知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第五八射

そして迎えた、準決勝当日。

《第63回戦車道全国大会準決勝》の会場は雪原地帯。北緯五〇度を越える場所故に恐ろしく寒い。

 

「うぅー、寒っ!」

「冷えるわねぇ……」

「ほい」

 

寒がる大久保と伊藤に真澄が湯気のたっぷり出ているコーヒーを手渡す。

 

「ありがとう」

「おお、温かい飲み物……」

 

そう言いながらコーヒーを受け取ると、そこで真澄は大洗のパンツァージャケットに身を纏いながらそう話す。今回に合わせて元々仕立てていた物だったようだ。準備がよろしいことで……。

 

「真澄は寒くないの?」

「そのためのこいつ」

 

そう言いジャケットを軽く捲ると、そこにはびっしりと貼られたカイロがチョッキのようになっていた。

 

「うわっ、この人」

「ずるい人間だわ」

 

そこで二人は思わずそう溢すと、その横でみほ達も同様の反応をしていた。

 

「寒ゥッ!?マジで寒いんだけど!」

「北緯五〇度を越えてますからね……」

 

武部がそう叫び、五十鈴も少し寒そうにしながら言う。そりゃいつものパンツァージャケットならこの寒さは無理だろう。

 

「Ⅲ突の履帯はヴィンターゲッテンにしたし。ラジエーターに不凍液も入れたよね」

「はい」

 

真澄が確認を取ると、他の車両の確認も終える。

 

「はい、あと網ね」

「居る?」

 

車両全体を覆えるほどのカモネットを砲塔に乗せ、思わず榎本が首を傾げていた。

 

「ないよりはマシでしょう」

「うーん……?」

 

後期迷彩とは言え、この暗さならどちらにしろ見えない気がする。

 

 

 

 

 

「あの!」

 

するとそこでみほは今回より戦車道に参加する事となったB1 bis、通称カモさんチームの乗員三人に話しかける。

 

「いきなり試合で大変だと思いますけど、落ち着いて頑張って下さいね」

 

そう彼女は言うと、風紀委員の三人は頷いていた。するとそこで、彼女達に教育をした冷泉が話しかける。

 

「わからない事があったら無線で連絡してくれ、そど子」

「だから!そど子って呼ばないでよ!!私の名前は、園みどり子!」

「わかった、そど子……」

「全然、わかってないじゃないの!」

 

風紀委員の園がそう言い、一年生チームは雪合戦をし、歴女達は真田幸村の雪像を作っていた。

 

「元気だねー」

「皆さん、楽しそうですねー」

「……」

 

この浮かれている空気に少しだけ真澄は警戒をしていた。

するとそこに一台のロケットトラックが停車する。それは嘗て、スターリンのオルガンと呼ばれたBMー13カチューシャロケットだった。

するとトラックから二人が降りてきてこちらに近づいてきていた。

 

「あれは…プラウダ高校の隊長と副隊長……」

「『地吹雪のカチューシャ』と、『ブリザードのノンナ』ですね!」

 

そこで秋山が相変わらずの解説をみほにすると、そんな二人の会話を他所にカチューシャとノンナは大洗チームの少し前で歩みを止める。

そしてカチューシャは大洗の戦車を一通り見回してその後に、

 

「ぷっ、あっははははははははっ!!」

 

大きな声で笑いだした。

 

「このカチューシャを笑わせるために、こんな戦車用意したのよね!ねえ!」

 

明らかに大洗をバカにした発言をするカチューシャに、大洗のメンバーは表情をしかめる。

だがその場に真澄達は彼女の態度が分かっていた。それが安い挑発だということに、わざと相手を怒らせるようなことをいい挑発し相手が冷静な判断をできないようにする。でなければわざわざ試合前にこんな場所に来る筈がない。

まあ、大体のベテランはその手にはシカトを決め込むことが多いが……。

 

「(初心者ばかりのこの学校だと効果抜群ね……)」

 

真澄達はそう感じていると角谷が話しかける。

 

「やあやあ、カチューシャ。よろしく、大洗の生徒会長の角谷だ」

 

まるで気にしていない様に、いつも通りの様子で出て来た杏が自己紹介しながら若干屈んで握手を求める。

 

「……」

 

だが当のカチューシャは不満げに角谷の手を睨んでいた。

 

「ノンナ!」

 

そして、そこでいきなりノンナを呼び付ける。するとノンナはカチューシャが何を求めているのかを悟って、カチューシャを肩車した。

 

「へっ?」

 

流石に驚いたのか、角谷は間の抜けた声を出す。

 

「貴方達はね、全てがカチューシャより下なの!戦車も技術も身長もね!」

 

ノンナに肩車されたカチューシャは胸の前で腕を組み、見下した様な声を上げた。

 

「……」

「肩車してるじゃないか……」

 

その様子に杏は言葉を失い、河嶋はボソッとツッコミを入れる。

 

「聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね!()()()()()してやる!」

「……粛清ね」ボソッ

 

そこで小さく真澄はつぶやくと、そこでカチューシャはパンツァージャケットを来ている真澄を見て彼女は驚いた様子で真澄を見た。

 

「マスーミャ?!なんで戦車服を!?」

「はい?ニュース読んでないの?」

 

そこで思わず呆れた様子で後ろにいた榎本達もため息を吐いていた。

 

「……まあ良いわ。ところでわざわざ茶化しにここまで?」

「違うわ。大洗の隊長は?」

 

真澄の問いにカチューシャは否定すると、そこでみほの事を呼び出した。

 

「は、はい」

 

みほが挙手をするろ、カチューシャの視界にみほを捉えた。

 

「あら?西住流の…去年はありがとう。貴女のお陰で私達優勝出来たわ。今年はどんなプレゼントがあるのかしら?今年もよろしくね、期待しているわ。じゃあね、ピロシキ〜」

「До свидания」

 

そう言って二人は去って行った。いやだからさ、ピロシキはロシア料理じゃなくて?ノンナの最後に言った言葉の方が正しいぞ?

 

「真澄さん、あの幼女と知り合いなの?」

「昔肩車をせがまれた仲よ。あとあれでも一七歳だから」

「ああ、なるほど……」

「え?!あの見た目で?!」

 

当然の如く武部は驚くと、真澄はみほの肩を叩いた。

 

「さ、作戦会議しましょう」

「う、うん……」

 

そう言いみほ達は作戦を練ろうとした時、真澄は小さく呟いた。

 

「あのクソガキ、試合中に白旗上げちゃるでな……」

 

その呟きに思わずみほは背筋が凍る気分になっていた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

大洗に挨拶を終え、プラウダ高校の陣営に戻ったカチューシャとノンナはそこである話をしていた。

 

「それで、よかったのですか?カチューシャ」

「何がノンナ?」

 

陣地に戻るとノンナがカチューシャに聞いて来た。

 

「大洗のチームを挑発すると共に賭けを言い渡さなくて……」

「ああ、それね。今は良いわ」

 

彼女はそこでノンナにその賭けの内容を言う。

 

「大洗を追い詰めた後にマスーミャを引き渡させれば良いんだもの!」

「そうですか……」

 

ノンナが答えると、そこでクラーラがロシア語で話しかけてきた。

 

「『彼女を…ヤりますか?』」

「『いえ、彼女はカシューシャ様の過去の写真を数多く持っている。生かさず殺さずで飼い慣らしましょう』」

「『分かりました』」

 

そこで彼女は頷くと、クラーラは聞いた。

 

「『彼女はどの戦車に?』」

「『恐らく、短十二糎自走砲と言う珍しい車両かと』」

「『危険ですね』」

「『しかし所詮は九七式中戦車の改造。我々では一捻りです』」

「『しかし攻撃力で言えば我々のJS-2と似たようなものです。警戒しましょう』」

「ちょっと貴方達!日本語で話なさいよ!!何言ってたのよ!」

 

ロシア語で話す二人にカチューシャは怒った。

 

「試合前の確認です」

「あそっ、それなら良いわ」

 

すると涼しい顔でそう言うノンナにカチューシャはそのまま前を向いて試合が始まるのを待っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、大洗側では最後の作戦会議が行われていた。

 

「大丈夫ですよ!あんなのには負けませんから!」

「わたし達の隊長をバカにしてっ!」

「二回も勝ってるんだし、まぐれじゃないって所見せてやりましょうよっ!」

「撃ちてし止まん!」

 

磯部や河西、澤やエルヴィンがそう力強くみほに言う。

 

「う、うん……」

 

そこでみほは苦笑しながら頷いていた。その表情はあまり優れていなかった。

 

「兎に角、皆さん冷静に行動して下さい。包囲されないようにフラッグ車を守りながらゆっくり前進して、相手の動きを見ましょう」

 

しかし、そんなみほの提案にエルヴィンが口にする。

 

「ゆっくり慎重なのもいいが……ここは一気に攻めたらどうだろう?」

「え?でも失敗したら……」

 

みほと真っ向から反対する意見に彼女は戸惑いを見せる。

 

「うむ」

「妙案だ」

「先手必勝ぜよ」

 

するとエルヴィンの意見に他の歴女三人も乗っかった。

 

「気持ちは分かりますが、リスクが……」

 

みほは危険性の高い作戦であると思い、その懸念を皆に言うが……。

 

「大丈夫ですよ!」

「私もそう思います!」

「勢いは大事です!」

「是非、クイックアタックで!」

 

磯部達もエルヴィンの意見に賛同した。

 

「なんだか、負ける気がしません!それに、敵は私達の事舐めてます!」

「ぎゃふんと言わせてやりましょうよ!」

「え!いいね、ぎゃふーん!」

「ぎゃふんだよね!」

「ぎゃふん!」

 

そして一年生達も同様に頷く。

 

「よし!それで決まりだな」

「勢いも大切ですもんね」

 

そして河嶋達生徒会チームまでもがエルヴィンの意見に賛同していた。

 

「分かりました、一気に攻めます」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

そんな彼女達の意見を聞き、みほは作戦の方針転換を行なった。その事に他の秋山達は驚きの声をあげた。

 

「いいですか?」

「慎重に行く作戦だったんじゃ?」

「そうよ、考え直した方が……」

 

するとそこでみほは今回の試合会場を見て感じ取ったその懸念を呟く。

 

「長引けば、雪上の戦いに慣れた向こうの方が有利かもしれないですし、それに八九式の履帯は雪上走行に向いてないし……それにみんなが勢いに乗ってるんだったら……」

「私は反対するわよ。直前での作戦変更は、部隊行動に影響を及ぼすわ」

 

するとそこでみほの意見に真澄が言った。すると一斉に全員の目線が真澄に集まっていた。

 

「確かに、部隊行動に支障はあるかもしれません。ですが、こちらは車両数も少ないので問題ないと思います」

「……そう」

 

少し間を開けて答えた彼女は懐からシガレット菓子を取り出すと、そこで頷いた。

 

「まぁ、みほちゃんの意見なら。私も文句は無いわ」

 

そう答えると、真澄は今回の乗機となる短十二糎自走砲の元に向かって行った。

その時に真澄の目を見て、角谷は少しだけ目元を細めていた。

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