「ーーーーと、ここまでが私が戦車道を除名されるまでの経緯よ」
「「「「…………」」」」
真澄の話を聞き、改めて絶句する秋山達。
無理もない、そんな横暴が許されてしまう業界なのだから……。
「それで、戦車道が無くて程よく実家から遠いこの大洗に入学したのよ」
「そういう理由だったんですね……」
みほがそこでそう言うと、武部が顔を真っ青にして言った。
「そっ、そんな事で……ますみんは戦車道をやれなくなったの?」
「あまりにも酷すぎます」
「残酷と言う話では収まらないな」
「よりにもよって捏造された冤罪だなんて……!!」
秋山達はそこで絶句してしまっていると榎本達はその後の話をする。
因みに除名した黒幕や病院の話はみほ達にはしていなかった。多分、聞いたらもっととんでも無いになっていたと思ったからだ。
「それで、私達は真澄が変なことを起こさないか。それを見るために着いて行ったら……」
「どういう訳か大久保達も着いてきちゃったのよ」
「それだけ慕われていた証です!」
秋山がそう言うと、真澄は答える。
「そう言うものなんだろうね」
「でもそんな事されたなら荒れるのも納得できちゃうよ」
武部は嫌に納得した顔でそう言うと、みほが気になった様子で真澄を見る。
「真澄さん、ここに来た時。なんかみんなから怖がられていたよね?」
そう言いみほは真澄と再開した時を思い出していると、武部が言う。
「そりゃあ、
「いやぁ、やり甲斐あったわよ」
そう言いケタケタと笑う真澄。
「夜中に爆発音と悲鳴が聞こえてくる時点でヤクザの抗争みたいだったぞ」
「えぇ……」
そこで冷泉がそう溢すと、みほは少しだけ真澄達を見て引いているご様子。やばい、そんな目で見られると途端に悲しく思えてくる。
「真澄さん、昔から喧嘩強かったもんね。初めて会った時だって……」
「あー、その話はまた今度にしようか?みほちゃん」
「?」
少し青ざめた顔の真澄に榎本が首を傾げた様子で真澄を見ていた。
そんな女子達の話が盛り上がっていると、戦車倉庫の前に誰かが現れた。
「あの〜、すみません。ここって戦車道部ですか?」
「「「「「?」」」」」
みほ達はそこで振り向くと、そこに一人の高身長、好青年のイケメンが立っていた。
「っ!?!?!?」
その容姿を見て真っ先にときめいていたのが武部だった。無理もない、百人中百人がイケメンと言いそうな容姿のその青年だ。女子校の生徒には刺激が強すぎたわけで。
「はう…イケメンが……」
「沙織さん!?」
武部は顔を真っ赤にして戦車の上で倒れてしまった。
「しっかりしろ沙織」
「これは夢かしら?私の噂を聞きつけて……」
「お前は何を言っているんだ?」
すると戦車に乗っていた真澄がその青年を見て手を挙げた。
「お?おお、随分早かったじゃないか」
「ちょっと船が早く着いたみたいでね」
「学校は?」
「今日はもう休んだよ」
その青年と真澄が陽気に話しているのを見て武部が凄い形相で真澄に詰め寄る。
「ちょっと!なんでそんな親しげなのよ!!」
そんな武部の問いに真澄は首を傾げて答えた。
「え?
「「「「「え?」」」」」
そこであんこうチームの五人が思わず変な声が出てしまうと、みほが恐る恐る聞いた。
「え?じゃ、じゃあもしかして……清靖くんなの?」
そう聞くと、その青年……黒田清靖は頷いた。
「はい、お久しぶりです。みほさん」
そう言うと固まっていた武部達の絶叫のような驚きの声が倉庫に響いていた。
「まさかますみんの弟があんなイケメンだなんて……」
放課後、武部は未だにトキメキながらそう溢す。
「良い人そうでしたね」
「大騒動になるだろうな」
五十鈴と冷泉がそう言うと校門の前では珍しく人だかりが出来ており、その中心には清靖が立っていた。目の前が真っ黄色になりそうな程の声が漏れており、何処ぞの握手会のようになっていた。
「あらあら」
「人気者だな」
「私も参加しなくちゃ!!」
そう言い飛び込もうとする武部を現れた榎本が首元を掴んだ。
「やめときな」
「何するのよ!!」
武部はそう叫ぶと、榎本が少し疲れた様子で言う。
「もうすぐまともに話せるから。それに彼女になりたいのは無理よ」
「え?」
そう言うと囲まれていた清靖が手を挙げて群衆の中を抜けていった。
「姉さん!!」
「よお、また彼女か?」
「いやいや、そんなわけ」
真澄の事を姉さんと言った事に周りにいた生徒たちは凍りついた。
「僕に
そして清靖のその言葉に一斉に囲んでいた生徒達は灰となって真っ白になっていた。
「……」
「沙織さん!!」
「沙織も被害者になったな」
そう言い魂が抜けたように反応が皆無になった武部を見て五十鈴と冷泉が冷静に言う。
「すみません、お待たせしてしまって」
「良いわよ。こっちも慣れちゃったから」
そう榎本が答えると、そこにみほが現れた。
「何…この状況……?」
彼女から思わずそんな言葉が漏れてしまうほどに酷い有様の校門前。そこでは灰になって現実を受け入れられていない生徒たちが頽れており、地獄のような光景が広がっていた。
「儚い恋心だったな」
「あっという間でしたね」
冷泉と五十鈴はそう言うと、この状況を作った清靖は親しげにみほと話していた。
「わぁ、凄く大きくなったね」
「はい、去年くらいからよく伸びるようになりましたね」
「お陰で制服が入らなくなっちゃったんだと」
「ええ、今は学校から許可をもらってスーツで登校させてもらっています」
「何処の学校に通われているのですか?」
五十鈴が聞くと清靖は答える。彼に言わせてみるとトキメイて口説いてこようとしない五十鈴達はありがたい存在であった。
「学業院中等科の方に通わせてもらっています」
「高学歴じゃないですかヤダー!!」
「「沙織(さん)、五月蝿い」」
未だにときめいている武部に五十鈴達がそう言う。
二人も確かにドキッとはしたものの、武部がお熱になる未来が見えたために逆に冷めてしまっていたのだ。だから彼と話していても特段興奮はしないのかもしれない。
「こんな弟がいてズルい!」
「そうか?コイツに彼女役をやってくれと言われたらどうする?」
「喜んでついて行く」
「常に殺されるかもしれない目線を送られるのにか?」
「……」
イケメンも罪なのだよと彼女は言う。確かに、高学歴で高身長で顔が整っていれば世の中からの羨望の眼差しも凄いわけで……。
「でもこんな弟がいるのにお姉さんは……」
五十鈴が思わずそう言ってしまうと、そこで清靖は言った。
「本当は姉さんも桜蔭に行けるほどの学力があるんですけどね……」
「え!?そうなの?!」
「うん、確かにそうだね」
そこでみほが頷いた事に武部達は驚いていた。するとみほはそこで真澄の異常伝説を語る。
「真澄さん、模試で名前が載るくらい頭良いんだよ?」
「知波単にいた時も英語を叩き込んでたんだから」
「流石にABC見ただけで顔を顰めてたら……」
真澄は思わずそう溢してしまうと、冷泉が聞く。
「じゃあなんで学校ではあんな態度なんだ」
そう聞くと彼女はケロッとした様子で答える。
「私より教え方下手くそな教師の授業聞いて意味あるの?」
その後、学校に訪れた清靖を追って学校の喫茶店に寄り道したみほ達。そこで席の関係からみほと清靖だけ外れていた。
「何しているの?」
「まあ見てなって」
武部の首根っこを掴んで座らせた真澄はそう言うとみほ達を見ていた。
「この前のサンダース戦、見ましたよ」
「本当?」
「はい、みほさんの出ている試合は全て見させていただいていますので」
「そっ、そっか……」
少し恥ずかしげにするみほに清靖は安堵した様子を見せた。
「でも良かったです。みほさんがまだ戦車道を続けてくれて……」
「え?」
「心配していたんです。みほさんのことだから気に病むだろうなって……」
そう言い、少しだけ清靖は表情を暗くしていた。
「そんな……」
「みほさんが活躍できる場所があって良かったですよ」
「え?」
すると清靖はそんなみほを見て彼女友人たちを思い出す。
「先ほどのご友人達やみほさんも嬉しそうにしていましたから。慕われているようで何よりです」
「……」
「これからも戦車道は続けてほしいです。みほさんの試合を見るのは僕の楽しみですから」
そう言うとみほ少しだけ顔を赤らめていた。
「あっ、そうだ。姉さんに言われて作ってきたんでした」
そう言うと彼は持っていた鞄から紙箱に入れられたロールケーキを手渡した。
「どうぞ、みほさん」
「あっ、ありがとうござます」
そう言いみほはそれを有難く受け取っていた。
「清靖さんのロールケーキ…懐かしいなあ……」
「みほさんがウチに来た時によく食べていましたね」
そう話すと、清靖も満足げな表情を浮かべていた。
そんな二人を見て武部は羨ましそうにしていた。
「凄いっ!清靖さん、料理もできるんだ」
「凄いですね」
「なんでも出来るから結婚に困るタイプだな」
「こら麻子!」
「はっはっはっ、実際その通りだから何も言えねえ……」
「器用貧乏の代表例ね」
真澄や榎本までも思わず笑うと、五十鈴が聞いた。
「でもあの感じ…あの真澄さん、もしかして清靖さんは……」
五十鈴が聞こうとすると、真澄は人差し指を立てて静かにするように言った。それを見て五十鈴は察してしまった。
「なるほど……」
「……」
冷泉もそれを見て脈アリなんだと先ほどの彼の言葉を思い出していた。
「良いなぁ、みぽりん。羨ましい……」
「合コンでも行けば良いのに」
「この歳で行けるわけないでしょう!それに私は恋は街中でって決めているの」
恋焦がれる頭の目をしていた武部を見て真澄達は哀れんだ目で小さく呟く。
「……いずれは合コン行くやつだな」
「うん、その未来が見えること見えること」
「ちょっと、どう言うこと?」
すると発動した地獄耳が二人の会話を耳にすると武部は詰め寄っていた。
「ついさっき失恋したのに、よくお話しできますね」
「沙織はそういう奴だ」
そんな武部を見て五十鈴や冷泉はもはや見習いたいと思うのであった。