時は少し遡り。準決勝の二週間ほど前に大洗の街に学園艦が停泊した時まで遡る。
久しぶりに降り立った大洗の街で真澄は単身、私服姿でアウトレットに訪れていた。
「何か安売り品はないかねえ……」
特に切れかかっているソーダシガレットとかがあれば良いな。
近くの駄菓子屋に寄り道し、そこでソーダシガレットを箱買いする。
「おばちゃん、いつもの一箱」
「はいよ」
そう言い慣れた手つきで駄菓子屋のおばちゃんは奥から段ボール一箱のソーダシガレットを持ってきた。
「学園艦が来たからそろそろかと思っていたんだ」
「そうかい。んじゃ、また来るわ」
「毎度ね」
そう言い段ボール箱を抱えた真澄はそのまま帰路に着く。
そして大洗の街を歩いていると、そこで真澄は珍しい物を目にした。
「あれ?こんな所にゲーセンなんてあったっけ?」
そこには寂れた様子のゲーセンがあり、入口も開放式で中には何台かのゲーム機が置かれていらだけだった。
中に置いてある機械は古い年代物ばかりで、最近流行りのレトロゲーセンかと納得すると真澄は中に興味本位で入っていた。
「こんなめずらしい場所に人なんて来るのか?」
思わずそうこぼしながら真澄は店の中の機器を見ると、そこでふと聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。
その音楽流れる方を見ると、そこには包帯で巻かれたクマのぬいぐるみがUFOキャッチャーの景品として置かれていた。
他にもバリエーションが多く存在しており、棚にはストックもされていた。
「おお、ボコじゃん。珍しい」
普段買う時はネット販売が多かったりするのに、ここではUFOの景品として置かれていた。
「みほちゃん、この前大敗北していたからな……」
三千円擦って取れなかった後に宇津木が一発で取って抱きしめていた記憶が蘇ると、そこで真澄は今の所持金を確認する。
「よし、行けそうだな。みほちゃんのプレゼントだ」
そう呟くと、そのUFOキャッチャーの前で張り付いている少女に声をかけた。
「ごめんよ」
「っ!?」
声をかけると、少女は非常に驚いた様子でこちらを見ていた。
「ああ、ごめん。私もやりたいから、良いかな?」
「……」コクリ
そこで頷くとその少女はどいてくれた。ああ、やべぇ…可愛すぎる子だ。
ただ何処かで見たことがあるような気がしてならなかった。
「なるほど、機械も古いタイプですか……」
今どき珍しい金属アームのタイプ。それはつまり、フリフリが出来るということだ。
「今からやる方法、真似しちゃダメだからね」
「……」
後ろにいる少女にそう注意を呼びかけると真澄は百円を入れて機会を動かすとそのままアームを一番後ろまで動かす。
「うわー、ストッパーしてないじゃないですかヤダー」
そう言いながら後ろの景品の詰まった山にアームを何度もぶつけると、次第にぬいぐるみの山が前に出てきて、そこからストックの山が崩壊して一気に前に雪崩れてきた。
「はい勝ちーw」「!!」
そしてそのままぬいぐるみが幾つか落ちてきた。
ちなみにこれを店でやるとたまに出禁になるのでみんなはやらないようにね。
「ガバガバセキュリティ乙でーすw」
そう言いながら景品口から落ちてきた箱のぬいぐるみを回収すると、先ほど張り付いていた少女がこちらをじっと見つめていた。
試しにとったボコを見せていたずら心が芽生えて左右に動かすと少女は猫じゃらしを目で追う猫のように顔を動かしていた。
「(あぁ…堪らねえZE☆)」
内心でとても可愛い仕草だと思いながら真澄はその少女に聞いた。
「どれが欲しい?」
そう言い、落ちてきた景品を見せると少女は驚いた様子で聞いてきた。
「え?…良いの?」
「いやぁ、ボコ好きならあげるよ。ほら、私荷物もあるし」
そう言い段ボール箱を見ると、少女は少し申し訳なさそうにしつつも欲しかったのだろうぬいぐるみ一つ指さすと、真澄はそれを手渡した。
「どうぞ」
「……ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして」
そう言うと真澄は残ったぬいぐるみを段ボールの上に置くと、少女は少し恥ずかしかったのか貰ったぬいぐるみを強めに抱きしめて顔を隠していた。
すると、そこで真澄は小学生くらいの少女を見て思わず聞いてしまった。
「所で、君は一人でここに?」
「……お母様がいる」
「ここで待ち合わせ?」
「……迷子になった」
「……なるほど」
よくある奴だ。でも泣かない所で随分芯のある子だと思ってしまう。
「ここ…初めて来る場所だから、よく分からなくて……」
「そっか…携帯は?」
「……持ってない」
そう言うと少女は少し不安げな表情を見せた。携帯を持っていないのなら電話という手段が使えない。
「電話帳も……」
「持ってない」
これで公衆電話も使えない。そして真澄は諦めて少女に手を伸ばした。
「仕方ない、近くの交番まで案内してあげるわ」
「…良いの?」
少女が聞き返すと、真澄は答える。
「こんな子供を放置した方が不味いって。ほら、行ける?」
「……うん、有り難う
その瞬間、思わず真澄は強く言い返してしまった。
「お・ね・え・さ・ん!私は十七歳だよ!」ピキッ
「っ!?ご、ごめん……なさい」
少女は少し驚きながら頷くと真澄の手を取って近くの交番まで歩き始めた。お兄さんと呼ばれたことはあったけど、おばさん呼びは初めてだよ!!
そして近くの交番まで少女の手を取って歩く真澄。事情を知らない面々からしてみれば『誘拐か!?』と言われてしまいそうな光景。あたしそこまで怪しい人間かよ。
「所で君、なんて呼べば良いかな?」
「?」
そこで少女は首を傾げていた。
「いやぁ、流石にずっとお嬢ちゃんって言うと(私が)不味いからさ」
「……」
しかししっかりと親の教育を受けたのだろう、他人にそう易々と名前を教えてくれるはずも無いだろう。
「……愛里寿」
「え?」
今この子名前言った?え?え?
「島田愛里寿。それが私の名前……」
「島田……」
名前を書き、思わず真澄は彼女に聞いてしまう。
「ねえ、愛里寿ちゃん。もしかして、君のお母さんの名前って……島田千代って人だったりする?」
「……そう」
愛里寿はそう答えるとどうして知っているのかと首を傾げていた。そしてそれを聞いた真澄は大きく息を吸うと、ため息をついた。
「はぁ……」
そこで真澄は携帯を取り出すと電話をかけ始めた。
「お母様の事、知っているの?」
「まあ、昔に教えを受けた身ですから……」
そう答えると、真澄は久しぶりにある人の番号にかけていた。
「……ああ、もしもしーーー」
十分後、待ち合わせ場所に一人の女性が近づいてきた。
「お母様!」
「愛里寿!」
そこで少々グラマラスな体型をしている女性は愛里寿を抱きしめる。確かに、この人がお母さんならおばさんって……いや、無いな。
「何処に行ったのよ!心配したんだから」
「ごめんなさい」
そこで愛里寿はそう答えるのを見て、真澄は荷物を持って立ち去ろうとすると……
「真澄さん」
そう言い、彼女の母であり。島田流の師範をしていた島田千代が話しかけてきた。
「お久しぶりです。師範」
「今はもう家元よ」
「ああ、襲名なされたのですね」
彼女はそう答えると、千代は懐かしげに真澄に言った。
「愛里寿の事、すまなかったわ」
「良いですよ。娘さん、随分と大きくなったようですし」
「……この後、時間あるかしら?」
彼女がそう聞くと、真澄は時計を見ると答えた。
「少し…難しいですね。そろそろ出港ですので」
「そう……」
そう答えると安堵と少し悲しげな表情を見せた千代に真澄は言った。
「また何処かで会いましょう」
「ええ、そうね。またその時になれば……」
「では、私はこれで」
そう言うと真澄は学園艦の方に向かって歩き出した。
「じゃあね、お姉さん」
「……ああ、また」
愛里寿の言葉にそう返すと真澄は消えた行った。
そして残った二人はそこで聞いていた。
「今まで何処にいたの?」
「ゲームセンター…ボコを見てたら。あのお姉さんが……」
「そう……」
後でお礼を言わなければと千代は思っていた。すると愛里寿が聞いてきた。
「お母様、あのお姉さんと知り合いなの?」
「ええ、昔あの子……黒田真澄って言えばわかるかしら?」
そう言うと愛里寿は頷く。
「知ってる。知波単学園の軍師って言われていた人……凄く頭が良いって」
するとそこで愛里寿は納得した様子で真澄の消えていった方を見ていた。
「あの人が……?」
「ええ、無実の罪で戦車道を追放された。
…母親と同じ……時代に殺されてしまった子」
少しだけ悲しげな表情を見せた彼女はその後愛里寿の手を引いた。
「さあ、行きましょう。ヘリを待たせているの」
「うん、分かった」
愛里寿はそう言うと真澄からもらったぬいぐるみを大事そうに手放すことなくヘリポートに向かっていた。
「まさかあの子とはね……」
家に帰り、出航して行った学園艦の遊歩道を歩きながらそう呟く。
「あれからどのくらい経ったのか……」
そこで徐に懐から一枚の写真を取り出す。
そこには寝ている様子の幼い頃のみほとまほ、そして赤ちゃん服の愛里寿や彼女らに枕にされている昔の自分がいた。
それはかなり昔に戦車道連盟に自分たちが訪れていた時に撮られた写真だという。なんでも蝶野さんが撮った一枚のようで、自分もあまり記憶にない話だった。
「写真でしか見たことなかったからな……」
そう呟くと思わず口元が笑っていた。
彼女は戦車道行脚をしているときに島田流の教えも当然聞いていた身だ。私は母の伝手で島田流と西住流の二つを学ばせてもらっていた。
しほさんや千代さん曰く『一歩抜きん出た変態』と言われていた私の母はかつては日本人初の国際戦車道連盟役員を勤めた経験もある偉大な人物だ。
今でこそ親父の専業主婦をしているが、戦車道をしていた時は恐ろしく強かったらしい。
一部界隈では母の旧姓である木戸流なる非公式の流派呼びをされていたとかなんとか。
「母の戦車道…そういえば一度も見たことがなかったな……」
自分の知っている母は専業主婦の姿のみであり、戦車に乗っているのは想像ができなかった。何せ戦車道を始めたいと父に言った時に後押ししてくれたあの時に初めて知ったくらいだ。
「今度、アーカイブで見てみようかな……」
母が活躍した戦車道を見てみたいと少し思っていた。