知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第五三射

「姉さん、自殺なんてしなかったよ」

 

部屋に青年のそんな言葉が出ると、部屋は一瞬静寂に包まれた。

 

「……ごめん、ちょっと出るよ」

「清靖」

「すぐ帰るから」

 

そう言うと彼は部屋を出て行ってしまい、しばしの静寂の後。清子が角谷に言った。

 

「ごめんなさい角谷さん、今度返事を送るから。今日は……」

「はい、分かりました……すみません」

 

思わず角谷からそんな言葉が漏れてしまうと、清子は少し微笑んで答えた。

 

「いいのよ、問題を置き去りにした私達が悪いのですから」

 

そう言うと角谷はひと足先に家を後にしていた。

 

「自殺か……」

 

なかなか悩みが深い問題に足を突っ込んだ気がしてならない。

 

「これならそのままの方が良かったのかなぁ……」

 

帰りの途中、思わずそう溢してしまうと角谷は軽くため息が漏れてしまう。

 

「だからあんな目ができたんだね……」

 

何処か納得のいく様子で彼女はそう言うとそのまま駅まで歩いて行った。

 

 

 

 

 

角谷が帰り、清靖が出て行って静かになった家の中。出されたコップを片付けていた清子に巌が聞いた。

 

「……清靖の話、何故言わなかった」

 

そう聞くと、彼女は言った。

 

「真澄がそう望んだからですよ。言ってしまえば、貴方が寝込んでしまうからと……」

 

そう答えると、清子は巌に言う。

 

「巌さん、この際もう言ってしまいますけど。何もあんな圧力をかけずとも、あの子は貴方の言う事なら曲がりなりにもちゃんと聞く子ですよ」

「……」

「前に大洗のあの子の家に行った時、床の間に貴方の送った刀が飾ってありましたもの」

 

そう言い彼女は真澄がシェアハウスの床の間に飾っている日本刀を思い出していた。

あれは真澄が十二歳の誕生日を迎えた時に態々巌が鍛冶屋に頼んで特注で製作した太刀だった。彼女が戦車道の試合に出る時は必ず持ち寄っていた彼女のトレードマーク的存在だった。名付けをしたのも巌自身だった。

 

「なんだかんだであの子はあなたの事を尊敬していたのよ?」

 

そう言うと彼女は出ていたコップを全て片付け終えると、厳に言った。

 

「さて、清靖が帰ってくるのももう少し先でしょうから。先にお風呂に入っていてくださいな」

 

そう言うと、清子は部屋を後にしていた。残った巌は机に残された資料を眺めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

つい勢い余って言ってしまったが、清靖自身は後悔していた。

頭を冷やす目的で外に出たは良いものの、特に意味もなく出てきていたのでどうしたものかと思っていた。

 

「……」

 

そして徐に携帯を取り出すと、電話をかけていた。

 

「ーーーああ、もしもし姉さん?」

 

かけた相手は真澄だった。すると電話の向こうからはいつも通りの変わらない声が聞こえた。

 

『ああ、どうした?』

「……ちょっと、話したいことがあってさ。今空いてる?」

『ああ、ちょっと待ってな?また掛け直すわ』

 

そう言うと真澄は電話を切った。

そして少し経つと、電話がかかって来て何と姉はこちらにわざわざ飛んでくるという。

 

『場所はーーー』

「分かった」

 

集合場所を聞き、列車に揺られて新木場のヘリポートで待っていると、そこで一つの小さな機影が現れた。

そしてそのままヘリが着陸すると、そこから真澄が降りてきた。

 

「やあ、心配だから飛んできたわ」

 

そう言い北に向かっている学園艦にから東京に飛んできた彼女はヘルメットを片手にそう答える。そして真澄はコックピットから降りてくると清靖を見た。

 

「相変わらずですね。姉さん」

「当然。不安げな弟の声を聞けばね」

 

そう言い当然と言わんばかりに飛んできた姉に相変わらずだと思いながら二人は近場のカフェに入った。

 

 

 

 

 

「あー、ついに言っちゃったか……」

「ごめん……」

 

申し訳なさそうに清靖はそう言うと、真澄はそれほど気にしていない様子で手を軽く振った。ちなみに真澄には内緒で動いているという理由で角谷が家に来たことは話さず。巌と喧嘩したという事で話した。

 

「まあ良いけどさ」

 

彼女はそう言うと、清靖を見る。

 

「明日から親父の介護。頑張りなよ」

「え?」

 

真澄の呟きに思わず首を傾げると、そこで徐に真澄は清靖に聞く。

 

「ねえ、なんで親父は戦車道が嫌いだと思う?」

「え?それは……」

 

清靖はそこで思わず返答に困っていると、真澄は少し笑った。

 

「昔、親父の初恋だった人が戦車道をやっていてね。ある日その人、戦車道の試合中に事故で大怪我をしてしまったんだって」

「……」

「元々、他のスポーツに比べても圧倒的に怪我人の出やすい競技だから仕方ないんだけどね」

 

確かに、戦車という兵器を使う以上。どうしたって不慮の事故は発生する。戦車道という競技は他のスポーツに比べて一段と死亡率の高いスポーツでもある。

それ故に戦車道を始めるというのはそれなりの怪我を孕んでいるということにもなる。

 

「まあ、その人。今じゃ親父の横でウチらの世話をしているけど」

「え?それって……」

 

清靖は驚いていると、真澄は少し茶目っけに答えた。

 

「私が戦車道をやるって言った時、後ろを押してくれたのよ」

「そうなんだ…母さんが……」

「昔、戦車道をやっていたんだとさ」

 

そう話すと、そこで真澄は今にも泣き出しそうな清靖を見ながら軽く微笑んだ。

 

「大丈夫よ。それを言ってもし戦車道に復帰できたとしても、まともに乗るかどうかは分からないし」

「え?それって……」

 

するとそこで真澄はコーヒーカップを置きながら言う。

 

「戦車道連盟が私にしつこくアポをとって来ているのは前にも聞いたわよね?」

「うん…姉さんの持っている選手選抜の為のデータがあるって……」

「そう、連盟から除名処分撤回の代わりにそのデータの提出を求めてきたわ」

 

少し忌々しげに語る彼女は続けて言う。

 

「でもその連盟の『してやるから寄越せ』って言う態度が気に食わなくてね」

「まぁ、よっぽど焦っているんじゃない?世界大会に向けて」

「いままで優勝した事ないからね」

 

そう言いながら彼女は一緒に出てきた塩豆を口に入れる。

 

「元々誘致する為のプロリーグ発足で大慌ての今、それらに合わせて強化選手の選抜は必須だ。その為に、大学生選手を選抜したチームを編成しているからな」

「ああ、前にニュースで見ていたアレだね。国際大会に向けた訓練をする為の……」

 

そこで清靖は定期購読している月刊戦車道の記事を思い出していた。

 

「おまけにプロリーグの管轄は西住流が、育成選手の管轄は島田流と言う面倒ごとが起きないわけがない編成」

「うわぁ……」

 

嫌な予感しかしないその呼び込みに清靖は苦笑してしまうと、そこで真澄は小さく呟く。

 

「まあその調整役に母さんが呼ばれたわけだけども……」ボソッ

「何か言った?」

「ううん、何でもない」

 

少なくとも母の戦車道の経歴を知っているが故に真澄は母の苦労を予想していたわけだが……。

 

「少なくとも、その選手の選抜方法に加えて育成計画も書いているコイツを早急に連盟は欲しているのさ」

 

そう言い彼女は懐からボコのぬいぐるみストラップを取り出すと、その背中にあるチャックの中からUSBメモリを取り出した。

 

「どれだけ上が国際大会誘致に力を入れているのかが伺える瞬間だな」

「オリンピックより費用が掛からなくて、それでいて同等の経済効果を狙えるもの。しかたがないよ」

 

世界的に見れば戦車道はまぁまぁ選手人口の多い武道だ。むしろ戦車離れが起きているのは日本くらいな訳で……。

 

「戦車道選手を慌てて書き入れるのは国のお仕事だからね」

「だからこそ、戦車道を始める学校に支援金を贈る制度が始まっているんだ」

 

そう言い清靖は政策のいわば戦車道投資に苦笑していた。

 

「それで、戦車道に返り咲いたとしても。連盟にこの情報を渡すつもりはないわね」

「じゃあ、戦車乗らないの?」

「気分にもよるわね。連盟が変に口を出してくるようなら二度と乗るもんか」

 

彼女はそう言うと、仇敵認定された連盟を思い返していた。あそこの理事長は確かに良い人だ、だがその下の人間がいけないのだよ。

 

「あはは……よっぽどなんだね」

「ええもちろん。連盟のクソ野郎どもには全員に一発蹴りを入れてやりたいわ」

 

そう言うと、彼女は二杯目のアイスコーヒーを注文する。そんな彼女の言葉に清靖は苦笑してしまう。

 

「でも清靖が言ってしまったのなら、私の戦車道除名撤回はされちゃうかもね」

「え?そうなの?」

 

思わずそう聞いてしまうと、真澄は何を今更と言った様子で彼を見た。

 

「元々嘘っぱちの証拠並べただけの冤罪を親父の権限で本物っぽく見せただけで、親父の圧力がなくなったら要石のない橋みたいに崩壊するだけよ」

 

そう言うと、真澄の前にステンレスジョッキに入ったコーヒーが出てくる。

 

「親父って警察関係者の中ではとんでもないお偉いさんだから、一本電話入れるだけで周りの人間が動くのよね」

「…四機の熊親父……」

 

つい清靖は昔の父親の異名を思い出すと、そこで真澄も頷いた。

 

「そうそう、現場の叩き上げ人間だからとにかく怖いのよね」

「少なくとも気軽に友人に紹介できないよね……」

 

そう言う清靖に真澄は頷いた。

 

「むしろみほちゃんが『わぁ、ボコみたい!』って言って懐く方がおかしな話だってんだ」

「おかげで父さん、みほさんのこと気に入っちゃったからね……」

 

家族でもないのに誕生日にプレゼントを送っている時点で相当なものだと二人は思わず笑う。親戚ですら恐れ多くてそんな事しねえぞ。

 

「って、いつの間にか親父の話になってんじゃん」

「ねっ、不思議な事に」

 

清靖もそう溢してしまうと、彼は真澄に聞いた。

 

「姉さんって、これだけの事をされたのに……どうしてまだ父さんを尊敬しているの?」

 

そう聞くと真澄は少しだけ微笑んだ後に言った。

 

「なんだかんだ親父の心情を理解すると、面白い人間って思えちゃうのよね。だから恨むことはあっても憎めないのよね」

「?」

 

そんな真澄の返答に首を傾げていると、彼女はそんな清靖に言った。

 

「まあ、どちらにしろ女の子が最終的に泣きつく先は母親じゃなくて父親なのよ。男の子が最終的に母親に泣きつくようにね」

「……」

 

そう答えると真澄は空になったコップを置き、席を立った。

 

「そろそろ帰るわ。先に会計を済ませておくから、あとは自由に帰って」

「あっ、見送るからいいよ」

 

そう言い清靖も店を一緒に出る。

相変わらずレジ担当の女性店員が清靖を見て顔を赤らめていたのを横目にさっさと会計を済ませると、そのままヘリポートに向かう。

 

「まあ兎も角。親父は何でもかんでも極端なんだよ」

「そう……かもしれない」

 

思い当たる節がありすぎて清靖も思わず苦笑してしまう。

 

「ただ、今回の戦車道に関しては私も『頭冷やせ』って意味で帰っていないだけよ」

「…それって大概姉さんも父さんとおn…ムキュ」

 

その瞬間、清靖は口元を掴まれた。

 

「私と親父を同じにすんなじゃいよ。イイネ?」

「アッハイ」

 

結局姉も同類の人間だと確信した瞬間だった。

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