最後の盾であったB1も失い、丸裸となった八九式では悲鳴が上がっていた。
「もうダメかもぉ……」
「泣くな!涙はバレー部が復活したその日の為にとっておけ!」
「はい」
そのあまりの状況に弱音を吐いてしまう佐々木にキャプテンの磯部が鼓舞する。
「大丈夫!こんな攻撃強豪校の殺人スパイクに比べたら全然よね」
「そうね……でも、今はここが私達にとっての東京体育館、或いは代々木第一体育館!!」
「「「「そーれそれそれそれ!!」」」」
再び気合いを入れ直したバレー部の彼女達はプラウダの砲撃の嵐から孤軍奮闘逃げるが、七対一と言う圧倒的に不利な状態に変わりは無く。アヒルさんチームは為す術も無く、ただひたすらに逃げ回るしかなかった。
「これで……」
ノンナはそう言い、引き金を引こうとした時。横にいたT-34/85が突如爆発。盛大に横転しながら白旗が上がった。
「何っ!?」
突然の事にプラウダ一同は驚く。そしてカチューシャが目を凝らすと吹雪の先での発砲炎を確認すると、挑発するようにカチューシャの車両の直前に着弾した。
「やっと来たわね……っ!!」
その影を見てカチューシャは一瞬息が詰まる感覚に襲われた。
「っ!!ノンナ以外で攻撃するわよ!!」
『宜しいのですか?!』
思わずノンナが驚いた様子で聞き返してしまうと、そこで彼女は答えた。
「此処で抑えるから、ノンナはさっさと仕留めなさい!!」
『はっ……!』
そこでカチューシャは五両でその戦車のいる方に向かう。
そして、カチューシャが五両引き連れて走ってくるのを見て真澄は無線を取る。
「アヒルさん?聞こえる?」
『はいっ!』
磯部の返答を聞くと、そこで真澄は言う。
「今、IS-2の砲弾は数は少ない。砲撃回数は少ないから、乱数軌道で避けなさい」
『は、はいっ!』
「私達も、目の前の車両を片付けたら行くわ」
『えっ!?でも五両いますよ?』
思わず河西が驚いた様子で聞き返すと、真澄は少し笑って答えた。
「これくらい問題ないわ。頑張って逃げてちょうだい」
そう答えると彼女は無線を切り、そして指示を出す。
「撃て」
その瞬間、放たれた十二センチのタ弾は一撃で接近してきたT-34/85を葬る。
「さあ、約束通り踊りましょうか」
そう言うと彼女はラジカセを入れると、そこから『上を向いて歩こう』を流し始めた。
《〜〜♪》
イントロが流れ、短十二糎自走砲は前進を始める。
敵の残りは四両、いずれも性能面では向こうが上だ。だが……
「それで倒せると良いわね」
そう溢すと、向こうが一斉に砲撃を始めた。
「撃てっ!相手はチハ如きよ!簡単に倒せるわ!!」
そう言うも、なぜか短十二糎には一発も当たらなかった。
《上を向いて 歩こう
にじんだ星を かぞえて
思い出す 夏の日
一人ぽっちの夜》
そして接近してきた向こうはそのまま砲撃をする。
『二号車被弾!!』
その砲撃で得意の炸薬量で綺麗に車体後部に被弾した一両が白旗をあげる。
《上を向いて 歩こう
にじんだ星を かぞえて
思い出す 夏の日
一人ぽっちの夜》
そして十二センチ砲にしては恐ろしく速い装填で一両が至近弾で着弾し、爆発の反動で履帯が吹き飛んだ。
『五号車、履帯破損!!』
「っ!!」
するとそこで短十二糎が突っ込んできた。
《幸せは 雲の上に
幸せは 空の上に》
カチューシャの真横を音楽が聞こえるくらいの距離を駆け抜けていった。
「撃てっ!!」
そう叫ぶも、無理だと答えられた。
『味方に当たります!!』
「ちっ!」
クネクネと踊るように走る短十二糎はそのまま一両のT-34/76の砲塔側面にピッタリと張り付き、至近距離で砲撃をして撃破する。
《上を向いて 歩こう
涙が こぼれないように
泣きながら 歩く
一人ぼっちの夜》
嫌に聞こえるその音楽を聴きながら戦うその姿にカチューシャは気味の悪さを覚えていた。
「〜♪」
そこで真澄は音楽に合わせて口笛を吹く。残る車両は三両、一両は履帯破産で動けなかった。
《思い出す 秋の日
一人ぼっちの夜》
そしてカチューシャは指示を出す。
「クラーラ!私と同時に撃つわよ!」
「『はい』」
カチューシャの命令にクラーラはロシア語で頷いていた。
《悲しみは 星のかげに
悲しみは 月のかげに》
「撃てっ!!」
そしてクネクネと動く短十二糎に照準を合わせて撃つも、至近距離だったこともあり。誤って履帯の外れた味方のT-34/85に誤射をしてしまった。
「っ!!しまった!!」
思わずカチューシャは信じられないミスに目を見開いて驚いてしまった。
するとその瞬間、クラーラの車両に砲弾が命中した。相手が驚きで動けない隙を狙われてしまった。
《上を向いて 歩こう
涙が こぼれないように》
「クラーラ!」
「『申し訳ありません!』」
ロシア語で答えると、そこでなんとなく察したカチューシャは言った。
「仇を取ってあげるわ!!」
《泣きながら 歩く
一人ぼっちの夜》
そしてカチューシャは恨めしそうに真澄の乗る短十二糎を見る。
《一人ぼっちの夜》
そして曲も最後を迎えた時、同時に叫んだ。
「撃て」「撃てっ!!」
そして発射された砲弾の内。カチューシャの砲弾は短十二糎の砲塔側面をほぼ平行に近い角度で命中して反射し、代わりに真澄の放った砲弾は真正面から命中して白旗が上がった。
《〜♪》
最後のイントロが流れ、それを聴きながら真澄は指示を出す。
「さあ、八九式よ。虎殺しを叩くわ」
「はいっ!」
周りでは白旗の上がるT-34の車両達。その数は六両、時間にして三分ほどの出来事であった。
「……」
観客席では思わずオレンジペコや、他の者も。見ていた全員が絶句していた。
「……」
それはダージリンも同じであった。
「(何が本気じゃないですか……昔よりよっぽど強いじゃないの)」
思わずそう溢したくなってしまうほどの腕前だ。
しかも彼女はそれを
「もう、気安く軍師とは呼べないわね……」
画面の向こうで余裕そうな顔を見せている彼女はできるならもっと早い時間で敵を殲滅できたということになる。
「い、今のは……」
思わずオレンジペコですら顔を青ざめていると、そこでダージリンは言う。
「木戸流戦車道の真髄……と言えば良いかしらね」
「え?」
初めて聞く流派に思わず首を傾げてしまうと、そこでダージリンは知らなくて当然と言った様子を見せた。
「知らなくて当然よ。何せ、これは非公式の流派…あくまでも俗称に過ぎないのだから……」
そう言い、彼女はかつて『東洋の踊り子』と称されたある戦車乗りを思い出していた。
「何もしなくとも技だけは受け継がれるのですか……」
「あれは……」
「すごい……」
まるで踊るように戦車を撃破していたその戦い方に愛里寿は目を輝かせていた。
「同じ目をしている……」
「?」
何処か恐るように、千代は答える。
「あの時と…同じ……」
思わずフラッシュバックしてしまったその記憶。
いつまでも
「……」
「お母様?」
今の真澄を見ながらしほは少し怯えたように手を振るわせていた。
「……やはり、あの人の娘なのね」
「……」
そこで巌が口にした。
「十九年前、西住流と島田流双方を持ってしても
「!?」
まほはその事実に驚いた。そんな人物だったのかと……。
「しかし、彼女は当時の流行に全く乗らない捻くれ者だった。それ故に多くの敵を中に抱えた彼女はある日、ある悪戯を受けた。
死体撃ちと言う悪戯をな」
「えっ……?」
まほはそこで困惑する。それは明らかな大会規則違反であると、それをすれば何からの罰則が与えられるはずだ。
するとそこで、巌はその時の景色を思い出しながら忌々しげに口にした。
「戦車の判定装置に
そう言い、彼は機動隊から本庁に転属になって初めて担当した事件を振り返っていた。
誰が思うだろうか。転属されて初めて担当した事件が、当時婚約していた人というのが。
そして、被害者が彼自身が恋心を抱いていた人物だったとは……。
「その怪我が原因で…彼女は二度と戦車に乗れなくなってしまった……」
「っ!!」
しほがそこで付け加えるように話すと、彼女は病院で包帯だらけになった彼女が言った言葉を思い出していた。
『また、戦車に乗りたいなぁ』
しかしその夢は叶うことなく、彼女は戦車道を辞めることとなった。
「……二年前の決勝の時も、真澄はあの目をしていた。その時私は恐ろしさを覚えた。
また、清子と同様の仕打ちを受けるのではないか。
あんな光景は二度と見たくなかった。だから、私は彼女から戦車道を無理やり離れさせた……」
苦しい声で彼はそう吐露する。
「しかし、無理やり離れさせた為に私は永遠に娘を失うところだった……」
彼はそう言い、真澄が自殺未遂をしたという話を聞いた時の衝撃を思い出していた。
「私は…どうすれば良いのだろうな……」
巌はいつもの人を圧倒するような覇気はなく、弱々しく見えた。
そんな状態の巌に清靖はどう答えるべきだろうかと返答に困っていた。
「まほさん、貴方にとって戦車道は楽しいか?」
「え?」
突然の話にまほは驚くと、巌は先ほどの真澄の生き生きとした心底楽しんでいる様子の母を思い出していた。
「娘があんな顔をしたのを見たのは久しぶりだ。それほどまでに戦車道は人を興奮とさせるものなのか?」
その問いにまほは返答に時間を要してしまった。
場所は移り、試合会場。Ⅲ突とⅣ号が廃村でブラック車を追いかけていた。
『隊長!カバさんチームH43地点準備完了だ!』
「了解です!」
エルヴィンからカバさんチームから目標の地点にフラッグ車を撃破する為の準備が完了したと報告が来た。
『西住殿、敵のフラッグ車先程のKV-2のポイントを通過!前のコースと同じです!そのまま左折しました』
「優花里さん、このまま携帯でナビをお願いします!」
『任せて下さい!今、G35地点通過しました!』
みほは秋山から行動パターンを聞いて、何か閃いた様子で秋山に携帯でナビをお願いする。
『西住殿!敵フラッグ車H35地点通過!あと一つ右折してくれれば!』
「わかりました、ありがとう。華さん、上手く右の道に誘い込めますか?」
携帯で西住みほに現在のフラッグ車の位置を知らせそれを受け取ったみほは更に指示を送る。
「やってみます」
Ⅳ号の機銃が敵フラッグ車を右に誘導させる、その先にはカバさんチームのⅢ突が待機している。
『入りました!H43地点まで五〇メートル!!』
「やりました!」
『敵を視認!』
「撃ち方よーいっ!」
左衛門左から報告を聞いたみほが指示を送る。
プラウダのフラッグ車の前に小さな雪山、普段なら気にもとめないだろう。プラウダのフラッグ車が雪山を避ける為に入った道。
そこに待ち構えていたのはカバさんチームのⅢ号突撃砲。ほぼ零距離からの不意討ちによる出会い頭の一発はフラッグ車の装甲を貫通させ、白旗をあげさせた。
『試合終了!大洗女子学園の勝利!!』