒が片手に手書きを持って駆け寄っていた。
「隊長!」
「何だ?」
「同窓会より手紙です。至急職員室に来るようにと」
「……」
またお叱りの話しかと内心げんなりしながら真澄は座っていた椅子を立った。
「大丈夫?」
「ああ、またお話ししてくるだけだ」
そう言い残すと彼女は戦車道の訓練場を後にして行った。
「どうにかお認めになってはくれませんか?」
職員室の応接まで真澄は映写機で資料を通じながらプレゼンをしていた。
相手は知波単学園の卒業生で構成された同窓会であり。別名を枢軸院やら元老院などと揶揄していた。もしくは老害委員会。
「難しいと言わざるを得ないだろう」
「確かに、君の意見は受け取った。しかし、我々にも予算というのがあってだな……」
「そう言い続けて何年が経ちましたか?」
「……」
真澄の意見に同窓会の女性は黙り込んでしまう。
「私は知波単学園を優勝に導きたいという一心でこの三年間、貴方がたに交渉をしてきました。しかしあなた方は私の意見をまともに聞いたことがありますか?
そもそも、私がこれほどの交渉してくる理由を覚えていらっしゃいますか?」
そう真澄が捲し立てると、一人の真澄のプレゼンを聞いていた同窓会のメンバーの一人が聞く。
「しかし、これでは我が校の伝統が守れないのではないのか?」
「突撃戦法ですか?」
真澄の問いに頷く。
「そうだ。我々の知波単魂があれば、そんな車両の更新など必要無……」
「ではお聞きしますが、ここ十年で我が校の卒業生から国際戦車道選手に選ばれた生徒は何人おりますか?」
「……」
そこから真澄のターンが始まり、彼女は続けて言う。
「確かに我が校の高校生戦車道は過去にベスト4まで進みました。ですがそれははっきりと申し上げましょう……
マグレです」
「「「っ!!」」」
真澄のキッパリと申した意見に同窓会の面々の表情が一気に悪くなった。
「過去の栄光にあやかって戦法を習うのは確かに良い案ではあります。
ですが、命令違反を起こしてまで突撃戦法を使用するは愚策以外の何者でもないと思われます」
「貴様!我が校の伝統を侮辱する気か!!」
そんな激昂し始める卒業生に真澄はキッパリと自分の意見を言う。
「侮辱ではありまん。好き勝手突撃されてはこちらが困ると言っているのです」
「知波単魂を否定するのか!」
「突撃戦法はすでに対策が取られており。時代遅れであることは明白です。ここ十年の高校生戦車道の活躍を見ればそれは一目瞭然です。初戦敗退か、運が良くて二回戦敗退。
我々は変わらなければならないというのが、何故お分かりにならないのですか!!」
最後の方に関してはほぼ怒声であり、張りのある威圧感の溢れる声は部屋に響いていた。
「……兎も角、この度の中学生戦車道大会を持ちましても我々は決勝まで進みました。その結果からしても、私達のご意見にどうか
そう言い残すと、真澄は部屋を後にした。
そして、そこに残った同窓会の役員たちは真澄がいなくなった途端に口々に文句を言い始める。
「なんなんだ、あの生意気な小娘は」
「中等部の戦車道の隊長を初めてから彼女はああだ」
そう言い突撃禁止令を出した彼女を忌々しげに見ていた。
「なんでも突撃を勝手に行うと学園艦から護謨紐を付けて突き落とすそうだ」
「なんと野蛮な!」
「おまけに戦車に改造を大幅に加えているそうじゃないか」
「何ですと!?学校より賜った戦車を改造ですと!?」
一人の役員が大いに驚く。彼らにとってみれば、学校の備品である戦車に手を加える時点で言語道断とも言えた。すると一人の役員が言う。
「我々の面子に関わる問題です。早急に対処すべき問題と見ます!」
「……」
すると一人の役員が意見を言う。
「しかし、彼女の手腕は確かなものだ。おかげで我々は初めて中学生大会で決勝に進んだ」
「そうだとも、おまけに突撃禁止令に今の中等部の生徒たちは大した不満を持っていないようだしな」
「銀シャリ制度も生徒からは好評ではないか、あれのおかげで士気が上がっていると聞くぞ?」
「ここは多めに見るべきではないのか?」
彼女を擁護する声もちらほらと聞こえる。
しかし、同窓会の役員はどちらかと言うと反真澄寄りであった。
「しかし!我が母の伝統を守らないのは如何かと申す!」
「伝統がなんだね?彼女のいう通り、我々はこの十年以上国際戦車道選手を排出出来ていないのだぞ?」
「それは生徒に宿る知波単魂が足りていないからだ!」
同窓会ですらこの有様だ。真澄の申した戦車道車両更新計画の概要はかなり大胆なものだった。
「四式中戦車を主力とし、試製五式砲戦車や四式軽戦車、五式中戦車を導入か……」
「これだけの車両の新規投入となるとだいぶ予算が必要ですな」
「もう少し値段を抑えられないか彼女に聞いたほうが良いだろう」
車両の新規購入には莫大な予算とそれらに慣れるための訓練が必要となる。時間も金も掛かるまさに一大プロジェクトだった。
「この風見鶏共が……」
その中で一人、そう呟く彼女は真澄のある欠点を呟く。
「しかし、彼女の戦車道は凄惨な切り捨ての上で成り立っていると言います」
「どういう事だ?」
役員が聞くと、その人物は答える。
「はい、黒田真澄はこの大会に際し。実力に満たないと認定された生徒を切り捨て、大会に出場させていないと言います」
「何とっ!!」
「そんな事が行われているというのか!?」
「直ちに抗議すべきです!」
これ見逃しに彼らは真澄のボロを叩こうとするが、そこで一人がまた意見を言う。
「それは大会前ではよく行われているのでは?」
「そうですな。我々の時も選抜試験を行いましたし」
「おまけに選抜外れた生徒も、彼女は見捨てる事なく練習に付き合っていると聞いている」
そう言い彼女にまつわる話をし始める。
「私の娘も大会選抜には落とされたが、その後に真摯に練習に付き合ってくれたと聞いている」
「能力の足りない生徒を斬り捨てるのはある程度仕方がないことだ」
「むしろ彼女は優しい部類だ。弾いた生徒のことも案じているのだからな」
そう言うと次第に会自体は徐々に真澄の意見に傾き始めていた。
「(このままではだめだ。何かしらの方法で黒田真澄を蹴落とさなければ……)
そこで尋常じゃない執念を思うその人物は真澄の意見に真っ先に反対していた人物だった。
「(伝統と秩序を守らぬ生徒はこの学校に必要ないのだ!!)」
そこで彼女はふとそんな肯定的な意見を溢す中でもある事が思い浮かんだ。
「(そうだ、無いなら作れば良いんだ)」
悪魔的とも言えるその考えは元より目の敵にしている真澄相手に倫理ブーレキは壊れていた。
「(選抜で跳ねられて戦車道を辞めたものがいるはずだ。そいつを出汁にすれば……)」
会議が進む中、その人物だけは別のことを考えていた。
「終わった?」
「何とかね」
今度の決勝戦に向けてやる気十分な生徒達を見ながら真澄は答えると、榎本に言う。
「今度の試合、私もチハ改で出るわ」
これまでの試合は指揮能力向上のためにシキばかり乗って来ていたが、ここに来て戦略を変えるのかと少し驚いていた。
「あら、編成は?」
「ホイを増やして、新砲塔で編成するわ」
「あらあら、また上と喧嘩するの?」
「勝つためには仕方あるまい」
そう言うと彼女は訓練に混ざって生徒たちと共に今度の作戦計画を立て始めていた。