知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第三五射

その内部告発に初めは誰もが首を傾げていた。

 

「虐め?」

「何を言っているので有りますか?」

 

まず初めに漏れた言葉がこれた。無理もない、戦車道を取るものならば誰もが彼女はワーカーホリックであると言うのを重々知っていたからだ。

 

知波単学園戦車隊の開拓者とも目されている彼女は新規戦車購入のための資金調達に奔走しており、そのための旧式戦車の売り込みや物品販売。それから知波単学園の他の部活動からの義援金など、さまざまな場所に自ら赴いてはその巧みな交渉術を用いて協力を取り付けていた。

 

その反面、彼女に質の悪い日本酒を飲ませて酔わせるのは厳禁とされてきていた。

彼女が暴れると誰にも止められないからだった。

 

「黒田隊長、お聞きになられましたか?」

「ん?ああ、あの内部告発の一件かい?」

 

西が戦車道部隊長室に入ると、そこでは書類片手に計算機を叩いている真澄の姿があった。

 

「みんなは何と?」

「はっ!『あんな物は嘘っぱちの代物である』と……」

「そうかい、そりゃ有難い話だ」

 

そう彼女は続けて言うと、鉛筆で紙に数字を書き入れていた。

 

「何をなさっているのですか?」

「ん?今月の収支」

 

彼女はそう答えると、次に『新規戦車ニ掛カル費用』と書かれた書類を持った。

 

「戦車道部に他の部活動からの寄付金や、この前ようやく前向きに検討してくれた同窓会から送られてくる支援金。それらを鑑みて今の我々戦車道部が購入できる新規戦車の車種と台数。それらを計算しているのさ」

「……」

 

思わず西は開いた口が塞がらなくなりそうになった。目の前にいる御仁はそれほどの大プロジェクトを成し遂げようとしているのだ。

 

「真澄」

 

すると部屋に榎本が入ってきた。

 

「これ、新たな戦車の見積書」

「ありがとう」

 

そう言い榎本から渡された資料を受け取ると、そこで真澄は西に言う。

 

「西、少し手伝ってくれ」

「は、はいっ!」

 

彼女はそう答えると、真澄の手伝いをしていた。

 

 

 

 

 

「すごい…ここまで細かい収支が……」

 

帳簿を見た西は、そこで書かれている膨大な数字やそれがどこから流れてきたのかを見ながらどれだけ彼女が本気で戦車の大規模更新を行おうとしているのかに気力が窺い知れた。

 

「西、小隊長になったなら覚えておくと良い。これからの時代、我々に必要なのは数字と知恵だ」

「知恵……」

「君はこの前の決勝戦で感じた事はあるかい?」

「?」

 

西はそこで首を傾げると、真澄はそこで小さく笑った。

 

「それが分からない限り、知波単学園は勝つことができない」

「……」

 

真澄の毅然とした態度は、確かに去年の隊長であった辻つつじ先輩と正面切って『殴り合いも辞さぬ』とはっきり言った愚直で頑固な硬骨女を表しているとも言えた。

 

「今の知波単学園にはあらゆるものが不足している。火力、知恵、資金」

「そうね、特に火力と知恵は……」

「……」

 

横で辛辣に榎本が言うと、西は思わず学校の校風を思い出してしまう。何かいけないことを考えた気がした。

 

「ともかく、他の部活動からも支援金をもらったから。あと二ヶ月もすれば我々は最初の新規戦車購入が可能だ」

「何の戦車を投入するのですか?」

「二両の旧砲塔チハを払い下げて四式中戦車と四式軽戦車をそれぞれ投入予定だ」

「せ、戦車を払い下げるので有りますか?!」

 

西が驚くと榎本が言う。

 

「出なきゃ新規購入は無理よ。でも量産型の四式中戦車を購入できるようになったから、性能は折り紙付きよ」

「おまけに四式軽戦車は車体のみで、砲塔はこの前の決勝で取っ払った旧式チハの砲塔を乗せれば完成だ」

「……」

 

西はそこまで読んでいるかのように語る真澄に唖然となっていた。

 

「それまで我々は待つだけだ」

 

そう言うと彼女は最後に西にこう言う。

 

「間違っても戦車の購入資金に手を出さないでくれよ?あれは我々が生き残るための命綱だ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

しかし、事態が急変したのはその数日後の事だった。内部告発の証拠となる映像が生徒会や戦車道連盟に送りつけられ、そこには決定的瞬間として真澄と思わしき人影が知波単学園の生徒に蹴りを入れている映像だった。

 

「まずい状況になりましたよ……」

「……」

 

思わず榎本が冷や汗を掻いており、真澄自身も少しだけ顔がこわばっていた。

 

「そんなことありえません!映像の日時をよく見ればわかることです!」

「その通り!ありえません!」

「そうです!」

「こんなの出鱈目に決まっているであります!」

 

同室にいる他の戦車道履修生も同様に声を上げる。

その映像が記録されたと言う日は丸一日、あの大会後のパーティーに参加しており。知波単学園の学園艦にすらいなかったのだから、犯行に及べるわけがない。

 

「しかし、この映像を見る限り。私が疑われてもおかしくはないか……」

「隊長!!」

 

思わず大久保が叫ぶと、戦車道部隊長室に人が訪れた。

 

「黒田真澄さん。教師方がお呼びです」

「分かった。すぐに行こう」

「真澄……」

「先輩方に、喧嘩売りすぎたかな?」

 

榎本のこぼした言葉に真澄はそう呟くとそのまま部屋を後にした。

 

 

 

 

 

その後、職員室に呼ばれた彼女は教師たちに無実の証明とその証拠を提示する。

しかし教師たちの反応はイマイチで、その反応を見て思わず真澄は聞いてしまう。

 

「上からの指示ですか?」

 

そう聞くと、教師達は気まずい表情を浮かべた。

 

「(ああ…厄介な事になった……)」

 

そう思ってしまった。どうやら先輩方は本気で自分を戦車道から追い出すつもりらしい。いや、もしかするとこの学校からすら追い出す可能性がある。

 

「だとしたらまずいかもしれないわね」

「隊長、先輩達には喧嘩ふっかけていましたからね」

「先輩方に同窓会……」

「隊長、私が工作をいたしましょうか?工作をして仕舞えば……」

 

榎本や大久保、大隈や伊藤がそう話すと真澄が言う。

 

「いや、それをするとかえって私の立場が悪くなる。ここは何もしないのが得策だ」

 

彼女はそう言うと、今度は電話が入った。

 

『あっ、もしもし?』

「ああ、清靖か」

 

緊張してしまったが、電話の相手を聞いて真澄達はほっとしていた。

清靖は真澄の弟であり、今は東京の中学校に通っている一年生だった。

 

「何かあった?」

『ああ、お父さんが姉さんを呼び出していたよ。何でも例の告発の件で話を聞かせろって……』

「電話じゃダメなの?」

『直接会わないとダメだってさ』

 

彼はそう言うと、途端に真澄の表情は険しくなった。

 

「……」

『姉さん、気持ちはわかるけど。たまには帰ってきてよ』

「……分かった」

 

そう言い受話器を置くと真澄は榎本達に言う。

 

「すまない、家からの呼び出しを受けた。私は緊急で帰らねばならん」

「「「「「っ!!」」」」」

 

彼女の家族からの呼び出し、それはつまりこの戦車道部の顔でもある真澄がいなくなると言う事だった。

 

「その間、戦車道の訓練は怠るな!」

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

真澄は最後にそう言うと、知波単学園を後にして東京の実家に戻った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……」

 

東京に存在する真澄の家は豪勢なものであり、中庭の付いた家だった。

父親は苦手な人間だ。少なくとも私が戦車道をやると言った時から、父とは疎遠になりつつあった。

 

「あっ、おかえり」

「ああ……」

 

すると家の前で偶然、学校帰りの清靖と出くわす。

 

「いつぶり?」

「この前、私が清靖の入学式に来た時だから……」

「じゃあ四ヶ月ぶりぐらいってことだね」

 

そう言い、家の前で話していると清靖は言う。

 

「家の中に入ってよ」

「ええ」

 

そう言い、清靖は真澄を家に招くとそのまま真澄は自室に入る。

 

「……」

 

部屋には小学生の時に、調子に乗って買って欲しいと駄々を捏ねたら親父が特注でとんでもなく大きいサイズを注文したボコのぬいぐるみが鎮座し、他にも小学生の時に取った剣道大会の賞状やトロフィーなどが飾っていた。

 

「姉さん」

「ああ、綺麗に掃除してくたんだなって……」

「当然、ここは姉さんの部屋なんだから」

 

少し胸を張って清靖は言うと、真澄は知波単学園の制服を着たままで帰ってきていた。

 

「あら、おかえりなさい」

「母さん」

 

そう言い部屋に入ってきた真澄の母、黒田清子は真澄を見て少し驚いた表情を浮かべると真澄に言った。

 

「お父さん、帰ってきているから。しっかりとお話ししてきなさい」

「はい」

 

真澄はそう言うと、そのまま階段を降りて応接室に入る。

するとそこでは一人の筋骨隆々で、着ているスーツが今にも弾け飛びそうな一人の強面の男が座っていた。その特徴的なまでのもみあげと繋がった顎鬚に、右目に付いた縦一文字の傷跡。初見で見ればまず間違いなく子供は泣き出すだろう。

 

「親父……」

「真澄、そこに座れ」

 

そう言い、彼女の父親である黒田巌はそう言うと真澄を反対側の座席に座らせた。そして真澄が座ると、巌はそんな真澄に聞く。

 

「学校側から連絡があった時は驚いた」

「あれは無実だ」

「そうか?疑わしい行動をしているお前が悪いのではいのか?」

「っ!!そんなわけないだろう!!」

 

真澄はいつになく激昂した様子で巌に反論すると、彼はそんな真澄を見て言う。

 

「真澄、お前の学校での生活は聞いている。随分と暴れているらしいじゃないか」

「暴れている?私は品行方正な生徒をやっているつもりですが?」

「先輩と半年前につかみ合い直前まで言い合ったと聞いている」

「それは私の戦車道と、先輩の戦車道の意見が食い違っただけであり。決して不良と同じにしないでいただきたい」

 

彼女は今にもブチギレそうな頭を無理ぐり冷やして答える。

 

「しかし家に電話が来る行動をしたのならば、私からお前に謹慎を与える」

「はぁっ?!」

 

突然の謹慎に真澄は思わず驚く。

 

「一ヶ月、お前を知り合いの警察道場に入れる。戦車道などと言う武道をした罰だ」

「何言っているんだ!親父!!」

 

そう叫ぶと、巌は目線を合わせると部屋に数人の黒服の男達が入ってきて真澄を運び出す。

 

「何をするっ?!」

「お嬢、落ち着いてください」

「これが落ち着けるか!!わぶっ!」

 

真澄はそのまま取り押さえられると、そのまま連行されるように家から担ぎ出される。

 

『ーーーーーっ!!』

 

そしれ車にそのまま放り込まれた彼女は車の窓ガラスを叩いて何か叫んでいるが、それを巌は静かに眺めていた。

 

「貴方…」

「……」

 

清子や静かに前を見る巌を見てその瞬間にゾワッと血の気が引いた気がした。

 

「まさかっ!!」

「真澄を思ってのことだ」

「……っ!!」

 

そう言うと、巌は走り去って行く車を見届けていた。

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