みほ達と戦車倶楽部で出会った翌日。
「みほちゃん。遅いよ?何かあった?」
「ううん、何でもない」
戦車道の授業に間に合うように通学していたみほはそこで点呼を取っていた真澄に言われる。
「みほさん遅かったので心配しました」
「ちょっと寝過ごしちゃってね」
「教官も遅ーい。焦らすなんて大人のテクニックだよー」
そう言いイケメンが来ると思っている武部。
名簿をすでに確認済みの真澄は内心で合掌をし、その時を待っていると轟音と共に上空からC-2改輸送機が飛んでくる。所属は空自だが、そんなところから教官を呼ぶかと内心驚いていると、C-2改輸送機は後部ハッチを開けるとそのまま貨物室から試作型の10式戦車を空挺降下で降ろした。
おまけにそのまま駐車場をスライディングし、止まっていた赤いフェラーリを蹴飛ばしていた。
「学園長の車がっ!」
「あ~、やっちゃたね~」
え?学園長の車なん?何してんの!?
すると、その10式は学園長の車を突き飛ばしただけでは飽き足らず。バック走行でペシャンコになる。
「あっ、あー」
「ポテチ……」
河嶋の言う通り、ポテトチップみたいにペシャンコになった高級車。あれって保険降りるのか?少なくとも保険屋は首を傾げるぞ。
そして学園長の車を踏み潰した10式はみほ達の前で止まるとキャノピーが開いてその姿を見せた。
「こんにちは!」
「…騙された……」
完全に不貞腐れている武部。だから言わんこっちゃない。
確かに角谷会長はかっこいい人がくるとは言った。だか、それが男であるとは一言も言っていないではないか。
「でも素敵そうな方ですね」
五十鈴、正しい判断だ。この人は素敵だ。ただ一部大雑把なところを除いて……。
「特別講師の戦車教導隊、蝶野亜美一尉だ」
「よろしくね!戦車道は初めての人が多いと聞いてますが一緒に頑張りましょう!」
そう言い彼女は戦車を降りると、みほの姿に気がついた。
「あれ?西住師範のお嬢様じゃありませんか!?」
そう言うと彼女はみほに近づいた。
「師範にはお世話になってるんです!お姉様も元気?」
「は、はい………」
そう話しかけられ、明らかに表情が暗くなったみほ。そんな彼女の言葉を聞い騒ぎ始める他の生徒。
「西住師範って?」
「有名なの?」
すると蝶野は生徒たちの疑問に答えた。
「西住流っていうのはね、戦車道の中でももっとも由緒のある流派なんです!」
しかし、明らかに暗い表情のみほをみて武部か慌てて話題を切り替えて話しかける。
「教官!教官はやっぱりモテるんですか!?」
そんな武部の問いに蝶野は一旦首を傾げた。
「モテる、というより……、狙った獲物を外した事はないわ。撃破率は120%!!」
「答えになってませんよ。蝶野さん」
そう真澄が話しかけると、蝶野はすこし驚いた後に聞いた。
「あら、お久しぶりね真澄さん。いつ振りかしら?」
「中三の剣道大会以来です」
「あら、もうそんな昔?懐かしいわね」
蝶野さんはそう言うと真澄を懐かしげに見ていた。
「それで教官!今日はどのような訓練を行うのですか?」
待ちきれないのか秋山が聞く。すると蝶野は端的に答える。
「本日は本格戦闘の練習試合、さっそくやってみましょう」
あーあー、やっぱり……
「え?い、いきなり実戦ですか?」
小山さんが驚いてそう言う。当然だ、事前情報何もないんだもの。
「何事も実戦あるのみよ。大丈夫、戦車なんてバーッと動かしてダーッと操作してダンッと撃てばいいんだから」
「蝶野さん。雑です」
思わず真澄が突っ込みをかけてしまう。
「それじゃあ、それぞれのスタート地点に向かってね」
そう言い、他の生徒たちが移動する中。動かない真澄に蝶野が聞いた。
「あら、あなたは乗らないの?」
その問いに真澄は少し肩をすくませて答える。
「私は除名された人間ですよ?今更戦車道なんて……」
「でも非公式なら乗れるわよ?」
蝶野はどこか期待する目で真澄を見る。しかし彼女は答える気はなかった。
「良いんです。私は戦車道には飽き飽きしていますから」
「でも、私はあなたの除名処分には反対したわよ」
「ええ、知ってます」
知っているが故に真澄は蝶野と話している。すると蝶野は試合に出ない真澄を見て言う。
「続きは観察所でしましょ。審判お願いできる?」
「分かりました」
そう言うと蝶野は真澄を連れて移動していた。
「やっぱり、寂しいねー」
短十二糎自走砲の中、大隈がそう呟く。
振り分けとしては榎本が車長兼装填手、大隈が操縦主、大久保が砲手、伊藤が無線手だった。
「仕方ないよ。真澄は戦車道に出られないんだから」
「これだから私は嫌いだわ」
「仕方あるまい。ここは適当にやれば……」
「適当はダメよ。やるからには叩き込んでやらないと」
そう言い榎本は周囲の状況を見る。
「どうやって乗るのこれ~?」
「知ってそうな友達に訊いてみようか?」
「ネットで聞いたほうが早くない?」
戦車なんて触ったことも見たこともない一年生たちはどう動かせばいいか悩んでいて一人がM3の乗り方をネットで調べていた。
「ここで頑張れば、バレー部は復活する!あの廃部を告知された屈辱を忘れるなっ!」
「「「はい。キャプテン!」」」
「ファイトー!!」
「「「「おぉー!!」」」」
バレー部の八九式はこうしてやる気に満ちていた。
「初陣だぁー!」
「車篝の陣で……」
「いや、ここはパンツァーカイルで」
「一両しかないじゃん」
歴女の乗るⅢ突ではそんな辛辣なツッコミがかかっていた。
「よし、行けるね?」
「親の顔より触ったチハよ。目を閉じていてもわかる」
「ここに真澄がいたら完璧なんだけどね……」
「無いものねだっても無駄よ。さっ、行こうか」
するとその瞬間。
『ヒャッホウッ!!最高だぜぇぇえええっ!!』
「?」
秋山の大興奮した声が聞こえた気がした。
「みんな、スタート地点にについたわね?それじゃあルールを説明するわよ」
準備ができ、蝶野が無線で観察所から話しかける。
「ルールは簡単。すべての車両を倒したほうが勝ち。つまりガンガン前進してバンバン撃ってやっつければいいってわけ」
「相変わらず雑すぎますよ」
その足元で真澄は生麺を火にかけた鍋の中に放り込んでラーメンを作っていた。
「戦車道は礼に始まり、礼に終わるの。……一同、礼!」
『『『『よろしくお願いします』』』』
戦車道も剣道や柔道と同じく礼儀を重んじる競技。だからこういったしきたりはきっちりさせるのがなんとも蝶野さんらしい。
「……そのラーメン。私の分もある?」
「良いんですか?」
「私もちょうど小腹が空いてきたのよね」
「……」
現職の自衛官がこれだよ。まあ良いんだけどさ……。
真澄は蝶野の分の麺を茹でなから試合を眺める。
「さて、どうする?」
伊藤が聞くと、榎本は少し考えた後に答える。
「まずはⅢ突とM3」
「なんで?」
「あのみほちゃんのチームじゃなくて良いの?」
大隈が聞くと、榎本は答える。
「確かに経験者のみほちゃんの方が強いけど、火力で言えばⅢ突とM3の方が厄介だから」
「火力重視ね。了解」
大久保が納得すると、伊藤が地図を取り出して居場所を眺める。
「この位置だと橋向こうにⅣ号、Ⅲ突、八九式ね」
「了解、重葉」
「お任せください」
つい昔の言葉遣いになりながら大隈は操縦桿を倒すと、クラッチを動かす。回転数を合わせてクラッチを動かし、速度を上げていた。
「さて、試合はどうなることやら」
「どうなるかしらね」
観察所でラーメン片手に蝶野と真澄は話す。
試合中に悠々とラーメンを食べて楽しんでいる二人、その背徳感が堪らねえZE。
「しかし連盟も悪どいことしますね」
「どういう事かしら?」
ラーメンを食べながら真澄の呟きに蝶野は少しわざとらしく首を傾げる。
「ご自分でもわかっているでしょうに……」
「……」
真澄はやや呆れた表情をしていると、蝶野も諦めた様子で言う。
「やっぱり敵わないわね。流石は巌さんの娘さん」
「生憎と人の悪意には慣れているものですから」
そう言うと、蝶野はわざわざ教官としてここに訪れた理由を言うと同時に真澄に聞いた。
「貴方が除名者リストからの除外という条件があるのに連盟の話を断り続ける理由を聞きに来たわ」
「……」
「貴方…せっかく戦車道に復帰できるというのにどうして断り続けているの?」
そんな蝶野の問いに真澄は怒りと呆れの混ざった声色で答えた。
「確かに私は戦車道が好きです。
ですが、私を除名した時。連盟はあっさりと私の除名を選択しました。何の躊躇もなく、あっさりと。
それなのにその半年後ですよ?私が持っていた『その資料』の噂を聞きつけた途端、掌を返して私に恩癖がましく話しかけてくるんです。これで腹が立た無いわけないでしょう?」
彼女はキッパリと言うと、蝶野も納得した様子で頷く。
「確かに、連盟はあなたの提唱した『戦車道選手育成強化計画』を欲しがっているわ。あれがあれば、日本の戦車道は世界標準以上…いや、世界最高水準まで持ち上げることができる」
「……」
内心やはりかと真澄は思う。出なければ連盟が除名処分撤回に名誉回復。さらには連盟強化特別顧問任命などと言うモリモリ特典付きの提案を持ちかけてくるはずがないからだ。
「でもその情報はネットに流れていますよね?勝手に推し進めれば良いじゃないですか」
「だめよ、あれにはあなたの名前が載っているせいで勝手に使ったらそれを出汁に騒ぎ立てる人たちがいる。だからまともに使うことができない。
第一、あなたの流した情報はあくまでも車両の強化。選手の強化プランじゃないの」
だってそのために流したのだから当然だ。内心真澄はスカッとした気分になる。
「私は気に食わないんです。出しゃばった私を負けたからと好き勝手叩いた後にやっぱ使えるからと、手のひら返しで釣ってこようとする連盟の体質に。
だから私は連盟の提案に一切応えないことで報復攻撃をしているんです」
「二年後の世界大会で日本が負ける可能性があるのに?」
蝶野が聞くと、彼女ばさぞ愉快げに話す。
「いいじゃありませんか。世界大会の初戦敗退、ついでにプロリーグ創設に失敗すれば良い」
「……」
「それで今の戦車道連盟の気分屋体質が変わるなら喜んで私は妨害工作をしますよ」
本気の目をしている彼女に、蝶野は悲しさを覚えた。
少なくとも昔の彼女であれば出てこないような話だった。一体何が彼女をこうも荒ませたのか……
いや、全部か。