地元の不良男子生徒に絡まれていた澤達を救出した真澄は、彼女達に泣きつかれながら学園艦に帰還していた。
「あらあら、随分とお世帯なことで……」
戦車倉庫で戦車の整備をしていた榎本が微笑ましく見ていると、そこで彼女は少し疲れた様子で答える。
「懐かれちまったよ……」
そう答えると、そこで河嶋が鬼の形相で飛んできた。
「おい黒田!!さっき街で大暴れしたか?!」
「ゑ?」
真澄はそう答えると、河嶋はそんな真澄に激昂した様子で怒鳴り散らす。
「さっき街の裏路地で悲鳴が聞こえたと通報があった!その時の特徴がお前と同じなんだ!!さあ吐け!!」
「おおっと?」
河嶋が真澄の胸ぐらを掴もうとした時、澤が言った。
「先輩は悪くないです!」
「何?」
するとそんな彼女に他の一年生達も言った。
「そうです」
「私たちを庇ってくれたんです」
「助けてくれたんです!」
「……」
すっかり泣きじゃくっていた一年生たちがそう答えると、さすがの河嶋も動揺していた。
「どう言うことだ?」
困惑する河嶋に澤がその時の状況を教えていた。
「私たちが…不良に絡まれていた所を…真澄先輩が助けてくれて……」
「全員やっつけてくれたんです」
「やっつけた?」
「みんな気絶させていました」
「……」
山郷の言葉に河嶋や、それを聞いていた他の面々も思わず絶句してしまう。
「一人はナイフを持ってて……」
「すごく…怖かった……」
「「「っ!!」」」
ナイフという物騒な単語にみほ達も驚いた目をしていた。
「ちなみに何人?」
「グスッ……六人です」
「「「「ええっ?!」」」」
倒した人数を聞いて思わず声をあげて驚いてしまう。すると榎本は納得した様子で頷くと、真澄も諦めて告白した。
「はぁ……ちょっと躾のなってない野郎どもをしばいただけですよ」
「……」
するとそこで阪口が言った。
「真澄先輩が持っていた荷物を振り回して、二人やっつけてた」
「「「?」」」
そう言うと、全員の視線が真澄の持っていた荷物に行った。
「っと、とりあえず。お前達はもう帰れ」
河嶋がそう言うと、一年生達は心のケアのために一旦帰宅することを勧められた。
「わっ、私も行きます!」
そこで心配になった武部が立候補すると、そのまま澤達を引き連れて家に帰っていった。
そんな驚きの光景を目にしながら、河嶋は真澄を見て行った。
「とりあえず、お前から話を聞かせろ」
「良いですよ?」
そこで彼女は帰りにたまたま澤達が不良に絡まれており、そこで生徒全員を倒してから学園艦に戻るまでの話を事細かにした。
「そんなことが!?」
「これは…」
「ちょっとまずいかもね」
話を聞き、少し深刻な眼差しを向ける小山と角谷。
特に決勝戦を前にしてのこの事件は一年生達にトラウマを受け付けるものだ。試合に影響してくる可能性もなきにしもあらずだった。
「どうしますか?」
「とりあえず、一人での行動は慎むように言っておいて」
「わかりました」
そう言うと、小山は慌てた様子で倉庫を後にしていった。
そしてそんな小山を見送った後に、角谷は真澄を見た。
「あとは君の処分だけだ」
「……」
「正直、六人はちょっとやりすぎだよ」
そう言い彼女は軽くため息をつく。まあ無理もない、なかなかの騒動になっていると見える。
はて、処分はどうなるやら。
「でも、一年生達のあの顔から見て。君の行動は正しいと認定しよう」
「……はい?」
角谷はそこで真澄を見ながら言った。
「今回の一件、こっちで処理をしておくから。あとは任せな〜」
「……えぇ?」
思わぬ答えに拍子抜けしてしまった真澄に、角谷は言う。
「今度からは半殺しくらいで済ませてね〜」
「……」
そう言うと、彼女は河嶋と共に倉庫を後にしていた。
残った真澄達は困惑した様子を隠せていなかった。
「どう言うこと?」
「多分、決勝前にゴタゴタしたくないんじゃないかな?」
「ああ、なるほど……」
榎本の言葉にみほ達は納得すると、そこで全員が同じ意識を持った。
『『『(つまり何も見なかったことにしろって事ね)』』』
そこで全員の顔が真澄に向くと、彼女も分かっていたのだろう。軽く頷いていた。
「ごめんみんな」
「いいよ、全然。むしろカッコいいと思うよ?」
「みほちゃん……」
そこで真っ先にみほが答えると、他の面々も同様に真澄を見ていた。
この数ヶ月で、彼女の真面目な部分は皆が理解している所であり、彼女の行動を疑う者はここにはいなかった。
「それで、その荷物はなんなんですか?」
「ああこれ?」
するとそこで秋山が、真澄の持っていた荷物について聞くと。彼女はそこでやっと抱えていた細長いそれを地面に置いた。
「私が知り合いの店に頼んでと寄せてもらった物よ。はい領収書」
そう言い会計係の生徒に領収書を渡すと、その生徒はやや驚いた目をしていたが。そのままそそくさと倉庫を出ていた。
「なんですか?これ」
「今度の対黒森峰戦で必要だと思ってね」
彼女はそう言うと、その細長い物を包んでいた布を外すと、彼女の身長ほどあったそれは姿を現した。
「「「「わぁぁ……」」」」
するとそこで河西が言った。
「これって……戦車の砲身ですか?」
「ああ、そうだ」
そう頷くと、真澄はその砲の正式名称を答えた。
「一式三十七粍戦車砲……元は五式中戦車の副砲や特二式内火艇の主砲として搭載されていたけど。今回、ウチらの機銃を換装する装備として購入したわ」
「「「「へぇ〜」」」」
そこで真澄の解説を受けたみほ達は納得した表情を浮かべると、そこで榎本が呆れたように真澄に聞いた。
「あのさぁ……こいつを使ったの?」
「え?ええ、もちろん」
彼女は自信満々にそう答えると、榎本は軽く頭を抱えた。
「はぁ……そりゃ気絶するよ」
「え?」
そんな榎本の呟きにみほはふと、違和感を感じた。
「あれ?さっき真澄さん……
これを担いでいなかった?」
そう言うと、そこで全員が思わずハッとなった表情で顔を上げていた。
「確かに、言われてみれば……」
「どう言うことぜよ?」
「も、もしかして、これ偽物とか……?」
「ちょっと持ち上げてみるにゃー」
そう言い、ねこにゃーが思わず真澄の担いでいたというその砲身を持ち上げようとするが……。
「ふんぬぅぅぅううっ!!」
砲身はびくともすることなく、地面に横たわったままだった。そこで次にカエサルや秋山などの装填手が持ち上げようとしたが、八〇キロ近く重さのある砲身は持ち上がることはなかった。
「はぁ…はぁ……」
「なんで…これを持てるんだ?」
思わず肩から息を吐いて二人はそう溢すと、真澄は呆れた様に両手を出して軽々とその砲身を持ち上げた。
「ね?簡単でしょう?」
「「「「「(この人、どんな筋力を持っているんだ?!)」」」」」
少なくとも水着を着ていた時はこんな物を持てそうな筋力だったかと思い返しながら、みほ達は真澄を見ていた。するとそこで、榎本がさらに驚いた発言をした。
「それで、本店からここまで?」
「YES」
「あの……本店とは?」
秋山が聞くと、榎本は端的に答えた。
「せんしゃ倶楽部」
「「「「「hu?」」」」」
『何を言っているんだお前は?』と言う目線を向ける彼女達に、真澄は言った。
「こんなの、軽いもんでしょう?」
そう言うと、秋山達は首を横に振っていた。
「いやいやいやいやいやっ?!」
「東京から大洗ですよ?」
「一体何キロあると思って……」
「この人……ついに頭おかしくなったでござるか」
各々そう溢してしまうと、思わず真澄が言う。
「あら、失礼しちゃうわ」
すると全員でツッコミが入った。
「「「「「あなたがねっ!!」」」」」
そして、それと同時にこの砲身で殴られたというその男子生徒達に黙祷を捧げていた。
「「「「「ああ、かわいそうに……」」」」」
こんな化け物相手なら六人でかかっても倒せる気がしなかった。
その日の放課後、学校から帰った真澄はみほと二人きりで帰っていた。
「次はいよいよ決勝ね」
「うん……」
そこでみほは少し懐かしそうにしながらそう呟いていた。
「どうかした?」
真澄が聞くと、みほは少し頷いた。
「うん…なんだか懐かしくなっちゃって……」
「?」
するとみほは真澄と初めて会った日の事を思い出していた。
「なんだか、似てるなって……真澄さんと初めて会った時に……」
「ああ…みほちゃんとまほさんが田んぼの畔で中学生に絡まれていたっけ……」
そこで真澄もその時の情景を思い出すと、みほは頷いていた。
「そうそう、『女囲んでリンチは頂けないね』って言って竹刀を持った真澄さんが返り討ちにしてて……」
そう言いみほは懐かしそうに話す。
「そうそう、それで一通りボコった後に軽く私が擦りむいていたから。まほさんがそこで家に案内したのよね」
「そう、そしたら家にお客さんで清靖くんと清子さんが居たのよね」
「私も、まさかあの時みほちゃんがあの家の子だと思っていなかったのよね」
真澄はそう言い、熊本の剣道大会の帰りに母に旧友の家に遊びに行くからと言われて向かったのが西住邸だった。
家に着いたは良いものの、対してその時は戦車道を知らなかった私は母に少し出かけると言って家の周りの探索をしていた。
森があったので、猛獣対策として竹刀を持ち出していたが。まさかそれで猛獣ではなく人を叩くとは思っていなかった。
「あの時から真澄さん、背が大きかったよね」
「ええ、初めてまほさんに会った時に『ありがとう、お兄さん』って言われたのは良い思い出だわ」
「あの後、真澄さんが女の子で、それで私と同い年って聞いて驚いていたもんね」
「ええ……」
今考えるととんでもない激レア映像だったと真澄は思った。だってあんなに驚いていたまほの顔、あれ以降見たことがないもの。
「真澄さん、いつも誰かに手を差し伸べていたな……」
そこで思わず、みほは真澄に思っていた想いをこぼす。
「困っている人がいたら、必ず寄り添っていて……慰めてくれていた」
「……」
するとみほほ真澄を見ながら言った。
「覚えている?黒森峰の練習試合の事」
「ええ、よく覚えているわ」
真澄は頷くと、その時の個人戦のことをみほは言う。
「何度やっても、結果は同じで。私がティーガーで、真澄さんは試製一式砲戦車だった……」
性能面で言えば圧倒的にみほの方が有利だった。それなのに……。
「〇勝十敗……。一度も勝てた事が無かった」
「……」
思い出すのは、真澄が戦車道が楽しいと思えたあの時期の話だ。黒森峰女学院に於いて、半分黒歴史となっているその話は今では口外無用の話だった。
「あの時、真澄さんはお姉ちゃんにすら圧倒した力を見せていたよね」
「そうね……」
そこで真澄はあの時乗っていたのも、戦車や伊藤以外は全く同じ編成だったと思った。
「あの後、何で勝てないんだろうって。ずっと考えてた……」
そこでみほは真澄が勝つ理由を考えていた。
「あの時は分からなかったけど、今なら何か……わかる気がするよ」
「……そうかい」
そこで真澄は微笑むと、彼女はみほを見て軽く頭を撫でながら言った。
「それなら良かった」