雪を榴弾で吹き飛ばし、進軍を進める大洗戦車隊は景色の変わらぬ雪原を進んでいた。
「十一時方向、敵視認!」
その瞬間、真澄が無線に向かって叫んだ。
「数三、T-34/76。横一列に停車。距離五〇〇」
真澄は細かく報告を入れる。
「十一時の方向に敵戦車の姿を確認、各車警戒!」
無線機に向かってみほが叫ぶと、アヒルさんチームの八九式を守るようにして他の戦車が展開する。
「相手は三両だけ……外郭防衛線かな……?」
みほが呟いた瞬間に相手のT-34が発砲、その砲弾が周りに着弾した。
「気付かれた!長砲身になったのを活かすのは今かも」
そこでみほは車内に戻りながら指示を出す。
「華さん、左端の一両を狙って。カバさんチームは真ん中の一両に攻撃してください」
みほの指示を受け、五十鈴はスコープを覗きながら照準を合わせ、既に狙いを定めていたカバさんチームのⅢ突が砲撃を仕掛け、みほの指示通りに真ん中のT-34を撃破する。
「あんこうチームも攻撃します!」
そうしてⅣ号も砲撃を仕掛け、左端に居たT-34を撃破する。
「命中しました!」
「凄~い!一気に二両も撃破出来るなんて!」
万が一に備え、次の砲弾を取り出していた秋山が命中を告げ。武部は此方が先に敵戦車を二両も撃破すると言う先制点を取れた事に喜びの声を上げる。
「やった!敵の鼻を明かしてやったぞ!」
それを見ていたアヒルさんチームの磯部は嬉しそうに言った。
「昨年度優勝校の戦車を撃破したぞ!」
「時代は我等に味方している!」
カバさんチームのエルヴィンとカエサルも、自信に満ち溢れた声を上げる。
「試合開始から、此方が先制点を取れるとは……これは行けるかもしれん!否、絶対に行ける!」
「この勢いでゴーゴーだねぇ!」
カメさんチームの河嶋と角谷も歓声を上げ、自分達の優勢を確信したような表情を浮かべていた。
「向こう、十三両残ってるの分かってんの?」
「あー、これはあれね。多分忘れちゃっているやつね」
「去年の優勝校よ。浮かれないはずがないわ」
「ちょっと不味いかもね」
すると真澄がそこで呟く。
「見事にプラウダの調子に乗せられているわね……武代」
「ん?」
「最悪、彼方で十両くらい相手することになるかも」
「……まじかぁ…」
思わず榎本は苦笑すると、そこで砲弾ラックから砲弾を取り出していた。
「ロシアのT-34を撃破出来るなんて、これは凄い事ですよ!」
「……」
秋山が興奮して言うが、みほは難しそうな表情を浮かべ、ただ黙っていた。
「……?」
「どうしたの?」
その様子を不思議に思った秋山が首を傾げ、武部が訊ねる。
「何だか、上手く行きすぎてる……」
みほがそう呟いた瞬間、一発の砲弾が撃ち込まれる。
みほがキューボラから上半身を乗り出すと、生き残っていた一両のT-34が大洗の戦車隊に背を向けて逃げ出そうとしていた。
「全車前進!追撃します!」
みほの指示を受け、大洗の全戦車が一斉に動き出して逃げ出したT-34を追い掛け始めた。
攻撃も何もせず、ただひたすら逃走するT-34を大洗の全戦車が追い掛けると言う、サンダースとまた違う鬼ごっこが始まった。今度は逆の立場での攻撃であった。
「逃げてばっかだねぇ~……なんで逃げるだけなの?」
「向こう側の戦車が一両だけなのに対して、此方が全車両で追い掛けているからじゃないですかぁ~」
何もせず、ただひたすら逃走するT-34に武部が疑問の声を溢すが、それに秋山が答えるようにして言う。
「そうだよねぇ~。何故か追うと逃げるよね、男って♪」
武部がそう言うと、秋山は一瞬ながら何とも言えない表情を浮かべ、取り敢えず苦笑を浮かべた。
そうして暫く追い続けると、その先にプラウダ本隊が、横一列に並んで待機していた。
「彼処に固まってる……っ!!フラッグ車、発見しました!」
それをM3リーのキューポラから双眼鏡で見ていた澤は、赤い旗を付けたプラウダのフラッグ車を視界に捉えてそう叫ぶ。
「千載一遇のチャンスだ……良し、突撃!」
「「「「行けぇぇぇぇぇええええええっ!!!」」」」
「アターック!!」
みほの指示を待つ事無く、河嶋が独断で指示をだすと、カバさんチームのⅢ突やアヒルさんチームの八九式、他にもカメさんチームの38tやウサギさんチームのM3が速度を上げていく。
「ちょっと!?みんなさんちょっと待ってください!!」
園が待つように言って、カモさんチームのB1までもが速度を上げる。
みほは制止を呼び掛けるが、結局みほ達あんこうのⅣ号も速度を上げていく。
「真澄、行く?」
「……この先は廃村だ」
そこで真澄がそう呟くと、そこで榎本と伊藤は察した。
「ああ…これは不味いかも」
「どうしますか?」
伊藤が聞くと、真澄は指示を出す。
「この先の丘で待機、隙があったら砲撃するわ」
「了解」
そう答えると大隈は操縦桿を動かして大洗本隊と別行動を取る事を選択した。
その頃、大洗とプラウダの追撃戦ではフラッグ車に向かって砲撃が行われ、そのうちの一発がフラッグ車に当たろうとしていたところを別のT-34/85が盾となって守っていた。
「やった!」
「おしい!」
三突がT-34/85が一両を撃破し、黒煙を上げて白旗が出た。
「フラッグ車じゃないけど、また撃破しちゃいました!」
「これは、いけるのでは……」
「みんなノリノリだね」
すっかりあんこうの残りのチームも撃破数に浮かれており、プラウダの戦車隊はフラッグ車を囲んで撤退を始めた。
「あっ!?敵がまた下がるよ!」
「また!?」
その敵の動きに大洗チームはすっかり周りが見えなくなってしまっていた。
「逃がすか!」
「追え追え~!」
「ブリッツクリーク!」
「待てぇ~!」
「行け行け~!」
「ぶっ潰せー!」
「やっちまえー!」
先陣を切って走り出した38tを皮切りに、Ⅲ突とM3リーが急発進してプラウダの戦車隊を追い始める。
「ストレート勝ちしてやる!」
「ちょっと!待ちなさいよ!」
それに続いて、あろうことかフラッグ車であるアヒルさんチームの八九式も走り出し、それからカモさんチームのB1も後に続いていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!?……すみません真澄さん。私達は追いかけます!」
他の全員がプラウダの戦車隊が逃げていった廃村へと突っ込んでいく。そしてみほは真澄に一報を入れると、冷泉に指示を出してⅣ号を発進させて自分達も廃村へと向かっていた。
「すぅ……」
そしてその光景を廃村を一望できる丘から見た榎本は思わず溢す。
「これ不味くない?」
「ええ、馬鹿の一つ覚えのようになってしまっているわね」
真澄も仕方ないのと、呆れたのが混ざり合った表情でそうこぼしていた。
「冗談抜きで全滅するかもしれないわね……」
そう言うと、他の乗員たちも同じような表情を浮かべていた。
その頃、フラッグ車を追って廃村に入った大洗チームはプラウダのフラッグ車への集中攻撃を仕掛けていた。撤退して行く最中。何故か単独で逃げ出したフラッグ車は廃村を逃げ回り、民家の陰に身を隠したりして大洗チームを挑発する。
「フラッグ車さえ倒せば……」
「勝てる!」
単独で抜け出している為、今のプラウダのフラッグ車は孤立無援状態。
よって、自分達の誰かがフラッグ車を撃破すれば決勝戦進出が決まる。大洗はフラッグに一斉砲撃を仕掛けるが、中々命中しない。
「でも、あれさえ倒せば勝ちなんでしょ」
「そうです!」
完全に自分達が優位に立ってると思い込んでいる大洗チームは兎に角フラッグ車を撃破しようと砲撃を続ける。
だが、それは長くは続かなかった。
『みほ!後ろにT-34!』
「っ!?」
真澄の言葉に 反射的にみほは後ろを向く。そして現れた二両のT-34を見て驚愕の表情を浮かべる。
「ひ、東に移動してください!急いで!!」
「っ!?な、何だ!?」
突然のみほの指示に、大洗チームは戸惑いを見せながらも、取り敢えず指示通りに東へ移動しようとするが、向かおうとした先にあった民家から今度は二両のT-34/85が現れて行く手を遮る。
「そんな…なら南南西に方向転換……っ!」
東への退路が絶たれ、南南西に移動するようにと指示を出そうとしたが、今度は塹壕らしき所から白いIS-2が飛び出してくる。
そうしてみほは他方向への退路を探そうと辺りを見回したものの、向かおうとした先々で、KV-2や他のT-34/76やT-43/85の集団が待ち構えており、大洗チームは、プラウダの戦車隊に取り囲まれる結果となった。
「囲まれてる……っ!」
「周り全部敵だよ!!」
みほが周囲を見渡しながら呟くと、武部が声を張り上げる。
「罠だったんだ……」
「「「「「えっ!?」」」」」」
ここで漸く、プラウダの罠に掛かった事と知ると共に先程までプラウダのやり方は演技だと知る。
そして次の瞬間、プラウダから激しい十字砲火が飛んで来る。絶え間なく飛んで来る砲弾は、大洗の戦車の周囲や民家に次々と着弾し、家を吹き飛ばしたり、雪の飛沫を上げた。
そんな時、一発の砲弾がウサギさんチームのM3の75ミリ砲に命中して砲身を木っ端微塵に吹き飛ばした。
『しゅ、主砲が壊れました!』
「みっ、みぽりん、逃げなきゃ!」
「敵の十字砲火がこれほどなんてっ!」
澤からの悲鳴が上がる。早急に十字砲火から抜け出さなからば全滅してしまう。みほは車内のスコープから一際目立つ教会の様な建物を見つける。
「全車、南西の大きな建物に移動して下さい!!あそこへ立て篭もります!急いで!」
その指示を受け、八九式、M3、B1、38tが我先にと一目散に教会へと向かい、飛び込む様にして入って行く。
「あとⅢ突とⅣ号だけです!」
梓の言葉に続く様にⅢ突も避難しようとするが、何処からともなく飛んで来た砲弾がⅢ突の右側の履帯に命中して動けなくなってしまった。
「Ⅲ突が!」
『履帯と転輪をやられました!』
エルヴィンの声が上がる中、二両のT-34/76が砲塔をⅢ突へと向け、更に攻撃を加えようとしていた。
「Ⅲ突が入り口を塞いでるよ!」
「冷泉さん、Ⅲ突ギリギリで一度停車して下さい」
手前にいたT-34が砲撃するが、其処へ後退して来たⅣ号がⅢ突を守る様にして割り込み、Ⅲ突と背中合わせる形で接触すると、相手の砲弾を砲塔の角度を利用して弾き、反撃とばかりに発砲しようとした。
「砲塔故障!」
「冷泉さん、Ⅲ突を押し込みつつ全力後退!」
「了解」
五十鈴が砲塔の故障を告げると、みほはまず避難の方を優先させて、冷泉がⅣ号を後退させる。
「Ⅲ突入りました!」
「早く、私達も入らないと!」
Ⅳ号は履帯を破壊されて動けなくなってしまったⅢ突を無理矢理押し込む様にして教会へと入って行った。
「何とか無事に逃げ込めましたね……」
「うん……」
大洗チームが教会内に逃げ込んだ後もプラウダ戦車隊は教会に向けて発砲を続けて、教会内の大洗チームに爆音と振動が響き渡る。
「……あれ?」
しかしそこで異変を感じた。
「…?砲撃が、止んだ……?」
「一体……?」
突然の静寂に不思議に思った大洗のメンバーは、自分達の乗る戦車のハッチを開けて外に出始めた。
「西住殿、あれを!」
そう言って秋山が指差した方角には、プラウダの生徒と思わしき二人の少女が、白旗を持って教会に入って来た、入り口の少しした場所で歩みを止める。
「カチューシャ隊長の伝令を持って参りました」
「伝令?」
その生徒の言葉に隊長のみほと副隊長の河嶋が前に出た。
「『降伏しなさい、全員土下座すれば許してやる』だそうです」
そこでその生徒は到底受け入れ難い内容を突きつけていた。